エスペラント

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エスペラント (Esperanto) とは、ルドヴィコ・ザメンホフとその弟子(協力者)が考案・整備した人工言語。母語の異なる人々の間での意思伝達を目的とする、国際補助語としては最も世界的に認知され、普及の成果を収めた言語となっている[1]

概要

言語のシンボル
緑星旗 ユビレーア・スィムボーロ 緑の星
緑星旗 ユビレーア・スィムボーロ 緑の星

エスペラントを話す者は「エスペランティスト」と呼ばれ、世界中に100万人程度存在すると推定されている(使用状況を参照)。

当初は特別な名称を持たなかった(単に「国際語」とされていた)が、創案者のラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフが「エスペラント博士(D-ro Esperanto)」というペンネームを使って発表したため、しだいにこの名で呼ばれるようになった(「エスペラント博士の国際語」と呼ぶのは面倒)。この「エスペラント」という単語は、エスペラントで「希望する人」の意味である。ザメンホフは、帝政ロシア領(当時)ポーランドビアウィストク出身のユダヤ人眼科医で、1887年7月14日Unua Libro(最初の本)でこの言語を発表した。

ザメンホフは世界中のあらゆる人が簡単に学ぶことができ、世界中で既に使われている母語に成り代わるというよりは、むしろすべての人の第2言語としての国際補助語を目指してこの言語をつくった。現在でも彼の理想を追求している使用者が多くいる一方、理想よりも実用的に他国の人と会話したり、他の国や異文化を学ぶためのものと割り切って使っている人もかなりいる。今日では異なる言語間でのコミュニケーションの為の他、旅行文通国際交流文化交流の場合が多い)、ラジオインターネットラジオも含む。無線の場合、短波が多い)、インターネットテレビなど様々な分野で使われている。英語国際共通語として当然視してしまう姿勢への対抗的姿勢が、とって代わるべき国際補助語としてこのエスペラントを持ち出すこともあった。中国語では「世界語」と呼ぶ。今後は翻訳ソフトの精度向上によってその内部の理論に使われたり、実生活で直接見聞きする割合が変化する可能性がある。 

歴史

ファイル:Ludwig Zamenhof 1887.jpeg
エスペラントの草案者、L.L. ザメンホフ
ファイル:Unua Libro.jpg
1887年にワルシャワで出版されたエスペラントについての最初の本"Unua Libro"

エスペラントは1880年代ラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフによって創案された。最初の文法書・単語集は1887年に発表された。

言語の開発

最初、ザメンホフはラテン語の復権が言語問題の解決策になると考えていたが、実際にラテン語を学ぶとその困難さに気づいた。一方で、英語を学んだ際、名詞の文法上の性及び複雑な格変化並びに動詞の人称変化を省略できないかと考えた。 言語を学習するにはたくさんの単語を覚えなければならないが、街を歩いているとき偶然、ロシア語で書かれた二つの看板を見て、解決策を思いついた。 швейцарская(シュヴェイツァールスカヤ 門番所)とкондитерская(コンディテルスカヤ 菓子屋)という二つの看板には、共通して-skaja(スカーヤ 場所)という接尾辞が使われていた。 彼は一つ一つ別々に覚えなければならないと思われていた単語を、接辞を使って一つの単語から一連の単語群として作り出せるようにする方法を考えた。基本となる語彙は、多くの言語(ただし、ヨーロッパの言語に限られる)で使われているものを採用した。

1878年、現在のエスペラントのプロトタイプといえるLingwe uniwersala(リングヴェ ウニヴェルサーラ)を、ザメンホフはギムナジウムの同級生たちに教えた。その後6年間、まず各民族語の文学作品の翻訳と詩作に取りかかり、新しい言語の欠陥や運用上の扱いにくさを無くすことにした。ザメンホフは後の1895年ロシアエスペランティストニコライ・ボロフコに宛てた手紙に「私は6年間を言語を完璧にするために費やした。たとえそれが1878年の段階で既にできあがっていたとしても」と書いている。彼はもう既に自らの言語を公表できる準備ができていると考えていたが、ロシア政府の検閲がそれを許さなかった。これにより公表が遅れたが、その間、彼は旧約聖書シェークスピアの作品などをエスペラントに翻訳し、言語の改良も重ねていった。1887年、ようやく出版されたUnua Libro(最初の本)でエスペラントの基礎について紹介した。こうして今日話されているエスペラントが世に出された。

最初の世界大会まで

最初のうち、エスペラントの話者どうしの交流の手段としては、文通か雑誌『La Esperantisto』(1889年から1895年まで発行)程度しかなかった。1905年までに17のエスペラント関係の雑誌が発行された。活動は最初ロシアや東ヨーロッパに限られていたが、次第に西ヨーロッパアメリカアジアに広がっていった。日本では1906年二葉亭四迷が日本最初のエスペラントの教科書『世界語』を著した。

1904年小規模な国際会議が開かれ、それが1905年8月、フランスブローニュ=シュル=メールで行われる最初の世界エスペラント大会の開催につながる。このときは33の国から688人が参加した。大会でザメンホフは、エスペラント運動の指導者としての地位を公式に放棄した。ザメンホフ自身がユダヤ人であったため、反ユダヤ主義による偏見が言語の発展を妨げるのを恐れたためである。彼はエスペラント運動の原理に基づいたブローニュ宣言を提案し、大会出席者たちはこれを採択した。

言語の発展

1905年にフランスのブローニュで開催された第1回世界エスペラント大会で、『エスペラントの基礎』の変更を制限する宣言が採択された。宣言は、言語の基礎をザメンホフが出版した『エスペラントの基礎』(Fundamento de Esperanto フンダメント デ エスペラント)から変更してはならないとし、いかなる者もこれを変える権利を有しないとした。この宣言は使用者が適当と思うように新しい考えを発表しても良いとしている[2]

