ホタル

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ファイル:Luciola lusitanica.jpg
Luciola lusitanicaのオスの正面
発光するホタル(日本)
ホタルの発光部位は腹部の後方である
ファイル:Lampyris noctiluca.jpg
メスや幼虫も光る(画像はLampyris noctilucaのメス)

ホタル(蛍、螢)は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル科 Lampyridae に分類される昆虫の総称。発光することで知られる昆虫である。

概要

おもに熱帯から温帯の多雨地域に分布し、世界にはおよそ2,000種が生息しているとされる。幼虫時代を水中ですごす水生ホタルと陸上の湿地ですごす陸生ホタルがいる[1][2]

日本で「ホタル」といえば、本州以南の日本各地に分布し、5月から6月にかけて孵化するゲンジボタル Luciola cruciata を指すことが多い。日本ではゲンジボタルが親しまれていて、これが全てのホタルの代表であるかのように考えられるが、実際には遥かに多様な種がある。国内には約40種が知られるが、熱帯を主な分布域とするだけに、本土より南西諸島により多くの種がある。

さらに南に下った台湾では約58種が生息しており、初夏にホタルを鑑賞する観光行事も行われている。

ゲンジボタルの成虫が初夏に発生するため、日本ではホタルは風物詩ととらえられているが、必ずしも夏だけに出現するものではない。たとえば朝鮮半島中国対馬に分布するアキマドボタル Pyrocoelia rufa和名通りにに成虫が発生する。西表島で発見されたイリオモテボタル Rhagophthalmus ohbai は真に発光する。

形態

成虫の体長は数mm-30mmほどで、甲虫としては小型-中型である。体型は前後に細長く、腹背に平たい。特に前胸は平らで、頭部を被うことが多い。よくある色合いは全体に黒っぽく、前胸だけが赤いというものである。その体は甲虫としては柔らかい。オスとメスを比べるとメスのほうが大きい。メスは退化して飛べない種類があり、さらには幼虫のままのような外見をした種類もいる。成虫期間は約1-2週間。

幼虫はやや扁平で細長い。頭部は胸部に引っ込めることができる。胸部に短い三対の歩脚があり、腹部の後端に吸盤があって、シャクトリムシのように移動する。

食性

多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってマイマイキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本にすむゲンジボタルヘイケボタルクメジマボタルの3種の幼虫は淡水中にすんでモノアラガイカワニナタニシミヤイリガイなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である。(実際、ファーブル昆虫記に登場するホタルは陸棲で、カタツムリを補食する。)また、スジグロボタルの幼虫は普段は陸上で生活するが、摂食時のみ林内の小さな湧き水や細流の水中に潜り、カワニナを捕食していることが知られている。ゲンジボタルやヘイケボタルなど水生の種では、幼虫・成虫ともに水草スイカのような香りがある。

多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため、ほぼ1-2週間の間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる。海外の種の中には成虫となっても他の昆虫などを捕食する種類がいる。

発光

ホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫はをもっており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態、ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。ただし、それらは体色が蛍に似るものであり、発光するわけではない。

や幼虫の時代にはほとんどの種類が発光する。成虫が発光する種は夜行性の種が大半を占め、昼行性の種の成虫では強く発光する種も存在するが、多くの種はまず発光しない。夜行性の種類ではおもに配偶行動の交信に発光を用いており、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。このため、「交尾のために発光能力を獲得した」と言う説も有力である。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。成虫が発光する場合はも発光するので、このような種は生活史の全段階で発光することになる。昼行性の種では、光に代わって、あるいは光と併用して、性フェロモンをコミュニケーションの媒体としていると考えられる[2]

変わった例では以下のような種類もいる。

  • 一方の性のみ発光する。
  • 他種の雌をまねて発光し、その雄をおびき寄せて捕食してしまう。
  • 雄が一か所に集まり一斉に同調して光る。東南アジアマングローブ地帯で、一本の木に集まって発光するものが有名。ゲンジボタルも限定的ではあるが集団がシンクロ発光するのが見られる[3]

