C型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルス(シーがたかんえんウイルス、hepatitis C virus、HCV)は、フラビウイルス科ヘパシウイルス属に属するRNAウイルスで、C型肝炎の原因となる。抗ウイルス薬の登場により近年中の撲滅が期待されている[1]。
歴史
1989年にアメリカのChiron社の研究グループによって非A型非B型肝炎患者から遺伝子断片が分離された。
構造
ウイルス粒子はエンベロープを持つ、直径35〜65nmの球状粒子であり、ゲノムとして9.5kbのプラス一本鎖RNAを持つ。ヒトを固有宿主とする。
種類
現在までに10種類以上の遺伝子型(genotype)が発見されており、アメリカでは1a型が、ヨーロッパでは1a型と3a型が、日本では1b型が70%と多く、続いて2a型 2b型多い。
治療効果の観点から、日本において遺伝子型に対し、2種類の血清型(serotype)で分類されている。
- 遺伝子型(genotype)
- 1a型 1b型 1c型 2a型 2b型 2c型 3a型 3b型 4型 5a型 6b型
- 血清型(serotype):特異抗原に対する抗体によって以下に分類している
- 1群(Group1):主に1a型 1b型 1c型
- 2群(Group2):主に2a型 2b型 2c型
このウイルスに感染するとほぼ確実に抗体が産生されるので、抗体検査は診断上重要である。
感染
ウイルスの伝播は血液を介して行われる。性行為等での感染は極まれと言われている。
HCVは肝細胞と一部のリンパ球を標的細胞とし、宿主の免疫機構やインターフェロンからエスケープして持続感染を引き起こす。また、細胞内の中性脂肪を利用して増殖しており、さらに、ウイルスの「コア」と呼ばれる蛋白質の働きで、細胞内の中性脂肪が増加するという報告がある。[2][3]
ヒトが唯一の宿主であるが、実験的にチンパンジーに感染させることも可能である。C型肝炎ウイルスは効率的な培養方法が確立していないため、牛ウイルス性下痢ウイルスがモデルウイルスとして研究されている。
感染は グルコーストランスポーター(glucose transporter 2;GLUT2)の発現を抑制させ、糖の取り込み抑制を引き起こされる。GLUT2遺伝子の転写抑制は、HCV NS5A[4]によるHNF-1αのライソソーム依存性分解が関与していると報告されている[5]。
症候
C型肝炎ウイルスに感染すると慢性肝炎に移行しやすい。
肝臓以外の病変として、クリオグロブリン血症[6]、膜性増殖性糸球体腎炎、晩発性皮膚ポルフィリン症、シェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、悪性リンパ腫、扁平苔癬[7]などを発症させる。また、2型糖尿病、糖脂質代謝異常、鉄代謝異常との合併が有意に多い[5]。
免疫系からの回避
感染細胞や樹状細胞が産生するインターフェロン(IFN)はHCVの排除に働き、さらに樹状細胞によって活性化されたNK細胞もウイルス排除に貢献することが知られているが、HCVはNS3などによりインターフェロンのシグナル伝達を阻害するほか、E2によりNK細胞の機能を低下させることで免疫系からまぬがれている。
治療
- 参照: C型肝炎
有効なワクチンは無いが、抗ウイルス薬として2015年7月に承認されたレジパスビルの登場により、96〜100%の人でウイルス除去が可能になった[8]。
参考文献
- 大里外誉郎編著 『医科ウイルス学改訂第2版』 南江堂 2000年 ISBN 4-524-21448-8
- 光山正雄編著 『微生物感染学』 南山堂 2005年 ISBN 4-525-16101-9
脚注
- ↑ 矢田豊、ウイルス肝炎の最新治療と今後の展望 〜超音波検査に必要な最新情報〜 超音波検査技術 Vol.41 (2016) No. 1 p.32-42, doi:10.11272/jss.41.32
- ↑ "C型肝炎ウイルス 中性脂肪利用し増殖", 読売新聞, 2007年8月27日
- ↑ Yusuke Miyanari, Kimie Atsuzawa, Nobuteru Usuda, Koichi Watashi, Takayuki Hishiki, Margarita Zayas, Ralf Bartenschlager, Takaji Wakita, Makoto Hijikata & Kunitada Shimotohno, "The lipid droplet is an important organelle for hepatitis C virus production", Nature Cell Biology, 9, 1089 - 1097 (2007).[1]
- ↑ HCV蛋白の構造と機能 国立感染症研究所
- ↑ 5.0 5.1 勝二郁夫、鄧琳、松井千絵子 ほか、C型肝炎ウイルスによる糖代謝異常 ウイルス Vol.65 (2015) No.2 p.263-268, doi:10.2222/jsv.65.263
- ↑ 巴雅威、高取正雄、 岩渕省吾 ほか、本邦のC型慢性肝疾患におけるクリオグロブリン血症についての検討 日本消化器病学会雑誌 Vol.94 (1997) No.4 P.241-248, doi:10.11405/nisshoshi1964.94.241
- ↑ 長尾由実子、佐田通夫、C型肝炎ウイルスと肝外病変 日本消化器病学会雑誌 Vol.96 (1999) No.11 P.1249-1257, doi:10.11405/nisshoshi1964.96.1249
- ↑ ハーボニー:著効率100%のC型肝炎治療薬 日経メディカルオンライン 2015/9/19