サザエ

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サザエ栄螺拳螺[1]、学名:Turbo sazae[2][3])は、腹足綱古腹足目リュウテン科(別名:リュウテンサザエ科、サザエ科)に分類される巻貝の一種。サザエ亜属(Batillus Schumacher, 1817)のタイプ種。日本では代表的な食用貝類の一種で、サザエの壺焼きなどでよく知られる。棘のある殻が特徴的であるため各種の意匠や比喩などに利用されてきたが、個体によって棘のないものもある。小型のものは近縁種のナンカイサザエと同様に「姫さざえ」などの名で市場に出回ることもあるが、「ヒメサザエ」という種があるわけではない。

形態

は大型で、殻高、殻径ともに10cm以上になる。殻に棘があるものと無いものがあり、それぞれ有棘型、無棘型と呼ばれるが、棘の発達の度合いは色々あり、成長の途中から棘が出たり、あるいは消失したりする場合もある。棘の発達した外海の個体を水流のない水槽などに移して飼育すると、その後は多くの個体で棘を形成しなくなり、逆に棘の発達しない個体を外海に放流すると棘を形成することが知られている。このため、かつては「波の荒い外海に棲む個体は流されるのを防ぐために棘を形成し、波の荒くない内海ではその必要が無いため棘無しになる」という説があった。しかし、実際には波の荒い地域であってもトゲ無しの個体が確認され、またその逆の場合も存在し、飼育実験でも個体によっては棘の有無と水流とが合致しない例もあることから、棘の有無には環境要因と遺伝的要因の両方が関与しているのではないかと考えられるようになった。

体の表面には黒褐色の細かい線状の斑紋が多くあるため、全体に黒っぽい。頭部には1対の触角があり、その基部近くの外側には眼が、内側には眉毛のような肉質のひさしがある。足は筋肉質でよく発達しており、蹠面(せきめん:足の裏面)は黄土色 - 橙色。全体が縦の溝で左右2つに分かれていて、これを左右交互に動かしながら前進する。足の後方背面には厚い石灰質の蓋を持つ。本来の蓋は、裏側に見える褐色で緩やかな螺旋状を呈するクチクラ質のもので、その表面に二次的に炭酸カルシウムが沈着しているのである。この石灰質の表面に緩やかな渦巻き状のウネと多数の細かい棘 - イボ状突起があるのがサザエの特徴である。サザエ類の蓋の彫刻は種によって異なることが多く、従来より属の分類などにも用いられてきたが、やや人為分類的なきらいもある。

雌雄異体であるが、殻や軟体の外見からは区別できない。成熟した個体では生殖腺の色が異なり、雌が深緑色、雄がクリーム色となるが、生殖腺は殻の最奥部に位置するため通常は観察できない。現在知られている唯一の直接観察の方法は、内部の生殖腺の色が透けて見える程度に殻頂付近の殻表面を削る方法であるが、観察個体を傷つける可能性もあり、個体数が多い場合は手数がかかるため、養殖施設などでの実用にはあまり向かない。

生態

潮間帯から水深30m程度までの岩礁に生息する。浅い場所には小型個体の密度が高く、大型個体ほど深所に生息する傾向がある。夜行性で、夜になると岩礁を動き回り、海藻歯舌で削り取って食べる。幼貝のうちはイトマキヒトデイボニシカニ類などに捕食され、成貝の敵はヒトの他にクロダイネコザメ(別名:サザエ割り)、タコなどである。

分布

東アジアの海水温が高い海域の、外海に面したに多く生息している[4]黒潮暖流)が支配的な日本列島太平洋側の九州から千葉県外房辺りまで、および、対馬海流(暖流)が支配的な日本列島東シナ海側の九州 - 朝鮮半島南部 - 日本列島日本海側の秋田県男鹿半島辺りまで[4]。対馬海流は津軽海峡にまで至るため、新潟県から北海道南部の沿岸部にも分布するとの説もある。

食材

刺身、あるいは殻ごと焼いた壺焼きで食べる。特に壷焼きは有名である。貝の出口側に筋肉質な部位があり、ビラビラした帯状のはかまとはかまの辺りに青色の砂袋がある。その奥には生殖腺(雄は灰色、雌は緑色と性別で色が違う)がある。生殖腺は独特の苦みを持つと思われているが、実は苦くなく甘い。わたのビラビラから渦巻き柄のあたりまでの間、のあるあたりに苦みがある。 貝類は光過敏症などを引き起こす貝毒や重金属が蓄積することがあり、一般に市販ルートでは貝毒検査を経たものが取り扱われているが、これらは、プランクトンを食する二枚貝が対象であり、サザエは検査対象ではない。

