ケイ素

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ケイ素(ケイそ、珪素、硅素、: silicon: silicium)は、原子番号 14 の元素である。元素記号Si原子量は 28.1。「珪素」「硅素」「シリコン」とも表記・呼称される。地球の主要な構成元素のひとつ。半導体部品は非常に重要な用途である。

地殻中に大量に存在するため鉱物の構成要素として重要であり、ケイ酸塩鉱物として大きなグループを形成している。これには Si-O-Si 結合の多様性を反映したさまざまな鉱物が含まれている。しかしながら生物とのかかわりは薄く、知られているのは、放散虫珪藻シダ植物イネ科植物などにおいて二酸化ケイ素のかたちでの骨格への利用に留まる。栄養素としての必要性はあまりわかっていない。炭素とケイ素との化学的な類似から、SF などではケイ素を主要な構成物質とするケイ素生物が想定されることがある。

バンドギャップが常温付近で利用するために適当な大きさであること、ホウ素リンなどの不純物を微量添加させることにより、p型半導体n型半導体のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素である。半導体部品として利用するためには高純度である必要があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、ケイ素は99.9999999999999 % (15N[1]) まで純度を高められる。また、Si(111) 基板はAFMSTMの標準試料としてよく用いられる。

性質

常温・常圧で安定な結晶構造は、ダイヤモンド構造比重 2.33、融点 1410 °C (1420 °C)、沸点 2600 °C(他に2355 °C、3280 °Cという実験値あり)。ダイヤモンド構造のケイ素は、1.12 eVバンドギャップ(実験値)をもつ半導体である。これは非金属であるが、圧力静水圧)を加えるとβスズ構造に構造相転移する。このβスズ構造のケイ素は金属である。周期表においてすぐ上の元素は炭素だが、その常温常圧での安定相であるグラファイト構造は、ケイ素においては安定な構造として存在できない。

歴史

1787年アントワーヌ・ラヴォワジエがはじめて元素として記載し、ラテン語で「燧石」を意味する "silex"・"silicis" にちなみ "silicon" と命名。だがラヴォワジエは燧石そのものを元素だと思っており、1800年になってハンフリー・デービーにより化合物と判明したことからこれは否定された。1823年イェンス・ベルセリウス四フッ化ケイ素カリウムを加熱して単離に成功した。しかし、それ以前の1811年ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックルイ・テナールが同様の方法でアモルファスシリコンの分離に成功したと考えられている。

用途

赤外光学系

ケイ素は赤外域(波長2-6 μm)で高い透過率があり、レンズや窓の素材に用いられる。波長4 μmの屈折率は3.4255[2]

半導体

最も重要な用途としては、コンピュータのCPU(中央処理装置)四塩化ケイ素トリクロロシランなどから作られる高純度ケイ素半導体作成に用いられることが挙げられる。また、液晶ディスプレイTFT太陽電池にはアモルファスシリコンや多結晶シリコンなどが用いられる。ヒ化ガリウム窒化ガリウムなどの化合物半導体の基板にシリコンを用いれば大幅な低価格化が可能であり、様々な研究が進められている。

ケイ素含有合金

電気炉における製鉄材料として1トンあたり4 kg前後のケイ素が添加されるほか、ケイ素合金として製鉄脱酸素剤に用いられる。そのほかに、ケイ素を混ぜた鋼板(ケイ素鋼板)は、うず電流による損失が少なくなるため、変圧器に使われている。アルミニウム工業の分野でもケイ素の合金が使われている。また、鉛レス黄銅にも添加される。

ケイ素含有セラミックス類

ケイ素の酸化物(シリカ)を原料とするガラスは、その他で使われるほか、繊維状にしたグラスウール断熱材や吸音材としても用途がある。ゼオライトは、イオン交換体、吸着剤あるいは、有機化学工業における触媒ともなっている。シリカゲルは、非常に利用しやすい乾燥剤になる。

炭化ケイ素は、耐火材や抵抗体として使われたり、高いモース硬度 (9.5) を持つために、研磨剤として使われる。その他のケイ素化合物として、アルミノケイ酸塩粘土に含まれ、陶器セメント煉瓦などセラミックスと呼ばれる材料の主成分になっているほか、カルシウム化合物を除去する働きから、の精製に使われるなどしている。

アボガドロ数の決定

ケイ素の単結晶は半導体材料として工業上重要であるため、最も高純度・低欠陥な結晶が実現されている材料の一つである。このことから、28Siのほぼ無欠陥な単結晶により真球を作成し、この真球に含まれる原子数を数えることによってアボガドロ数を決定する試みが行われている[3]

