保釈

提供: miniwiki
移動先:案内検索

保釈(ほしゃく)とは、刑事手続において未決の被告人等について身柄を拘束しない状態におく制度。

保釈制度は日本のほかイギリスアメリカなどに設けられている[1]。日本における刑事手続では勾留されている被告人について住居限定や保証金の納付を条件として身柄の拘束を解く制度を保釈といい起訴後の保釈のみが認められている。一方、アメリカの刑事手続では冒頭出廷(Initial Appearance)の審問時に保釈か未決拘禁かを決するのが原則となっている[1]。なお、ドイツフランスには保釈制度はなく、ドイツには勾留状執行の猶予の制度、フランスには司法統制処分の制度がある[1]

日本の保釈制度

テンプレート:日本の刑事手続


趣旨

日本では刑事訴訟法88条以下に規定がある。日本法では起訴後の保釈のみが認められており、起訴前の保釈の制度はない(刑事訴訟法207条1項ただし書)。

勾留の目的は罪証の隠滅を防ぎ、公判や刑の執行への出頭を確実にすることにある。このような目的を達するには、直接、被告人の身柄を拘束する方法以外にも、約束に違反した場合には「金銭を没収する」という経済心理的な強制を加える方法でも可能である。

また一方で、被告人を拘束し続けることは、社会復帰を阻害することになりかねないという欠点がある。後に無罪判決を受けた場合はもちろん、執行猶予判決の場合であっても、判決前に長期欠勤を理由に解雇されてしまうという例は珍しくないからである。保釈制度の趣旨は、被告人の出頭確保などによる刑事司法の確実な執行と、被告人の社会生活の維持との調整を図ることにある。

保釈逃亡罪など逃亡した場合に加罰がある国もあるが、日本では保釈金没収される以外ないため対策が求められている[2]

保釈の種類

  • 権利保釈(請求保釈、必要的保釈ともいう。刑事訴訟法89条に規定。)
保釈請求権者(勾留されている被告人、弁護人法定代理人保佐人配偶者、直系の親族、兄弟姉妹)から請求があった場合は、裁判所は保釈を許さなければならない。ただし、次の6つの場合は、裁判所は請求を却下することができる。また、禁錮刑以上の判決が出た場合は権利保釈は認められない(同法344条。一審で実刑判決の場合でも控訴審で再保釈が認められることがあるが、これは次項の裁量保釈である)。
  1. 死刑、無期又は短期1年以上の懲役禁錮に当たる罪を犯した場合(同条1号)
    「短期1年以上」とは、「2年以上の懲役に処する」(非現住建造物等放火罪)など、法定刑の刑期の下限が1年以上であることをいう。
  2. 過去に、死刑、無期又は長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪について有罪判決を受けたことがある場合(同条2号)
    「長期10年を超える」とは、「15年以下の懲役に処する」(傷害罪)のように、法定刑の刑期の上限が10年を超えることをいう。
  3. 常習として、長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯した場合(同条3号)
  4. 罪証隠滅のおそれがある場合(同条4号)
    実務上は、勾留要件における罪証隠滅のおそれと同義であると解されている。
  5. 被害者や証人に対し、危害を加えるおそれがある場合(同条5号)
  6. 氏名又は住所が明らかでない場合(同条6号)
  • 裁量保釈(職権保釈ともいう。刑事訴訟法90条に規定。)
裁判所は、請求がなくても、裁量で保釈を許すことができる。もっとも、実務上は、弁護人等からの保釈請求があった場合に、裁判所が、89条4号などに当たるとしながらも、諸般の事情に照らして保釈を許す場合に用いられ、請求がないのに職権で保釈する運用はされていない。
  • 義務的保釈(刑事訴訟法91条に規定)
勾留による拘禁が不当に長くなった場合は、裁判所は保釈を許さなければならない(実務上、本条によって保釈が行われることはあまりない)。


