ヨーグルト

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ファイル:Yogurt of the Bulgarija Pavilion of Expo 2005 Aichi Japan.jpg
ヨーグルト(薔薇を浮かべたもの。2005年愛知万博のブルガリア館のヨーグルト)
ファイル:Yogurt of the Caucasus common Pavilion of Expo 2005 Aichi Japan.jpg
2005年愛知万博のコーカサス共同館のヨーグルト

ヨーグルトトルコ語: yoğurt)は、乳酸菌酵母を混ぜて発酵させて作る発酵食品のひとつ。ヨーグルトにたまる上澄み液は乳清(英語ではwhey(ホエイ))という。乳原料を搾乳し利用する動物は専用のウシ(乳牛)だけでなく、水牛山羊ラクダなどの乳分泌量が比較的多く、搾乳が行いやすい温和な草食動物が利用される。

概要

ヨーグルトの起源はヨーロッパ、アジア、中近東にかけての様々な説があり、およそ7000年前とされる[1]。生乳の入った容器に環境常在菌である乳酸菌が偶然入り込んだのがはじまりと考えられている。

気温の高い地方では、生乳のままだと腐りやすいが、乳酸菌で乳を発酵させると保存性がよくなる。イランなどでは乳を醗酵させた後で乳脂肪分を分離し、バターを得ることも行われていた。

いわゆるヨーグルトに相当する食品は世界各国に存在し、それぞれの国で色々な名で呼ばれている。欧米日本でこの乳製品を指すのに用いられる「ヨーグルト」という言葉は、トルコ語でヨーグルトを意味する「ヨウルト(yoğurt)」に由来する。ヨウルトは「攪拌すること」を意味する動詞yoğurmak派生語で、トルコにおけるヨーグルトの製法を反映している。イリヤ・メチニコフ(微生物学者:ノーベル生理学・医学賞 1908年受賞)がブルガリア(当時はロシア領だが直前までオスマン帝国領)を訪れた際に、ブルガリア人が長寿で有ることを発見し、その原因を現地の伝統食品であるヨーグルトであるとし、『ヨーグルト不老長寿説』[2]を発表した事によって広まった[1]

ヨーグルトが固まる原理は乳内の糖を乳酸菌が分解し作り出した乳酸によって、乳が酸性に傾くことで乳内のカゼインが固まることによる。pH4.6(等電点)を超えた当たりから凝固し始める。乳酸菌は酸に対してある程度の耐性を持つため、他の酸に弱い雑菌(ブドウ球菌や一部の大腸菌)の増殖を抑えて増殖する。

ヨーグルトの定義

FAOWHOによって1977年に定められたヨーグルトの厳密な定義によると、「ヨーグルトとは乳及び乳酸菌を原料とし、ブルガリア株(Lactobacillus bulgaricus)とサーモフィルス株(Streptococcus thermophilus)が大量に存在し、その発酵作用で作られた物」と定められている。日本において乳等省令では「はっ酵乳」のことである。

人体への効果

乳酸菌は通常、腸内細菌として棲息しているが、ヨーグルトの乳酸菌は、内定着することはできない。ただし、その代謝物などが腸内のウェルシュ菌Clostridium)などを減少させ、Bifidobactoriumなどの在来乳酸菌を増殖させるという整腸作用をもつ。結果として、腸内細菌叢中のウェルシュ菌などの比率の低下と産生される物質を減少させ、腸管免疫系を活性化させるとされている[3]。乳酸菌の耐酸性には差違がありヨーグルトでよく利用されている「ブルガリア株」は胃酸で不活化(死滅)する。また、生存し胃を通過したとしても小腸内で胆汁酸により不活化(死滅)するため大腸内に定着はしない[4]が、その菌体や代謝産物が腸内で有効に働くとされる。一方、ビフィズス菌もヨーグルトで利用されるが、胃酸、胆汁酸で不活化(死滅)せず、大腸内で定着する性質を有する[5]。定常的に摂食することで乳清由来乳酸による腸内環境が弱酸性(pH5.3〜)化し、糞便菌叢の胆汁酸(弱アルカリ:pH8.2〜)に耐性があるクロストリジウム属(Clostridium)株の生育を減少させ、腐敗産物(アンモニア、フェノール、p-クレゾール、インドール、スカトールなど)生成量を低減させると報告されている[6]が、詳細メカニズムは解明されていない[6]

