飛翔

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飛翔(ひしょう)あるいは飛行(ひこう)は、空中を進むこと、空中を移動することである。

概説

辞書などで「飛行」や「飛翔」をどのように解説しているかというと、「飛行」は空中を "行く" こと、を意味し[1]、飛翔は「空中を飛びかけること」を意味する、などと解説されている[2]。英語では「飛翔」や「飛行」にあたる概念は、動物でも乗り物でもどちらも基本的に「flight」(フライト)という言葉で表現しており、特に異なった用語を使うことはしておらず、フランス語などでも「vol(ヴォル)」という、同じ用語で表現している。用いられ方にいくらか傾向の違いはあるがおおむね重なっているので、この記事においてどちらも解説する[注 1][注 2][注 3]

ファイル:Meganeuradae.jpg
約2億9,000万年前に地球上で飛び回っていたとされるメガネウラの化石
ファイル:Tau Emerald inflight edit.jpg
現代のトンボによる飛行。空中で静止(ホバリング)することができる。
ファイル:Leonardo Design for a Flying Machine, c. 1488.jpg
レオナルド・ダ・ビンチが描いた飛行機械の図。鳥の翼に似た構造図を描いてみた例。実際に飛行を行うことはできなかった。

まず歴史の非常に長い歴史を持つ動物の飛翔・飛行のほうから解説し、その後で歴史の短い人工物の飛行について解説する。

太古の昔から地球上には飛行(飛翔)する種がいた。例えばすでに3億年前には数十cmもある大きなトンボが地球上を飛び回っていたという[3]。3億年前から現代まで、代々、彼らトンボという生き物は飛行・飛翔を続けてきたということになるわけである。

化石などの研究によって、ジュラ紀(約1億9960万年~約1億4550万年前)には始祖鳥が誕生した、ということが判っている。多くの学者によって、おそらく初期の始祖鳥はまずは樹木の上からの滑空のように、比較的簡単な飛行から始め、幾世代もの長い年月をかけて、より能動的な飛翔方法を身につけたものになっていったのだろう、と推測されている。[注 4]

このようにして地球上では現代でも、昆虫や鳥などを中心として、多数の種が飛行(飛翔)を行っている。 ( →#動物

ところで人類はどうかと言うと、その身体には空を飛ぶのに必要な羽根や翼が備わっていなかった。彼らの思いはどうであったかという点について、人類はその歴史の始まりからすでに、飛ぶ昆虫や鳥の姿を眼にしていたはずであるが、歴史が残される以前に人類が何を考えていたのかについてはわずかな手がかりしかない。だが、文字が残されるようになって以降について言えば、人は古代から、特にが飛ぶところなどを見て、鳥のように自由に空を移動したい、と感じることがあったようである。というのは、数千年の昔に書かれ現代に残されている碑文やパピルスなどの文書のなかには、「鳥のように飛べたらいいのに」「私が鳥だったら、飛んであなたに会いにゆくのだが」といった類の気持ちを表現した文章が含まれているもののが発見されているからである。こうして飛ぶことにあこがれる人の数は多かったのかも知れない。たとえば有名なところではギリシア神話にも、イカロスダイダロスを主人公とした 人が空を飛ぶ物語があり、これらの物語は非常に多くの人々に語り継がれ、彼らの想像をかきたててきた。また、ギリシャ人と直接のつながりのない世界各地の民族にも、飛ぶお話や鳥と自分を重ねるお話は語る民族が多々ある。こうしたことに関する記録は、人類学者の研究成果などに含まれている。例えばインディアンの中には、自分をカラスの子孫だと見なす一族、つまりそうした伝承を代々伝えている一族もいる。さらにキリスト教などで伝えられる天使という存在にも、飛行に対して人類が共同で抱いているあこがれや空想が投映されている、と指摘する研究もある[4]

飛ぶことにあこがれる人は古代からいたものの、その願望はとても長い時代に渡って実現不可能だった。というのは、飛べない身体を補って飛ぶことを実現するのに必要な手段・技術が無かったのである。飛ぶことへの情熱を燃やしそのための装置を作ろうとした人は中世には出現していたようで、875年にイスラーム圏の学者アッバース・イブン・フィルナスが素朴なハンググライダー状の器具で飛ぼうとして失敗して怪我をした、という話が伝わっている。11世紀にイギリスの修道士マルムズベリーのエイルマーが滑空するのに成功はしたと推定されることがある。滑空の実験はわずかながらにあったわけである。だが動力つきで能動的に飛ぶことに関しては、15世紀の レオナルド・ダビンチ (1452年- 1519年)は、鳥に似せて上下に動く翼を持つ機械のコンセプト図や、回転するらせん状(ねじ状)の羽根を持つ機械のコンセプト図を描くことまではできたものの、それらはあくまでコンセプト図に終わり、実際には飛ばすことができなかった。