しかしながら実際には、現代のエスペラントの使い方は『エスペラントの基礎』で示された「お手本」と完全に一緒というわけではない。例えば「私はこれが好きです。」の一文をエスペラント文に翻訳するときを例に説明する。『エスペラントの基礎』に沿って訳せば"Mi amas ĉi tiun."(ミ アーマス チ ティーウン)となるが,これは「私はこれを愛しています。」の意味となり、少し意味が強すぎてふさわしくないと感じるエスペランティストが多く、実際には"Mi ŝatas ĉi tiun."(ミ シャータス チ ティーウン)で代用することが多いが、これは元来「私はこれを高く評価します。」という意味であり、元の意味からは少しずれている(ただし,現行の辞書では動詞"ŝati"を「好きだ」の意味で使うことを追認している)。また、"Ĉi tiu plaĉas al mi."(チ ティーウ プラーチャス アル ミ)と訳すこともある。逐語訳すれば「これは私に気に入る」であり、完全に同じ意味ではないが、こちらの訳の方が「私はこれが好きです。」の意味に近い。

ほかの慣習的な変化としては、国名を表す接尾辞-uj-から-i-が主流に変わったことがある(例:JapanujoJapanio[3]。また、厳密に言えば、エスペラント化された単語のうち-aで終わる単語はすべて形容詞であるが、ヨーロッパ諸語でのMariaのように-aで終わる名前が使われることがあり、これを慣習的にエスペラント化された名詞として認められる辞書もある[4]。ただし、『エスペラントの基礎』に従うなら、エスペラント化された名詞は、すべてMarioのように-oで終わらなければならないはずであり、この立場をとる辞書もある[5]。またĥの発音がとりわけ難しいとされてkに置き換えられる[6]など、語形変化も起こっている。

加えてエスペランティストたちは、新しく登場した事物や概念、外来語を表すために、さまざまな新語を取り入れた。例えば1934年発行の"Plena Vortaro"は7004項目(ほぼ語根)からなるが、2005年発行の"La Nova Plena Ilustrita Vortaro"は16780項目からなる[7]。これらはそのまま使うのではなく、可能な限りエスペラントの造語法などに従った形で取り込まれている。例えば、コンピュータ(computer)はkomputilo(コンプティーロ)といった具合である(道具を意味する接尾辞-il-を使っている)。これにより、テレビやウェブやWindowsやMacなど、ザメンホフの時代には存在しなかった事物も自由に表現できるようになっている。「CD-ROMの中のbinというフォルダにあるボールペンのアイコンをダブルクリックするとウィンドウズにワープロのプログラムやファイル、フォントなどがインストールされます。このときインターネットに自動的にアクセスするので、通信を許可するようにファイアウォールを設定してください。」といった文章も、現代のエスペラントでは表現できるのである。

新語の導入はエスペランティストなら誰でも提案することができ、最終的には一種の「競争原理」を勝ち抜いて最も頻繁に使われるようになったものが受け入れられる。例えば「コンピュータ」に関しても、komputatorokomputero など様々な提案が行われたが,最終的にエスペランティストにとって最も簡潔と思われるkomputiloが勝ち残ったのである[8](この際,動詞komputi「計数・計量する」に「計算機で計算(演算)する」という意味が付け加えられた)。エスペラントの言語としての統制機関としてアカデミーオ・デ・エスペラントが在るが、個々のエスペランティストをがちがちに縛り付けるようなことはしていない[9]

新語はどんなものでも受け入れられるとは限らない。例えば「安い」を意味する新語ĉipa(チーパ・英語のcheapに由来)は、長たらしいmalmultekosta(マルムルテコスタ:mal/multe/kost/a=「(反対)・多く・費用・(形容詞)」)に代わるものとして造られたが、あまり使われていない。

最初の世界大会以降

1905年以降、世界エスペラント大会は二つの世界大戦の間を除き、毎年開催されている。

1920年代国際連盟作業言語にエスペラントを加えようという動きがあった。イギリスのロバート・セシルや日本の新渡戸稲造をはじめ10人の各国代表者が賛同したが、フランスの代表者ガブリエル・アノトーの激しい反対にあい、実現しなかった。フランス語英語国際語の地位を脅かされつつあり、エスペラントを新たな脅威とみなしていたからである。

年表

分類

エスペラントは人工言語であるため、公式にはどの自然言語とも類縁関係にないとされている。どの国の言語でもないため言語による民族感情に左右されず、特定の民族に有利になったり不利になったりしないため、だれでも使用の恩恵を受けられると言われている。

しかし実際には文法、語彙ともにヨーロッパの諸言語、とりわけロマンス語を基礎に成立しているため、既存の語族に分類した場合、エスペラントは印欧語族に分類されるとの見方が20世紀初頭からある。そのため、非ヨーロッパ言語の話者には習得や運用が難しい(英語等、他の自然言語よりはまし、という程度でしかない)という、日本を含む非ヨーロッパのエスペランティストからの指摘もある。

発音体系はスラブ語の影響を受けているが、語彙は主にロマンス語フランス語イタリア語スペイン語ポルトガル語等、約7割)、ゲルマン語ドイツ語英語等、約2割)から採用している。ザメンホフが定義していない文法上の語用論については、初期の使用者の母語、すなわちフランス語ポーランド語ロシア語ドイツ語等の影響を受けている。特にフランスハンガリーなどのエスペランティスト達の働きは無視出来ない。

ラテン語及びギリシア語等と同様、語順は自由であるが、慣習上、英語と同じようなSVO文型が多い。また形容詞名詞の前に立つことが出来る。主格及び対格以外のは、前置詞によって示される。印欧語特有の屈折語的性格と、語幹に接辞が付属していく膠着語的性格とを併せ持つ(特に膠着語的性格が際だっている)言語であり、これは英語・ドイツ語などとも共通する点が多い。

使用状況

ファイル:PS mapo 2015.png
エスペラント利用者の分布(Pasporta Servoによる宿泊施設の位置)

エスペラントの使用者人数調査は、ワシントン大学の心理学教授シドニー・S・カルバートによって行われた。彼自身エスペラント大会に出席したことがあるエスペランティストであった。カルバートは160万人の人々がエスペラントを "Foreign Service Level 3" の能力で使いこなすことができると結論づけた。これは「専門的で堪能な」(エスペラントで挨拶と簡単な表現ができることにとどまらず、実際に意思伝達ができる能力を有する)人々に限定した数字である。この調査はエスペラント使用者を探し出すものではなく、多くの言語の世界的な調査の一部分が元になっている。この数字は Almanac World Book of Facts と Ethnologue にも登場した。この数字は世界人口の大体 0.03% に相当する。この数字では、ザメンホフが目指した普遍語には程遠い。Ethnologue はこのほかエスペラントを母語として育った、エスペラント母語話者が 200 から 2000 人いると言及した。

