ホウレンソウ

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ホウレンソウ(菠薐草、学名:Spinacia oleracea)は、ヒユ科アカザ亜科ホウレンソウ属野菜雌雄異株ほうれん草とも表記される。高温下では生殖生長に傾きやすくなるため、冷涼な地域もしくは冷涼な季節に栽培されることが多い。冷え込むと軟らかくなり、味がよりよくなる。

歴史

ホウレンソウの原産地は、中央アジアから西アジア、カスピ海南西部近辺と見られているが野生種は発見されていない。初めて栽培されたのはアジア、おそらくはペルシア地方(現在のイラン)だったと考えられている。ヨーロッパには中世末期にアラブから持ち込まれ、他の葉菜類を凌いで一般的になった。東アジアにはシルクロードを通って広まり、中国には7世紀頃、日本には江戸時代初期(17世紀)頃に東洋種が渡来した。伊達政宗もホウレンソウを食べたという。19世紀後半には西洋種が持ち込まれたが、普及しなかった。しかし、大正末期から昭和初期にかけて東洋種と西洋種の交配品種が作られ、日本各地に普及した[1]

ホウレンソウの「ホウレン」とは中国の唐代に「頗稜(ホリン)国」(現在のネパール、もしくはペルシアを指す)から伝えられた事による。後に改字して「菠薐(ホリン)」となり、日本では転訛して「ホウレン」となった[2][3]

品種

日本では西洋種(葉が厚く丸みを帯びている)と東洋種(葉が薄く切り込みが多く根元が赤い)の2種類が栽培されているが、東洋種は病気、寒さに弱く虫が付きやすいため栽培が難しいという理由によりここ数十年の間に急速に西洋種もしくは西洋種の一代雑種に取って変わった。現在国内のスーパーで見かけるほうれん草は大半が西洋種であるが、東洋種の味の良さが近年見直されつつある。

栽培

ホウレンソウの種子は外殻に包まれており、そのままでは発芽率が悪いことから、経済的な栽培にはネーキッド種子と呼ばれる裸種子が用いられる。種子はテープシーダー等に封入され、圃場に播かれる。子葉展開後本葉が展開し、葉伸長2〜30cmの頃に収穫期を迎える。

ホウレンソウがおいしくなる時期は冬である[注釈 1]。収穫前に冷温にさらすこともしばしば行われ、これらの処理は「寒締め(かんじめ)」と呼ばれている。これは東北農業試験場(現在の東北農業研究センター)が確立した栽培方法である[4][5]。ホウレンソウが収穫可能な大きさに育ったら、ハウスの両袖や出入り口を開放し、冷たい外気が自由に吹き抜けるようにする。このまま昼夜構わず放置する。ホウレンソウは約5℃を下回ると伸長を停める。寒締めを行ったホウレンソウは、低温ストレスにより糖度の上昇、ビタミンCビタミンEβカロチンの濃度の上昇が起こる。

ホウレンソウはビニールハウスでも育てることが出来る。

収穫量と作付面積

世界

ファイル:Production Quantity & Area Harvested of Spinach all of the world 1961-2013.png
世界のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1961-2013年)

世界における生産量は中華人民共和国が85%を占め他国を圧倒しているが、日本は世界第3位にランクインする主要生産国である[4]

世界の収穫量上位10か国(2013年)[6]

収穫量順位 収穫量(t) 作付面積(ha)
1 中華人民共和国 21,080,600 728,150
2 アメリカ合衆国 336,200 16,285
3 日本 258,427 19,973
4 トルコ 220,274 22,465
5 インドネシア 131,248 41,621
6 フランス 118,709 6,091
7 イラン 105,118 5,183
8 ベルギー 100,900 4,100
9 パキスタン 100,151 8,317
10 大韓民国 91,116 6,391
世界計 23,231,898 910833

日本

ファイル:Production Quantity & Area Harvested of Spinach in Japan 1973-2013.png
日本のホウレンソウの収穫量と作付面積の推移(1973-2013年)

日本で比較的に栽培が多い産地は千葉県埼玉県である[7]。市町村別の生産量は岐阜県高山市が最も多い[8]。日本における2013年の年間生産量は250,300tであり[9]、生ものはほぼ全部を自給しているが、冷凍ものが約2万t輸入されている。

収穫量上位10都道府県(2013年)[10]

収穫量順位 都道府県 収穫量(t) 作付面積(ha)
1 千葉県 34,300 2,240
2 埼玉県 26,100 2,140
3 群馬県 19,800 1,820
4 宮崎県 18,200 997
5 茨城県 16,300 1,140
6 岐阜県 12,100 1,300
7 福岡県 9,090 627
8 神奈川県 7,920 689
9 北海道 6,750 678
10 愛知県 6,650 489
全国計 250,300 21,300