自身の肉体で空を飛ぶことができないことを嘆いたり飛行への憧れをつのらせていた人々が(一部の発明家が命がけで博打のような滑空を行って、そのほとんどが失敗したことを除けば)大勢の人が飛ぶことができるようになったのは、広く認められている歴史をもとづくと18世紀後半の熱気球によってである。1783年のこと、モンゴルフィエ兄弟が6月5日に熱気球の実験を行い11月には有人飛行を行ったのであり、それによってフランスを中心としてヨーロッパで一大気球ブームが起きた。熱気球の飛行というのは基本的に「風まかせ」、つまり進む方角が基本的に決められず風向にまかせる飛行であるが、遊覧飛行や冒険飛行が頻繁におこなわれた。1852年9月23日にはフランスのアンリ・ジファールが比重の小さなガスによって空中に浮かび動力で進む飛行船で初飛行を行った。これによって、方角に関して言えば、おおむね望む方角に向かって飛行できるようになった。

固定翼で動力を用いて飛ぶことができるようになったの20世紀のことであり、わずか100年ほど前のことである。米国のライト兄弟が、彼らは先行する人々の試みの失敗などから学びつつ、動力つきの「ライトフライヤー号」を制作し、1903年12月17日にそれに乗って飛行することに成功したのである。その飛行の方法というのは翼を固定した機体に、動力によって回転するプロペラをつけそれで推進力を作り出し飛行するという方法であった。

気球の場合でも動力付固定翼機の場合でも、ひとたび飛ぶための新しい方法を具体的に示す人が現れると、それを熱心に模倣して改良する人が次々と現れ、この二百数十年の間に人類は様々な飛行道具そして飛行方法を開発してきた。

現在では航空機を用いて空を飛ぶことは、極めてありふれたことになっており、世界中で、民間機・軍用機の飛行をあわせれば、1日あたり数十万回以上は飛行が行われているだろう、と推計されている[5]

 ( →#人工物の飛行

以下、動物の飛翔から始め、後半では人類が道具・乗り物を使って行う飛行まで、飛行(飛翔)の具体的について説明してゆく。

動物

しばしば、動物の「飛翔」「飛行」はを羽ばたかせるそれと、羽ばたかせないものに大別されている。

羽ばたかせることで推進力を生み出すのは「羽ばたき飛行」と分類され、羽ばたきを行なわないほうはさらに細分化され、滑空(グライディング)と「帆翔」(ソアリング、上昇気流を利用した飛行)に分けられている。

なお、前後に移動することなく、空中の一点に静止する行動は「ホバリング」(停止飛翔)と呼ばれる。ホバリングは一般的に、羽ばたいたり、向かい風を受けることによって行われている。

飛翔方法の分類

動物の飛翔の仕方を表にまとめると、例えば次のようになる。

羽ばたき飛行 鳥類の多く、昆虫類コウモリ
羽ばたきによるホバリング ごく小型の鳥類や、昆虫の一部
帆翔 大型の鳥類の多く
滑空 モモンガムササビフクロモモンガヒヨケザルトビトカゲトビウオトビイカなど

大型の渡り鳥がV字型や斜め一直線に編隊を組んで飛翔しているのが見られるが、前を飛ぶ鳥の翼端渦による吹き上げによって後続する鳥のエネルギーの節約になっている、などと言われる。

昆虫の飛翔

概説で説明したように、3億年前には既に数十cmもある大きなトンボが地球上を飛び回っていたことが化石から判明している。

昆虫の多くが現代でも飛んでいる。昆虫の翅は基本的に2対4枚で構成されており、飛び方も多様である。

トンボは前後の翅を別々に動かして飛ぶ方式をとっており、原始的特徴を多く残しながらも全ての昆虫の中でも高度な飛翔を行う。チョウでは、前後2対の翅を同時に上下させ、上昇と滑空を繰り返して移動する。これによって激しく上下するのでチョウの飛翔はしばしば「ひらひら」という擬態語で表される。翼面荷重がとても小さく落ちる速度が遅いので、直接下向きの気流を発生させている。他の多くの昆虫も、前後の翅を同時に動かすことによって実質的に1対の翅として使う。

