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{{出典の明記|date=2013年2月2日 (土) 12:00 (UTC)}}
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'''直和'''(ちょくわ、{{Lang-en-short|direct sum}}
[[数学]]における'''直和'''(ちょくわ、{{Lang-en-short|direct sum}})は、既知の数学的対象を「貼り合わせ」て同じ種類の対象を新たに作り出す操作の一種で、歴史的経緯から対象によってやや異なる意味で用いられるが、大雑把には集合論的、代数学的、圏論的用法に大別できる。またいずれの用法においても、直和を取る対象が全て一つの大きな対象の部分となっている場合(内部直和、構造的直和)と、そのようなものを仮定しない場合(外部直和、構成的直和)を区別することができる(場合によってはそれらの記述は見かけ上大きく異なる)が、それらの間に[[自然同型|自然な同型]]があるため理論上区別して扱わないこともある。そのような自然同型は、しばしば[[余積|圏論的直和]](あるいは双積)の普遍性によって捉えることができる。
 
  
直和を表すのに用いられる記号には <math display="inline">\oplus, \coprod </math> などがある。
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(1) 集合に関して 集合 <i>A</i> と <i>B</i> との和集合というときに,<i>A</i> ,<i>B</i>⊆<i>X</i> の場合の合併をさす場合もあるが,<i>A</i> と <i>B</i> を重なりを考えずに並べたものをいう場合もある。これを合併集合と区別するために直和ということもある。転じて,部分集合の合併についても,<i>A</i>∩<i>B</i>=φ の場合に限って直和ということもある。 (2) 可換群に関して 加法に関する結合法をもつ可換群を <i>G</i> ,その部分群を <i>G</i>
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<sub>1</sub> ,<i>G</i>
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<sub>2</sub> とする。もし任意の元 <i>x</i>∈<i>G</i> ,<i>x</i>
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<sub>1</sub>∈<i>G</i>
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<sub>1</sub> および <i>x</i>
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<sub>2</sub>∈<i>G</i>
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<sub>2</sub> によって,<i>x</i>=<i>x</i>
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<sub>1</sub>+<i>x</i>
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<sub>2</sub> の形に一意的に書けるとき,<i>G</i> は <i>G</i>
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<sub>1</sub> と <i>G</i>
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<sub>2</sub> の直和であるといわれ,これを <i>G</i>
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<sub>1</sub>+<i>G</i>
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<sub>2</sub> で表わす。 (3) ベクトル空間に関して ベクトル空間の算法は加法なので,[[直積]]のことを直和ということもある。 (4) ベクトル空間の部分空間に関して 体 <i>K</i> の上のベクトル空間を <i>V</i> ,その部分空間を <i>V</i>
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<sub>1</sub> ,<i>V</i>
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<sub>2</sub> とする。もし <i>V</i> のおのおの元 <b>
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<i>x</i>
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</b> が,<b>
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<i>x</i>
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</b>
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<sub>1</sub>∈<i>V</i>
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<sub>1</sub> および <b>
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<i>x</i>
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</b>
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<sub>2</sub>∈<i>V</i>
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<sub>2</sub> によって,一意的に <b>
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<i>x</i>
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</b>=<b>
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<i>x</i>
 +
</b>
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<sub>1</sub>+<b>
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<i>x</i>
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</b>
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<sub>2</sub> と書けるとき,<i>V</i> は <i>V</i>
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<sub>1</sub> と <i>V</i>
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<sub>2</sub> の直和であるといい,これを <i>V</i>
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<sub>1</sub>+<i>V</i>
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<sub>2</sub> で表わす。一般にも,<i>V</i>
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<sub>1</sub>+<i>V</i>
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<sub>2</sub>={<b>
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<i>x</i>
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</b>
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<sub>1</sub>+<b>
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<i>x</i>
 +
</b>
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<sub>2</sub>|<b>
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<i>x</i>
 +
</b>
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<sub>1</sub>∈<i>V</i>
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<sub>1</sub>,<b>
 +
<i>x</i>
 +
</b>
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<sub>2</sub>∈<i>V</i>
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<sub>2</sub>} と書くが,これは <i>V</i>
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<sub>1</sub> と <i>V</i>
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<sub>2</sub> の直和 (直積) と同型とはかぎらない。それで特に,同型になる場合を直和というのである。
  
== 集合論的直和 ==
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{{テンプレート:20180815sk}}
{{main|非交和}}
 
{{seealso|直和位相|l1=位相空間の直和}}
 
集合論的な意味での、集合の(外部)直和は互いに交わらない(つまり[[交叉 (数学)|共通部分]]が[[空集合|空]]である)ような集合の[[合併 (集合論)|合併]]({{Lang-en-short|disjoint union}}、[[非交和]])によって与えられる。たとえば、ある[[位相空間]]の部分集合の、[[内部 (位相空間論)|内部]]と[[境界 (位相空間論)|境界]]と外部の和は直和になっている。
 
 
 