発光のメカニズム

発光するホタルの成虫は、腹部の後方の一定の体節に発光器を持つ。幼虫は、腹部末端付近の体節に発光器を持つものが多いが、より多くの体節に持っている場合もある。

ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素とATPがはたらくことで発光する。発光は表皮近くの発光層でおこなわれ、発光層の下には光を反射する反射層もある。ホタルに限らず、生物の発光は電気による光源と比較すると効率が非常に高く、熱をほとんど出さない。このため「冷光」とよばれる。

おもな種類

日本には40種類以上のホタルがいるといわれる。代表的な種類には以下のようなものがいる。

ゲンジボタル Luciola cruciata Motschulsky, 1854
体長15mm前後で、日本産ホタル類では大型種。成虫の前胸部中央には十字架形の黒い模様がある。幼虫はの中流域にすみ、カワニナを捕食する。初夏の風物詩として人気が高く、保全への試みが日本各地で行われているが、遺伝的に異なる特性を持った他地域のホタルの増殖・放流による遺伝子汚染が問題になってもいる。
ヘイケボタル Luciola lateralis Motschulsky, 1860
体長8mm前後で、ゲンジボタルより小さい。おもに細流や水などの止水域で発生する。幼虫はカワニナだけでなくモノアラガイタニシなど様々な淡水生巻貝類を幅広く捕食し、やや富栄養化した環境にも適応する。また時には干上がる水田のような環境でも、鰓呼吸だけではなく空気呼吸を併用し、泥に潜って生き延びる。成虫の出現期間は長く、5月から9月頃まで発光が見られる。
ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874
体長は7mm前後で、ヘイケボタルより更に小型の陸棲のホタルである。西日本の林地や草地に分布する。幼虫は林床にすみ、マイマイキセルガイなどを捕食する。5-6月に羽化し、かなり強く発光するが、川辺などの開けた場所ではなく森林内などの人目につきにくい場所で光るのであまり知られていない。名古屋城の堀の中に広がる草地には、都市部では珍しい大規模な生息地があることが知られている。メスは飛行できないため分布地の移動性は小さく個々の個体群は隔離されがちで、地域により体長など遺伝的特性の差が著しい。
マドボタル Pyrocoelia
マドボタル属 Pyrocoelia の総称で、多くの種類がある。和名はオスの胸部にのような2つの透明部があることに由来する。メスは翅が退化していて、蛹がそのまま歩き出したような外見をしている。幼虫は陸生で、主に小型のカタツムリ類を捕食し、他の陸生のホタル幼虫に比べて夜には活発に光りながら草や低木にもよじ登るので、よく目立つ。成虫はよく光るものも痕跡的な発光しかしないものもある。本州東部には中型種のクロマドボタル、本州西部と四国、九州には中型種のオオマドボタル、対馬には大型種のアキマドボタルが生息し、南西諸島では何種もの大型種が島ごとに種分化している。
オバボタル Lucidina biplagiata Motschulsky, 1866
体長10mm前後。体は黒色で平たく、前胸に2つの赤い斑点があり、尾部も赤い。他のホタルと同じような体色だが、昼行性でほとんど発光しない。幼虫は森林の土壌中で、小型のミミズを捕食している。

なお、ベニボタルは和名に「ホタル」とあるがホタル科ではなく、同じホタル上科のベニボタル科(Lycidae)の昆虫である。

ホタルの保護と復活

多摩動物公園昆虫館でホタル飼育技術を確立した矢島稔は、昭和40年代以来、皇居ほか各地のホタル復活に手を貸してきた[4]。現在では自然保護の気運も高まり、自然回復や河川の浄化を含めて、自治体などの取り組みとしてゲンジボタルの保護や放流が行われるようになっている。

しかし、ホタル復活を謳いながら実はビオトープが「造園業者が手掛ける箱庭」「人寄せパンダ」に過ぎなかったり、ホタルの養殖販売業者からホタルの幼虫や成虫を購入して放すだけだったりする場合も少なくない[5]。ホタルをめぐってのトラブルも各地で発生しており、解決すべき課題も多い。

