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(1) 狭義には酸を中和する能力のある化合物,または水溶液中で OH<sup>-</sup> イオンを生成する化合物をいう。
 
(1) 狭義には酸を中和する能力のある化合物,または水溶液中で OH<sup>-</sup> イオンを生成する化合物をいう。
  
(2) 1923年にデンマークの物理化学者 J.N.[[ブレンステッド]]は塩基と酸の定義を拡大し,プロトンを受入れることのできる物質を塩基,プロトンを与えることのできる物質を酸と定義した ([[ブレンステッド=ローリーの定義]] ) 。たとえば OH<sup>-</sup> イオンは,H<sub>2</sub>S+OH<sup>-</sup>HS<sup>-</sup>+H<sub>2</sub>O のように,ほかの化合物からプロトンを受入れる力が強いので強い塩基であり,H<sub>2</sub>S は酸である。アンモニアは水溶液では NH<sub>3</sub>+H<sub>2</sub>ONH<sub>4</sub>
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(2) 1923年にデンマークの物理化学者 [[J.N.ブレンステッド]]は塩基と酸の定義を拡大し,プロトンを受入れることのできる物質を塩基,プロトンを与えることのできる物質を酸と定義した ([[ブレンステッド=ローリーの定義]] ) 。たとえば OH<sup>-</sup> イオンは,H<sub>2</sub>S+OH<sup>-</sup>HS<sup>-</sup>+H<sub>2</sub>O のように,ほかの化合物からプロトンを受入れる力が強いので強い塩基であり,H<sub>2</sub>S は酸である。アンモニアは水溶液では NH<sub>3</sub>+H<sub>2</sub>ONH<sub>4</sub>
 
<sup>+</sup>+OH<sup>-</sup> のようにふるまうので塩基であり,この場合,水は酸である。しかしカリウムアミド KNH<sub>2</sub> は,液体アンモニア中で KNH<sub>2</sub>+NH<sub>3</sub>KNH<sub>3</sub>
 
<sup>+</sup>+OH<sup>-</sup> のようにふるまうので塩基であり,この場合,水は酸である。しかしカリウムアミド KNH<sub>2</sub> は,液体アンモニア中で KNH<sub>2</sub>+NH<sub>3</sub>KNH<sub>3</sub>
 
<sup>+</sup>+NH<sub>2</sub>
 
<sup>+</sup>+NH<sub>2</sub>
 
<sup>-</sup> のように反応するので,この場合にはアンモニアは酸であり,カリウムアミドが塩基である。このようにブレンステッドの定義は非水溶媒系にも適用され,相手次第で同一物質を塩基とも酸ともみることができる。
 
<sup>-</sup> のように反応するので,この場合にはアンモニアは酸であり,カリウムアミドが塩基である。このようにブレンステッドの定義は非水溶媒系にも適用され,相手次第で同一物質を塩基とも酸ともみることができる。
  
(3) 1923年に G.N.[[ルイス]]は電子の授受に基づいて酸,塩基の定義をさらに拡張し,分子またはイオンを構成している原子の電子対により,相手と共有結合を形成できるものを塩基 ([[ルイス塩基]] ) ,そのような電子対を受けて共有結合をつくるものを酸 ([[ルイス酸]] ) と定義した。たとえば H<sub>3</sub>N:+BF<sub>3</sub>H<sub>3</sub>N:BF<sub>3</sub> の反応で,H<sub>3</sub>N: は塩基,BF<sub>3</sub> は酸となる。このルイスの定義による塩基,酸は,ブレンステッドの定義による塩基,酸を含むと同時に OH<sup>-</sup> や H<sup>+</sup> をもたない塩基や酸も含むので,非常に有用である。
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(3) 1923年に [[G.N.ルイス]]は電子の授受に基づいて酸,塩基の定義をさらに拡張し,分子またはイオンを構成している原子の電子対により,相手と共有結合を形成できるものを塩基 ([[ルイス塩基]] ) ,そのような電子対を受けて共有結合をつくるものを酸 ([[ルイス酸]] ) と定義した。たとえば H<sub>3</sub>N:+BF<sub>3</sub>H<sub>3</sub>N:BF<sub>3</sub> の反応で,H<sub>3</sub>N: は塩基,BF<sub>3</sub> は酸となる。このルイスの定義による塩基,酸は,ブレンステッドの定義による塩基,酸を含むと同時に OH<sup>-</sup> や H<sup>+</sup> をもたない塩基や酸も含むので,非常に有用である。
  