二つの集合 {{mvar|A, B}} がともに一つの集合の部分集合となっているときには、一般にはそれらが交わるため単純な合併では直和は与えられない。集合の(内部)直和は、各元の出自がどの集合であるかを指示する符牒を与えたうえでとった合併(discriminated union; 識別和)によって与えられる。''A'' や ''B'' に属さない記号をたとえば {{math|*}} として、集合 {{math|''A''* {{coloneqq}} ''A'' &cup; {{mset|*}}, ''B''* {{coloneqq}} {{mset|*}} &cup; ''B''}} を考えてやると、二つの[[単射|埋め込み]]
 
: <math>A \hookrightarrow A^*\times B^*;\; a \mapsto (a,*),</math>
 
: <math>B \hookrightarrow A^*\times B^*;\; b \mapsto (*,b)</math>
 
が得られ、この埋め込みによって {{mvar|A* × B*}} の部分集合と見なした {{mvar|A, B}} は交わりを持たない。この埋め込み像を記号の濫用で {{mvar|A*, B*}} と書けば {{mvar|A* × B*}} の部分集合としてとった和集合 {{mvar|A* &cup; B*}} を ''A'' と ''B'' の直和といい {{math|''A'' ⊔ ''B''}} などと書く。誤解のおそれのない場合には ''A''<sup>*</sup> と ''A'', ''B''<sup>*</sup> と ''B'' はそれぞれ同一視して区別しない。
 
 
 
== 代数学的直和 ==
 
{{main|群の直和|環の直和|線型空間の直和|加群の直和}}
 
{{seealso|{{ill2|位相群の制限直積|en|Restricted product}}|{{ill2|表現の直和|en|Direct sum of representations}}}}
 
代数学的直和は、与えられた同じ型の[[代数系]]からなる[[族 (数学)|族]]の[[制限直積]]に対して、それぞれの代数系がもつ所定の演算などの構造を[[成分ごと]]に定義することによって与えられる。
 
 
 
=== 有限個の直和 ===
 
例えば有限個の[[ベクトル空間]] {{math|''W''{{sub|1}}, &hellip;, ''W{{sub|n}}''}} の集合としての[[直積集合|直積]]に対して、和とスカラー倍を成分ごとに与えたベクトル空間 {{mvar|W}} のことを {{math|''W''{{sub|1}}, &hellip;, ''W{{sub|n}}''}} の(外部)直和という。これを {{math|''W'' {{coloneqq}} ''W''{{sub|1}} &oplus; ⋯ &oplus; ''W{{sub|n}}''}} と表す。
 
 
 
またベクトル空間 {{mvar|V}} の {{mvar|n}} 個の部分空間 {{math|''W''{{sub|1}}, &hellip;, ''W{{sub|n}}''}} が
 
:<math> W_i \cap \sum_{i \neq j} W_j = \{ 0 \} </math>
 
を満たすとき、それらの{{ill2|和空間|en|Linear_subspace#Sum}} {{math|''W'' {{coloneqq}} ''W''{{sub|1}} + ⋯ + ''W{{sub|n}}''}} を部分空間 {{math|''W''{{sub|1}}, &hellip;, ''W{{sub|n}}''}} の(内部)直和という。直和であることを明示するためにこの場合もしばしば {{math|1=''W'' = ''W''{{sub|1}} &oplus; ⋯ &oplus; ''W{{sub|n}}''}} と表される。内部直和は外部直和と同型である。
 
 
 
内部直和 {{math|''W''{{sub|1}} &oplus; ⋯ &oplus; ''W{{sub|n}}''}} のベクトルは {{math|''W''{{sub|1}}, &hellip;, ''W{{sub|n}}''}} のベクトルの和として一意的に表すことができ、その次元はそれぞれの次元の和に等しい。
 
 
 
=== 任意個の直和 ===
 
必ずしも有限個でない場合の直和は、以下のように定義される。例えば任意個の[[環上の加群]]からなる族 {{math|{{mset|''M{{sub|i}}''}}{{sub|''i''∈''I''}}}} に対して、それらの直積
 
: <math>\prod_{i \in I} M_i </math>
 
に含まれる元{{efn|これが空でないことは[[選択公理]]を要さないことに注意。これは加群が零元という特定の基点を持つことに由来する。すなわち、各直和因子において零元をとることにより少なくとも一つの元を得ることができる}}のうち、「その成分が有限個のものを除いてすべて加法単位元 {{math|0}} であるようなもの」全体の成す集合を考える(制限直積)。元の間に演算を {{math|(''x{{sub|i}}''){{sub|''i''∈''I''}} + (''y{{sub|i}}''){{sub|''i''∈''I''}} {{coloneqq}} (''x{{sub|i}}'' + ''y{{sub|i}}''){{sub|''i''∈''I''}}}}, 環の作用を {{math|''a''&sdot;(''x{{sub|i}}''){{sub|''i''∈''I''}} {{coloneqq}} (''ax{{sub|i}}''){{sub|''i''∈''I''}}}}(''a'' は環の元)で与えると、この集合は加群になる。これを加群の束 {{math|{{mset|''M{{sub|i}}''}}{{sub|''i''∈''I''}}}} の直和と呼ぶ。なお、この定義から作用を無視すれば自然に[[アーベル群]]の直和が得られる。
 
