トムソン散乱
トムソン散乱(トムソンさんらん、英: Thomson scattering)とは、ニュートン力学的に考察する事の出来る束縛を受けていない自由な荷電粒子による、古典的な電磁波の散乱で、弾性散乱の一種である。イギリスの物理学者であるJ. J. トムソンが、1個の電子に対して一定の方向から光が当たる時、どの方向にどれだけ光が散乱されるかを算定した事に因んで名付けられた[1]。
トムソンの公式
質量 m、電荷 q の自由粒子によるトムソン散乱で、入射電磁波に偏光のない場合に、入射方向に対して角度 θ の方向への散乱の微分断面積は
[math]\frac{d\sigma_\text{T}}{d\Omega}=\left(\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0mc^2}\right)^2\cdot\frac{1}{2}(1+\cos^2\theta)[/math]
で与えられ、この式はトムソンの公式と呼ばれている。
トムソン断面積
テンプレート:物理定数 自由電子によるトムソン散乱の散乱断面積は、トムソン断面積(トムソンだんめんせき、英: Thomson cross section)と呼ばれる物理定数の1つで、その値は
[math]\sigma_\text{e}=0.665\ 245\ 871\ 58(91)\times 10^{-28}\ \text{m}^2[/math]
トムソン断面積はトムソンの公式を積分する事により得られて
[math]\begin{align}\sigma_\text{e}&=\left(\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0m_\text{e}c^2}\right)^2\cdot\int_0^{2\pi}d\phi\int_0^\pi\frac{1}{2}(1+\cos^2\theta)\sin\theta\,d\theta\\&=\frac{8\pi}{3}\left(\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0m_\text{e}c^2}\right)^2\end{align}[/math]
となる。ここで c は真空中の光速、e は電気素量、ε0 は真空の誘電率、me は電子の質量である。
また、微細構造定数 α とリュードベリ定数 R∞ 及びボーア半径 a0 と古典電子半径 re をそれぞれ
[math]\alpha=\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0\hbar c},~R_\infty=\frac{\alpha^2m_\text{e}c}{2h},~a_0=\frac{\alpha}{4\pi R_\infty},~r_\text{e}=\alpha^2a_0[/math]
と定義すると、トムソン断面積 σe は
[math]\sigma_\text{e}=\frac{8\pi}{3}{r_\text{e}}^2[/math]
と簡略化して表記する事が可能となる。ここで h はプランク定数、ħ はディラック定数である。
脚注
参考文献
- 砂川重信 『理論電磁気学』 紀伊国屋書店、東京、1999-09(原著1982)、第3版。全国書誌番号:99125994。ISBN 978-4314008549。OCLC 675159672。
- J.D.Jackson 『電磁気学』下巻、西田稔訳、吉岡書店〈物理学叢書〉、京都、2003-02、第3版。全国書誌番号:20373001。ISBN 978-4842703084。OCLC 834796412。
- 『物理小事典』 三省堂、東京、2008(原著1994-04)、第4版。全国書誌番号:94041161。ISBN 978-4385240169。OCLC 675375379。
関連項目
- コンプトン散乱 - 光の波長を短波長側にシフトさせると、トムソン散乱から移行して発生する非弾性散乱である。
- レイリー散乱 - 散乱体を荷電粒子とは限定せずに、より一般的に光の波長に比して小さな微粒子とのみ規定した場合の広義のトムソン散乱と見なす事が可能である。
- 光散乱
- クライン=仁科の公式
外部リンク
- “CODATA Value: Thomson cross section”. NIST (2015年6月25日). . 2015閲覧.