「免疫力を高める」「アレルギーが治る」などの宣伝文句が使われるが、ヒトを対象にした臨床試験では支持する結果が得られていない[7]とする指摘もある。

乳中の水溶性ビタミンは乳源動物の血中濃度にほぼ依存し変化する[8]が、牛乳にビタミンCがほとんど含まれていないのは、ウシなどの動物は自らビタミンCを合成できるので摂取する必要がないためである。乳酸菌は発酵の際にビタミンCも生成し、発酵前の生乳等のビタミンCよりも濃度が高くなる[9]。このため、ヨーグルトには若干のビタミンCが含まれている。また、乳清の弱酸性による加水分解酵素活性化能により。

ヨーグルトが形成される過程で、乳酸菌の働きによりラクトースの一部がグルコースガラクトースに分解されるため、乳糖不耐症の牛乳を飲むと下痢をしてしまう人がヨーグルトと共に牛乳を飲んだ場合、牛乳だけよりも症状が軽減される[10]との研究がある。

発酵

発酵行程において乳酸菌のL.bulgaricusS.thermophilusは共生関係にあると報告されている。これは、それぞれの菌単独で発酵させた場合よりも数分の1の短時間で発酵が進むことで分かる。この菌は長期間の共生により、代謝物を相互に利用しあたかも1つの菌のように振る舞う。その結果、ゲノムサイズが縮小するという進化を起こしている[11]

基本的な作り方

単体で種菌を入手し牛乳と混ぜることで作ることもできるが、市販されているプレーン・ヨーグルトに含まれる乳酸菌を使って作ることもできる。したがって、おいしいヨーグルトを種として取っておき、それを使うこともできる。ただし、雑菌の混入を完全に阻止出来ない一般家庭において植え継ぎ(残ったヨーグルトを続けて種菌として使用し続ける)を行った場合、環境中に常在している乳酸菌が混入し増殖するほか、乳酸菌以外の雑菌として大腸菌Escherichia coli), Klebsiella aerogenes, Citrobacter freundiiなども増殖する可能性がある[12]が、雑菌の混入は外見からは判断できないとする見解がある[12]

基本的な作り方は以下のとおりである。ヨーグルトメーカーを使うと作りやすい。

  1. 乳を沸騰させ、30度から45度程度(菌種によって異なる)に冷えるのを待つ。
  2. 種菌またはヨーグルトを小量混ぜる。
  3. 30度から45度程度(菌種によって異なる)で一晩置く(暖かい地方では単に放置する)。65℃の温度で23秒間加熱すれば乳酸菌殺菌できることが知られている[13]ため、乳が高温すぎると乳酸発酵が行われない。

ブルガリアでは伝統的なヨーグルトはセイヨウサンシュユなどの葉の朝露にいる乳酸菌から作られているが[1][14]、日本にもあるサンシュユの木の枝を使ってもヨーグルト状のものを作ることができる[15](ただし、安全かは不明[14])。

近代的な製法では、温度調整済と殺菌済み原料乳と副原料(脱脂粉乳やバターなど)に培養した種菌(乳酸菌スターター)を加え、40℃から45℃の環境下に一定時間置くことで生産される[1]。プレーンヨーグルトでは一定の状態に達した物を、冷却により発酵を停止しさせ容器への充填を行う。あるいは、加熱殺菌を行い加糖ヨーグルトや果実加工品、低カロリー甘味料などを添加した製品が大量生産される。なお、種菌(菌株)の組合せ、発酵温度、発酵時間、酸素濃度などの調整により異なった特徴を与えることが可能である[1]

世界のヨーグルト

地域毎に原料乳や製法が異なるため、様々な特徴をもつヨーグルトが存在している。

  • ブルガリアのヨーグルトは先住民のトラキア人により始まり、支配者が変わってスラブ人に引き継がれ、現代に続いている。自家製ヨーグルトを作り始めるのは、ゲオルギオス(聖人)の日である5月6日とされている[1][16]が、近代的な工場で大量生産された製品も多く流通し、現在でも常時どの家庭でもヨーグルトを料理などに使っている。また、ヤギの乳を使ったヨーグルトなどいろいろなものが販売されている。素焼きの入れ物に入れて作り、そのまま素焼きの器ごと販売する地域が多いのは、菌がバランスを崩さすに生きるのを助けるためである。この場合、常温のまま販売される。また、素焼きの器は多孔質なので、水分が適度に抜けてヨーグルトがほどよく濃縮されるという効果がある。
凡例
  • 地域名:ヨーグルトの名前 - 使われる乳のタイプ
    • 特徴など。

