イーストサイドストーリー
イーストサイドストーリーとはフランスの人類学者、イブ・コパン(Yves Coppens)が1982年に提唱した人類誕生についての仮説である[1]。
概要
その内容は、アフリカ東部の猿人類が人類の祖先だとするものである。 アファール猿人、ルーシーが、南北につらなる山脈の東側で発見されたことから仮説が立てられた。およそ800万年前から、大地溝帯付近の造山運動が盛んになり、大西洋の水蒸気を含んだ偏西風が大地溝帯の山脈にぶつかって雨を降らすようになり、東側では気候の乾燥化が進んだ。その結果、森林が徐々に草原に変わり、類人猿の祖先は死に絶えてしまった。一方、人類の祖先は以前までの森林での生活で、中臀筋などの二足歩行に欠かせない筋肉を発達させていた(人猿の骨盤の化石より推定)と考えられるため、二足歩行により草原で生活の場を開拓して人類に発展したとする仮説である。
破綻
現在、この仮説は定説ではなくなってきており、人類は森林の中で進化したという仮説が有力である。
この仮説が破綻した理由として、800万年前の大地溝帯付近の造山運動は小さく、大きく隆起したのは400万年前であったと考えられるようになってきたことが挙げられる。これはヒトが二足歩行したと考えられている600万年前よりも後のことであり、大地溝帯形成を人類が類人猿から分岐する原因と考えると矛盾している。また、当時のアフリカ東部の乾燥化は完全ではなく、森林がかなり残存していたことが炭素同位体の分析から明らかになっている。
そして、この仮説が破綻する決定的な証拠が2002年にアフリカ西部であるチャドで600 - 700万年前と考えられるトューマイ猿人の化石が発見されたことである。頭骨から背骨につながる孔の位置から直立二足歩行をしていたことが分かり、顔の特徴から、絶滅した傍系ではなく、ヒト属の直系の祖先である可能性が高いことが判明した。この場所で、魚やワニの化石が発掘されたことからかなり湿潤な地域だったことが考えられる。
2003年2月には、提唱者であるイブ・コパン自身がこの仮説を自ら撤回している[2]。
関連項目
脚注
- ↑ コパン 2002.
- ↑ Coppens, Y. (2003年). “L'East Side Story n'existe plus”. La Recherche. . 2015閲覧.
参考文献
- イヴ・コパン・馬場悠男,奈良貴史 『ルーシーの膝 : 人類進化のシナリオ』 紀伊國国屋書店、2002年。ISBN 4314009101。