カルバートは研究の結果だけ公表し、調査方法の詳しい点については明らかにしなかった。それゆえ、彼の研究の正確性は疑われている。ドイツのエスペランティスト、ズィーコ・ファン・ダイクはこの数字を疑い、調査して『神話なしのエスペラント(Esperanto sen mitoj)』の中でその結果を発表した。「もし、100 万人のエスペラント話者が世界中に平均的に散らばっているとしたら、ケルンには 182 人いることになる」と予想した。ズィコゼックは 30 人しか流暢に話す人を見つけることができなかった。そして、この数字は世界の平均的な地方よりも高い方である、と言及した。彼はまた、「さまざまなエスペラントの組織の登録者数が 20,000 人おり、組織に登録されていないエスペランティストもたくさんいるだろうが、登録されている人の 50 倍もいるとは考えにくい」ということも言及した。他のエスペランティストたちも組織の登録者数と非登録者数がそんな比率で存在しないと考えている。カルバート教授のデータ、あるいはその他のデータもエスペランティストの人口を確実にはじき出すことは不可能である。

公的地位

エスペラントを公用語としている国は存在しない。20世紀初頭には、ベルギーとドイツの国境付近に存在した中立地帯モレネの公用語をエスペラントにする案が提案されたこともある。1968年アドリア海上に石油プラットフォームに似た人工島をつくって独立宣言した自称国家であるローズ島共和国はエスペラントを公用語として採用したが、翌年にはイタリア海軍により爆破され消滅した。非政府組織、特にエスペラント関係団体などでは作業語として使われている。最も大きいエスペラントの組織、世界エスペラント協会(UEA)は、NGOの一つとして国連ユネスコと協力関係にある。

UEAにおいて日本を代表する国別団体として、1919年に設立され、1926年に財団法人化された日本エスペラント協会(JEI)が活動している。2018年現在の会員数は1108人である[10]

派生言語

エスペラントの基礎』はエスペラントを改造することを認めていない。しかしながら、年月がたつに従って、たくさんの団体・個人がエスペラントの改善を試み、その改造案を提示した。改善の対象となったのは字上符つき文字や女性形語尾-in-、形容詞の格の一致などが多い(最後についてはザメンホフ自身も失敗であったと回顧している)。

改造案のほとんどは失敗か計画段階にとどまったが、唯一1907年パリで行われた国際語選定代表者会で発表されたルイ・ド・ボーフロンによるイド改造案(イド語)はある程度の支持者を得た。イドの主な改造はアルファベット(特に,字上符付き文字の排除)と幾つかの文法事項の変更であった。初期には比較的多くの人がイド改造案に賛同したが、この運動は改造に次ぐ改造を呼び次第に分裂していった。今なお、250 から 5,000 人がイド語を使用しているとされるが、使用人口・影響力ともエスペラントとは比較にならず、これもまた「成功した」とは言い難い。

Fasile などの新しい国際言語案もエスペラントを意識したものと言えるが、これもエスペラントを脅かすレベルまでには全く到達していない。

アルファベット

エスペラントのアルファベットalfabeto(アルファベート)と呼ばれ、ラテン文字アルファベットにサーカムフレックス付きアルファベット ĉ, ĝ, ĥ, ĵ, ŝブレーヴェ付きアルファベット ŭ を加えた28文字を使用する(ただし、ĥ は k に置き換えられる傾向にあり、今日ではあまり見られない)。q、w、x 及び y は人名や科学記号など特殊な場合を除いて使用しない。各字母の名称は、母音字はその発音、子音字はその子音に母音 -o を付けたものである(a アー、b ボー、c ツォー、ĉ チョーなど)。 ちなみに q、w、x 及び y の名称は、それぞれ q クーオ、w ドゥオブラ・ヴォー(又はヂェルマーナ・ヴォー若しくはヴァーヴォ)、x イクソ、及び y イプスィローノ(又はイ・グレーカ)である。 テンプレート:エスペラントアルファベット

代用表記

英文タイプライターなどでダイアクリティカルマークが付いた文字が表示できないとき、別の文字に置き換えてダイアクリティカルマーク付き文字を表現することを代用表記Surogata skribosistemo)と呼ぶ。h, x あるいは ^ などを文字の後ろ(又は前)に加え、ダイアクリティカルマーク付き文字であることを示す方式が主流だが、ŭを w に置き換えるなど、エスペラントで使用しない文字に置き換える方法もある。何を後置するかによって、H-方式、X-方式のように呼ぶ。現在はUnicodeが普及したことにより、コンピュータの上では代用表記の使用は少なくなってきている。

H-方式

H-方式(H-sistemo)またはザメンホフ方式(Zamenhofa sistemo)は h を後置する方法で、唯一『エスペラントの基礎』で定義されている方法である。そのため「第2の正書法」とも呼ばれる。ただし u にだけは後置しない。flughaveno(空港)のように代用表記に見える綴りがあると紛らわしいという欠点がある。エスペラントですでに使われている文字を転用するこの方式が採用されたのは、活字の数を増やしたくなかったためと言われている。

X-方式

X-方式(X-sistemo)は x を後置する方法である。x はエスペラントでは使用しないため(エスペラント文に限れば)置き換えるのが簡単であるという利点から、インターネットなどで広く使われている。ただし、フランス語の人名や名詞・形容詞(特に複数形)には -(e)aux, -eux または -oux で終わるものがあるため、このような置き換えたくない文字の処理をどうするかが問題になる。この問題を避けるため、ŭを ux と書かずに vx と書く方法があるが、あまり広まっていない。

エスペラント版ウィキペディア・ウィクショナリーの代用表記

エスペラント版のウィキペディア、ウィクショナリーには、X-方式が使われていて、{{subst:x|c}} を ĉ、{{subst:x|g}} を ĝ と、x が付いた文字を自動的に字上符付きのものに置きかえる機能がついている。以前のバージョンでは [[eauxx]](フランス語で「水」の複数形)と入力すると eaux のように表示はされるがリンク先は "eaŭ" となり、"eaux"という記事名で新しい記事を作ることができない不具合があったが、現在は解消されている。