カルグルト

カルグルトは、皇室で食されるヨーグルトで、発酵には皇室専用の菌を使い、牛乳はジャージー種ホルスタイン種低温殺菌牛乳をミックスさせて作られ、水で割って飲まれている[17]

ヨーグルトを使用した料理・食品

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トルコ料理のヨーグルトソース、ジャジュク(cacık)。ギリシャのザジキなどと類似した料理

欧米や東アジアではデザートとして食べることが多いが、南アジア中央アジアカフカース中東では塩味の料理に頻繁に用いられる。煮込み料理に加えたり、野菜と和えるほか、タンドリーチキンマリネケバブソースにも使われる。

世界各地には、インドのラッシーやトルコのアイランなど様々なヨーグルト飲料が存在する。欧米ではスムージーに加えたり、氷菓フローズンヨーグルト)の素材とすることもある。

イランの「カシュク(Kashk)」、アフガニスタンの「クルート(Qurūt)」、アラブ人の「ラバナ(Labanah)」など、ヨーグルトを脱水加工した保存食品もある。

ヨーグルトを使用した料理・食品

日本におけるヨーグルトの普及

日本では歴史的には「酪」(らく)と呼ばれ、仏教伝来とともに寺院の中などで伝えられていたが、寺院の外の庶民には広まらなかった。

日本国内では明治20年代、ヨーグルトは「凝乳」の呼び名で牛乳の残りを利用した整腸剤として販売されており、名のあるものでは1912年、東京の阪川牛乳店により「ケフィール」という滋養食品が開発されている[18]。そして1915年広島市チチヤス乳業ヨーグルトの名称で販売をおこなった[19]が、工業生産され一般に普及したのは太平洋戦争後であり、1950年明治乳業から発売された「ハネーヨーグルト」(瓶入り)が知名度を大いに高めた。ヨーグルトは、発売開始当初は牛乳瓶と同じ瓶に入れられて販売されていたが、消費者の目には「腐ったミルク」「固まったミルク」と見られてしまい、販売業者にクレームが出たことから、牛乳との誤解を避けるため、前述の「ハネーヨーグルト」を経て1975年以降は、徐々に紙容器等を経て現在の形状のテトラパックやプラスチック容器に入れて販売されるようになっていった。初期のヨーグルトは寒天やゼラチンで固められガラス瓶に充填されたハードタイプで[19]、プレーンタイプの普及は特有の酸味と香りにより普及が進まず、受け入れられるまで期間が必要であった[19]

なお、日本の明治乳業は、メチニコフの誕生日の5月15日を「ヨーグルトの日」と制定している。

種類

市販のヨーグルトは以下の種類に分けられる。

製法では容器に充填してから発酵させるハードタイプなヨーグルトとなる後発酵と、タンク内で発酵させたのちに容器に充填するソフトタイプなヨーグルトとなる前発酵がある[20]

プレーンヨーグルト
生乳や脱脂粉乳、クリーム、乳タンパクなどの乳製品のみを調合し発酵させたタイプ。後発酵のハードヨーグルトが多いが前発酵を用いたソフトヨーグルトタイプもある。
ハードヨーグルト
固形のヨーグルト。甘味料や果肉などが加わる。後発酵タイプと、前発酵タイプがある。前発酵タイプでは寒天やゼラチンなどのゲル化剤で固めてハードタイプとする。
ソフトヨーグルト
前発酵でタンクで発酵させたあとカードを破砕、撹拌し半流動性を持たせたもの。撹拌中に果肉などを混合させる。
フローズンヨーグルト
アイスクリームのように前発酵のヨーグルトをフリージングしたもの。
ドリンクヨーグルト
前発酵のヨーグルトを均質機などで細かく砕いて液状にしたもの。
動物乳を主原料としないヨーグルト
大豆ヨーグルト(Soy yogurt)には、大豆豆乳とブルガリアヨーグルトにもつかわれているストレプトコッカス サーモフィルスラクトバチルス ブルガリクスが使われる。

2012年現在は、大型(400〜500グラム前後)のプレーンタイプのものと、70〜100グラム前後の個食用プラスチック容器に入った加糖・味付きタイプの2種類が主に流通している他、150〜200グラムのタイプのものも。また、一部には往年の「ハネーヨーグルト」のようなガラス瓶(大雑把には牛乳瓶を太くして口を広げ、高さを縮めた形のもの)など様々な形状で販売されている。

