収斂進化

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ファイル:European mole detail of muzzle and paws.jpg
モグラとケラは前足の外形がよく似ている。ヨーロッパモグラ Talpa europaea
ファイル:Leg of Gryllotalpa.jpg
ケラの一種 G. gryllotalpaの前脚

収斂進化(しゅうれんしんか、: convergent evolution)とは、複数の異なるグループの生物が、同様の生態的地位についたときに、系統に関わらず身体的特徴が似通った姿に進化する現象。

概説

明らかに類縁関係の遠い生物間で、妙に似通った姿、あるいは似通った器官を持つ場合がある。中にはジャコウアゲハの幼虫とシカクナマコの子供のように、どう考えても関係がない場合もあるが、それぞれにその姿をしているのが生活の上で役に立っていると分かる場合もある。たとえば、モグラの前足は分厚く、爪が強く、指その物は短くなっており、明らかに穴を掘るために役立つ形である。そして、同じく穴を掘って暮らしている昆虫ケラの前足を見ると、やはり丸っこくて、周りに爪状の突起があり、動かし方も良く似ている。これらは、いずれも穴を掘るための器官としての適応の結果であると考えられ、元々は大きく形が異なっていた節足動物と脊椎動物の足がそのために外見的に似た形となったと考えられる。この様な現象の事を収斂進化、あるいは単に収斂と言う。

このような例は、異なる地域で生物相が大きく違っているのに、あるいは系統的に大きく離れているのに、それらが似たような場所で似たような生活をしている生物同士の間で見られる。これは、それらの生物が、それぞれの生物群集の中で、非常によく似た生態的地位にある場合に見られる、と言われる。つまり、同じような生活をするものには、同じような形態や生理が要求され、そのため似た姿に進化する、というのである。たとえばオーストラリアの有袋類であるフクロモモンガリスの仲間であるモモンガとは、外見が非常によく似ている。このような現象は、様々なところで見受けられるが、特に、空を飛ぶ、穴を掘る、水中を高速で移動するなど、生物にとって拘束の大きい条件下でよく見られる。形態の選択肢が少ない、と言ったところであろう。

生理的な面での収斂現象もある。たとえば動物は排出器を通じて窒素を含む分解産物であるアンモニアを排出するが、この物質は水に溶け、動物体には有害である。このため、水生動物はそれを水に溶けた形で排出する。しかし、陸では水分補給が限定されるから、このような排出は行えず、しかも体内に蓄積するわけにも行かない。そのため、爬虫類や鳥類ではアンモニアから尿酸を合成し、固形物の形で排出する。同様に陸上節足動物である昆虫なども尿酸を排出する。これらの分類群は全く独立に陸上進出したものであるから、この性質も独立に身につけたものであるはずである。

関連する現象

収斂は、全身の姿にも、個々の器官にも見られる場合がある。先のモグラとケラの例では、それぞれの前足がそっくりであるだけでなく、全身の姿にもやや類似が見られる。体表が細かい毛で覆われている点も似ている。前足に関しては、モグラでは内骨格の五本指の掌からの変形であるのに対して、ケラでは外骨格の形態の変化で似た姿になっている。この例のように、本来は異なった起源をもつ器官が、類似の働きと形をもつ場合に、それらのことを相似器官と言う。

なお、収斂が起きるときには、様々な系統から、同じような形へと進化して行く。つまり、同じ方向への進化が異なった場で起きているので、この現象を平行進化という。

また、下で述べる有袋類の多様化のような現象は適応放散と呼ぶ。これは起源を同じにする生物が、異なった環境の要求に応じて多くの異なった姿になったというふうに解せられる。いわば収斂の逆の現象であるが、それぞれの地域での適応放散の結果が、それぞれの個々を見比べた場合に収斂を起こしているのもよくある現象である。

なお、異なった生物の間によく似た形質が見いだされる例に、擬態がある。ただし、これはどちらか片方が、もう片方の種に似た姿であることで何らかの利益を得るため、それに似る方向に進化したものであり、モデル生物なしにはその存在が考えられない。その点で、収斂はモデルとは無関係に、その姿に適応的意味があるので、異なった現象と言える。しかし、比較的近縁な生物が同様な保護色を身にまとえば同じような形になりやすい、と言うようなこともあるから、両方が働く場合もあり得る。

