2008サブプライムローン―混乱の引き金

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カオス理論の一つに、北京でチョウがはばたくとテキサスで竜巻が起こる、というのがある。2007年にアメリカサブプライムローン問題が広範囲にわたる信用の引き締めと国際金融市場の混乱を引き起こした経緯は、まさにこの「バタフライ効果」理論が現実化したものといえよう。

すでに2007年の初め、アメリカの住宅市場における返済延滞率の上昇と景気の後退に対する懸念は高まりつつあり、2月には世界の不動産市場における大規模な売りパニックが発生していた。過去10年間、力強い成長とゆるやかなインフレーション、低い金利に誘われ、アメリカなどの先進国では多くの人々が住宅所有の意欲を刺激された。住宅価格の右肩上がりの上昇が、ブームをあおった。実際、欧米先進国の多くでは、住宅価格はそれまでの10年間に、アメリカ(103%上昇)を上回る値上がりを記録していた。値上がり率トップのアイルランドでは、253%にも達していた。融資の基準は甘くなり、返済能力は往々にして無視された。2007年初めの時点で、アメリカの住宅融資残高の30%、約4500億ドルが、2007年から2008年に高利の返済が始まる変動金利による融資だった。

皮肉なことに、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利は2004年央の1%から2006年央の5.25%へと急上昇しており、2007年央には600万人のサブプライムローン借り入れ者が返済不能に陥ると見込まれた。高金利のため滞納者が手放した家を買う客も現れなくなった。8月の新規住宅販売も前年比21%と激減した。

金融業界では、アメリカ最大の住宅ローン会社カントリーワイド・ファイナンシャルが第3四半期に12億ドルの損失を出し、25年ぶりの赤字を計上した。イギリスでは、ノーザン・ロック銀行が9月にイングランド銀行の救済を受け、その後も監視下におかれた。6月、アメリカの投資銀行ベア・スターンズが、サブプライムローン関連債券に投資していた傘下の二つのヘッジファンドが多額の損失を出したと発表した。そのほかにも、オーストラリアなどのファンドが損失を発表し、償還を凍結した。7月には、ドイツの州立銀行数行がサブプライムローンに投資していることに関して懸念が高まり、8月初めには、フランスの銀行グループBNPパリバが、資産価値の評価が困難になったことを理由に、アメリカのサブプライム関連ローンに投資しているファンドの業務を一時停止すると発表した。

こうした事態をうけて8月9日、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が、金融システムに対し短期資金を無制限に供給するという前例のない介入策を発表し、市場に衝撃が広がった。ECBは、翌日物金利が4.7%と4%の大台をこえたことに対応し、流動性危機を回避すべく、1300億ユーロ(約1790億ドル)の資金を注入した。米FRBも、それよりは小規模ながら240億ドルと、介入を実施した。その後も資金注入は継続され、12月の半ばには各国の中央銀行が、信用市場の流動性押し上げを目指し、総額5300億ドルと記録的な額の資金を供給した。

年末にかけ、ドル相場が主要通貨のすべてに対して急落したことで、すでに消費者物価指数の上昇が加速していたアメリカでインフレの懸念が浮上した。しかし、こうした状況では、FRBがインフレ回避のために利上げに動く余地はかぎられていた。FRBは12月、アメリカ住宅ローン市場の安定を確保し、一段のサブプライムローン危機を回避するための措置を盛り込んだ詳細な対策を発表した。イギリスでは政界と金融監督当局が、将来的な流動性危機を緩和するための金融システム改革を策定している。