キャレット方式

^-方式(^-sistemo)は、c^, g^ のように ^(キャレット)を後置する方法である。ŭ については u^, u~ の双方が見られる。H-方式などに比べて見栄えが良くないという欠点はあるが、キャレットがサーカムフレックスと同じ形であることから、初心者やエスペラントを知らない人でも容易に理解できる利点があり、こうした人々を読者に想定した文書などでよく使われる。

TeXでの代用表記

TeXでエスペラントを記述する場合にはH-方式もX-方式も使いにくいと言うことで、babelパッケージでは独自の方式を使うことになっている。この方式では字上符が付くべき文字の直前に ^(サーカムフレックス)を置いて表す。この方式とX-方式はsedawkなどの簡単なスクリプトで相互に変換することができる。

Unicode

かつてコンピュータがダイアクリティカルマーク付き文字を扱えなかったころは、エスペラントを何らかの代用表記で表すしかなかったが、現在はISO/IEC 8859-3(いわゆるLatin-3)やUnicodeの普及により、コンピュータ上でもエスペラントのダイアクリティカルマーク付き文字を表示できるようになった。以下はHTMLなどで表示する場合の数値文字参照による記述である。

文字 Unicode
符号位置
文字参照
10進表現 16進表現
Ĉ U+0108 Ĉ Ĉ
ĉ U+0109 ĉ ĉ
Ĝ U+011C Ĝ Ĝ
ĝ U+011D ĝ ĝ
Ĥ U+0124 Ĥ Ĥ
ĥ U+0125 ĥ ĥ
Ĵ U+0134 Ĵ Ĵ
ĵ U+0135 ĵ ĵ
Ŝ U+015C Ŝ Ŝ
ŝ U+015D ŝ ŝ
Ŭ U+016C Ŭ Ŭ
ŭ U+016D ŭ ŭ

アクセント

「アクセントは常に最後から2番目の音節にある。」(エスペラントの基礎、文法第10条)

エスペラントのアクセント強勢)は akcento(アクツェント)と呼ばれ、日本語のような高低アクセントではなく、英語などと同じ強弱アクセントである。英語では同音でアクセント位置によって意味が異なってしまう desert(砂漠)と dessert(デザート)を、エスペラントでは dezertodeserto のように音を変えて取り入れている。この例は、フランス語の音(それぞれ /dezEr/, /desEr/)から、またはその中間形を、取り入れたとも考えられる。アクセントの位置によって単語を区別する必要がないため、人によって高低アクセントになってしまったり、あまり注意が払われない場合もある。

綺麗に発音するためイタリア語などと同じように、アクセントのある母音を心持ち長めに発音するのが推奨されている(母音の長短そのものは意味の違いをもたらさない)。ただし、最後と最後から2番目の母音の間に子音が2個以上あるときはアクセントのある母音を短く発音し、子音が無いか1個だけのときに長く発音する。これに加えて、最後と最後から2番目の母音の間の複子音の第二要素が l, r のものと kv , dz である場合はアクセントを長く発音するというものもある。

また、特に詩などで、語末の母音を省略することがある(母音が省略されていることを ' アポストローフォで示す)が、その場合でもアクセント位置は変わらない。

単語

最初のエスペラントの語彙は、1887年にザメンホフが出版した Lingvo internacia の中で定義されている。初期には約900語が定義された。しかしながら、言語の使用者は必要に応じて多くの言語で国際的に最も使われている単語を取り入れて使うことが、文法規則(エスペラントの基礎、文法第15条)によって許されている。1894年、ザメンホフは最初の5つの言語(仏・英・独・露・ポーランド)のエスペラント辞書 Universala Vortaro を発表した。そのときから特に西ヨーロッパの言語から多くの外来語がエスペラントに取り入れられた。より多数の使用者が取り入れた単語が人気を得て広まっていった。近年では、新しい外来語や造語のほとんどは技術用語または科学的な用語である。日常的な用語は既にある単語から合成して造られるか(例: komputilo)、あるいは既存の単語に新しい意味を追加して使う傾向にある(例: muso (鼠)はコンピュータの入力機器の意味も持つようになった)。

新しい外来語を取り入れるか、それとも既存の単語から新しい単語を合成したり、既存の単語に新しい意味を加えたりして対応する方が良いのか、この種の議論には限りが無い。エスペラントを学ぶ人は基本単語に加えて、単語が結合する規則なども覚えなければならない(例: eldonejo はそのまま訳すと「出す所」で、それは「出版社」や「発行所」を意味する)。

すべてのエスペランティストが新しい単語を創り出す権利を持っているので、造語法を学ぶことは非常に重要である。新しい単語はエスペラントのコミュニティで使われていく中で次第に淘汰され、ほとんどの場合、最終的に一つの形に落ち着くことになる。例えば「コンピュータ」に相当する語は最初、komputmaŝino、komputilo、komputatoro などいろいろな形が使われたが、最終的に komputilo に落ち着いた。しかし「データ」を表す dateno と datumo など、複数の形が併存している例も見られる。

幾つかの単語はそのままの意味の他に慣習的な意味を持つものがある。例えば、ワニを意味する "krokodilo" から派生した "krokodili" と言う動詞は、「エスペラントを話さなければならないところで自国語を話す」という意味がある。

最大のエスペラント辞典は La Nova Plena Ilustrita Vortaro de EsperantoSAT, 2002, ISBN 2-9502432-5-8)であり、16,780個の語根と46,890個の複合語句が記載されている。2005年、最新の改訂版が出版された(ISBN 2-9502432-8-2)。これは英語などの辞書と比べると非常に少ないように思えるが、実際にはエスペラントの造語法に従って自由に複合語をつくることができるので、実際に世界で使われている語彙は数十倍にのぼると考えられる。

文法

概要

エスペラントは印欧語を基にしているため屈折語的性格を持っていると言われることがあるが、文法上の性を持たず、語幹に一定の接辞(接頭辞・接尾辞)や文法語尾を付け加えて語の意味を限定したり拡張したりするなど、膠着語的性格を遥かに色濃く有しており、実際にはほとんど膠着語であると言って差し支えない。名詞及び形容詞主格及び対格の二つのを持つ。名詞及び形容詞には更に単数(singularo)及び複数(pluralo)の区別があり、形容詞はそれが関わる名詞に合わせて格と数の変化をする。対格語尾には、移動の目標を表したり任意で適切な前置詞の代わりをしたりする働きもある。対格があるので、ロシア語ギリシア語ラテン語又は日本語等のように語順は比較的自由である。なお、動詞は人称変化しない。

