指数表記
指数表記(しすうひょうき、英: exponential notation, E notation, scientific notation)は、数の表記方法の1つである。主に非常に大きな、または非常に小さな数を表記する場合に使われる。
表記方法
任意の有理数を、次の形式で表現する。負の数の場合は、先頭にマイナス符号を付ける。
- [math]m \times R^e[/math]
R は、m および e の基数であり、m は有理数、e は整数である。m を仮数部 (mantissa)、e を指数部 (exponent) と呼ぶ。基数を10進数で表現することが多いため、 通常 R = 10 である。
例えば、
- 6.022140857×10 23 アボガドロ定数(単位: mol−1)
- 6.62606957×10 −34 プランク定数 (単位: J s)
- −9.28476362×10 −24 電子の磁気モーメント(単位: J⋅T−1)
仮数部 (m) は、3桁ごとにスペース(正確には thin space)を挟むのが通例である。ただし、小数点の後の数字列が4桁の場合やスペースの後の数字列が4桁の場合は、1桁だけ分けるためのスペースを挿入しないのが普通である[1][2]。
例えば、
- 7.2973525698×10 −3 微細構造定数(無次元量)
コンピュータにおける表記では、仮数部と指数部の間に記号"e"または"E"を挟む。この表記法は、JIS X 0210-1986(情報交換用文字列による数値表現)[3]に規定されている。
- 例: -1.234e-5 (= −1.234 × 10−5)
- 例: -8.984E+8 (= −8.984 × 108)
指数表記の使用の拡張として、単位記号の表記にも用いられる。例えば、
正規化
指数表記の表す数値と同じ数を、m×R′n′(1 ≦ m < R′) となるような表現にすることを正規化と呼ぶ(Normalized numberも参照)。
- 例(左辺を正規化したものが右辺):
- 267.8948 × 1011 = 2.678 948 × 1013 (R′ = 10)
- 17167.42 × 1016 = 171.6742 × 10006 (R′ = 1000)
なお、JIS X 0210-1986(情報交換用文字列による数値表現)においては、上記のように正規化したものを「通常の表記法」としているのに対して、0.1 ≦ m < 1 となるような m を用いた表現を「正規形」と定義している[4]。
- 例:正規形 :+0.61902E+04
これは 0.61902 × 104、すなわち 6190.2 と同等である。
使用
陽子の質量は、0.000000000000000000000000001672621898 kg であり、電子の質量は、0.000000000000000000000000000000910938356 kg である。このような通常の表記では、両者の質量の比較が非常にしにくい。これに対して、指数表記であれば、前者は 1.672621898×10 −27 kg であり、後者は 9.10938356×10 −31 kg となって比較が容易である。また陽子の質量が電子のそれの約1836倍( 1.672621898×10 −27 kg / 9.10938356×10 −31 kg )であることも容易に計算できる。このため、科学技術分野においては数値の表記として指数表記が多用される。
工学の分野では、指数部 (e) の値として、3, 6, 9, 12, 15, −3, −6, −9, −12 など 3 の倍数を用いることが多い。これはSI接頭辞は103毎の倍数となっているものを使用することが推奨される(SI接頭辞#使用法)ため、換算が容易であるからである。
- 例:地球の赤道周長は 4.007512×10 7 m であるが、40.07512×10 6 m の方が好まれる。40.07512 Mm(メガメートル) = 40075.12 km と換算が容易である。
なお、定義定数そのものを表記する場合は次の例のように、指数表記にしないことが多い。
- 例:光速度 299792458 m/s[5] (2.99792458×10 8 m/s としない。)
- 例:天文単位 (au) 149597870700 m[6] (1.49597870700×10 11 m としない。)
リュードベリ定数のように、慣例的に指数表記にしない物理定数もある。
- 例:リュードベリ定数 10 973 731.568 508(65) m−1[7]
- 例:フォン・クリッツィング定数 25 812.807 4555(59) Ω [8]
日本語の命数法では、日常的に用いられる数の単位はおよそ兆までであり、その先にも京や垓などの単位があるが、京以上の数については指数表記を用いるのが普通である。
指数表記以外の表記
多くの現実的な目的においては、非常に大きな数を表すのに指数表記が一般的に用いられるが、モーザー数やグラハム数などのように、指数表記を用いるのが事実上不可能なほど超巨大な数を扱う場合には、超階乗やクヌースの矢印表記(タワー表記)、 コンウェイのチェーン表記などが用いられる(巨大数#巨大数の表記法を参照)。
脚注
- ↑ 国際単位系(SI)国際文書第8版(2006) 日本語版 pp. 45–46
- ↑ 実例として、国際単位系 (SI) 国際文書第8版(2006) 日本語版 p. 38 表7(SI単位で表される数値が実験的に求められる非SI単位)中、時間の自然単位、長さの原子単位.ボーア(ボーア半径)0.5291772108 (18)×10 −10 m
- ↑ JIS X0210-1986 情報交換用文字列による数値表現
- ↑ JIS X0210-1986 情報交換用文字列による数値表現、7.5 、p. 5
- ↑ 光速度 CODATA 2014
- ↑ 国立天文台、理科年表2016、p. 371、2015年11月30日発行
- ↑ Rydberg constant CODATA Value 2014
- ↑ von Klitzing constant CODATA Value 2014
関連項目
- オーダー (物理学) - 正規化表現をしたときの、指数にのみ注目する。
- Parts-per表記 - ppm, ppb など
- 計算尺 - 数値の読み取りに使う
- 有効数字
- 浮動小数点数