消化性潰瘍

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消化性潰瘍(しょうかせいかいよう、: peptic ulcer)は、主に胃酸が要因となって生じる潰瘍のことである。

胃癌等の悪性腫瘍も潰瘍病変を呈するが本稿では良性の潰瘍について記述する。

ファイル:Duodenal ulcer02.jpg
凝血が付着した十二指腸潰瘍 A2ステージ

分類

潰瘍の生じる部位別に旧来通り以下の通りに称される。

比較的小さな潰瘍であるが大出血を生じる潰瘍として1898年にフランスの外科医Paul Georges Dieulafoyが報告したもの。粘膜浅層の血管の走行上部にちょうど潰瘍が生じることで、小さく浅い潰瘍でも血管破綻を生じ大出血する潰瘍。
  • 急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion
  • 急性十二指腸粘膜病変(ADML:acute duodenal mucosal lesion

成因

  • 胃潰瘍
通常は強酸である胃酸の分泌に対し、胃内の粘膜は粘膜保護が作用し攻撃因子・防御因子のバランスが保たれている。胃潰瘍は主に、粘膜保護作用の低下によって防御因子が低下することで生じる。
  • 十二指腸潰瘍
ヘリコバクター・ピロリ(H. Pylori)保菌者が多く、比較的若年者に多い。H. Pyloriが胃前庭部に潜伏し始め、持続的にガストリン分泌刺激が促され胃酸分泌過多を生じることによって生じるとされている。十二指腸潰瘍は食前・空腹時に痛みが増悪することが知られているが、摂食刺激によってセクレチンが分泌されガストリン分泌が抑制され胃酸分泌が少なくなるためと考えられている。

要因

リスクファクターは主に胃粘膜保護の減少である防御因子の低下を助長するものであり、以下が知られている。

NSAIDsは鎮痛薬抗血小板剤として広く用いられCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を阻害する作用を有し、このうちCOX-1が阻害されることで胃粘膜防御因子のPGE2(プロスタグランジン)産生低下が生じ潰瘍を生じやすいとされている。COX-2のみを選択的に阻害するNSAIDsでは比較的生じにくい。
旧来よりステロイド(一般に糖質コルチコイド製剤)使用にて消化性潰瘍発症が高くなると言われていたが、近年のメタアナリシス報告で潰瘍発症の有意差は無いことが指摘され、ステロイドは消化性潰瘍のリスクファクターではないことが証明されてきた。

臨床像

胃潰瘍・十二指腸潰瘍共に以下の症状が基本となって生じてくる。

  • 上腹部痛心窩部痛(いわゆる胃の痛み)
胃潰瘍では食後に腹痛が増悪することが多く、十二指腸潰瘍では食前・空腹時に増悪することが多いとされている。しかし、実際には必ずしもそうではないこともある。
  • 黒色便吐血
胃・十二指腸内に出血した血液が逆流して嘔吐すれば「吐血」ないし酸化を受け黒色に変色した「コーヒー残渣様嘔吐」となって生じ、そのまま便となって出てくる場合は血液が酸化されて黒色となり「黒色の便」として生じてくる。ただ、食道静脈瘤マロリー・ワイス症候群等の他の上部消化管出血でも同様の症状を呈する。また大腸小腸からの下部消化管からの出血の場合、これを受けないで排出されるため「赤い便・血便」として生じてくる。
出血していても胃潰瘍・十二指腸潰瘍の腹痛はそこまで強くなく、強い腹痛がある場合は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の穿孔による腹膜刺激症状である場合が多い。

検査

血液検査

出血があれば貧血(Hb・RBC低下)が認められ、持続消耗性出血による小球性低色素性貧血(MCV低下)を呈してくる場合が多い。大量出血である場合には貧血があっても、MCV低下がみられないこともある。また活動期の出血の場合、胃内に蛋白成分が漏出し蛋白異化による尿素窒素(BUN)が高くなることでBUN/Cr比の上昇が認められ臨床的に出血兆候の指標として用いられる。