品詞

次の品詞区分が『エスペラント日本語辞典』(2006, ISBN 4-88887-044-6)で行われている:名詞、代名詞、形容詞、副詞動詞数詞前置詞等位接続詞従属接続詞間投詞冠詞。また、疑問、指示などに使われる語で、分類からは代名詞、副詞などの広範囲にまたがる45語については総称して相関詞ということがある。なお、代名詞を人称代名詞疑問代名詞指示代名詞などのように分け、動詞を自動詞他動詞と分けるように、さらに細分化して扱うことがある。

品詞語尾と語根

エスペラントでは全ての名詞、形容詞、動詞と、形容詞等からの派生副詞は、語根(radiko)とその単語の品詞をあらわす品詞語尾finaĵo)の組み合わせによって構成される。例えば forto(力)はfort-という語幹と名詞を表す語尾-oから成り立っている。品詞語尾によって単語の品詞がわかり、また品詞語尾を換えることにより品詞を変化させることが出来る。例えば forta とすると「強い」という意味になる。

品詞語尾 -o は名詞(substantivo)、-a は形容詞(adjektivo)、-e は副詞(adverbo)をそれぞれ表す。名詞あるいは形容詞の品詞語尾の後ろに -j を加えると複数形になる。対格にするには -n を名詞あるいは形容詞語尾の後ろにつけ、複数形の場合は複数形語尾の後ろにつける。動詞には法や時制を表す6種類の語尾がある。

形容詞は名詞の数と格に一致させる。すなわち修飾する名詞が複数形の場合は形容詞も複数形にし、対格の場合は形容詞も対格にする。bona(良い)、tago(日)を例に一致の変化を示す。

主格 対格
単数 bona tago bonan tagon
複数 bonaj tagoj bonajn tagojn

形容詞の数と格の一致によって語順がかなり自由となり、また、形容詞‐名詞、名詞‐形容詞のどちらも可能であることによって標準的なSVO型の他、SOV型VSO型などの文も作ることが出来る。ただし初心者はこの「一致」を忘れることが多い(ただし、忘れても会話が成立しなくなるほどの問題になることはないだけの冗長性をエスペラントは備えている)。

  • La knabino feliĉan knabon kisis. (ラ・クナビーノ・フェリーチャ・クナーボ・キースィス)=「その少女は幸せな少年にキスした」
  • La knabino feliĉa knabon kisis. (ラ・クナビーノ・フェリーチャ・クナーボ・キースィス)=「その幸せな少女は少年にキスした」

合計すると二個以上になる複数個の単数形の名詞を修飾する形容詞は複数形にする。

  • ruĝaj domo kaj aŭto. (ルーヂャ・ドーモ・カイ・アウト)=「赤い[家と車]」
    • この例では家も車も赤いことになる(家も車も単数だが修飾する「赤い」が複数なので、両者にかかっていることがわかる。意味としては、ruĝa domo kaj ruĝa aŭto. (ルーヂャ・ドーモ・カイ・ルーヂャ・アウト)=「赤い家と赤い車」と同じ)。
  • ruĝa domo kaj aŭto. (ルーヂャ・ドーモ・カイ・アウト)=「[赤い家]と車」
    • 上の例に対してこちらは、家は赤いが車の色は不明である(修飾する「赤い」は単数なので、単数の「家」のみにかかることが明らか)。

叙述的な形容詞は対格としない。

  • Mi farbis la pordon ruĝan. (ミ・ファルビス・ラ・ポルド・ルーヂャ)=「私は赤色のドアを塗った(ドアは始めから赤色)」
  • Mi farbis la pordon ruĝa. (ミ・ファルビス・ラ・ポルド・ルーヂャ)=「私はドアを赤色に塗った(塗った結果として赤色になった)」

派生語と接辞

エスペラントでは語根の数を絞り、その代わり多くの語彙を派生語であらわす。上述の品詞別の単語も派生である。また、接頭辞接尾辞(あわせて接辞という)を有効利用する。例えば、語根longは、

  • 品詞語尾を付けてlonga(ロンガ)=長い、longo(ロンゴ)=長さ、となる。
  • 「反対」の意味の接頭辞malをつけて、mallongという語幹(radikalo)を構成し、これにより、mallonga(マルロンガ)=短い、mallongo(マルロンゴ)=短さ、となる。
  • 「他動」の意味の接尾辞igをつけて、longigという語根を構成し、これにより、longigi(ロンギーギ)=長くする、longigo(ロンギーゴ)=長くする事(即ち「伸長、延長」)、となる。
  • 接頭辞と接尾辞を両方用いて、mallongigという語幹を構成し、これにより、mallongigi(マルロンギーギ)=短くする、mallongigo(マルロンギーゴ)=短くする事(即ち「短縮」)、などもできる。

冠詞

不定冠詞は無い。全ての性、数、格に関係ない定冠詞laがある。」(エスペラントの基礎、文法第1条)

人称代名詞

※()内は同義の英語

単数 複数
1人称 mi (ミ) - 私 (I) ni (ニ) - 私たち (we)
2人称 vi (ヴィ) - あなた/あなたがた (you)
3人称 li (リ) - 彼 (he) ili (イリ) - 彼ら/彼女たち/それら (they)
ŝi (シ) - 彼女 (she)
ĝi (ヂ) - それ (it)
oni (オニ) - ひと/人々 (one, people; 仏語 on)
再帰 si (スィ) - 自身 (self, own; 独語 sich)

対格にするには -n をつける。「私を」は min となる。所有格(所有形容詞、属格)にするには形容詞語尾 -a をつける。「私の」は mia となる。所有形容詞は形容詞の一種なので、普通の形容詞と同じように複数語尾や対格語尾の変化があり、miajn librojn 「私の本(複数)を」のように、名詞の数と格に一致させる必要がある。

動詞

動詞の「不定形」は「不定詞」ともいう。 不定形以外の現在形から命令形までを「定形」又は「定動詞」と呼ぶ。 現在形から未来形までは「直説法」である。 また、仮定形は「仮定法」と、命令形は「意志法」と呼ばれる。