  • ホタルを放流したはいいが、川辺の護岸や植生により定着できない
  • ホタル狩りの観光客がライトを点灯させ、ホタルの活動が妨げられた
  • ホタル狩りの観光客が道を塞ぎ、地域住民の交通に支障を来たした[1]
  • 川を汚さないようにと、子供たちの川遊びまでも禁止された
  • ホタルとコイを同じ水域に放流した

なお、他地域のゲンジボタル、または幼虫の餌となるカワニナを放流することは遺伝子汚染を引き起こすため、行うべきではない。

ファイル:Hotarugari.jpg
摂津名所図会「蛍狩り」1796~1798
ファイル:Hotarugari Mizuno Toshikata.jpg
水野年方「三十六佳撰 螢狩 天明頃婦人」1891 年
ファイル:Hotaru kuniyoshi.jpg
歌川国芳「四季遊観 納涼(すずみ)のほたる」1843年

文化

夜に発光しながら活動するホタル類、特にゲンジボタルは古来から日本で人気のある昆虫の一つで、ホタルを題材とした文化も数多い。ホタル発光研究の草分けとして知られる神田左京は「ホタル」の名が日本書紀(彼地多有蛍火之光神)や万葉集(螢成)にすでに見られると指摘する[6]

ゲンジボタルを中心とする日本に於けるホタル鑑賞のことを特に「ホタル狩り」という。ホテルなどでの催しとしてホタルを放つ例もある。 また、ゲンジボタル以外が完全に無視されていたわけではなく、陸生のマドボタルなどの幼虫は土蛍(つちぼたる)と呼ばれ、これに言及したものも見掛けられる。なお、ヒカリキノコバエの幼虫がこの名で呼ばれることがある。

蛍狩りの唄として「ホーホー蛍来いこっちの水甘いぞ」云々が知られる。横須賀市自然・人文博物館によると、「甘い水」とは農薬洗剤に汚染されていない水で、ことさら砂糖水のような甘味のついた水分に好んで集まるわけではない。

慣用句

  • 蛍二十日に蝉三日 : 旬の時期が短いことの喩え。
  • 蛍雪、蛍雪の功、蛍の光 窓の雪、車胤聚蛍(しゃいんしゅうけい) : 東晋車胤並びに孫康の故事から「夏はホタルの光で、冬は雪明りで勉強する」という意味で、苦学することの喩え。
  • 蛍火 : 蛍の光、淡い光から転じて、小さく消え残った火の喩え。
  • 「腐草」(くちくさ)。ホタルの異名。かつてホタルは朽ちた草からできたものという俗説に基づく言葉である。

俳句・短歌

小説・映画

楽曲

(作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

「蛍」の付く言葉

  • 蛍烏賊:(体の各部に発光器を備え、光を発することから)
  • 蛍族:(ベランダでの喫煙の姿が、まるで蛍の火のように見えることから)
  • 蛍火:(蛍が発する光のことを指す季語)
  • 蛍袋:(鐘形花のそのさまが、提灯(火垂る=蛍)に似ていることから)
  • 蛍石:(蛍光を持つことが発見された最初の鉱物)
  • 蛍光蛍光灯:(蛍の光が熱を出さないということから)

「ホタル」の名の付く生物

ホタルは発光する生物の典型と見なされ、生物発光を行なう生物にはホタルイカウミホタルなど往々にしてホタルの名がつけられる。また、蛍狩り等との関連で名がついたものにホタルブクロなどがある。また、ホタルはベイツ型擬態のモデルともなっており、そのために似た体色の別群の昆虫がある。ホタルガホタルカミキリなどはこれに近い。

「蛍」の付く地名


ホタルの名所

脚注

  1. 1.0 1.1 『だれでもできるホタル復活大作戦』
  2. 2.0 2.1 『謎とき昆虫ノート』
  3. 『ホタルの木』
  4. 矢島稔『昆虫誌』
  5. 『ホタル学』
  6. 神田左京『ホタル』

参考文献

関連項目

外部リンク