冬から春が旬で、夏は産卵期に当たるため身が痩せる。

主な栄養素

可食部100gあたり[5]
タンパク質 19.4 g
脂質 0.4 g
カリウム 250 mg
亜鉛 2.2 mg
ビタミンB12 1.3 µg

陸揚げ漁港

  • 2002年度(平成14年)
第1位 - 下関漁港山口県
第2位 - 藍島漁港(福岡県
第3位 - 八幡浜漁港愛媛県
第4位 - 宮窪漁港(愛媛県)
第5位 - 佐田岬漁港(愛媛県)

文化

語源

「さざえ」は殻を小さい家に見立てた「ささ」(小さいの意)「え(い)」(家の意)の意味であるとされる[1]。「栄螺」は大きくなった渦巻状の貝、「拳螺」は渦巻状の拳のようであるとの意味である[1]

ことわざ

  • 夏のサザエは口ばかり:「口先だけの人」の意。旬を過ぎたサザエは身が痩せてしまって、大きさの変わらない殻の口が相対的に大きく見えることから。
  • サザエに金平糖:互いにツノを突き合せて理屈を並べて、自説を譲らない者同士を皮肉った言葉。

学名

サザエの学名としては、1786年に英国ジョン・ライトフットEnglish版が命名した Turbo cornutus が長らく用いられていた[3]。2017年、福田宏(岡山大学)は、これまで種の同定に問題があったためサザエには有効な学名がなく、未記載種(新種)として扱われるべきとする論文を発表、サザエの学名として Turbo sazae を命名した[3]

福田の研究によれば、ライトフットが Turbo cornutus と命名したのは、中国原産のナンカイサザエであった[3]。1848年、英国の貝類学者ロベル・オーガスタス・リーブはナンカイサザエとサザエを混同してサザエを Turbo cornutus と呼び、この誤同定が引き継がれることになった[3]。リーヴはこの時同時に、シーボルトが日本で発見したサザエを Turbo japonicus と命名したのだが、のちにこれはモーリシャス産の別種と混同されて固定された[3]。1995年、ナンカイサザエとサザエは異なる種として識別され、ナンカイサザエの学名として Turbo chinensis が記載された[3]。福田によれば、新種として記載されるべきであったのはサザエのほうであり、 Turbo chinensisTurbo cornutus に対する重複命名(新参異名)であって無効である[3]。このため、福田はサザエには今まで一度も有効な学名が与えられていない未記載種であるとした[3]

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 フリーランス雑学ライダーズ編 『あて字のおもしろ雑学』 永岡書店、1988年、53頁。 
  2. Hiroshi, Fukuda (2017-05-16). “Nomenclature of the horned turbans previously known as Turbo cornutus [Lightfoot], 1786 and Turbo chinensis Ozawa & Tomida, 1995 (Vetigastropoda: Trochoidea: Turbinidae) from China, Japan and Korea”. Molluscan Research (AOP). doi:10.1080/13235818.2017.1314741. 
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 驚愕の新種! その名は「サザエ」 〜 250年にわたる壮大な伝言ゲーム 〜 - 国立大学法人 岡山大学”. 岡山大学. . 2017閲覧.
  4. 4.0 4.1 船橋中央卸売市場「サザエ」”. 船橋市. 2009年8月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2009閲覧.
  5. 『食材健康大辞典』314頁

参考文献

  • 奥谷喬司編 『日本近海産貝類図鑑』 東海大学出版会2001年、1173頁。ISBN 4-486-01406-5 
  • 小澤智生・冨田進「中国沿岸産サザエ類の1新種」(OZAWA, Tomowo and TOMIDA, Susumu "A new Turbo (Batillus) species from Chinese coasts.")貝類学雑誌 Venus (Japanese Journal of Malacology) 1995 54(4), pp.269-277.
  • 小澤智生・冨田進「日本産サザエ亜属化石の分類学的研究」貝類学雑誌 Venus 1996 55(4), pp.281-297.
  • 五明紀春監修 『食材健康大辞典』 時事通信社、2005年

関連項目