 
(4) 生化学では,広く有機塩基全体をさす。アミノ基,イミノ基,グアニジル基は,上の定義からも塩基性であるから,一級アミノ基をもつセロトニン,ノルアドレナリン,二級アミノ基をもつアドレナリン,四級アミノ基をもつカルニチンはすべて塩基性物質である。また,多くの植物アルカロイド (ニコチン,モルヒン,アトロピン,エフェドリン) やポリアミン類 (スペルミン,スペルミジン) も塩基性物質である。
 
(4) 生化学では,広く有機塩基全体をさす。アミノ基,イミノ基,グアニジル基は,上の定義からも塩基性であるから,一級アミノ基をもつセロトニン,ノルアドレナリン,二級アミノ基をもつアドレナリン,四級アミノ基をもつカルニチンはすべて塩基性物質である。また,多くの植物アルカロイド (ニコチン,モルヒン,アトロピン,エフェドリン) やポリアミン類 (スペルミン,スペルミジン) も塩基性物質である。

2018/10/18/ (木) 23:27時点における最新版

塩基(えんき、: base

(1) 狭義には酸を中和する能力のある化合物,または水溶液中で OH- イオンを生成する化合物をいう。

(2) 1923年にデンマークの物理化学者 J.N.ブレンステッドは塩基と酸の定義を拡大し,プロトンを受入れることのできる物質を塩基,プロトンを与えることのできる物質を酸と定義した (ブレンステッド=ローリーの定義 ) 。たとえば OH- イオンは,H2S+OH-HS-+H2O のように,ほかの化合物からプロトンを受入れる力が強いので強い塩基であり,H2S は酸である。アンモニアは水溶液では NH3+H2ONH4 ++OH- のようにふるまうので塩基であり,この場合,水は酸である。しかしカリウムアミド KNH2 は,液体アンモニア中で KNH2+NH3KNH3 ++NH2 - のように反応するので,この場合にはアンモニアは酸であり,カリウムアミドが塩基である。このようにブレンステッドの定義は非水溶媒系にも適用され,相手次第で同一物質を塩基とも酸ともみることができる。

(3) 1923年に G.N.ルイスは電子の授受に基づいて酸,塩基の定義をさらに拡張し,分子またはイオンを構成している原子の電子対により,相手と共有結合を形成できるものを塩基 (ルイス塩基 ) ,そのような電子対を受けて共有結合をつくるものを酸 (ルイス酸 ) と定義した。たとえば H3N:+BF3H3N:BF3 の反応で,H3N: は塩基,BF3 は酸となる。このルイスの定義による塩基,酸は,ブレンステッドの定義による塩基,酸を含むと同時に OH- や H+ をもたない塩基や酸も含むので,非常に有用である。

(4) 生化学では,広く有機塩基全体をさす。アミノ基,イミノ基,グアニジル基は,上の定義からも塩基性であるから,一級アミノ基をもつセロトニン,ノルアドレナリン,二級アミノ基をもつアドレナリン,四級アミノ基をもつカルニチンはすべて塩基性物質である。また,多くの植物アルカロイド (ニコチン,モルヒン,アトロピン,エフェドリン) やポリアミン類 (スペルミン,スペルミジン) も塩基性物質である。

(5) このほか窒素を含む複素環式化合物 (ピリジン,イミダゾール,インドールなど) も塩基と呼ばれる。 DNAや RNAの構成要素であるプリン塩基 (アデニン,グアニン) とピリミジン塩基 (シトシン,チミン,ウラシル) はこの意味で用いられている。



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