ネジレバネハエの仲間では、前翅または後翅が平均棍に変化している。ハエ目の昆虫が極めて高度な飛翔を実現しているのはこの平均棍を持つことによると考えられている。

また、コウチュウ目の昆虫は飛行時に鞘翅と呼ばれる固化した前翅を広げる。鞘翅は主に揚力を増やす役割を担っているが、左右の迎え角を変えることにより体勢を整えたり、風を受けてエアブレーキの役割を果たしたりするので、飛翔能力に長けていない甲虫にとって不可欠なものとなっている。これに対し、ハナムグリ亜科に属する多くの甲虫は、鞘翅をわずかに持ち上げて腹部との間に隙間を作り、その下から後翅を広げて後翅のみで飛翔する方式をとる。これによって他の多くの甲虫と比べて格段に機敏な飛翔が可能になっている。

鳥類といった動物が体を水平にして飛翔するのに対し、カブトムシは体を垂直にして飛翔する特徴がある。

体重の軽い脊椎動物の飛翔

体重が1kgより軽い脊椎動物では、飛翔は羽ばたきによって行なわれる。ずっと羽ばたいて直線的に飛ぶものと、羽ばたきと翼を閉じての滑空とを繰り返して波状に飛ぶ(波状飛行、バウンディングフライト)をするものとがある。直接空気を後ろへ掻いて推進力を得ていると思われがちだが、小型の鳥においては空気中で翼を傾けながら上または下に打ち下ろし、翼を前方に滑らすことによって推力を得ている。

もっと軽いアナホリフクロウハチドリでは、ホバリングが行なわれる。スズメヒタキなどでも瞬間的にホバリングが行われることもある。すべての飛翔をホバリングでこなすためには、体重が10g以下であり常に栄養を取っていなければならない。ハチドリが花の多い熱帯から生息地を広げられないのはこのためである。

体重の重い脊椎動物の飛翔

体重が重い脊椎動物では、離陸するときに飛行機のように滑走してから飛び立ったり、高いところから飛び降りたりするものが多い。平常時も羽ばたくことはほとんどなく、滑空(滑翔)したり、グライダーハンググライダーのように上昇気流を利用したりするものがある。これは、体重が重いほど羽ばたきづらくなるためである。

ワシタカ科の大型の鳥では太陽の熱で暖まった地面から発生する上昇気流を翼で受けて飛翔する。そのため、翼は単位面積あたりで発生する空気力(翼面荷重)が小さい。羽ばたきによる飛翔は数秒から数十秒しか持続できない。

カモメなどの海鳥は長時間の滑空を行うが、こうした鳥はアスペクト比(縦横比)の大きな翼をもつとともに、翼と胴体の継ぎ目などが滑らかであり、揚抗比が大きく滑空比が高い(1 m 下降する間に何メートル進めるか、が滑空比)。また、海からの風が船べりや防波堤、崖などにあたってできる上昇気流で空中にとどまる(斜面滑翔)こともある。餌をあげなくても観光フェリーなどにカモメが集まるのは、海上が障害物に乏しく、地熱による上昇気流もないためである。このほか、ミズナギドリ目の鳥が行う、動的滑翔(ダイナミックソアリング)と呼ばれるウィンドシアを利用した滑空がある。

タカ科の鳥はアスペクト比がそれほど大きくないが、初列風切羽を広げることによって翼端渦を効果的に整形ないし抑制し、揚抗比を高めているとも言われている。単純に翼幅が大きくならなかった理由としては、開けた場所での飛行が多い海鳥と違い、林間など障害物の多い所での飛行に適応したためなどと推測されている。

プテラノドンなどの大型翼竜は体重と羽の大きさから滑空しかできなかったと考えられている。

羽ばたきの回数

建築家ピーター・S・スティーヴンスの著書『自然のパターン』[6]によれば以下の昆虫類および鳥類の、羽ばたきの回数は下記のごとくである。(単位はいずれも「回 / 秒」である)。なお、コンドルは、羽ばたきしないという。