動物の場合

有袋類有胎盤類(真獣類)との間に見られる収斂進化のセット
オーストラリア大陸には本来は有袋類以外にはほとんど哺乳類が存在しなかった。これは、有袋類が分化した時期より少し後、真獣類が分化する前に他の大陸から分離し、その後陸続きになることがなかったためと言われる。したがって、他の地域ではさまざまに分化し、多くの目に分かれた哺乳類たちが占めた生態的地位を、有袋類(と単孔類)のみで占めることとなった。事実、有袋類に見られる多様性はクジラなどを除けば真獣類のすべてにほぼ匹敵するほどにもなっている。その中で他の地域ですでに名前を付けられた動物に似た姿のものがオーストラリアで発見された場合、その名にフクロをつけて呼ばれることが多かった。その、名の元になったものと、フクロ付きのものの関係が収斂である。以下に代表的な例を挙げる。
フクロネズミネズミというよりジネズミなどに似ているが、この例は、どちらかと言えば哺乳類の原始的形態に近い姿をもつ、つまりあまり特殊化していないものであるために似た姿なのであって、収斂と言うのは当たらないかもしれない。
トビネズミハネジネズミ
跳躍するため、後肢が長く発達したネズミ或いはネズミ様の小動物
アリクイとアルマジロセンザンコウツチブタハリモグラ
上記のフクロアリクイもそうだが、これらはシロアリなどを中心に食べるため口先が細めで歯が退化、舌が長い、強靭な爪を持つなどの特徴がある。
発見当初はこういった生物は互いに近縁と考えられ、まとめて「貧歯目」というカテゴリーに入れられていたが、研究が進むにつれ収斂進化の結果と分かり、アリクイとアルマジロ以外は近縁性がないとして別々のグループに分離された。(この辺の経緯について詳しくは異節上目と各生物の項を参照)
魚竜イルカサメペンギン
これらは水中を高速で遊泳する姿への進化である。特にイルカと魚竜の場合、いずれも陸生動物からの水中への適応であり、非常に似た姿である。魚竜は爬虫類でありながら卵胎生で子供を産む点でも共通する。つまり生理における収斂である。
また、体色においても(魚竜のそれは不明だが)背面の黒、腹面が白というほぼ共通の配色をもち、これは水中での保護色の基本である。
なお、サメ、魚竜は体を左右にくねらせ、尾ひれは左右に扁平なのに対して、イルカはむしろ垂直方向の動きで推進力を得ていて、尾ひれは上下に扁平である。部分的には選択肢もある、というところである。
また、ペンギンもこれらと似通った体制や配色を持ち、とくに水中遊泳時には、そのことがはっきりと見てとれる。ただしペンギンの場合、とくに産卵・抱卵・育雛に関して陸上生活への依存があり、進化上のブレークスルーを越えないかぎり、これらの行動を水中に移すことは難しい。現状では「陸上で過ごせる体」も維持しなければならないために、体のサイズにも制約があり、また、ある程度は異なった体制にならざるを得ない。
ジュゴンアザラシラッコ
に近縁なジュゴン(カイギュウ目ジュゴン科)、クマに近縁なアザラシ(食肉目イヌ亜目-アシカ科)、イタチに近縁なラッコ(食肉目イヌ亜目-イタチ科)は、海洋への進出時期が異なる。しかし、胴長のずんぐりした体型、短い手足と同じ軌跡を辿っている。これらの海生の哺乳類は、収斂進化の代表的な例としてよく挙げられるものである[1][2]
昆虫の翅コウモリ翼竜
これらのうち、後三者のそれはいずれも脊椎動物の前足に由来するものであるから相同器官ではあるが、それぞれ独立に発達したものなので収斂と言ってよいだろう。
おのおのの翼の構造は全く異なる。鳥の場合は太くて狭い腕に羽毛が生えて幅広い翼を形成している。コウモリと翼竜のそれは長く伸びた指の間に膜を張ったものであるが、コウモリは四本の指の間に張っている。対して、翼竜はたった一本の指でそれを支えており、残りの指を翼指としている。
このように構造的には異なっているものの、全体的な翼平面形(概ね先細の細長い形状)や翼型(全体に薄い断面形)は良く似ている。これは、流体力学構造力学的な要請から、飛行のために適当な翼形状が自ずと決まってくることによる。
一方、昆虫の翅は起源も異なり、サイズと飛行速度が小さくレイノルズ数が小さい(鳥などが104 - 105程度であるのに対して、103 - 104程度)ため、構造や翼型にはかなりの差も見られるが、それでも全般的な形状としては似ており、翼の一種として扱える。たとえばトンボの翼型は流線形ではなくギザギザした平板状ではあるもののやはり薄く、平面形もわりと細長い。ほかにはたとえばコガネムシの後翅は折りたたみ方がコウモリのそれとよく似ている。これは細い骨組みで支えられた膜からなる翼を、うまく折りたたむための収斂と見ることもできる。
ピロテリウムゾウ
脊椎動物頭足類の目
イカはヒトの目に似た原理のカメラ眼を持っており、しかもとても視力がよい。しかし光学的な構造は似ていても、両者はかなり原始的な動物から分岐した後に、別個の過程を経て目を獲得したため、その起源は異なる。イカの目の内部構造を見てみると、網膜につながっている視神経の向きがヒトとは逆であることがわかる。すなわち、イカの目は視神経が眼球の外側についているため、結像の邪魔にならない。そのため視力がよく、盲点が存在しない。

植物の場合

植物の場合にも、類似の例はある。

微生物の場合

微生物においても、たとえば細胞性粘菌タマホコリカビ接合菌ケカビのように、縁の遠いものにも外見のよく似たものが見られる例はある。これを収斂ということはできなくはないが、むしろ、構造が小さいために形態に関してあまり選択肢が多くなく、どうしても似てしまう、という傾向があるようである。分生子形成菌(不完全菌)にも、単純な分生子を形成するものには、その有性世代がわかった場合、複数の系統が含まれていたという例がある。鞭毛虫は、極めて多様な系統の生物の集まりであるが、系統を異にするものにもその外形に似た形のものがよくあるのも同様に考えて良いだろう。

ただし、たとえばタイヨウチュウは、はっきりした特殊な活動の型を持っていながら、多系統であることがわかっている。これは真の意味での収斂の例と見て良いかも知れない。菌類においても水生不完全菌は水中での胞子形成への適応として独特な形の分生子を作ることが知られるが、一つの属と見なされたものに複数の系統が含まれることが知られた例があり、これなども収斂進化と見ていいだろう。

脚注

  1. 『Convergent evolution of the genomes of marine mammals』Nature Genetics 47, 272–275 (2015)
  2. 西原克成『追いつめられた進化論―実験進化学の最前線』2001年、p.9

関連項目