動詞(verbo)に関しては、平叙文での動詞の位置は原則として文の要素のうち主語の後ろに置かれることが多いが、実際にはかなり自由である。エスペラントには助動詞helpverbo)と明確に呼ばれる品詞が無い。povi、devi及びvoli等は、下に示すように西欧語等での助動詞と同じような意味・用法を持っているが、他の動詞と活用上区別されない。同様に、存在動詞にも活用上の区別がない。英語などとは異なり、自動詞と他動詞の区別は厳格である。英語やフランス語などにあるような「時制の一致」はない。不規則動詞は全く存在せず、世界一不規則動詞が少ない言語[11]として、ギネスブックに登録されている。動詞は人称変化しない。例としてkanti(歌う)を使って変化を示す。

不定形 -i(kanti)
現在形 -as(kantas)
過去形 -is(kantis)
未来形 -os(kantos)
仮定形 -us(kantus)
命令形 -u(kantu)

分詞

分詞(Participo)は(能動・受動)と(継続・完了・将然)によって6種類存在する。これらの分詞と、複合時制を作る助動詞のように働く動詞estiの3時制(現在形・過去形・未来形)との組合せによって、エスペラントでは細かい時制表現が可能である。分詞とestiを組み合わせた文では、能動態・受動態それぞれ9種類ずつ、時制表現のバリエーションがある。必要なら現在完了進行形のような複複合時制を作ることもでき、バリエーションは更に増える。以下にバリエーションを列挙する。

  • 現在継続(進行)形
  • 現在完了形
  • 現在将然(未然)形
  • 過去継続(進行)形
  • 過去完了形
  • 過去将然(未然)形
  • 未来継続(進行)形
  • 未来完了形
  • 未来将然(未然)形

9種類もバリエーションが存在するにもかかわらず、分詞を使った複合時制はエスペラントでは好まれない。英語なら現在進行形や現在完了形など複合時制を義務的に用いる表現でも、エスペラントでは相を表す副詞を使用して単純時制で表現する場合が多い。受動態の分詞形容詞を使えば受動文を表現できるが、エスペラントでは受動文を避けて能動文で表現する傾向がある。

分詞は動詞に分詞を作る接尾辞を付けることによって作る。下の表は分詞を作る接尾辞の表である。 例として、形容詞の品詞語尾-aを付けた分詞形容詞を挙げてある。

分詞 能動態 受動態
継続相 -ant- ~している (kantanta) -at- ~されている (kantata)
完了相 -int- ~した (kantinta) -it- ~された (kantita)
将然相 -ont- ~しようとする (kantonta) -ot- ~されようとする (kantota)

分詞形容詞は形容詞の一種なので、格・数の変化をし、分詞形容詞が修飾している名詞に一致させる。形容詞の品詞語尾-aを副詞の品詞語尾の-eに付け替えれば分詞副詞、名詞の品詞語尾の-oに付け替えれば分詞名詞になる。

分詞副詞(例えば kantante「歌いながら」)はイタリア語のジェルンディオ、フランス語のジェロンディフ等のようなもので、文の主動詞に対する同時性等を表したり、分詞構文を作ったりする。分詞副詞は格・数の変化をしない。

他動詞から作られた分詞形容詞と分詞副詞は、対格目的語を取ることができる。

分詞名詞(例えば kantanto「歌っている人」)は分詞形容詞や分詞副詞よりも動詞的性格の薄れた完全な名詞である。たとえ他動詞から作られた分詞名詞であっても対格目的語を取ることはできない。たいていの場合、その動作をする人物を表す。分詞名詞は格・数の変化をする。

エスペラントには4つのが存在する。

直説法

直説法deklara modoreala modo)の時制には現在、過去及び未来があり、それぞれの動詞の語尾は -as、-is 及び -os である。現実(のこととして話し手が表現しようとする)動作及び状態を表現する。継続中の動作は分詞形容詞を使った複合時制を使う方法もあるが、単純時制を使う方が一般的である。

  • Mi estas studento. (ミ・エスタス・ストゥデント。)=「私は学生です。」
  • Li ĵus finis la laboron. (リ・ジュス・フィーニス・ラ・ラボーロン。)=「彼はたった今仕事を終えました。」

ドイツ語などのように、近い過去や近い未来、確定した未来を現在形で言ってしまうことはない。過去はあくまでも過去、未来はあくまでも未来である。確定した未来か未確定の未来かは、エスペラントでは区別されない。

不定法

不定法(不定詞・不定形ともいう。neŭtra modo, infinitivo)の品詞語尾は -i であり、辞書に載っている形である。動詞句をつくることができるが、定動詞とは異なり、主文をつくることはできない。

エスペラントの不定詞(不定形)には時制がない。ちなみにイド語の不定詞には現在、過去、未来の区別がある。

不定詞の名詞的用法

不定詞の名詞的用法(infinitivo kiel subjekto 主語としての不定詞)は不定詞を名詞のように扱うことである。主語、目的語、補語の役割を果たす。目的語として用いられた場合でも、対格語尾 -n は付かない。名詞を修飾するのは形容詞であるが、動詞を修飾するのはあくまで副詞である。これは主語たる不定詞の述語として用いられるのもまた副詞であるということを意味する。

  • Paroli estas facile, fari estas malfacile. (パローリ・エスタス・ファツィーレ、ファーリ・エスタス・マルファツィーレ。)=「言うは易く、行うは難し。」
複合動詞

動詞 devi, deziri, rajti, povi などの後に動詞の不定詞を置くことで、複合動詞(kompleksa verbo)のようにすることができる。英語での助動詞と不定詞との関係とよく似ている。ただし、devi、deziri、rajti、povi などは、いわゆる「助動詞」ではない。エスペラントには「助動詞」という品詞は存在しない。

  • Mi povas paroli vian lingvon. (ミ・ポーヴァス・パローリ・ヴィーアン・リングヴォン)=「私はあなたの言葉を話すことができます」
  • Vi volos reveni. (ヴィ・ヴォーロス・レヴェーニ)=「あなたは帰りたいと思うだろう」
  • Li devis maldungi ilin. (リ・デーヴィス・マルドゥンギ・イーリン)=「彼は彼らを解雇しなければならなかった」