収穫量上位10市町村(2013年)[10]

収穫量順位 市町村 所属都道府県 収穫量(t) 作付面積(ha)
1 高山市 岐阜県 8,680 960
2 太田市 群馬県 4,830 466
3 久留米市 福岡県 4,400 298
4 徳島市 徳島県 3,750 389
5 伊勢崎市 群馬県 3,400 347
6 川越市 埼玉県 3,220 252
7 所沢市 埼玉県 2,850 226
8 狭山市 埼玉県 2,100 168
9 渋川市 群馬県 2,010 166
10 石井町 徳島県 1,570 160
全国計 250,300 21,300

利用方法

生食用品種など例外はあるが、灰汁が多いので基本的に下茹でなどの加熱調理が必要になる。 和食ではおひたし胡麻和え・白和えといった和え物常夜鍋などの鍋物に利用されるほか、すり潰したのち茹でて緑の色素を取り出したものを青寄せといい、木の芽和えの和え衣の色付けに用いる。

洋食ではソテーオムレツの具、キッシュ、裏ごししたものを使ったポタージュなどに用いるほか、灰汁の少ない生食用のものはルッコラオランダガラシなどと共にサラダに使われる。

栄養

ビタミンA葉酸が豊富なことで知られる。ルテインというカロテノイドを多く含む。おひたし、胡麻和え、バター炒めなど様々な形で調理される。調理するとかさが3/4程度に減る。

ホウレンソウは緑黄色野菜の中では鉄分が多い方であるが、コマツナよりは少ない。ただし葉酸は鉄分の吸収を促進するため、葉酸が鉄分と共に豊富なホウレンソウを食べれば、他の「鉄分は豊富だが葉酸がホウレンソウより豊富でない緑黄色野菜」を食べた場合よりも実際に摂取出来る鉄分が多くなるので、ホウレンソウを食べる事が効率のよい鉄分摂取に繋がり、ひいては貧血予防に繋がる事は確かである。

ホウレンソウにはシュウ酸が多く含まれており、度を越えて多量に摂取し続けた場合、カルシウムの吸収を阻害したり、シュウ酸が体内でカルシウムと結合し腎臓や尿路にシュウ酸カルシウムの結石を引き起こすことがある。シュウ酸はカルシウムとの結合性を有するので、削り節牛乳などカルシウムを多く含む食品と同時に摂取することで、シュウ酸を難溶解性のシュウ酸カルシウムとしてカルシウムと結合させ、シュウ酸が体内に吸収されにくくすることができる。またシュウ酸は水溶性であるため、多量の水で茹でこぼすことでシュウ酸を茹で汁中に溶出させるなど、生食を避け調理法を工夫する事が要される。

ホウレンソウのスピナコシド(spinacoside)類とバセラサポニン(basellasaponin)類には小腸でのグルコースの吸収抑制等による血糖値上昇抑制活性が認められた[11]


ホウレンソウ(100g中)の主な脂肪酸の種類[14]
項目 分量(g)
脂肪 0.39
飽和脂肪酸 0.063
16:0(パルミチン酸 0.049
一価不飽和脂肪酸 0.01
多価不飽和脂肪酸 0.165
18:2(リノール酸 0.026
18:3(α-リノレン酸 0.138


脚注

注釈
  1. 俳句では、春の季語に分類される。
出典
  1. 講談社編『旬の食材:秋・冬の野菜』、講談社、2004年、p.20.
  2. デジタル大辞泉「菠薐草:ホウレンソウ」 コトバンク 2015年5月30日閲覧。
  3. ほうれんそう (菠薐草)」跡見群芳譜 2015年5月30日閲覧。
  4. 4.0 4.1 今が旬の「ほうれんそう」のお話”. 農研機構. . 2008閲覧.
  5. 真冬の寒さを活用した寒じめ菜っぱの栽培マニュアル
  6. FAOSTAT>DOWNLOAD DATA” (英語). FAOSTAT. FAO. . 2014閲覧.
  7. 農林水産省/ほうれんそう生産量上位について”. 農林水産省. . 2015閲覧.
  8. 高山市農政部農務課・高山市農業経営改善支援センター連絡会. “平成25年版 高山市の農業”. 高山市農政部農務課. 2015年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2015閲覧.
  9. 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). . 2015閲覧.
  10. 10.0 10.1 作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成25年産野菜生産出荷統計>年次>2013年”. e-Stat. 総務省統計局 (2014年12月15日). . 2015閲覧.
  11. 薬用食物の糖尿病予防成分 -医食同源の観点から-、吉川雅之、化学と生物Vol.40、No.3、2002
  12. http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/search/
  13. 『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年5月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007
  14. USDA National Nutrient Database