保釈の手続

請求

保釈は、裁量保釈も含め、弁護人等の請求に基づいて行われるのが一般的である。

保釈の請求先は、次のとおりである。

  • 起訴~第1審における第1回公判期日前まで:裁判官(刑訴法280条)
保釈の許否の裁判に対する不服申立ては、地裁への準抗告→最高裁への特別抗告
  • 第1審の第1回公判期日から高裁に記録が到着するまで:第1審の裁判所
不服申立ては、高裁への通常抗告→最高裁への特別抗告
  • 高裁に記録が到着してから最高裁に記録が到着するまで:控訴審の裁判所
不服申立ては、別の高裁の合議体への異議申立て→最高裁への特別抗告
  • 最高裁に記録到着後:上告審の裁判所

保釈許可決定

裁判所(裁判官)は、保釈の許否を決定する前に、検察官による請求による場合と急速を要する場合を除いて、検察官の意見を聴かなければならない(刑事訴訟法92条)。

保釈を許す場合は、保釈保証金(いわゆる「保釈金」)の額を決める。その金額は、犯罪の性質・情状、証拠の証明力、被告人の性格・資産を考慮して、被告人の出頭を保証するのに過不足ない額を算出する。大抵は保釈される被告人の逃亡のおそれがないような金額が設定される(刑事訴訟法93条1項、2項)。

また、保釈後の住居(制限住居)を指定するなどの条件を付けることができる(刑事訴訟法93条3項)。

身柄の釈放

保釈が許可され、定められた保釈保証金を裁判所に納付した場合は、身柄が釈放される。保釈保証金の納付前には身柄を釈放することはできない(刑事訴訟法94条1項)。

保釈保証金は、現金で納付するのが原則である。ただし、特に裁判所の許可があった場合は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることができる。

保釈の取消し

以下のような場合は、裁判所は保釈を取り消すことができ、保証金の全部又は一部を没取(ぼっしゅ。「没収」と区別するため、あえて「ぼっとり」と読むこともある)することができる(刑事訴訟法96条)。

  1. 正当な理由なく出頭しない場合
  2. 逃亡した、又は、逃亡のおそれがある場合(例:イトマン事件)
  3. 罪証を隠滅した、又は、隠滅のおそれがある場合(例:パソコン遠隔操作事件)
  4. 被害者や証人に危害を加えた、又は、危害を加えるおそれがある場合
  5. 住居の制限などの保釈の条件に違反した場合

保釈が取り消されると、被告人は収監されることになる(刑事訴訟法98条)。

保釈の失効

禁錮以上の刑に処する判決(実刑判決)の宣告があったときは、保釈が失効するから、被告人は収監されることになる(刑事訴訟法343条)。ただし、控訴上告に伴って(控訴・上告の提起前でも)、裁判所は再び保釈をすることができる。この場合、権利保釈の適用はない。

なお、上級審での再保釈時の保釈保証金は、下級審で未還付の保釈保証金をその一部に充当することができる(刑事訴訟規則91条2項)。

保釈保証金

保釈保証金とは、既述のとおり、身柄を釈放する代わりに、公判への出頭等を確保するために、預けさせる金銭のことである。現金での納付が基本であるが、有価証券又は保釈保証書にて代える事もできる。現金を用意できない場合には、日本保釈支援協会より弁護士を通して借り入れる納付ができる。立替限度額は、500万円が上限であり期間は2ヶ月間とし2ヶ月ごとに延長可能である。

没取

保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保釈保証金の全部又は一部を没取(ぼっしゅ)(保釈保証書の場合は取り立て)することができる(刑訴法96条2項)。

