サヘル

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ファイル:Map sahel.jpg
サヘルの位置

サヘル(Sahel)とはサハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域である。主に西アフリカについて用いられるが、場合によりスーダンアフリカの角の諸地域を含める事もある。語源はアラビア語のساحل(sāhil、岸辺の意)。 サヘル諸国のことをサハラ南縁諸国とも言う。

概要

サヘル地域は北のサハラ砂漠より比較的湿潤で、半乾燥草原から灌木の茂るサバナへの移行地帯にあたり基盤は脆弱なものの緑に覆われた土地であった。そのため語源が示す通りサブサハラ世界の北岸として、サハラ砂漠を縦断するサハラ交易を通じガーナ王国マリ帝国カネム・ボルヌ帝国などの国家が繁栄し、歴史的に「スーダン」と呼ばれた地域の中核的な役割を果たしてきたのである。しかしその後は深刻な砂漠化やサハラ交易の衰退などの問題に直面している。

現在サヘル地域に存在する国家は西から順に、セネガルモーリタニアマリブルキナファソニジェールナイジェリアチャドスーダンエリトリアである。

サバクトビバッタが発生しやすく、しばしば蝗害による飢饉に陥ることがある。2004年には西アフリカ一帯でサバクトビバッタの大量発生 (2004年)English版が生起し、地域に甚大な被害を齎した。

環境

水資源土壌の肥沃性に問題があるため、サヘル地域の耕地としての生産性は高くない。雨季を中心に年間150mmから500mmの降雨量があるが、年により大きな差があり、またサヘルが砂漠であった12500年前頃に砂丘の働きで形成された土地はアルミニウム濃度の高い酸性土壌で、窒素リンに乏しいためである。この問題に関して、サヘル地域の降雨量と大西洋ハリケーンの関連が指摘されている。[1]

移牧

この地域の南北を比較すると、北に行くにつれて乾燥が進むものの土壌養分が増すという特徴がある。サヘルではこの特性を利用して、雨季は土地の肥えた北部で放牧するが乾季になると豊富な牧草を求めて湿潤な南部まで時には数100kmにも至る大移動を行う、移牧による持続力のある半農半牧の生活が古くから営まれてきた。しかし現代では肥沃な地域を中心に定住化が進み、こうした放牧民との対立が表面化している。

旱魃

サヘル地域の降水は不安定で、そのため旱魃が発生しやすい状況にある。1914年に降水不足からの旱魃とそれに伴う飢饉が広範囲にわたりこの地域に被害を与えたほか、1968年から1973年にかけての大旱魃ではモーリタニアマリチャドニジェールブルキナファソを中心に100万人が命を落とし5000万人が影響を受けるなどさらに深刻な事態に陥っている。この問題に際し国際連合は国連スーダン・サヘル事務所(UNSO)を設け対策にあたったほか、国連の専門機関として国際農業開発基金が設立された。なお1996年砂漠化対処条約が発効した際にUNSOは世界的な砂漠化に対処すべく国連開発計画砂漠化対処事務所とされた[2]

同じくサヘル地方からエチオピアにかけて1982年から1985年の干ばつは、3500万人が餓死状態で300万人以上が死亡したと推定されるほどの猛威をふるった[3]

1968年からの大旱魃は直接的には過放牧、薪炭材の過伐採、粗放的な土地利用が原因である。また先立つ1960年代に一時的に降水量が大きく伸び、そのため肥沃になった北部への移住を政府が後押ししたことも被害をより深刻なものとした。しかし2000年前後になされた気候モデルの解析によれば間接的な原因として世界的規模での気候変動が存在し、さらには地球薄暮化がその一端を担っている。つまり北アメリカヨーロッパ諸国で発生した大気汚染大西洋上空のに影響を与え、その結果モンスーンの発生が抑えられて雨林帯を南方へ引き下げるのである。NOAA地球物理流体力学研究所2005年に気候モデルを分析し、20世紀のサヘル干魃の原因が人的要因と偶発的要因の複合による大西洋の海面温度分布の変化、さらには人的要因が温室効果ガスエアロゾルによる大気汚染である可能性について指摘するとともに、このために21世紀中にサヘル地域の降水量が最大で25%減少しうるともしていた[4]

一方で、降雨量が増加し緑化が進む兆候が見られるとの調査もある[5]

外部リンク

参考文献

関連文献

  • 辻本徹文「西アフリカ・サヘル地域の地下水 とくにセネガル.マリ・ニジェールについて」、『日本地下水学会会誌』第24巻第1号、日本地下水学会、1982年、 6-15頁、 doi:10.5917/jagh1959.24.6

脚注

  1. Landsea, C., and Gray, n. The Strong Association between Western Sahel Monsoon Rainfall and Intense Atlantic Hurricanes. Journal Of Climate, Vol. 5, No. 5, May 1992.
  2. http://www.undp.org/drylands/history.html
  3. 石弘之著『地球環境報告』岩波書店《岩波新書(新赤版33)》 1988年 4-5ページ
  4. http://www.pnas.org/cgi/content/full/102/50/17891
  5. ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト『http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=30639457&expand サハラ砂漠、気候変動で緑化が進行か』2009年8月3日