肺炎

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肺炎(はいえん、: Pneumonia)とは、の炎症性疾患の総称である。

ある種の肺炎はワクチンによって予防可能である。他の方法には、手洗い、禁煙などがある[1]。治療法はその原因によって異なり[2]、細菌性のものであれば抗生物質が用いられる[3]。重症の場合は一般的に入院となる[2]。酸素レベルが低い場合は酸素吸入を行う[3]

肺炎は世界で年間4.5億人(人口の7%)が発症しており、うち400万人が死亡している[4][5]。肺炎は19世紀にはウイリアム・オスラーに「男性死因の代表格」として描かれていたが[6]、20世紀には抗生物質とワクチンの普及により生存率は改善された[4]。しかしながら途上国では、現在も主要な死因の一つとされ、高齢者と若年者において代表的な慢性疾患である[4][7]。しばしば肺炎は、死に近づいている者の象徴として描かれており「老人の友」と呼ばれている[8]

症状

発熱呼吸困難、全身倦怠感、胸部痛など。初期はのどの痛みはあまりないが、痰を排出しようと咳を繰り返すことで炎症を起こす場合がある。

症状の頻度[9]
症状 頻度
79–91%
疲労 90%
71–75%
息切れ 67–75%
喀痰 60–65%
胸痛 39–49%

原因

感染性肺炎は細菌性肺炎ウイルス性肺炎、真菌性肺炎に分けられる。一般に感冒上気道炎後の続発性肺炎は細菌性肺炎であるが、時にウイルスそのものによる肺臓炎・間質性肺炎をきたすことがある。インフルエンザウイルス肺炎、麻疹肺炎など。病原体が原因ではない非感染性の肺炎にはアレルギー性の過敏性肺炎がある。

細菌

ファイル:MRSAPneumoCT.png
MRSAによる肺炎のCT写真

細菌は市中肺炎(CAP)で最も一般的な原因であり、その50%のケースでは肺炎レンサ球菌単独によるものであった[10][11]。その他の菌ではインフルエンザ菌(20%)、クラミジア(13%)、マイコプラズマ(3%)[10]ほか、黄色ブドウ球菌モラクセラ・カタラーリスレジオネラ菌グラム陰性菌などであった[8]

それが薬剤耐性菌であることも多く、薬剤耐性肺炎球菌(DRSP)や、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などと呼ばれている[12]

ウイルス

肺炎は、成人では1/3、児童では15%がウイルスを原因としている[13]。一般的にはライノウイルスコロナウイルスインフルエンザウイルスRSウイルスアデノウイルスパラインフルエンザなど[4][14]

単純ヘルペスウイルスではめったに起こらないが、例外として新生児、がん患者、臓器移植レシピエント、重度熱傷が挙げられる[15]

サイトメガロウイルスは、臓器移植患者や免疫不全患者に起こり得る[13][15]

菌類

ヒストプラスマ・カプスラーツムブラストミセスクリプトコッカスニューモシスチスコクシジオイデスなどが挙げられる。

寄生虫

トキソプラズマ糞線虫回虫マラリア原虫など。以前原虫とされていたニューモシスチス肺炎は現在は真菌に分類される。

非感染性

ファイル:Aspiration pneumonia201711-3264.jpg
誤嚥性肺炎(右側下葉)

診断

ファイル:RtPneuKidMark.png
画像診断にて見られる影

身体所見 (聴診所見など体の症状)、胸部X線写真、胸部CT、採血 (白血球数、CRP値、KL-6LDH)、喀痰培養など。従来は行われていなかったが超音波断層撮影の有用性が報告されている[16][17]

喀痰のグラム染色は有用と考えられ、好中球による貪食像 (どんしょくぞう: 好中球が細菌を取り込んでいる像) は起炎菌の同定 (原因となる病原体を特定すること) につながることもある (肺炎球菌では特に)。ただし、臨床研究では喀痰グラム染色と起炎菌とは一致しないと結論され、アメリカのガイドラインでは推奨されていない。

近年は迅速診断キットにより肺炎球菌レジオネラについては尿を検体 (検査をする対象物) として検査が可能となった (商品名 BinaxNOW肺炎球菌、レジオネラ。溶血連鎖球菌の検査キットBinaxStrepAは咽頭粘液を検体とする)。