内視鏡検査

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の診断・治療において上部消化管内視鏡が基本となってくる。他の消化管病変の精査・鑑別も含めて、一般的に広く行われる。同時に治療も行える利点がある。

消化管造影検査

いわゆる「胃透視MDL)」は旧来より広く行われている。所見から消化性単純潰瘍が疑わしい場合に、精査として行われることはほとんどなく、上記の内視鏡検査が行われる。悪性腫瘍に付随する潰瘍病変である場合には、病変の位置や大きさが内視鏡検査よりも客観的に描出できるため、内視鏡検査の後であっても行われることが多い。

分類

胃潰瘍・十二指腸潰瘍ともに内視鏡所見から以下の分類を用いて評価することが多い。

崎田分類

潰瘍の治癒状態を分類したもの。1961年国立がんセンターの崎田隆夫(後に筑波大学教授)・大森皓次・三輪剛(後に東海大学教授)等が作成したもの。元々は内視鏡観察ではなく当時の主流である「胃透視画像(バリウム造影)」から提唱されたものであるが、内視鏡観察が広く行われるようになってきた現在でも広く用いられている。

  • 活動期(active stage):潰瘍辺縁の浮腫像・厚い潰瘍白苔がある時期
    • A1:出血や血液の付着した潰瘍底はやや汚い白苔の状態 
    • A2:潰瘍底はきれいな厚い白苔の状態 潰瘍辺縁の浮腫像は改善してくる時期
  • 治癒過程期(healing stage):潰瘍辺縁の浮腫像の消失・壁集中像・再生上皮の出現が見られてくる時期
    • H1:再生上皮が少し出現している(潰瘍の50%以下)
    • H2:再生上皮に多く覆われてきている(潰瘍の50%以上)
  • 瘢痕期(scar stage):潰瘍白苔が消失した時期
    • S1:赤色瘢痕
    • S2:白色瘢痕

Forrest分類

潰瘍の出血状態を分類したもの。1974年にJohn Forrestが「Lancet」に発表したもの。現在は以下のWalter Heldweinによる改変版が広く用いられている。

  • Active bleeding(活動性出血)
    • Ia:Spurting bleed(噴出性出血)
    • Ib:Oozing bleed(漏出性出血)
  • Recent bleeding(最近の出血)
    • IIa:Non-bleeding visible vessel(出血の無い露出血管)
    • IIb:Adherent blood clot・Black base(凝血塊の付着・黒色潰瘍底)
  • No bleeding(出血無し)
    • III:Lesion without stigmata of recent bleeding(最近の出血所見の無い病変)

治療

緊急治療

出血病変・穿孔病変に対しては以下の緊急処置が行われる。

  • 出血性胃潰瘍・十二指腸潰瘍
潰瘍からの出血兆候を認める場合、以下の上部消化管内視鏡による内視鏡的止血術が行われる。
  • clip止血
  • 局注止血
    • エピネフリン添加高張食塩水(HSE:hypertonic saline-epinephrine
    • 純エタノール
  • 高周波凝固止血
  • APC(argon plasma coagulation)止血
稀に内視鏡的な止血困難な症例は腹部血管カテーテル検査によって出血血管の塞栓術(IVR)が施行されたり、または手術(胃切開+出血血管縫合止血術+潰瘍縫縮術)が施行される場合もある。
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍穿孔
潰瘍穿孔を来たした場合、消化管穿孔として腹膜炎発症のコントロールが重要となってくる。
基本的に絶食・輸液管理・胃管挿入・抗菌薬投与による保存的加療にて穿孔が自然閉鎖し軽快することも多いが、穿孔が巨大であったり腹膜炎が生じていたりするようであれば手術(穿孔部縫合術+大網被覆術+腹腔内洗浄)が行われる。

薬物治療

旧来、消化性潰瘍の治療としては胃切除術が施行されてきたが、抗潰瘍薬の開発と共に消化性潰瘍の治療は以下の内服治療が基本となっている。

H.Pylori除菌

ヘリコバクター・ピロリを保有している場合、再発予防として除菌療法を行うことが推奨されている。

関連項目