没取とは、国庫に帰属させることである。

還付

没取されなかった保釈保証金は、裁判が終わった段階で還付される。

具体的には、次の場合に保証金を還付する(刑事訴訟規則91条1項各号)。

  • 勾留が取り消され、又は勾留状が効力を失ったとき(1号)
保釈の前提となっていた勾留そのものが取り消され、又は失効した場合である。
勾留が取り消される場合については、刑訴法87条等に定めがある。
勾留状が失効する場合としては、無罪免訴、刑の免除、刑の執行猶予公訴棄却の判決や、罰金科料のみの判決が言い渡された場合がある(刑訴法345条)。なお、被告人の死亡等により公訴棄却の決定がされた場合には、被告人の親族又は後見人が受取人となることがある。
  • 保釈が取り消され又は効力を失ったため被告人が刑事施設に収容されたとき(2号)
保釈が取り消された場合については前記#保釈の取消し参照。保釈が取り消されたものの保釈保証金の全部又は一部が没取されなかった場合の還付の規定である。
保釈が失効する場合については前記#保釈の失効参照。実刑判決を受けた場合の還付の規定である。
  • 保釈が取り消され又は効力を失った場合において、被告人が刑事施設に収容される前に、新たに、保釈の決定があって保証金が納付されたとき又は勾留の執行が停止されたとき(3号)
前段は、上級審での再保釈で、刑事訴訟規則91条2項による保証金の充当をせずに新たに納付した場合に、先に納付していた保証金の還付を定めるものである。
後段は、実刑判決後に勾留の執行停止(刑訴法95条)がされた場合の還付の規定である。

ただし、刑事事件で罰金刑や追徴金が確定した場合や保釈中に民事訴訟で債権者から差し押さえられた場合は、保釈保証金から差し引かれることもある。

金額

保釈保証金の額について、統計が存在する最新の平成10年のデータでは、100万円未満が1.4%、100万円以上150万円未満が15.2%、150万円以上200万円未満が34.5%、200万円以上300万円未満が31.5%、300万円以上が17.4%であった[3]。近年、弁護士などからは、保釈保証金が高額化しているとして、「人質司法である」との批判もある。

なお、日本における保釈保証金最高額はハンナン事件における浅田満ハンナン会長の20億円である。また、保釈保証金没取最高額はイトマン事件許永中の保釈中の逃亡による6億円である。

保釈保証金を立て替える社団法人(日本保釈支援協会)や金融業者も存在する。

保釈保証金ランキング
人物 肩書き 事件 金額
浅田満 ハンナン会長 ハンナン事件 20億円
竹井博友 元地産会長 脱税事件 15億円
高山清司 弘道会会長 恐喝事件 15億円
末野謙一 元末野興産社長 住専めぐる資産隠し事件 15億円
滝沢孝 山口組若頭補佐 山口組銃刀法違反事件 12億円
水野健 元常陸観光開発社長 茨城カントリークラブ事件 10億円
司忍 山口組組長 山口組銃刀法違反事件 10億円
小谷光浩 元光進代表 蛇の目ミシン工業恐喝事件 10億円
村上世彰 村上ファンド会長 村上ファンド事件 7億円
尾上縫 元料亭経営者 脱税事件 7億円
許永中 元不動産管理会社代表 イトマン事件 6億円
堀江貴文 ライブドア社長 ライブドア事件 5億円
N・S 元協畜社長 裏ポーク事件 5億円
小西邦彦 飛鳥会理事長 飛鳥会事件 5億円
川本源司郎 丸源グループ社長 丸源脱税事件 5億円
森脇将光 金融業経営 吹原産業事件 4.5億円
南野洋 大阪府民信組理事長 背任事件 4億円
Y・A 元経営コンサルタント 傷害事件 3億円
武井保雄 武富士会長 ジャーナリスト宅盗聴事件 3億円
金丸信 自民党副総裁 金丸事件 3億円
井川意高 大王製紙会長 大王製紙事件 3億円
中瀬古功 元明電工相談役 明電工事件 3億円
鍵弥実 木津信用組合理事長 木津信用組合乱脈融資事件 3億円
李煕健 関西興銀会長 関西興銀背任事件 3億円
横井英樹 ホテルニュージャパン社長 ホテルニュージャパン火災 2.5億円
平哲夫 元ライジングプロダクション社長 脱税事件 2.3億円
田中角栄 内閣総理大臣 ロッキード事件 2億円
江副浩正 リクルート創業者 リクルート事件 2億円
水谷功 水谷建設会長 脱税事件 2億円
河村良彦 元イトマン社長 イトマン事件 2億円
本田博俊 無限会長 脱税事件 2億円
N・O 大光グループ会長 大光事件 2億円
安田基隆 元安田病院長 詐欺事件 2億円
森口五郎 元共和副社長 共和汚職事件 2億円
加藤あきら 誠備グループ会長 脱税事件 2億円
渡辺広康 元佐川急便社長 東京佐川急便事件 1.8億円
高橋治則 東京協和信組理事長 二信組事件 1.5億円
岡田茂 元三越社長 三越事件 1.5億円
藤村芳治 元フジチク社長 フジチク事件 1.5億円
安原治 元富士住建社長 富士住建脱税事件 1.5億円
大島健伸 元SFCG社長 SFCG事件 1.5億円
津村昭 元ツムラ社長 特別背任事件 1.5億円
頴川徳助 元幸福銀行社長 特別背任事件 1.5億円
竹内藤男 元茨城県知事 ゼネコン汚職事件 1.2億円
山口敏夫 元労相 二信組事件 1億円
泉井純一 泉井石油商会代表 泉井事件 1億円
堤義明 コクド会長 西武鉄道株事件 1億円
斉藤了英 元大昭和製紙名誉会長 ゼネコン汚職事件 1億円
角川春樹 角川書店社長 コカイン密輸事件 1億円
安部英 帝京大学副学長 薬害エイズ事件 1億円
佐佐木吉之助 桃源社社長 桃源社事件 1億円
浅川和彦 元AIJ投資顧問社長 AIJ投資顧問事件 1億円