ケイ酸塩・ケイ素樹脂

ケイ酸塩は、さまざまな形で地殻上に存在しており、天然に存在するケイ素化合物のほとんどすべてが二酸化ケイ素およびケイ酸塩である。工業的にも広く用いられ、ガラス、陶磁器など、枚挙に暇がない。アスベストは、繊維状のケイ酸塩鉱物であり、その耐薬品性や耐火性から以前は建材などに広く用いられたが、人体への悪影響が問題になったため、使用量は激減している。日本ではアスベストによる健康被害が社会問題となり、労災認定や健康被害を受けた国民に対しての補償問題、また、依然として多く残るアスベストの撤去に対しての問題を抱える。

有機基を有するケイ素二次元および三次元酸化物はシリコーンと呼ばれる。このものは、優れた耐熱性、耐薬品性、低い毒性などの有用な性質を示し、油状のものはワックス熱媒体消泡剤などに用いられる。三次元シリコーンはゴム弾性を示し、ゴム状のものはホースやチューブ、樹脂状のものは塗料絶縁材、接着剤など各種の用途に利用される。

製法

原料

工業用ケイ素の主原料は SiO2 から成る二酸化ケイ素珪石珪砂、シリカとも)である。日本国内の埋蔵量は2億トンあるとされるが、アルミニウムと同様、酸化物から還元するには大量の電力を必要とするため、金属シリコンの状態になってから輸入するのが一般的である。

世界の二酸化ケイ素の埋蔵量は極めて潤沢であり、高純度のものも世界に広く分布する[4]二酸化ケイ素#埋蔵量を参照。

精製

金属グレード (MG) シリコン
ケイ素の単体はカーボン電極を使用したアーク炉を用いて、二酸化ケイ素を還元して得る。この際、精製されたケイ素は純度99%程度のものである。
[math]\ce{{SiO2} + {C} -> {Si} + {CO2}}[/math]
[math]\ce{{SiO2} + {2C} -> {Si} + {2CO}}[/math]
高純度ポリシリコン
さらに純度を高めるには、塩素と反応させ四塩化ケイ素とし(ガス化)、これを蒸留して純度の高い製品を得る。
[math]\ce{{Si} + {2Cl2} -> {SiCl4}}[/math]
[math]\ce{{SiCl4} + {2H2} -> {Si} + {4HCl}}[/math]
半導体グレード (SEG) シリコン
集積回路など半導体素子に使用する超高純度のケイ素(純度 11N 以上)は、上記の高純度シリコンからさらに FZ(フローティングゾーン)法などのゾーンメルティングCz(チョクラルスキー)法などの単結晶成長法による析出工程を経ることで製造される。
ゾーンメルト法では融解帯に不純物が濃縮する過程を繰り返すことで高純度のケイ素を得る。Cz 法においては偏析を利用して高純度化するため、原料であるポリシリコン(多結晶珪素)には非常に純度の高いものが要求される。半導体に利用するには基本的に結晶欠陥(転位)のない単結晶が必要なので、FZ 法(フローティングゾーン)においても Cz 法(チョクラルスキー)においても単結晶を回転させながら一旦細くし、転位を外に追い出した段階で結晶の径を大きくすることにより所定の大きさの結晶を得る。FZ 法は大口径化に向かないため、産業用に使用されているシリコンウェーハの大部分は Cz 法によって製造されている。現在製品化されているシリコンウェーハの径は直径300 mmまでである。
太陽電池グレード (SOG) シリコン
再生エネルギー発電の需要増大が起きる前の太陽電池の製造および需要事情は 半導体グレード (SEG)グレードほどの需要に応えられるような超高純度は必要なく、7N 程度の純度で済み、また多結晶でも充分目的が果たせられる。このため上記の単結晶シリコンインゴットの端材などが原料に利用されてきた。
しかし、再生エネルギー発電の需要増大に伴い、専用の太陽電池グレード(ソーラーグレード)シリコンの生産法が開発されている。手順としては上記の半導体グレード(SEG)の精製工程を簡略化した方法のほか、下記のような手法が用いられる。半導体グレード(SEG)に比べ、使用するエネルギーや製造費用が数分の1以下になるとされる手法が多い(ソーラーグレードシリコンを参照)。
  • 流動床炉 (FBR) 法:種結晶を気流で巻き上げながら、表面にシリコンを析出させる。
  • 冶金法:金属グレードシリコンから冶金学的手法によって直接ソーラーグレードシリコンを製造する。
  • 水ガラス化法:珪石 (SiO2) を水ガラス化した状態で高純度化してから還元する。
  • NEDO溶融精製法:金属グレードシリコンを電子ビームやプラズマで溶融させて特定の不純物を除いたあと、一方向凝固させる。
ソーラーグレードシリコンは2006年(平成18年)頃には高純度シリコン市場の約半分を占め、今後もその割合は拡大すると見られている[5]。今後はソーラーグレードが高純度シリコン生産量の大部分を占め、半導体級は特殊品になっていくと予測されている[6]。また太陽電池用シリコン原料は2008年(平成20年)までは供給の逼迫で価格が高止まりしていたが、2009年(平成21年)からは価格の低下が予測されている[7]