人工物の飛行

次に人類が実現した飛行について説明する。人間は生身の身体だけでは飛行を行うことができないので、結果としてそれは何らかの装置・機械を用いたものになっている。

概説でも解説したように、空を飛ぶための羽根が身体に備わっておらず、長らく鳥のように飛ぶことを夢見てきた人類が、ようやく自分が乗り込んで空中を移動できるような装置を手に入れたのは、(オスマン帝国での一部の発明家による滑空実験などを除けば)18世紀であり、それは熱気球によるものであった。

動力によって推進された固定翼機での飛行を行ったのは、ほんの100年ほど前のことにすぎない。ライト兄弟は翼が固定された方式の機体にエンジンをつけたライトフライヤー号を制作して、1903年12月17日に初飛行を行った。

特にこのライト兄弟の飛行以来100年ほどの間に、人類は飛行に関して様々な知識やノウハウを蓄積してきた。飛行を研究する工学の一分野を航空工学と言う。

飛行の歴史(航空史)

英語では飛行のための装置を設計・開発・製造・利用すること等々を広く指してaviationと言い[7]日本語では航空という用語をあてるが、aviationの歴史をaviation historyと言い、それを日本語では「航空史」と言う。

数多くの要素がある人類の飛行の歴史の中から、もしもハイライトに絞って挙げるとするならば、(いくつか挙げ方はあろうが)例えば次のようになるかも知れない。

1900年初の硬式飛行船ツェッペリンLZ-1での初飛行、1903年のライト兄弟による動力機での初飛行、1927年のリンドバーグによる単独・無着陸での大西洋横断飛行、1939年のターボジェット機 He178での初飛行、1947年のチャック・イェーガーによるロケット動力飛行機X-1での音速突破飛行、1976年の超音速旅客機コンコルドの初飛行(と2003年の飛行終了)、1961年のソ連のボストーク1号でのガガーリンの世界初の有人宇宙飛行、米国のアポロ11号での月面着陸、スペースシャトルコロンビア号の事故チャレンジャー号の事故[8]。また日本人ならば航空史を語る時に、1785年ころに浮田幸吉が滑空飛行を成功させたこと、も併せて挙げるかも知れない。


熱気球での飛行

飛行船での飛行

ファイル:Giffard1852.jpg
Giffardの飛行船1852年)


グライダーでの飛行

グライダーでは滑空を行う。つまり基本的には固定翼機と似た機体での飛行であるが、動力無しで飛ぶ。グライダーというのはglide グライド(滑空)するもの、といった呼称である。

基本的には、空気中をほぼ水平だがわずかに斜め下方向に、滑るように進むように設計されている。

中世にヨーロッパで制作されたことがあるとされる滑空装置などはあまり滑空性能は良くなかっただろうと推察されている。ただし17世紀のオスマン帝国の学者ヘザルフェン・アフメト・チェレビは、数千メートルほども滑空するのに成功したとの話が伝わっている。

1m下がる間に何mほど前に進めるか、という値を「滑空比」と言うが、近年のグライダーは空力性能が向上しており、一般的な機体では、数十対1程度の滑空比でとぶことができ、 競技用のグライダー(つまり比較的高性能の機体)では例えば40対1程度の滑空比で飛行できるように設計されている。実際に降下する率は、機体の設計やその時々の気象条件や操縦方法によって異なっている。

ファイル:MONERAI-S.jpg
グライダーでの滑空の一例、MONERAI-Sを用いた滑空。

ただし、グライダーは上昇してゆくこともできる。上昇気流のある空間を飛行すると、グライダーが空気に対して下降していても、空気が上方向に移動した分、翼が下方から力を受け機体も上へ持ち上げられる。よって十分に大きな上昇気流が起きている空間を飛べば、下降する分よりも上昇する分が上回るので、動力が無いにもかかわらず、上昇してゆくことができる。

一般に、グライダーの飛行では、地表が太陽の熱で温められて生じる、眼には見えない柱状の上昇気流を見つけては、その柱状の空間内で旋回し、グルグルとらせん状に上昇して高度をかせぎ、やがて上空でその柱が消えたあたりでその空間から離脱し、直線的な飛行に移り、高度が下がってゆき、また高度があまり低くなる前に再度上昇気流の柱状の空間を見つける、ということを繰り返す。

トンビなどの鳥が翼を動かさずに、大空で上昇気流を見つけ、くるくると回転しながら上昇してゆくことがあるが、グライダーのパイロットはそれを模倣し、それと同じ原理で高度をかせぐ飛行を行うのである。トンビの飛行と同じで、エンジン音もせず、とても静かに飛行する。静かなこともグライダーの飛行の魅力のひとつだとグライダー愛好家は言う。