なお、肺炎の原因菌の中でも特殊な結核に付いては、常に鑑別にあげなければならない。 結核を疑う場合は、チール・ニールセン染色や蛍光塗抹検査、T-SPOTなどを行う。

分類

肺炎の分類としては、いくつかの異なった分類が存在する。

罹患場所による分類

  • 市中肺炎(community-acquired pneumonia; CAP): 普通の生活のなかで発症した肺炎。なお、退院後2週間までに起こった肺炎は院内肺炎と見なす。これは原因菌の想定を妥当なものとするためである。
  • 院内肺炎(hospital-acquired pneumonia; HAP): 医療機関で治療中の患者、他の疾患を持つ患者に発症した肺炎。なお、入院後48時間までに発症した肺炎は市中肺炎と見なす。これも原因菌の想定を妥当なものとするためである。
  • 医療ケア関連肺炎(Healthcare-associated Pneumonia; HCAP): 老人ホームなどの医療・介護施設で発症した肺炎。[18]

病変の形態による分類

予防

ビタミンCの肺炎予防と治療に対する効果の、2013年のコクランレビューは、特殊な集団における証拠があるがさらなる調査が必要とし、特にビタミンCが少ない場合にどうなるかさらなる研究を求めたが、安く安全性が高いため、血中ビタミンC濃度が低い肺炎患者への使用は妥当だとした[19]。予防では、兵士、1940年代の寄宿学校の男子、治療では高齢者、旧ソ連での栄養状態に関する記載がない研究、また熱傷入院患者の研究である。

治療

細菌性肺炎が疑われる場合は細菌にあった抗生物質の投与を行うが、原因菌特定には、喀痰培養同定・感受性検査など、時間のかかることが多く菌の種類を推定して抗生剤の選択を行うことが多い。肺真菌症では抗真菌薬、ウイルス性肺炎では対応した抗ウイルス薬を用いる。

施設による違いはあるが、米国式のやり方をとっている施設では、菌の種類は推定せず、市中肺炎であるか院内肺炎であるかによって抗生剤を使い分ける。それは、胸部レントゲン像で菌の種類をみわけることはできないとする臨床研究の結果にしたがったものである。

小児の肺炎

小児の肺炎では、経験的治療は大きく異なってくる。その違いは肺炎の起炎菌の違いによるものである。

新生児を除く乳幼児では、肺炎の3大起炎菌といえるのはインフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モラキセラ・カタラーリスである。成人と異なりクレブシエラ属や緑膿菌は少ないため、第3世代セフェムよりも抗菌スペクトラムの狭いペニシリン系抗生物質を選択するのが一般的である (施設によってはセフェムを選択するところもある)。

モラクセラ (モラキセラ、ブランハメラともいう) はほぼ100 %の株でβラクタム分解酵素 (β-ラクタマーゼ) を有するため、ベータラクタム分解酵素阻害薬を配合した抗菌薬製剤 (スルバクタム・アンピシリンタゾバクタム・ピペラシリンなど) を選択することが多い。喀痰塗抹グラム染色を参考にできるような施設では、肺炎球菌が疑わしい場合にはアンピシリンなどより狭いスペクトラムを持つ薬剤を選択する。

特に乳児では誤嚥性の肺炎も少なからず見られるが、高齢者と異なり誤嚥性肺炎でも緑膿菌感染症は少ないため、スルバクタム・アンピシリン (嫌気性菌にも有効であるため) を選択する。誤嚥性肺炎が疑わしい場合には、気道症状が治まるまで経口哺乳の禁止が必要となることもある。

学童以上の年齢ではマイコプラズマによる肺炎が多くなる。細菌性肺炎との鑑別はX線像ではまず不可能であり、血液所見 (好中球増加の有無、C反応性蛋白上昇の有無、マイコプラズマIgM迅速検査など) や全身状態、気道症状の程度などが参考となる。マイコプラズマにはβラクタム系の抗菌薬が無効であるが、テトラサイクリン系抗生物質 (ミノサイクリンなど) やニューキノロン系抗菌薬は副作用の問題で小児には投与しにくい、あるいはできないため、マクロライド系抗生物質を選択する (永久歯が生えていない小児にテトラサイクリンを投与すると、後に生えた永久歯に黄色く色素沈着することがある。また骨成長障害が副作用としてみられることも知られている。ニューキノロン系多くではの小児への投与は、動物実験で関節障害が見られたために日本では禁忌となっている。トスフロキサシン (商品名:オゼックス小児用細粒) は例外で小児への適応症をもつ)。