 
 
ある加群の任意の元が部分加群 {{math|{{mset|''M{{sub|i}}''}}}} の元の有限の和として一意的に書き表せるとき、この加群は {{math|{{mset|''M{{sub|i}}''}}}} の直和と同型になる。直和はこのようにして構造的に定義することもできる。これに対して既に述べたような定義を構成的ということもある。
 
 
 
ベクトル空間と同じように、直和加群の長さはそれぞれの加群の長さ(またはアーベル群のランク)の和になる。
 
 
 
== 圏論的直和 ==
 
{{main|余積}}
 
[[圏論]]における'''直和'''({{Lang-en-short|coproduct}}; '''余積'''、'''双対直積''')とは、[[直積 (圏論)|直積]] ({{Lang|en|product}}) の[[双対]]概念で、次の[[普遍性]]を持つ対象 ''A'' のことである:
 
 
 
; 直和の普遍性: 対象の族 {{math|{{mset|''A{{sub|λ}}''}}{{sub|''λ''∈Λ}}}} を考える。対象 {{mvar|A}} と射 {{math|''i{{sub|λ}}'': ''A{{sub|λ}}'' &rarr; ''A''}} が存在して、任意の対象 {{mvar|X}} と写像 {{math|''f{{sub|λ}}'': ''A{{sub|λ}}'' &rarr; ''X''}} に対し、<math display="block">f_\lambda = f \circ i_\lambda</math> を満たす {{math|''f'': ''A'' &rarr; ''X''}} がただ一つ存在する。
 
 
 
[[集合の圏]]では、この圏論的定義でいう直積・直和と、上で述べた 「集合の直積・直和」 の概念は一致する。ところが、一般にはそうはならない。たとえば、
 
* 単位元を持つ[[可換環の圏]]における直和とは 「[[環のテンソル積]]」 であって、上で述べた 「環の直和」 は圏論的直積である。
 
* [[群の圏]]における直和は「群の[[自由積]]」と呼ばれるものである。
 
* [[アーベル群の圏]]においては、直和は「制限直積」であり直積は「直積」である。この場合、有限個の対象に対する直積と直和は同じ対象を定め{{ill2|双積|en|biproduct}}と呼ばれる(これは環上の[[加群の圏]]においても同様である)。
 
 
 
== 注 ==
 
{{脚注ヘルプ}}
 
=== 注釈 ===
 
{{notelist}}
 
=== 出典 ===
 
{{Reflist}}
 
== 参考文献 ==
 
== 関連項目 ==
 
* [[直積]]
 
 
 
== 外部リンク ==
 
* {{MathWorld|urlname=DirectSum|title=Direct Sum|author= Rowland, Todd; Weisstein, Eric W.}}
 
* {{nlab|urlname=direct+sum|title=direct sum}}
 
* {{PlanetMath|urlname=DirectSum|title=direct sum}}
 
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Internal_Direct_Sum_of_Rings|title=Definition:Internal Direct Sum of Rings}}
 
* {{SpringerEOM|urlname=Direct_sum|title=Direct sum|first=M.Sh. |last=Tsalenko }}
 
 
 
{{Mathdab}}
 
 
{{DEFAULTSORT:ちよくわ}}
 
{{DEFAULTSORT:ちよくわ}}
 
[[Category:数学的構造]]
 
[[Category:数学的構造]]
 
[[Category:代数的構造]]
 
[[Category:代数的構造]]
 
[[Category:数学に関する記事]]
 
[[Category:数学に関する記事]]

2019/4/27/ (土) 11:05時点における最新版

直和(ちょくわ、: direct sum

(1) 集合に関して 集合 AB との和集合というときに,ABX の場合の合併をさす場合もあるが,AB を重なりを考えずに並べたものをいう場合もある。これを合併集合と区別するために直和ということもある。転じて,部分集合の合併についても,AB=φ の場合に限って直和ということもある。 (2) 可換群に関して 加法に関する結合法をもつ可換群を G ,その部分群を G 1G 2 とする。もし任意の元 xGx 1G 1 および x 2G 2 によって,xx 1x 2 の形に一意的に書けるとき,GG 1G 2 の直和であるといわれ,これを G 1G 2 で表わす。 (3) ベクトル空間に関して ベクトル空間の算法は加法なので,直積のことを直和ということもある。 (4) ベクトル空間の部分空間に関して 体 K の上のベクトル空間を V ,その部分空間を V 1V 2 とする。もし V のおのおの元 x が, x 1V 1 および x 2V 2 によって,一意的に x x 1 x 2 と書けるとき,VV 1V 2 の直和であるといい,これを V 1V 2 で表わす。一般にも,V 1V 2={ x 1 x 2 x 1V 1 x 2V 2} と書くが,これは V 1V 2 の直和 (直積) と同型とはかぎらない。それで特に,同型になる場合を直和というのである。



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