エミール (ルソー)
『エミール』(仏: Emile)は、1762年に刊行された、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの小説風教育論。正式名称は『エミール、または教育について』(仏: Émile, ou De l’éducation)。近代教育学の古典であり、ルソーが教会と政府の追及を受け、スイスへと逃亡・放浪生活を送ることになる契機となった著作でもある[1][2]。
構成
少年エミールの誕生と成長、ソフィーとの結婚までを、5編に分けて述べている[3][4]。
- 序文
- 第1編 - 幼年時代
- 第2-3編 - 少年時代
- 第4編 - 青年時代
- 第5編 - 女子教育
内容
主人公エミールの物語を通して、当時のフランス特権階級の教育のゆがみを批判し、児童の本性を尊重して自然な成長を促すことが教育の根本であることを説いている[2][3]。ルソー以前、子どもは「小さな大人」とみなされており、大人と子どもの明確な区別はなかったが、彼はこの著作によって、子どもが大人とは異なる独特の存在であることを指摘した。
出版の経緯と弾圧
ルソーは1757年末に『エミール』執筆を計画し、翌1758年末頃にこの作品を書き始めた。1760年10月頃には原稿を完成させ、それを保護者のリュクサンブール夫人に預けた。
出版は1762年5月。しかし出版直後から、特に第4編の「サヴォワの助任司祭の信仰告白」[5]が問題視され、キリスト教勢力を中心とする激しい弾圧にさらされた。
具体的には、まず6月に本の押収、パリ大学神学部(ソルボンヌ)による告発、パリ高等法院による有罪判決と逮捕令が続き、ルソーはスイスへの逃亡を余儀なくされる。
8月にはパリ大司教ボーモンが教書で弾劾した。これに対し、ルソーは1763年3月『パリ大司教クリストフ・ド・ボーモンへの手紙』で反論したが、事態は好転しなかった。
影響
『エミール』は、その個性尊重・自由主義的な教育観と共に、ペスタロッチやカントらをはじめとして、近代の教育学・教育論に大きな影響を与えることになった[2]。
日本語訳
- 今野一雄訳 『エミール』(上・中・下) 岩波文庫、1962年-1964年
- 平岡昇訳 「エミール」『世界の大思想17』 河出書房新社、1966年
- 平岡昇訳 「エミール」新装版『世界の大思想2』 河出書房新社、1973年
- 但田栄訳 『エミール』 大学書林語学文庫、2002年
- 戸部松実訳 「エミール」『世界の名著30』 中央公論社、1966年
- 樋口謹一訳 「エミール」(上下)『ルソー全集』(第6巻-第7巻) 白水社、1980年-1982年