グライダーの連続航行距離の世界記録は、アンデス山脈で作られたもので3,000kmを越えている。


ファイル:Forces2.gif
飛行時に機体に働く力の基本的な分析。Weight 重力、Lift 揚力、Thrust 推進力、 Drag 抗力
ファイル:Angle of attack.svg
翼のまわりの空気の流れの様子。αが迎角(迎え角)。灰色の線は流線。一般的な翼では、概ね迎角の大きさに比例して、揚力係数と抗力係数が増加していく。ただし迎角を大きくしすぎると、揚力係数が急激に小さくなる角度に達してしまう。
ファイル:Lift curve.svg
揚力係数曲線の例

動力付固定翼機での飛行

基本原理

基本的に固定翼機は、前方へ押されること(推進すること)によって、空気が前方から翼に当たりを生じる。翼に迎え角がある場合、下側の面に空気が当たり、それによって後ななめ上の方向への力が発生する。その力は一般に、地面に対して垂直方向の力(=揚力、つまり重力とは反対方向の力)、および進行方向と反対の方向の力(=抗力)に分解して理解されている。機体は、重力が生む下方向の力を、翼が生む垂直方向の力(揚力)によって打ち消すことで、自由落下に陥ることを免れる、という原理になっている。

翼というのは、真平らな板状のものでも揚力を生むことが可能で、迎角があれば揚力は発生する。ただし、上面は曲面(かまぼこ状の形状)にしたほうが、揚力はいくらか大きくなる。というのは、翼の上面を曲面にしたほうが、そこで翼から空気の流れが離れてしまって乱流が発生しまうことを防ぐことができ、上面の乱流が無い(あるいは小さい)ほうが、翼で発生する揚力は大きくなるからである。[注 5]。迎角は補助翼によって生む力で機体の前後の傾きを変化させ調整する。

初期の、推進用のプロペラをそなえた固定翼機から説明する。プロペラが回転することで機体を前方へ押す力(推進力)を生む。

ライトフライヤー号

ファイル:Wrightflyer.jpg
動力付固定翼機ライトフライヤー号での初飛行。59秒間で260m飛んだ。飛行高度はわずかなものであった。

ライト兄弟は、ライトフライヤー号に12馬力と推定されるエンジンを搭載し、2つのプロペラを駆動し推進力を作り出し、固定された2枚ののたわみ翼で揚力を作りだし飛行した。補助翼は主翼の前にあり、現在の一般的な飛行機が補助翼が主翼の後ろにあるのと比べ前後が反対である。操縦者はふせる姿勢でレバーを握り飛行の姿勢を制御した。地表から数十cmの高さを水平に飛行させ、4回の飛行を繰り返し、記録を伸ばし、4回目に59秒間で260mの飛行を行った。


ライトフライヤー号では、ほぼ直線的な飛行しかできなかったが、やがて旋回ができる機体が開発されることになった。

第一次世界大戦中にすでに飛行機で飛行して敵地を偵察するということが開始された。最初は武器も搭載せずパイロット同士はのどかに手を振り合うなどしていたが、やがて飛行中に空中で物を投げつけたり、飛行しながら互いに拳銃で撃ち合うようになった[9]

様々な方向で飛行の高度化が行われた。様々な試みがあるが、ひとつは空中で自在に動くという試みがあった。宙返り、ローリング、背面飛行などの技が開発された。これらは戦闘機同士の空中戦で、敵機に対して有利な位置をとるために用いられた。

ひとつの方向として、飛行速度の高速化があった。1947年には米国のベル社のX-1で水平飛行での音速を超える水平飛行(超音速飛行)を実現した。

なお現在のジェット旅客機は、巡航時に10,000m(30,000フィート)ほどの高度を飛行するが、その巡航速度は、一般論として言えば、対空速度で言えば860km/m前後で、音速のおよそ0.83倍に相当する。なお高高度では空気が極端に薄くなるため、揚力が極端に下がり、低高度で見せるような中・低速では飛ぶことができない。また旅客機は一般に音速で飛べるようには設計されておらず速度に上限もある。つまり実は、ジェット旅客機が高高度で安全に飛べる速度の幅はかなり狭い。(ただし、近年の飛行機では、高高度を飛行する時にはオートパイロットで適切な速度を保ち、操縦者も適切な速度を設定するように訓練を受け習慣づけられているため基本的には問題は起きない。ただし緊急時に高高度で何らかの事情で速度を落とすような操作を誤って行うと、突然深刻な問題に直面することになる。)