ケイ素化合物

同位体

生物

  • 珪藻はケイ素を外部から取り込み細胞壁に利用している。珪藻の堆積物は珪藻土と呼ばれる。
  • 一部の植物ではケイ素の量と成長との間に関連がある。また病原体への抵抗力とも関連している。[8]
  • ラットでは、骨と結合組織(皮膚、爪、髪、気管、腱、大動脈)にケイ素が多い。[8]
  • ヒトの体内には平均1グラムのケイ素が含まれる。[9]

摂取

摂取基準

安全性に関するデータが十分ではなく、日本や米国でも摂取基準などは定められていない。

推定摂取量

ヒトの推定摂取量を次に示す(表)。

ケイ素の推定摂取量[8]
西側諸国 20 - 50 mg/日
インド 143 - 204 mg/日[10]
中国 139 mg/日

以下はイギリスでの食品中のケイ素の量を計測したデータ。ケイ素を比較的多く含む食品を抜粋した。

安全性

  • 健康な腎機能を有する人では、通常の食物からの摂取量では問題が起こることはないと考えられている[8][12]
  • 医薬品やサプリメント等によるケイ素を含む化合物の長期の摂取では腎結石、腎障害などを起こす可能性がある。[8]
  • ケイ素が172mg Si/L含まれる湧水の摂取によると考えられる腎結石の報告がある。[13] 十分に管理されていない湧水井戸水鉱泉などの天然水には高濃度のケイ素が含まれることがある。
  • ケイ素を含む粉体の吸入により珪肺など呼吸器系の障害を起こすことがある。

脚注

  1. 「9」(Nine)が15個並ぶことを意味する略称。
  2. 岸川利郎 (1990). ユーザーエンジニアのための光学入門. オプトロニクス. ISBN 4-900474-30-4. 
  3. B. Andreas et al. (2011). “Determination of the Avogadro Constant by Counting the Atoms in a 28Si Crystal”. Physical Review Letters (American Physical Society) 106: 030801. doi:10.1103/PhysRevLett.106.030801. http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.106.030801. 
  4. SAND AND GRAVEL(INDUSTRIAL), アメリカ地質調査所
  5. Wacker Polysilicon: Expansion Announcement June 2006(Wacker 社による生産量拡大のアナウンス資料)
  6. 河本洋、奥和田久美、高純度シリコン原料技術の開発動向(科学技術政策研究所)
  7. New Energy Finance Predicts 43% Solar Silicon Price Drop, greentechmedia, 18 August 2008
  8. 8.0 8.1 8.2 8.3 8.4 “SILICON AND BONE HEALTH”. The journal of nutrition, health & aging 11 (2). (2007). PMID 17435952. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2658806/. 
  9. John Emsley (2011). Nature's Building blocks, New Edition, Oxford University Press. ISBN 978-0-19-960563-7. 
  10. インドは男性のビール摂取量が多く、ビールにはケイ素が多く含まれるため数値が高いと考えられている。シリカ#ろ過助剤を参照のこと。
  11. “A provisional database for the silicon content of foods in the United Kingdom”. British Journal of Nutrition 94. (2005). doi:10.1079/BJN20051542. PMID 16277785. 
  12. ケイ素、ケイ素化合物 - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所
  13. “Renal silica calculi in an infant”. International Journal of Urology 11 (2). (Feb 2004). doi:10.1111/j.1442-2042.2004.00746.x. PMID 14706018. 

参考文献

  • SOG 製法
    • 山田興一小宮山宏「太陽光発電工学」ISBN 4-8222-8148-5
    • 小長井誠「薄膜太陽電池の基礎と応用」ISBN 4-274-94263-5
  • SEG 製法 シリコンウェーハ
    • 志村史夫「半導体シリコン結晶工学」ISBN 4-621-03876-1
  • 『シリコンの物語 エレクトロニクスと情報革命を担う』フレデリック・サイツ著 堂山 昌男・北田 正弘訳 内田老鶴圃 2000年発行 ISBN 4-7536-6131-8

関連項目

外部リンク

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