基礎疾患や障害のある患児では、その疾患によって肺炎の起炎菌に特徴がある。また、過去の細菌検査の結果も起炎菌推定の助けになる。

いずれの場合にも、喀痰培養の結果や (マイコプラズマの場合) 血清診断の結果がでれば、それにあわせて最適の抗菌薬に変更していくことが必要である (広域スペクトラムの抗菌薬を漫然と投与してはならない)。

疫学

ファイル:Lower respiratory infections world map-Deaths per million persons-WHO2012.svg
人口100万あたり下気道感染症による死者数(2012年)
  24-120
  121-151
  152-200
  201-241
  242-345
  346-436
  437-673
  674-864
  865-1,209
  1,210-2,085
ファイル:Lower respiratory infections world map - DALY - WHO2004.svg
人口100万あたり下気道感染症の障害調整生命年(WHO, 2004年)
  no data
  less than 100
  100–700
  700–1,400
  1,400–2,100
  2,100–2,800
  2,800–3,500
  3,500–4,200
  4,200–4,900
  4,900–5,600
  5,600–6,300
  6,300–7,000
  more than 7,000

肺炎は年齢・性別に関係なく一般的な病気であり、全世界で毎年4.5億人が発症している[4]その死者は年間400万人に上る(世界における死者の7%)[4][5]。 有病率は5%以下の児童と、75歳以上の成人が最大で[4]、また先進国よりも途上国に5倍多い[4]。ウイルス性肺炎が2億人を占めている[4]

米国において肺炎は8番目の死因であった(2009年)[12]。日本の原因疾患別死亡者数の割合と順位では、肺炎は1947年は2位、1948年は4位、1949年から1951年まで3位、1952年は5位、1953年は4位、1957年から1960年まで5位、1962年は5位、1973年から1974年まで5位、1975年から2010年まで4位、2011年から2015年まで3位であり[24][25][26][27][28][29][30]、2015年度は死亡者数129万0428人のうち、肺炎による死者数は12万0846人であり[29][30]、死亡者総数に対する割合は9.4%である。

出典

  1. How Can Pneumonia Be Prevented?”. NHLBI (2011年3月1日). . 3 March 2016閲覧.
  2. 2.0 2.1 What Is Pneumonia?”. NHLBI (2011年3月1日). . 2 March 2016閲覧.
  3. 3.0 3.1 How Is Pneumonia Treated?”. NHLBI (2011年3月1日). . 3 March 2016閲覧.
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 4.6 4.7 4.8 Ruuskanen, O; Lahti, E; Jennings, LC; Murdoch, DR (2011-04-09). “Viral pneumonia”. Lancet 377 (9773): 1264–75. doi:10.1016/S0140-6736(10)61459-6. PMID 21435708. 
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  24. 厚生労働省>統計情報・白書>各種統計調査>厚生労働統計一覧>人口動態調査>人口動態統計(確定数)の概況>平成22年(2010)人口動態統計(確定数)の概況>人口動態統計年報 主要統計表(最新データ、年次推移)>14ページ 第7表 死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移
  25. 厚生労働省>人口動態統計>平成23年度>第6表 死亡数・死亡率(人口10万対),死因簡単分類別
  26. 厚生労働省>人口動態統計>平成23年度>第7表 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別
  27. 厚生労働省>人口動態統計>平成25年度>第6表 死亡数・死亡率(人口10万対),死因簡単分類別
  28. 厚生労働省>人口動態統計>平成25年度>第7表 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別
  29. 29.0 29.1 厚生労働省>人口動態統計>平成27年度>第6表 死亡数・死亡率(人口10万対),死因簡単分類別
  30. 30.0 30.1 厚生労働省>人口動態統計>平成27年度>第7表 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別

関連項目

外部リンク