回転翼機での飛行

回転翼機は、いくつか変遷を経たが、ここでは現在の回転翼機の代表とも言えるヘリコプターの飛行について説明する。

ヘリコプターでは機体の上方で翼を回転させることで揚力を発生させて飛行する。ヘリコプターの飛行の大きな特徴のひとつは、空中の一点で静止しつづけること(ホバリング)ができる、ということである。

ファイル:Flight.rob.arp.750pix.jpg
シングルローターのヘリによる飛行。( ロビンソン R22

飛行原理をもう少しだけ解説すると、メインの回転翼(ローター)がひとつのタイプ(「シングル・ローター」という)のヘリコプターでは、メインローターによって機体に反作用が生じて回転することをテールローターによる逆向きの力で防ぐ。

ヘリコプターでは前進・後進・横方向などへ移動することは、メインローターの回転面を進行方向へ傾けさせることで行う。それをどのように行うかと言うと、メインローターは毎回回転する中で、回転の角度に応じて、素早く迎角の変化(フェザリング)を繰り返すように出来ており、例えば機体の後方あたりで迎え角が大きくなるようにし揚力が大きくなるようにすると、回転面が前に傾くので、機体は前方に進みはじめる。

主たる回転翼が2つのものはツインローターと呼ばれており、2つのローターが逆方向に回転することで、反作用を互いに打ち消す。前後左右に移動する原理は、シングルローターのタイプと同じである。

ハンググライダー

パラグライダー

「鳥人間」的な飛行

最近では 飛行機などに乗る飛行法、つまり大きな箱の中に入って飛ぶことに飽き足らず、できるだけ鳥のような感覚で飛びたいと望む人もいる。

いくつか方法があるが、ひとつはジェットエンジンのついた小さな固定翼だけを背中に背負い、いわば小さな「人間ジェット機」になって飛ぶ方法である。元スイス空軍の戦闘機パイロットで現在は旅客機のパイロットをしているイブ・ロッシーが、趣味としてジェットウィングの開発・改良を長年に渡り重ね、2008年9月26日にはドーバー海峡をフランスからイギリス側までおよそ35kmほど飛行することに成功した。具体的に言うと、まず小型飛行機に乗り、機内でジェットウィングを装着、フランス側の高度2500mで、スカイダイビングの要領で空中へ飛び出し、空中で落下しながらジェットエンジンを始動し、空中で水平飛行に移り、あとは時速200km/hを越える速度で英国へと飛行し、目的地上空へ近づいた段階でジェットエンジンを停止し、パラシュートを開いて着陸した。およそ10分ほどの飛行であった。翼は形が変化する箇所(フラップやエルロンなど)は一切なく、飛行姿勢の制御は、ロッシー自身が自分の手や脚の角度をかすかに変化させることで行う。飛行速度が200km/hと十分に高速であるため、手のひらをわずかに動かすだけでも激しくロールし、足のつま先をわずかに動かすことが飛行機の尾翼の操作に相当する。

ファイル:Wingsuit-01.jpg
ウイングスーツでおこなう飛行の様子

また、グライダーを極端に小さくしたような状態で、いわば「人間グライダー」のようになって滑空を楽しむ人々も最近現れた。1999年にはフィンランドのBIRDMAN社からウイングスーツが初めて市販され、それ以降、同スーツで飛行することの愛好者たちがいるのである。崖の上から空中に飛び出して滑空したり、上空の飛行機から空中に飛び出して滑空に入る。2011年5月28日には、米国カルフォルニア州にて伊藤慎一が、上空9,754mから降下し水平距離としては23.1km(=23,100m)、これを5分で滑空したという。

