尖点表現
数論における尖点表現(せんてんひょうげん、英: cuspidal representations; カスプ表現)は L2-空間に離散的に現れる代数群の表現の一種である。「尖点的」というのは、それが古典的なモジュラー形式論に関する尖点形式に関係することに由来する。保型表現の現代的な定式化では、正則函数の表現の代わりに、アデール代数群の表現を考えうる。
考えている群が一般線型群 GL2 のときの尖点表現は、尖点形式とマース形式に直接に関係する。尖点形式の場合については、各ヘッケ固有形式(アトキン=レーナーの新形式)が尖点表現に対応する。
定式化
G を数体 K 上の簡約代数群とし、A を K のアデール環とする。また、Z を G の中心、ω を Z(K)\Z(A)× から C× への連続ユニタリ指標とし、アデール群 G(A) 上のハール測度を固定して、G(A) 上の複素数値可測函数 f で以下を満たすもの全体の成すヒルベルト空間を [math]L^2_0(G(K)\backslash G(\mathbb{A}), \omega)[/math] と書く。
- すべての [math]\gamma; \in G(K)[/math] に対して、[math]f(\gamma g) = f(g)[/math] である。
- すべての [math]z \in Z(\mathbb{A})[/math]に対して、[math]f(gz) = f(g)\omega (z)[/math] である。
- [math]\int_{Z(\mathbf{A})G(K)\backslash G(\mathbf{A})}|f(g)|^2\,dg \lt \infty[/math]
- G(A) の任意の真の抛物型部分群に関する任意の冪単根基 U に対して [math]\int_{U(K)\backslash U(\mathbf{A})}f(ug)\,du=0[/math] を満たす。
この空間を G(A) 上の中心指標 ω を持つ尖点形式全体の成す空間といい、この空間に属する函数を尖点函数と呼ぶ。この空間は g ∈ G(A) の尖点函数 f への作用を
- [math](g\cdot f)(x)=f(xg)[/math]
で与えることにより、アデール代数群 G(A) のユニタリ表現になる。中心指標 ω を持つ尖点形式の空間はヒルベルト空間の直和
- [math]L^2_0(G(K)\backslash G(\mathbf{A}),\omega)=\hat{\bigoplus\limits_{(\pi,V_\pi)}}m_\pi V_\pi[/math]
に分解される。ここで和は Lテンプレート:Su(G(K)\G(A), ω) のすべての既約部分表現 に亘ってとるものとし、mπ は正の整数とする(つまり、各既約表現は有限な重複度で現れる)。G(A) の尖点表現 は、表現 (π, V) の、適当な中心指標に対してこのように得られる部分表現をいう。
上記の分解に現れる重複度 mπ が全て 1 に等しい群は、重複度一性を持つという。
参考文献
- Bernšteĭn, I. N.; Zelevinskiĭ., A. V. (1976), Representations of the group GL(n; F); where F is a local non-Archimedean field, Uspehi Mat. Nauk, 31
- James W. Cogdell, Henry Hyeongsin Kim, Maruti Ram Murty. Lectures on Automorphic L-functions (2004), Chapter 5.
外部リンク
- 高橋哲也 (1998) (pdf), p進体上の簡約代数群の admissible 表現論入門, Rokko Lectures in Mathematics, 神戸大学理学部数学教室, ISBN 4-907719-04-3
- 今野拓也 (2004) (pdf), 保型形式入門 第三章 非アルキメデス局所理論
- 今野拓也 (2008) (pdf), GL2 上の保型形式とL函数 第16回 整数論サマースクール 報告原稿