仮定法

仮定法kondiĉa modo, imaga modo)の語尾は-usである。

  • 事実とは逆の仮定
    • Se mi estus birdo, mi povus flugi en la ĉielon.(セ・ミ・エストゥス・ビールド、ミ・ポーヴス・フルーギ・エン・ラ・チエーロン。)=「もし私が鳥ならば、空に向かって飛んで行けるのだが。」

単純な仮定法では時制はないが、厳格に現在、過去、未来の時制を表したい場合は複合時制を使う方法がある。

命令法(意志法)

命令法ordona modo)の動詞の語尾は-uである。命令だけでなく、依頼、要求または禁止など主語に対する話者のそうあって欲しいという「意志」を表現するため、意志法vola modo)とも呼ばれる。命令文で主語がviのとき、特に強調する場合を除いて主語viは省略される。

  • Iru !(イール !)=「行け!」(主語viは省略)
  • Vi iru !(ヴィ・イール !)=「君が行け!」(省略せず、viを強調。他の誰でもなく「君が」行け)
  • Li iru.(リ・イール)=「彼に行かせろ」(彼が行くべきだという話者の意志・願望)
  • Mi iru. (ミ・イール)=「私が行きます」(私こそが行くべきだという話者(すなわち私)の意志)
  • Ni iru !(ニ・イール!)=「行こう!」(私たちが行くんだという話者(すなわちniの中の一人としての私)の意志。英語のLet's go. に相当)
  • Mi petis, ke li savu min. (ミ・ペーティス、ケ・リ・サーヴ・ミン)=「私は彼に助けてと頼んだ」(彼に助けて欲しいという主文の主語(すなわち私)の意志)
  • Ĉu ni iru al la kinejo ?(チュ・ニ・イール・アル・ラ・キネーヨ ?)=「映画に行きませんか?」(私たちが行くべきかどうか、聞き手の意志を尋ねる体裁で勧誘している)

コピュラ

動詞esti は、ラテン語のsum, esse, fui、フランス語êtreイタリア語の essere、英語の beなどに相当するものである。日本語では「ある」と訳されることもある。 非常に重要な動詞で存在を表現したり、コピュラ文の他、分詞形容詞を伴って複合時制の文を作ることが出来る。for-est-i, est-ont-aのようにesti自体に接辞を付ける事ができる。コピュラは2つの名詞句をつなぐ。

表現

あいさつ

  • Saluton. (サルートン。)=「やあ。」
  • Tre agrable. (トレ・アグラーブレ)=「はじめまして。」
  • Bonan matenon. (ボーナン・マテーノン。)=「おはよう。」
  • Bonan tagon. (ボーナン・ターゴン。)=「こんにちは。」
  • Bonan vesperon. (ボーナン・ヴェスペーロン。)=「こんばんは。」
  • Dankon. (ダンコン。)=「ありがとう。」
  • Ĝis revido. (ヂス・レヴィード。)=「さようなら。」/ Ĝis. (ヂス。)=「またね。」

  • Mi estas tre ĝoja konatiĝi kun vi. (ミ・エスタス・トレ・ヂョーヤ・コナティーヂ・クン・ヴィ。)=「あなたと知り合いになれてとてもうれしいです。」
  • Mia nomo estas ~.(ミーア・ノーモ・エスタス・~。)=「私の名前は~です。」
  • Mi estas japano.(ミ・エスタス・ヤパーノ。)=「私は日本人です。」
  • Kiel vi fartas?(キーエル・ヴィ・ファルタス?)=「お元気ですか。」
  • Kio okazas?(キーオ・ オカーザス?)=「何が起こっているのですか。」

記数

  • 1 - unu (ウヌ)
  • 2 - du (ドゥ)
  • 3 - tri (トリ)
  • 4 - kvar (クヴァール)
  • 5 - kvin (クヴィン)
  • 6 - ses (セス)
  • 7 - sep (セプ)
  • 8 - ok (オク)
  • 9 - naŭ (ナゥ)
  • 10 - dek (デク)
  • 100 - cent (ツェント)
  • 1000 - mil (ミル)

日本語由来のエスペラント単語

参考のため語種を付記し、漢語外来語和語の別を示す。付記されていないものは和語である。

  • aikido アイキード (合気道、和製漢語)
  • animeo アニメーオ (アニメ、ラテン語animaからできた英語animationに由来) 日本のアニメ、日本式の画風のものをいう。国を限定しないなら二重語のanimacio
  • bonsajo ボンサーヨ (盆栽、和製漢語)
  • cunamo ツナーモ (津波) 学術用語としての「気象以外の要因による波」だけでなく、単なる大波(ondego)として使われたり、「押し寄せるもの」の例えに使う場合もある。
  • ĉanojo チャノーヨ (茶の湯 → 茶道、前半部ĉaは漢語) japana teceremonioと言う方が多い。
  • ĉirimeno チリメーノ (縮緬、後半部menは漢語)
  • eno エーノ (、漢語)
  • goo ゴーオ (、漢語)
  • hajko ハイコ (俳句、和製漢語)- 派生語としてhajkaro ハイカーロ(句集、俳句集)などがある。
  • harakiro ハラキーロ (腹切り → 切腹
  • haŝioj ハシーオイ () - 日本以外の東アジア圏で使われる箸を総称して合成語 manĝobastonetoj マンヂョバストネートイ(「食事」+「小さな棒」の複数形)が使われる。
  • hibakŝo ヒバクショ (被爆者、和製漢語)
  • ĵudo ジュード (柔道、和製漢語)- 派生語としてĵudejo ジュデーヨ(柔道場)などがある。
  • kamikazo カミカーゾ (神風) 神風特別攻撃隊の略称「神風」が転じて「自爆テロ」も指す。
  • kapao カパーオ (河童
  • karaokeo カラオケーオ (カラオケ、後半部はギリシャ語orkhestraに由来する英語orchestraから)
  • karateo カラテーオ (空手、「唐手」から。)
  • katano カターノ (刀 → 日本刀
  • kimono キモーノ (着物
  • mangao マンガーオ (漫画、和製漢語) 日本風の漫画(japana bildliteraturo)に限定して使用する。日本のアニメを含む場合もある。国を限定しない漫画はbildliteraturoを使用する。アメリカ風ならkomiksoがある。
  • moĉio モチーオ()- 「米製のケーキ」を意味する合成語rizkuko を用いることが多い
  • noo ノーオ (、和製漢語)
  • origamio オリガミーオ (折り紙
  • sakeo サケーオ (酒 → 日本酒
  • samurajo サムラーヨ (
  • suŝio スシーオ (寿司
  • ŝintoo シントーオ (神道、和製漢語)
  • ŝogio ショギーオ (将棋、漢語) Japana ŝako「日本チェス」という言い方もある。
  • ŝoguno ショグーノ (将軍 → 征夷大将軍、漢語)
  • tankao タンカーオ (短歌、和製漢語)
  • tempuro テンプーロ(天ぷら、外来語)
  • tofuo トフーオ (豆腐、漢語)
  • tokusacuo トクサツーオ (特撮
  • udono/udonoj ウドーノ、ウドーノイ (うどん、漢語「饂飩」) 単数・複数のどちらも使われる。
  • utao ウターオ (歌 → 和歌
  • zorioj ゾリーオイ (草履、和製漢語)

