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(くも)は、大気中にかたまって浮かぶ水滴または氷の粒(氷晶)のことを言う[1]地球に限らず、また高度に限らず、惑星表面の大気中に浮かぶ水滴や氷晶は雲と呼ばれる。雲を作る水滴や氷晶の1つ1つの粒を雲粒と言う[2][3]。また地上が雲に覆われていると、となる。

気象学の中には雲学という分野も存在する。これは、気象観測の手段が乏しかった20世紀前半ごろまで、気象の解析や予測に雲の形や動きなどの観測情報を多用しており、雲の研究が重要視されたことを背景にしている。気象衛星などの登場によって重要性が薄くなり雲学は衰退してきている。

また、などの降水現象の発生源となる現象であり、雲の生成から降水までの物理学的な現象を研究する雲物理学というものもある。

物理化学的特徴

成分

地球上においては、雲の成分はであり[4]、その液体固体である[5]

微量ながら水以外の成分、例えば土壌成分や火山噴出物埃などからなる微粒子(エアロゾル)が混ざっているほか[6]空気の成分(窒素、酸素、二酸化炭素など)が溶解している。その成分も、雲が発生・成長する際に存在した場所に左右されるが、比率からしても水がほとんどを占める。

一方、極地や高緯度地方の高度20 - 30km(成層圏)では、水のほか硫酸塩硝酸塩から成る真珠母雲(極成層圏雲)が発生する[7]。他方、高緯度地方の高度約80km(中間圏)で見られる夜光雲(極中間圏雲)は主に水から成るという報告がある[8]

形状

1つ1つの雲粒(水滴や氷晶)の大きさは、半径にして0.001mm - 0.01mm(1μm - 10μm)程度のものが多くを占める。このオーダーでは落下速度は約1cm/秒だが、大気中ではこれを上回る上昇気流がありふれて存在するので落下することはほとんどなく、いわば「空に浮かんだ」状態となる。雲の中での雲粒の数(密度)は、1m3あたり1000万 - 数百億くらいである[9]

詳しくは降水過程参照。また、雨粒の成長の計算はメイスンの方程式(Mason equation)などにまとめられている。

氷晶は、六角柱、六角板、針状、樹枝状などの独特な結晶を形成する。氷晶がくっ付いて重なり成長したものがの粒子(雪片)である[10]

光学的特徴

たいていの場合、雲は白色灰色に見えることが多い。白色に見えるのは雲粒が太陽光散乱するからだが、雲粒の大きさの粒子は可視光線領域のいずれの波長の光()も同じように散乱するミー散乱が起こっているので無彩色の白色となる。そして、厚みのある雲は灰色、特に雲の底の部分は黒色に近い暗い色に見えるが、これは濃度の高い雲粒により雲内で何度も太陽光が散乱・吸収された結果、光が弱まるためである[11]


日光が水滴で回折し、雲が虹色に輝いて見えることがあり、これを彩雲という。

電気的性質

上昇気流が強い場合は、上昇や落下を繰り返すうち、雨粒やの結晶同士が衝突してさらに大きな粒となって落下する。これが雨・ひょう・雪 。また、上昇や落下を繰り返すとなどの大きな氷粒になり、氷粒同士の衝突で静電気が発生し、それが蓄積されての原因になる。

雲の形成

ファイル:Land ocean ice cloud hires.jpg
地球上の雲を概観した衛星画像
ファイル:Hvannasund, Faroe Islands (9).JPG
水面近くにできた層雲
ファイル:Sky Riyadh.jpg
日没前の太陽と雲。リヤド

空気中の水蒸気が凝結(凝縮とも言う)されて液体)になるか、凍結(凝固)または昇華されて固体)になることで雲が作られる。

水蒸気量(湿度)の観点から

大気中に含まれる水蒸気の量は環境により異なるが、一定量の大気中に存在できる水蒸気の最大量を(別の表現では湿度(相対湿度)100%のとき=飽和のときの水蒸気の量にあたるが)、飽和水蒸気量と呼び、物理的に定まっている。また、飽和水蒸気量は気温により変化し、冷たい大気ほどその量は少なくなる[12]。例えば、20℃では17.2g/m3、0℃では4.85g/m3である。

