性器クラミジア感染症

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性器クラミジア感染症(せいきクラミジアかんせんしょう)は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の一種により生じる性感染症 (STD)。性器では男性では尿道に膿みや痛みを生じ、女性ではおりものが増えるが無症状のこともあり、咽喉への感染では、喉が痛くなり痰が増えたりするが無症状の場合もある。治療せずに放置することで不妊症の原因となったりする。

淋病とならぶよくある感染症である[1]。10代世代の10%前後が感染しているとするデータがあり比較的多い。感染経路は、コンドームを使用しない性行為のほか、口と性器での感染、母子感染もある。治療にはクラミジアに有効な抗生物質を、駆除に必要な量、日数で用いられる。

疫学

日本国内

2007年には、女子高校生の13.1%、男子高校生では6.7%が感染しているとの報告があり10代の若者への感染の蔓延が懸念されている[2]1。更に、2013年10月から2014年3月までに全国の産科施設を受診した妊婦32万5771例を対象とした検査によれば、2.4%が感染していたと報告されている[3]

  • 19歳以下:15.3%、20 - 24歳:7.3%、25 - 29歳:2.2%、30 - 34歳:1.2%、35 - 39歳:0.8%、40歳以上:0.9%

この感染率は欧米と比べて高く、先進諸国のなかで最も感染が拡大している可能性が指摘されている[2]。 米国で2008 - 2010年に医師がクラミジア検査が必要であると判断した妊婦約60万例の結果では、

  • 19歳以下:9.6%、20 - 24歳:5.2%、25 - 29歳:1.8%、30 - 34歳:0.9%、35 - 39歳:0.6%

とされており、各年齢層共に日本の感染率が高い。また、都道府県によるバラツキが大きい事が報告されている[4]。しかし、大流行とも言える状態にあるも関わらず、公衆衛生行政が積極的な関心を示していない事に危機感を示す医師もいる[5]

原因

クラミジアの1種であるクラミジア・トラコマチス(CT)が尿路や性器に感染することで起こる。なお、性器クラミジア感染症を引き起こすのはCTのうちのD - K型であり、A - C型とL型は別の疾患を引き起こす。

感染経路

性交オーラルセックスキスなどにより粘膜に感染する。感染部位は咽頭尿道男性のみ)、内(女性のみ)、直腸[6]。相手が咽頭感染している場合通常の口づけでは感染する可能性は低いが、ディープキスの場合は感染率が高くなる。

症状

感染後数週間で発症するが、約80%は無症状とされる。[3]男性の場合は、尿道から透明な膿が出る。痛みを伴う場合もある。女性の場合はおりものが増える事があるが、自覚症状は乏しい。喉頭感染では喉が痛くなり痰が増えたりするが、無症状の場合もある。

治療せずに放置しておくと、クラミジアが体内深部に進行し、男性の場合は尿道経由で前立腺炎・副睾丸炎(精巣上体炎)・肝炎・腎炎になる事がある。女性の場合は急性腹膜炎[7]、子宮頸管炎・子宮内膜炎・卵管炎になり、進行すると骨盤腹膜炎になったり肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)や卵巣炎を引き起こし、子宮外妊娠(卵管妊娠)[8]不妊の原因となる事もある。また産道感染により、新生児が結膜炎肺炎を発症することがある。また絨毛膜羊膜炎をおこし流産早産の原因ともなる。更に、クラミジアに感染していると、他の性感染症HIVの感染率が飛躍的に高くなるとされている。

女性の不妊だけでなく男性の不妊との関連性も指摘されている[9]

診断

男性の場合は泌尿器科・性病科、女性の場合は産婦人科・性病科を受診。咽頭感染の場合は耳鼻咽喉科。性器感染の場合は患部から体液を採取、もしくは採尿し、クラミジアの有無を調べる。

クラミジア性の尿道炎と、マイコプラズマウレアプラズマが原因となる非クラミジア性かつ非淋菌性の尿道炎との症状の差はみられないため、症状による鑑別は困難であり検査により容易となる[10]

検査には病院のほか、検査キットが販売されている。保健所が無料で行っている場合がある[11]。こうした無料の検査は月に1~2度である。

治療

日本の2016年のガイドラインより説明するでは、クラミジアではマクロライド系のアジスロマイシンやニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗生物質が用いられる[12]。咽喉のクラミジアでは性器への感染に準じる[13]

アジスロマイシンでは一度の服用でよく、他の薬では継続して服用する。症状は数日でなくなる事が多いが完全に死滅していない事があるので、指示通り服用が必要となる。薬に耐性のある耐性菌も増加している。途中でやめた場合ぶり返したり、菌が薬剤に対して耐性を持ってしまい症状が悪化したり、治りにくくなることがあるためである。また、オーラルセックスによるが咽頭感染例が10%とする報告もあり[3]、耳鼻咽喉科との連携が必要と指摘されている[3]

予防

性感染症である本病は禁欲が最大の予防策である。次善の策としては、不特定多数(確率的にその中に感染者が含まれているため)との性行為の自粛である。 コンドームの着用である程度予防することができるが100%ではなく、から口へ、口から性器へという場合などが考えられる。

出典

  1. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 51.
  2. 2.0 2.1 今井博久、高校生のクラミジア感染症の蔓延状況と予防対策 日化療会誌 55 (2): 135-142, 2007
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 全国の妊婦32.6万例の大規模調査で判明 妊婦の2.4%に性器クラミジア感染症 日経メディカルオンライン 記事:2015年4月13日 閲覧:2015年9月15日
  4. 全国の都道府県別流行状況(性器クラミジア感染症) 広島市 健康福祉局 衛生研究所
  5. 熊本悦明、南邦宏、若者を性感染症から守る 若い女性における性感染症の大流行―クラミジア感染症を中心に 公衆衛生 72巻 6号(2007) pp. 436-443
  6. 緑川昌子ほか、クラミジア直腸炎の1例 消化器内視鏡の進歩:Progress of Digestive Endoscopy Vol.42 (1993) p.289-292
  7. 尾崎慎治ほか、クラミジア感染による急性腹膜炎5例 日本臨床外科学会雑誌 Vol.63 (2002) No.3 P737-741
  8. 永松健ほか、近年の子宮外妊娠の原因疾患としてのクラミジア感染について 日本産科婦人科内視鏡学会雑誌 Vol.17 (2001) No.2 P31-34
  9. 徳田倫章ほか、男性不妊症におけるクラミジア感染症 血清抗クラミジア抗体検査の有用性 日本泌尿器科学会雑誌 Vol.90 (1999) No.6 P608-613
  10. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 91.
  11. HIV・性感染症に関する検査・相談のための保健所マップ(東京都保健福祉局)
  12. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 61.
  13. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 37.

参考文献

関連法規

関連項目

外部リンク