保釈率

平成14年(2002年)のデータでは、第1審の終局人員(有罪又は無罪の判決を受けた者)のうち、一度でも勾留された者の割合(勾留率)は、地方裁判所では79.9%、簡易裁判所では87.8%。そのうち、保釈をされた者の割合(保釈率)は、地方裁判所では13.4%、簡易裁判所では5.9%となっている[4]

また、平成17年(2005年)のデータでは、勾留率は、地裁では82.3%、簡裁では84.2%。保釈率は、地裁では13.4%、簡裁では5.7%となっている[5]

イギリスの保釈制度

保釈の可否

イギリスでは適法な逮捕・告発(charge)があれば保釈されない限り原則として身柄拘束を継続できる[1]。出頭確保、司法運営妨害の防止、保釈中の再犯防止等が困難になるときは保釈条件を設定できず未決拘禁の状態におかれる[1]

保釈条件の設定

保釈条件として、保釈保証金の納入のほか、住居の指定、夜間外出禁止、証人との接触の禁止などがある[1]

イギリスでは合理的理由なく裁判所に出頭しない場合には保釈逃亡罪に問われる[1]

アメリカの保釈制度

保釈の可否

アメリカでは原則として冒頭出廷(Initial Appearance)の審問で未決拘禁にするか釈放するか判断が行われる[1]。出頭確保や証人等の他害防止が困難になるときは保釈条件を設定できず未決拘禁の状態におかれる[1]

保釈条件の設定

保釈条件として、保釈保証金の納入のほか、外出の禁止、被害者や事件関係者との接触の禁止、治療プログラムの受講などがある[1]

カリフォルニア州の改革

2018年8月、カリフォルニア州議会は、保釈金制度を撤廃する法案を可決。従来の制度は、貧富の差により待遇に格差が生じることへの対応であり、今後は裁判所職員や地元の公的機関が保釈した場合のリスク評価を行い保釈の可否や条件を決定する[6]

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 諸外国における未決拘禁・保釈制度の例”. 法務省. . 2018閲覧.
  2. [1]裁判に現れず…保釈中に被告逃走 法律、対策無く
  3. 松本芳希「裁判員制度と保釈の運用について」『ジュリスト』1312号128頁
  4. 平成15年版犯罪白書。
  5. 平成17年司法統計 - PDFファイル
  6. カリフォルニア州、被告の保釈金撤廃へ 米国で初”. CNN (2018年9月1日). . 2018閲覧.

関連項目