水蒸気を含む湿った大気が冷やされると、湿度100%に達した(気温が露点温度に達した)ところで、その気温における飽和水蒸気量を超えた水蒸気が凝結し(低温下では昇華し)、雲粒が形成される(雲ができる)[13]

なお、水蒸気の凝結・昇華、また水滴の凍結には、微粒子エアロゾル)の存在が不可欠である。雲粒(水滴や氷晶)は微粒子を「芯」にして形成され、このプロセスを核形成(雲核形成・氷晶核形成)という[14]

物理学の領域になるが、見かけ上凝結や蒸発が起こっていない気液平衡の状態にあっても、分子レベルでは、水分子が一時的に寄り集まって凝結したり、逆に離れて蒸発したりといった運動は起こっている。言い換えると、水滴が大きく成長できない状態である。水滴が自発的に成長できる大きさ(臨界半径)より大きくなるためには、不純物を含まない清浄な大気(純水)では気温0℃で相対湿度430%、-23℃で630%、17℃で350%とそれぞれ非常に大きな過飽和度が必要であることが、実験で確かめられている。実際の大気では200%を超える湿度が観測されることはないため、微粒子なしで水滴が形成(均質核形成)されるのは不可能と考えられる[15]

実際の大気には核となる微粒子が存在するので、相対湿度100%をわずかに超え、過飽和度1%(相対湿度101%)以下のレベルで雲粒が生成される。なお、微粒子によって水滴の核形成に作用し始める(活性化する)過飽和度や温度は異なり、作用が高い微粒子が存在する場合は、過飽和度0.1%でも雲粒が生成される[15]。微粒子(エアロゾル)の種類は、海塩粒子硫酸塩硫酸アンモニウムなど)[15]土壌粒子や鉱物粒子(火山灰黄砂を含む)、有機成分(バクテリアなど)を含むバイオエアロゾル[16]など。

熱力学の観点から

大気の冷却は、主に大気の上昇(上昇流)によって起こる。大気が何らかの力を受けて上昇するとき、その気圧は減少して膨張する(断熱膨張)とともに、外部からではなく自ら温度を下げる(断熱冷却[17]

このように断熱的に気温が下がる割合を断熱減率というが、飽和の有無により値が異なる。飽和していない大気の乾燥断熱減率は上昇100mにつき約1℃、飽和している大気の湿潤断熱減率は上昇100mにつき約0.6℃(温帯の地表付近における値で、気温や気圧により異なる)である。この差は、飽和した湿潤大気中では、上昇とともに凝結が進んで潜熱が放出され温められることで生じる[17]

一方、特に(地表に達した層雲)のなかには違う原因で生じるものもある。夜間の放射冷却により平野盆地で見られる放射霧は、地表付近の大気が冷やされて生じる。冷たい海に暖かく湿った気流が入ったとき見られる移流霧(混合霧、海霧)は、海面で冷やされた大気と暖かく湿った大気が混ざり合い、冷却・加湿され生じる。暖かい川に冷たい気流が入ったとき見られる蒸気霧(川霧)は、移流霧の逆で、水面から暖かく湿った大気が上昇し冷たい大気と混ざり合い、冷却され生じる。また逆転層に覆われた低い層雲の下では、冷たい下降流と雨粒の蒸発による冷却[注 1]・加湿により、雲底が次第に低下、地表に近づいて霧になることがある[18]

大局的気象の観点から

大気中において、上昇流により断熱冷却を引き起こすメカニズムはいくつかあるが、主なものを挙げる[19]

