ヤコビ多様体
数学において、種数 g の非特異代数曲線 C のヤコビ多様体 (Jacobian variety) J(C) とは、次数が 0 の直線束のモジュライ空間を言う。ヤコビ多様体は、C のピカール群の単位元の連結成分であり、従って、アーベル多様体である。
はじめに
ヤコビ多様体の名称は、アーベル・ヤコビの定理を完全に証明しニールス・アーベル(Niels Abel)の単射性のステートメントを同型写像にしたカール・グスタフ・ヤコビ(Carl Gustav Jacobi)の名前にちなんでいる。ヤコビ多様体は、次元 g の主偏極アーベル多様体であり、従って、複素数体上では複素トーラス(complex torus)である。p が C 上の点であれば、C は J の単位元へ写像される与えられた点 p を持つ J の部分多様体へ写像することができ、C は J を群として生成する。
複素曲線の構成
複素数体上では、ヤコビ多様体は、商空間 V/L として実現される。ここに V は、C 上の全大域的正則微分形式のベクトル空間の双対であり、L は、γ を C の中の閉じた経路(path)としたときの微分形式
- [math] \omega \mapsto \int_{\gamma} \omega [/math]
のすべての元で構成される格子である。言い換えると、上の写像を通して [math]H_1(C)[/math] を [math]H^0(\Omega_C^1)^*[/math] へ埋め込んで
- [math] J(C) = H^0(\Omega_C^1)^* / H_1(C), [/math]
である。
任意の体上の曲線のヤコビ多様体は、Weil (1948)により、有限体上の曲線のリーマン予想の証明の一部として構成された。
アーベル・ヤコビの定理は、トーラスはこのように多様体であるが、曲線の古典的ヤコビ多様体で、次数 0 のラインバンドルをパラメトライズする、つまり、線型同値を同一視した次数 0 の因子のピカール多様体と同一視することができる。
発展した話題
トレリの定理(Torelli's theorem)は、複素曲線が(偏極をもった)ヤコビ多様体により決定することを言っている。
ショットキー問題(Schottky problem)は、どのような偏極を持つアーベル多様体が曲線のヤコビ多様体であるかを問うている。
ピカール多様体、アルバネーゼ多様体や、中間ヤコビ多様体(intermediate Jacobian)は、高次元の多様体へのヤコビ多様体の一般化である。高次元の多様体に対し、正則 1-形式の空間の商空間としてのヤコビ多様体の構成はアルバネーゼ多様体として一般化できる。しかし、高次元ではピカール多様体と同型になるとは限らない。
参考文献
- P. Griffiths (1994). Principles of Algebraic Geometry, Wiley Classics Library. Wiley Interscience, 333–363. ISBN 0-471-05059-8.
- J.S. Milne (1986). “Jacobian Varieties”. Arithmetic Geometry. New York: Springer-Verlag. pp. 167–212. ISBN 0-387-96311-1
- (1975) Curves and their Jacobians. The University of Michigan Press, Ann Arbor, Mich.. MR0419430.
- テンプレート:Eom
- (1948) Variétés abéliennes et courbes algébriques. Paris: Hermann. MR0029522. OCLC 826112.
- Algebraic Geometry. New York: Springer. ISBN 0-387-90244-9.
- Montserrat Teixidor i Bigas On the number of parameters for curves whose Jacobians possess non-trivial endomorphisms.;[1] Theta Divisors for vector bundles in Curves, Jacobians, and Abelian Varieties[2]