エスペラント由来のネーミング

ザメンホフ・エスペラント・オブジェクト

ザメンホフまたはエスペラントに由来するネーミングを持つ物体(モニュメント・場所・建物・乗り物など)は総称してザメンホフ・エスペラント・オブジェクト(Zamenhof/Esperanto-Objekto, ZEO)と呼ばれる。ZEOという単語はヒューゴ・レーリンゲルが1997年に発表した Monumente pri Esperanto[12]で使用した語である。彼はその著作で世界54の国にある1044のZEOを紹介した。 世界エスペラント協会にはZEOを扱う委員がいる。

最初のZEOは1896年に進水したスペインの船舶「エスペラント」である。

著名なエスペラント由来のネーミング

企業・団体別

個人別

エスペラントに関する作品

作品中にエスペラントやエスペランティストが明示的に出てくるものを示す。なお、エスペラントで物事を名づけている場合は「著名なエスペラント由来のネーミング」のセクションも参照のこと。

小説

戯曲

漫画

テレビドラマ

映画

コンピュータゲーム

  • ことのはアムリラート - 2017年8月25日に発売された PC ゲーム。日本エスペラント協会が協力(言語監修)しており、エスペラントをベースにした「ユリアーモ」という異世界語を学ぶという内容になっている。なお、製作ブランドのsukerasparoもsukera(甘い)とsparo(鯛)という意味(たい焼きという意味を持たせた合成語)のエスペラントをベースにして名付けられている。
  • 東方紅魔郷 〜 the Embodiment of Scarlet Devil. - 2002年8月11日に発売された同人サークル上海アリス幻樂団制作の弾幕系シューティングゲーム。東方Projectの第6弾にあたる作品である。エンディングにて魔理沙がエスペラント語についての本を読もうとする描写がある。

立体美術作品

脚注

  1. 二木紘三著、「国際語の歴史と思想」(1981年、毎日新聞社)p.166
  2. M.ボウルトン著、水野義明訳「エスペラントの創始者ザメンホフ」(1993年、新泉社)p.128-130
  3. 藤巻謙一「まるごとエスペラント文法」(2001年、日本エスペラント学会)、p.51
  4. "Plena Ilustrita Vortaro"(1971年、Sennacieca Asocio Tutmonda)
  5. "La Nova Plena Ilustrita Vortaro"(2005年、Sennacieca Asocio Tutmonda)
  6. 辞典編集委員会編「エスペラント日本語辞典」(2006年、日本エスペラント学会)p443・ĥ解説
  7. "La Nova Plena Ilustrita Vortaro"(2005年、Sennacieca Asocio Tutmonda)、前書き
  8. 辞典編集委員会編「エスペラント日本語辞典」(2006年、日本エスペラント学会)p578・該当の語に対する「より望ましい語」の注記による
  9. CED編、"Esperanto en Perspektivo"(1974年、世界エスペラント協会)、p664-669
  10. 財団法人日本エスペラント学会 2017年度事業報告書
  11. 人工言語として。自然言語ではケチュア語などにも不規則動詞が少ない。
  12. Hugo Röllinger "Monumente pri Esperanto - ilustrita dokumentaro pri 1044 Zamenhof/Esperanto Objektoj en 54 landoj",Universala Esperanto Asocio, Rotterdam 1997, ISBN 92 9017 051 4.
  13. [1]
  14. 特定非営利活動法人アニミ
  15. メールマガジン「ハッピー高円寺」2013年6月19日号より
  16. アルバーロ動物病院公式サイト
  17. 株式会社 ARBO 公式サイト
  18. Virina について
  19. ARBARO の名の由来
  20. 「エスペーロ能勢についての紹介」
  21. 株式会社OVOが『就職ベストマッチング交流会2008』を開催 2月24日・東京渋谷/3月1日・大阪梅田
  22. Stelaro の名前の由来が明示されたブログ
  23. http://kuraci-eleganta-hongo.com/greeting/
  24. SWANY バッグ事業部 Q&A集
  25. http://guide.travel.co.jp/article/18929/
  26. Dog life Felicha 公式サイト
  27. Pano Pano について http://panopano.jp/about
  28. http://www.festivalo.co.jp/story/index.html
  29. http://www.puk.jp/theatre/theater.html プーク人形劇場
  30. フードユニオン社の公式サイトによる "Lakto" の解説
  31. http://www.felica.ac.jp/mean.html
  32. http://planedo-organic.com/conce.html
  33. http://twitter.com/kalahenji/status/715117858993233920 Twitter に於ける、この店のツイート
  34. Pomo de Amo という店名の由来
  35. 手作りパン工房ボングスタ
  36. http://www.mediafactory.co.jp/anime/rahxephon/onair/ab_world.html ラーゼフォン 世界観
  37. 街区名称は「丸の内オアゾ(OAZO)」に決定
  38. 「ミルフルクト」公式ブログ
  39. http://www.movado.com/AboutMovado.aspx
  40. http://www.tokoyo.jp/wa_6.php
  41. ヤクルトのマメ知識
  42. Rara Koruso 公式サイトより
  43. ラ・グランダ・ファミリオ公式サイトより
  44. Bicikla “Veturilo” en Varsovio
  45. 「はじまりへの旅」公式サイト

関連書籍

関連項目

外部リンク



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