  • 対流性 : 日差し(太陽放射)による加熱は、地形の起伏や雲による遮蔽の有無などによりムラがあり、周囲よりも暖かい地表に接する空気は浮力を得て、上昇する[19]。特に、加熱に起因し山岳の尾根から湧き上がるような上昇流を熱上昇気流(サーマル)と呼ぶ。
  • 収束性 : 低気圧の中心や収束線シアーライン)でみられる。地表に接する大気の下層では、集まった大気がぶつかり、行き場を失って上空へ向かう[19][20]
  • 地形性
    • 滑昇風[19] : 風の穏やかな朝、谷間に安定成層が発達しているとき、斜面に接する大気は朝日に温められるが鉛直には上昇できず、尾根に向かって斜面に沿いゆるやかに上昇する。
    • 山岳波 : 山などの起伏のある地形に沿って強い水平風(山越え気流)が吹くと、強制的に大気が持ち上げられる。尾根を越えると冷やされているため下降するが、再び温められ上昇、その後も上下に振動を繰り返すことでパターンが風下の上空、山から離れたところに伝播する。山に掛かるレンズ雲、笠雲、吊るし雲や、上空に見える波状雲放射状雲をつくる[19][21]
  • 前線性 : 暖気と寒気がぶつかる前線では、暖気が寒気の上に乗り上げ、前線面に沿って上昇する[19][22]
    • 温暖前線の上昇流は比較的弱い。典型的には前線面に沿い、地上の前線に近い順に層雲、乱層雲、高層雲、高積雲、巻層雲、巻積雲、巻雲がみられる[22]
    • 寒冷前線の上昇流は比較的強い。典型的には地上の前線の真上に積乱雲、その後面に層積雲や積雲、前面に積雲や層積雲、高積雲がみられる[22]
    • 発達した積乱雲のそばでは、下降流が地表にぶつかって水平に流れ局地前線(ガストフロント)が形成され、これに沿ってアーチ雲がみられることがある[23]

雲をつくる

雲をつくる実験

小規模なものであれば、雲を製造することは容易であり、理科実験や身近にできる科学実験として、広く行われている。

密閉可能な容器の中を少し濡らし、線香などの凝結(固)核を充満させて密閉し、ポンプなどで気圧を下げると、減圧冷却によって中の温度が露点を下回って凝結(固)をはじめ、雲ができる。

熱湯から立ち上る「湯気」、ドライアイスから流れ落ちるような白い冷気、冬の寒い日に白くなる吐いた息、工場や排気などから出る白い蒸気なども、人工的に作ることができる雲だといえる。

また、普通の雲に比べて粒が大きい、霧吹きで作る水滴でも、風をうまくコントロールして空中に浮かべることができれば、雲だといえる。

「雲の種まき」

ただ、雨を降らせるような大規模な雲の製造は容易ではない。現状では、ヨウ化銀などの凝結(固)核を大量に散布することで雲の素をつくる「雲の種まき」が実用化の限度となっている。しかも、「雲の種まき」においても空気中の水蒸気が過飽和あるいはそれに近い状態になければ雲はできにくく、条件も限られる。

種類

基本の雲

雲は、その形状や高さにより以下のように分類される。

雲の分布の概念図
分類 定義・条件 通称・特徴
層状雲 上層雲 巻雲 高度6000m以上、温度-25℃以下 すじ雲(以前は「絹雲」と称した。)
巻積雲 うろこ雲 、さば雲
巻層雲 うす雲、太陽や月のの原因
中層雲 高積雲 高度2000〜6000m ひつじ雲
高層雲 おぼろ雲
乱層雲 地面付近〜高度6000m 雨雲、連続したを伴う。
下層雲 層積雲 高度500〜2000m 温度-5℃以上 うね雲 かさばり雲 くもり雲(団塊状の雲)
層雲 地面付近〜高度2000m きり雲(灰色〜薄墨色の雲) 霧雨の主原因。
対流雲 積雲 雲底高度300〜1500m 雲頂高度は6000m前後 わた雲 むくむく雲 晴れた日にあらわれる。上面がドーム形、下面が水平。
積乱雲 雲底高度600〜1500m 雲頂高度は最大16000m(対流圏界面付近) 雲、いわゆる入道雲。頂部が横に広がったかなとこ雲もある。
注1)高度に関しては中緯度における目安。低緯度や高緯度では数百m〜数kmの違いがある。
注2)巻層雲は高層雲、高層雲は乱層雲とそれぞれつながって、雲底高度がもっと低い場合あり。積乱雲は下降気流の影響で雲底高度がもっと低い場合あり。
注3)乱層雲は以前下層雲だったが変更された。出現範囲は中層や下層が中心だが、上層にまたがることがある。また、高層雲も上層にまたがることがある。こういったことから、上・中・下層・対流といった区分は分類当初念頭に置かれていたような意味をなさなくなってきており、形式的なものになりつつある。

世界気象機関は、雲を10の基本形と数十の主・変種・副変種に分類している。雲には多くの俗称があるが、混乱を避けるために学術分野では呼称が統一されている。詳しくは雲形を参照のこと。