関連書籍 

  • エアロ・アクアバイオメカニズム研究会『エアロアクアバイオメカニクス―生きものに学ぶ泳ぎと飛行のしくみ』森北出版 2010 ISBN 4627947313
  • 小林 昭夫『紙ヒコーキで知る飛行の原理―身近に学ぶ航空力学』講談社、1988 ISBN 406132733X
  • 秋本俊二『ボーイング777機長まるごと体験 成田/パリ線を完全密着ドキュメント』サイエンス・アイ新書2010
  • 加藤 寛一郎『超音速飛行―「音の壁」を突破せよ』2005
  • 土屋正興『計器飛行方式』鳳文書林 1998
  • 『墜落!の瞬間―ボイス・レコーダーが語る真実』ヴィレッジブックス、2002 ISBN 4863326521
  • 『スペースシャトル全飛行記録』洋泉社、2011
  • ユッタ・シュトレーター-ベンダー『天使 ― 浮揚と飛行の共同幻想』 青土社、1996
  • Reg Grant, Flight, Dorling Kindersley, 2010 ISBN 1405353422

脚注

  1. ウィキペディアの他言語版で、おおむね同じ記事内で動物と人工物について扱っており、日本語版でも動物と人工物でも原理的には類似していることも多く重複する点が多々あり、同じページで解説したほうが何かと都合が良いので、日本語版でもこの記事で併せて解説する。
  2. 「飛翔」という表現はあまり人工物には使われない。一方、「飛行」は動物にも人工物にも用いられることがある。人工物が空中を進むことは専ら「飛行」という表現のほうが用いられる傾向がある。ただしなど比喩的な文脈では人工物でも動物に喩えて「飛翔」と表現することはある。あえて動物・人工物に共通の、一般的な語を選ぶとするならば「飛行」になる。
  3. 「飛翔」や「飛行」という言葉は、基本的にそれ自体がなんらかの能動性を伴って動くことを指しており。投げられたボールの移動などの場合は、ボールは空中を移動するものの、そういうことは基本的に「飛翔」や「飛行」とは言わない。英語ではthrow、日本語では「投擲(とうてき)」「投」などと言う。
  4. なお恐竜の多くが羽毛状のものを体表に供えていたことも明らかになってきていることなどもふまえて、現代に人々が眼にしている鳥というのはいわゆる「恐竜」の一部の直接的な子孫である、とする説もある。が、始祖鳥が現在のへと系統的に見て連続的につながっているかどうかについては、未だに様々な説・議論がある
  5. なお、今から数十年前までは揚力の発生の説明に、「ベルヌーイの原理」がことさら強調されることがしばしばあり、教科書でもそのようにしばしば書かれていたが、近年では、この説明方式は実はあまり正しくなかった、ということが明らかにされるようになった。揚力の原因となっている力をその原因ごとに分類し、その力の大きさもひとつひとつ分析すると、揚力を構成する主たる力というのは、単純に、迎角によって、空気(空気分子)が翼の下側の面から押す力のほうが大部分である、そちらのほうが主たる要因である、ということが、最近では明らかにされるようになった。従来のしばしば見られた「ベルヌーイの原理」だけを強調した説明方式というのは、いわば、ただの思い込みによる説明で、間違った説明であった、と指摘されるようになった(出典:竹内薫『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』 光文社新書 2006)。NASAの研究者などによっても、同様のことは指摘されている。力の数値を具体的に分析すると、揚力の大部分は迎角によって生まれる力である。であるからこそ、飛行機は背面飛行をすることができるのである。背面飛行では、たとえ翼の曲面が地面側のほうに向いていようが、迎角をしっかりと確保してやればそちらの力のほうがはるかに大きいので、差し引きの結果でも、合力として上方向の力が生じており、よって背面飛行のまま上昇してゆくことも可能なのである。現代では一般に翼の形状は、迎え角がゼロでも、ほんのわずかに揚力が発生するような形状に設計するが、だが一般に、迎え角がゼロで、その機体としての低~中程度の速度で飛ぶ時の揚力は、かなり小さなものであって、その機体が十分に水平飛行ができるほどにはその揚力は大きくないように設計されている。

参考文献

  1. 広辞苑 第五版「飛行」
  2. 広辞苑 第五版「飛翔」
  3. ナショナルジオグラフィック ニュース
  4. ユッタ・シュトレーター-ベンダー『天使 ― 浮揚と飛行の共同幻想』 青土社、1996
  5. [1]
  6. ピーター・スティーヴンス『自然のパターン・形の生成原理』金子 務 訳、白揚社、1987年、34頁
  7. dictionary.com
  8. 例えばReg Grantの書 Flight, Dorling Kindersley, 2010 が、コンコルドの最終飛行やコロンビア号やチャレンジャー号の事故も特に挙げている。
  9. 『徹底図解 戦闘機のしくみ』 新星出版社 2008年10月5日 p.42

関連項目