おもなヨーグルトの菌株例
メーカー ヨーグルト 菌株
明治 ブルガリア ヨーグルト ラクトバチルス ブルガリクス 2038、ストレプトコッカス サーモフィルス 1131
LG21 ラクトバチルス ガセリLG21
R-1 ラクトバチルス ブルガリクス OLL 1073R-1
森永 ビヒダス ビフィドバクテリウム ロングム BB536
雪印 ナチュレ ラクトバチルス ガセリ SP、ビフィドバクテリウム ロングム SP
フジッコ カスピ海 ヨーグルト ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス FC
ヤクルト ソフール ラクトバチルス ガゼイ シロタ
メイトー LKM512 ビフィドバクテリウム ラクティス LKM512
タカナシ LGG ラクトバチルス ラムノーザス GG
オハヨー 生乳ヨーグルト ラクトバチルス アシドフィラス L-55
ルナ バニラヨーグルト ビフィドバクテリウム HN019、ラクトバチルス プランタラム HSK201
ダノン BIO ビフィドバクテリウム BIO
カルピス 届く強さの乳酸菌 プレミアガセリ菌CP2305

出典

関連項目

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 堀内啓史、ヨーグルトの温故知新 ― ブルガリアの伝統的なヨーグルトを科学することで生まれた研究成果 ― 日本乳酸菌学会誌 Vol.23(2012) No.3 p.143-150
  2. 牧野聖也、池上秀二、ヨーグルト乳酸菌が産生する菌体外多糖の利用と培養条件の影響 日本乳酸菌学会誌 Vol.24(2013) No.1 p.10-17
  3. 後藤真生、「腸内常在菌は腸管免疫系にどのように影響するか?」 『化学と生物』 Vol.38(2000) No.4 P248-249
  4. 瀧口隆一、鈴木豊、乳酸菌の人工消化液中での生残性 腸内細菌学雑誌 Vol.14(2000-2001) No.1 P11-18, doi:10.11209/jim1997.14.11
  5. 神戸保、 「ヨーグルト」 『生活衛生』Vol. 27(1983) No. 4 P 224
  6. 6.0 6.1 寺田厚、原宏佳、長部康司 ほか、ヨーグルトの投与が糞便菌叢および腐敗産物生成量に及ぼす影響 食品と微生物 Vol.10(1993-1994) No.1 P.29-34
  7. 夏目幸明、「ヨーグルトは身体に良い」はウソだった!? ダイヤモンドオンライン 2016年7月22日
  8. 佐藤基佳ほか、「乳牛と新生子牛の血中ビタミンB1、B2、B6およびB12濃度」 『動物臨床医学』 Vol.12(2003) No.2 P93-98
  9. 石井智美、「内陸アジアの遊牧民の製造する乳酒に関する微生物学的研究」 『国立民族学博物館地域研』JCAS連携研究成果報告4、2002、pp103-123 (PDF)
  10. 村尾周久ほか、「乳糖不耐症者による牛乳とヨーグルト飲用後の呼気中水素と腹部症状の相違」 『日本栄養・食糧学会誌』 Vol.45(1992) No.6 P.507-512
  11. 佐々木泰子、ヨーグルトを造る乳酸菌共生発酵研究の最近の知見 日本乳酸菌学会誌 Vol.26(2015) No.2 p.109-117
  12. 12.0 12.1 村上和保、家庭で作られるケフィールの細菌汚染状況 日本家政学会誌 Vol.46(1995) No.9 P.881-883
  13. 野白喜久雄ほか 『改訂醸造学』 1993年3月。ISBN 978-4-06-153706-4
  14. 14.0 14.1 日本植物生理学会-みんなのひろば- 質問:樹木の枝に住む乳酸菌について
  15. @nifty:デイリーポータルZ:牛乳に木の枝を入れるとヨーグルトになるらしい
  16. 世界の人々の暮らし 〜ブルガリア〜 日本成人病予防協会
  17. 横田哲治 『天皇家の健康食』 新潮社、2001年12月、18-21頁
  18. 宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』P213 角川ソフィア文庫
  19. 19.0 19.1 19.2 小田宗宏、身近で活躍する有用微生物II 食品と有用微生物 -西洋の食文化と微生物 (PDF) モダンメディア 2016年11月号(第62巻11号)
  20. ヨーグルトの製造方法|ヨーグルトと乳酸菌飲料|乳と乳製品のきほん知識|一般社団法人日本乳業協会
  21. 新沼杏二『チーズの話』 新潮選書 P107〜108 ISBN 4-10-600238-8

外部リンク