極小モデル

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代数幾何学では極小モデルプログラム(minimal model program)が代数多様体双有理分類の一部となっている。その目標は、任意の複素射影多様体のできるだけ単純な双有理モデルと構成することである。この主題の起源は、代数幾何学のイタリア学派English版により研究された曲面の古典的双有理幾何学にあり、現在は代数幾何学の活発な研究領域となっている。

定義

極小モデル(きょくしょうモデル、Minimal Model

[math]X[/math]は正規で固有な多様体とする。

1.[math]X[/math]端末特異点しか持たない。

2.[math] K_{X}[/math]ネフである。

の2つの条件が成立するとき[math]X[/math]は極小モデルであるという。

概要

理論の基本的アイデアは、各々の双有理同値類の中に、「できるだけ単純な」多様体を見つけることで多様体の双有理分類を単純化することである。この文の詳細な意味は、次のような問題を開発することへ発展した。すなわち、もともとは曲面に対して、任意の双有理な(regular map) [math]f: X \rightarrow X'[/math]同型であるような滑らかな多様体 [math]X[/math] を見つけることを意味していた。

現代的な定式化では、理論の目標は次のようになる。射影多様体 [math]X[/math] が与えられたと仮定し、簡単のため非特異とする。2つの場合がありうる。

  • もし [math]X[/math]小平次元 [math]\kappa(X,K_X)=-1[/math] であるときは、[math]X[/math] に双有理な多様体 [math]X^\prime[/math] と、射影多様体 [math]Y[/math] への射(morphism) [math]f: X' \rightarrow Y[/math] を探し、dim [math]Y[/math]< dim[math]X'[/math] で一般型のファイバー [math]F[/math]豊富なラインバンドルであるような反標準クラス [math]-K_F[/math] を持つものを探す。そのような射のことをファノファイバー空間という。
  • 小平次元 [math]\kappa(X,K_X)[/math] 少なくとも 0 であれば、[math]X[/math] に双有理な [math]X'[/math] を探し、標準クラス [math]K_{X^\prime}[/math]ネフ(nef)(数値的正という意味だが、通常使用しているので、本文ではネフという用語を使用する。)となっている。この場合、[math]X'[/math][math]X[/math]極小モデル(minimal model)という。

上記の多様体 [math]X'[/math][math]X[/math] の非特異性の問題は重要である。滑らかな [math]X[/math] より初めるならば、極小モデルをすべて、あるいは滑らかな多様体のカテゴリの中のファノファイバーをいつでも見つけることができることが、自然に期待できる。しかし、このことは正しくなく、特異点も考えに入れる必要がある。ここに現れる特異点を端末特異点English版(terminal singularities)と呼ばれる。

曲面の極小モデル

すべての既約複素代数曲線は、一意に滑らかな射影曲線に双有理であるから、曲線の理論は自明である。曲面の場合は、最初に1900年頃にイタリア学派の幾何学者たちにより研究された。グイド・カステルヌオボEnglish版(Guido Castelnuovo)の収縮定理は、本質的には任意の曲面の極小モデルの構成する過程を記述した。定理は、任意の非自明な双有理写像 f:X →Y が −1-曲線を滑らかな点へと収縮させるはずであり、逆にそのような曲線は滑らかに収縮できることを言っている。ここに、−1-曲線は滑らかな有理曲線 C で、自己交叉 C.C = −1 である。そのような曲線は、K.C=−1 であり、もし標準クラスがネフ(nef)であれば曲線は −1-曲線を持ちえないことを示している。

カステルヌオボの定理は、滑らかな曲線から極小モデルを構成するためには、曲面上のすべての −1-曲線を収縮させ、結果としてできる多様体 Y が K がネフ(nef)である(一意の)極小モデルであるかまたは、ルールドな曲面(これは2次元ファノファイバー空間と同じであり、射影平面であるかまたは曲線上のルールドな曲面であるかのことを言う)であるという定理である。第二の場合には、X に双有理なルールドな曲面は、射影直線と曲線の積に一意に同型があるにもかかわらず、一意ではない。


高次元極小モデル

次元が 2 以上の場合は、理論はさらに多くの意味合いが入ってくる。特に、ネフ(nef)ではない標準クラスを持つ任意の滑らかな多様体 [math]X'[/math] に双有理同値にならないような滑らかな多様体 [math]X[/math] が存在する。1970年代と1980主要な概念的な前進は、極小モデルの構成は、いまだに妥当性を持ち、発生する特異性のタイプについて注意深く構成であるということである。(例えば、[math]K_{X'}[/math] がネフ(nef)であるならば、交点数 [math]K_{X'} \cdot C[/math] は定義されねばならないことを示す必要がある。よって、最低でも、多様体はある正の整数 [math]n[/math] に対して [math]nK_{X'}[/math] カルティエ因子を持つ必要がある。)

最初の重要な結果は、森重文の円錐定理(Cone theorem)で、[math]X[/math] の曲線の円錐の構造を記述している。簡潔にいうと、定理は [math]X[/math] から始め、帰納的に多様体の列 [math]X_i[/math] を構成することができて、それらの各々の [math]K_{X_i}[/math] ネフ(nef)であり、ひとつ前の多様体により「近い」ものとすることができる。しかしながら、この過程は困難に遭遇するかもしれない。多様体 [math]X_i[/math] 上のある点が、「あまりに特異性を持ちすぎる」かもしれない。この問題への予想された解決は、フリップ(flip)で、[math]X_i[/math] 上の余次元 2 の一種の手術操作である。求めているフリップが存在するか、それらの列が常に終端を持つかということが明らかではない。(すなわち、有限回の操作で極小モデル [math]X'[/math] に行きつけるのか。)Mori (1988) では、フリップが 3 次元の場合は存在することを証明し、さらに最近の仕事ではより高次元の場合の極小モデルの存在と終端を持つという問題へ注力されている。


参考文献