特殊な雲

対流圏以外にできる雲として、以下のものがある。

観測

雲は測雲器若しくは測雲気球などの器具を用い、または目視によって観測される(気象業務法第1条の2、気象業務法第1条の3も参照)。雲量は、晴れくもりかといった天気の目安となる。

また、レーダーでも雲を観測できる(雲高計)。雲粒は雨粒や雪片よりも小さいため、レーダー電波の波長は降雨レーダーより小さいものを用いる。波長1mm〜10mm程度のミリ波を用いることが多い。ただ、地上や航空機搭載のレーダーによる雲の観測は、観測範囲が狭く、用途は規模の小さい気象現象の観測や飛行用などに限られる。

広い気象状態を捉えるには、気象衛星による観測が行われる。可視光線の観測、雲が放射する赤外線の観測などを通して、雲の分布を推定している。赤外線に関しては、大気成分に吸収されて観測できない波長が多いので、その影響が少ない大気の窓領域の波長を観測している。

気候・地球

大気汚染によるエアロゾルなどの増加により雲の量が増加して、地球薄暮化が引き起こされると考えられている。

雲は地球の表面を覆って太陽光を吸収・反射し、地球をある程度冷ます役割をもっている。雲の厚さ、雲粒の大きさや形状などによって吸収率や反射率は異なる。特に反射率(アルベド)については、その変化が地球全体の太陽光の吸収率を大きく左右し、気候に影響を与える。

地球以外の雲

大気を持つ太陽系惑星のほとんどでは、地球と同じように雲が発生する。金星には分厚い硫酸の雲が高度50㎞から70㎞の地点に広がっている[24]火星木星土星アンモニアなど、天王星海王星メタンでできた雲がある。また、土星の衛星のタイタンにもメタンの雲らしきものがあることが分かっている。

関連項目

脚注

脚注

  1. 蒸発に伴い周囲の空気から気化熱を奪う

出典

  1. 荒木 (2014)、p.22
  2. 雲粒」、『デジタル大辞泉』(コトバンク収録)、小学館
  3. 雲粒」、『百科事典マイペディア』(コトバンク収録)、平凡社
  4. 荒木 (2014)、p.38
  5. 荒木 (2014)、p.22,p.38,p.42
  6. 荒木 (2014)、pp.116-118,pp.126-127,p.136
  7. 荒木 (2014)、p.71
  8. Hervig, Mark; Thompson, Robert E.; McHugh, Martin; Gordley, Larry L.; Russel, James M.; Summers, Michael E. (March 2001), “First Confirmation that Water Ice is the Primary Component of Polar Mesospheric Clouds”, Geophysical Research Letters 28 (6): 971–974, Bibcode 2001GeoRL..28..971H, doi:10.1029/2000GL012104 
  9. 荒木 (2014)、pp.77-82
  10. 荒木 (2014)、pp.82-86
  11. 荒木 (2014)、pp.22-23,pp.111-113
  12. 荒木 (2014)、pp.45-47, pp.51-53
  13. 荒木 (2014)、p.53
  14. 荒木 (2014)、p.116, pp.118-122
  15. 15.0 15.1 15.2 荒木 (2014)、pp.118-128
  16. 荒木 (2014)、pp.136
  17. 17.0 17.1 荒木 (2014)、p.53-55
  18. 荒木 (2014)、pp.190-193, pp.201-202
  19. 19.0 19.1 19.2 19.3 19.4 19.5 荒木 (2014)、pp.172-173
  20. 荒木 (2014)、p.62
  21. 荒木 (2014)、pp.91-93
  22. 22.0 22.1 22.2 荒木 (2014)、pp.66-67
  23. 荒木 (2014)、pp.97-99
  24. 「Newton別冊 探査機が明らかにした太陽系のすべて」p14 ニュートンプレス 2006年11月15日発行

参考文献

  • Hamblyn, Richard The Invention of Clouds — How an Amateur Meteorologist Forged the Language of the Skies Picador; Reprint edition (August 3, 2002). ISBN 0-312-42001-3
  • 雲・エアロゾルと気候 - 海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター 中村晃三 2007年11月 数研出版サイエンスネット第31号
  • WMO classification of clouds
  • {{safesubst:#invoke:Anchor|main}}荒木健太郎 『雲の中では何が起こっているのか』第2版、ベレ出版、2014年 ISBN 978-4-86064-397-3

外部リンク

テンプレート:雲形