速射砲
速射砲(そくしゃほう)とは発射速度の早い砲のことを言う。砲の口径や発射速度などにはっきりした定義はない。通常中口径の砲で、毎分10 - 40発以上を発射可能なものを指すことが多い。装填作業が人間の操作を介さずに全自動で行われる小口径のもの(40mmないし57mm程度まで)は速射砲とは呼ばれず機関砲と呼ばれる。艦載砲のほか、陸上部隊の対戦車砲なども速射砲と呼ばれることがある。
速射砲のはじまり
19世紀の後半に、駐退機が発明され、閉鎖機の改良が行われるなど、砲の発射速度を向上させる発明が相次いで出現した。
1887年にイギリスのアームストロング社は、4.7インチ(120mm)砲を速射砲と名付けて発売した。それまでの艦砲の発射速度が毎分1発程度であったのに対し、カタログデータ上5.3秒に一発発射できるとされた。当時弾丸を自動装填する技術はなく、また装薬には黒色火薬を使用していた関係で、これより大口径の砲では発砲後に砲身洗浄が必要とされていたことなどから、弾丸を人力で扱える中口径の砲の速射化が進められた。これ以降、アームストロング社製以外の大砲であっても、駐退機を備えるものは速射砲と呼ばれるようになる。
アームストロングの速射砲を最初に導入したのは日本海軍で、イギリス海軍よりも早かった。日本で初めて速射砲を搭載したのは装甲巡洋艦千代田であった。日本海軍のアームストロング速射砲は、日清戦争における黄海海戦の勝利に大きく寄与したとされている。
クルップ社を擁するドイツ海軍も速射砲の導入には積極的で、戦艦の主砲に世界ではじめて速射砲を導入した。カイザー・フリードリヒ3世級戦艦の主砲は口径こそ24cmで世界最小であったが、同時に当時の世界最大口径の速射砲であった。
速射砲の登場で、火力を評価する場合、一発あたりの威力という評価のほかに、単位時間あたりの投射重量(あるいは連射速度)という評価基準が生まれた。ただし、駐退機が一般化すると、これを採用する大砲を特に速射砲と称する事は無くなった。その後、あるいは現代において速射砲と称するのは、それとは別の分類によるものである。
対戦車砲としての速射砲
旧日本陸軍では、対戦車砲のことを速射砲と呼んでいた。理由は、対戦車能力の秘匿のためとも、攻勢主義の陸軍が「対戦車」という防御的な用語を嫌ったためとも言われている。「速射砲」は通称であり、兵器の制式名称としては用いられていない。昭和11年編制の歩兵連隊には歩兵砲隊があり、連隊砲4門を持つ歩兵砲中隊と、速射砲4門を持つ速射砲中隊の構成であった。太平洋戦争開戦時の主力は口径37mmの九四式三十七粍砲であり、戦争末期の主力は口径47mmの一式機動四十七粍砲である。九四式三十七粍砲は初速の割に装甲貫徹能力が低く、ノモンハン戦ではソ連軍戦車に苦戦したと過去に言われていたが、旧ソ連側の記録では十分な威力を発揮したことが記録されている。対米戦では島嶼部での戦闘に投入されたが対戦車砲としては全く無力であった。太平洋戦争末期に投入された一式機動四十七粍砲は、M4シャーマン戦車の側面装甲を貫通する戦闘力を持っており、硫黄島や沖縄での戦闘で活躍した。
艦載砲としての速射砲
小型の水雷艇が大型艦の脅威になるようになるとこれを撃退するために小口径で発射速度の高い火砲を装備する必要が発生した。QF3ホッチキス速射砲はまさにそのために開発された速射砲で多くの国の艦艇に装備された。
艦砲における速射砲は現在のところ口径40mm以上で毎分30 - 40発以上発射可能なものを指すことが多い。対空目標への使用も可能で、今ではミサイルに次ぐ水上艦の主武装となっている。速射砲の中でもっとも普及しているものの一つがイタリアのオート・メラーラ社製の127mmコンパクト砲(マウント重量約37トン)と76mmコンパクト砲/スーパーラピッド砲(マウント重量8トン)で、西側諸国で多く使用されている。
アメリカ海軍は自国で開発したMk.42 5インチ(127mm)単装速射砲の信頼性が低い割に重かったことをうけ、現在、信頼性の向上や軽量化を図ったMk.45 5インチ単装砲を主に使用している。Mk.45は、オート・メラーラ127mm砲に比べると軽量である(約22トン)代わりに発射速度が毎分20発程度に抑えられ、旋回速度も他国の速射砲に比べると低くなっており、速射砲には分類されない。またイタリア製の76mmコンパクト砲がMk.75として採用されて、オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートや沿岸警備隊のカッターに搭載されたほか、現在、スウェーデン・ボフォース社のボフォースMk.3 57mm砲がMk.110 CIGS(Close-In Gun System)として採用され、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦や沿海域戦闘艦、カッターに搭載されつつある。
海上自衛隊では、むらさめ型までの汎用護衛艦(DD)、あぶくま型までの護衛艦(DE)がオート・メラーラ 76mmコンパクト砲を、たかなみ型とこんごう型でオート・メラーラ 127mmコンパクト砲を、たちかぜ型、はたかぜ型、はるな型、しらね型がMk.42を採用している。あたご型からはMk.45を採用したが、これはこんごう型のオート・メラーラ127mm54口径砲においてイージスシステムとの適合が悪かった事の反省による。