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'''インド・ヨーロッパ語族'''(インド・ヨーロッパごぞく)は、[[ヨーロッパ]]から[[南アジア]]、[[北アジア]]、[[アフリカ]]、[[南アメリカ]]、[[北アメリカ]]、[[オセアニア]]にかけて話者地域が広がる[[語族]]である。'''印欧語族'''(いんおうごぞく、いんのうごぞく)と略称される。この語族に属する言語を公用語としている[[国]]は100を超える。
+
'''インド・ヨーロッパ語族'''(インド・ヨーロッパごぞく)
 
 
==概説==
 
[[File:IE countries.svg|right|300px|thumb|{{legend|Green|印欧語派が多数派の国}}
 
{{legend|lime|印欧語族が公用語に取り入れられている国}}]]
 
[[File:Welcome multilingual Guernsey tourism.jpg|thumb|right|240px|印欧語多言語表記の例:上からガーンジー島語、英語、フランス語、オランダ語、ドイツ語]]
 
[[ドイツ語圏]]では'''インド・ゲルマン諸語'''({{lang-de|Indogermanische Sprachen}})と呼ばれるが、これは移民・植民を除く同語族の土着の公用地がインド語派圏からゲルマン語派圏まで広がっていたと考えられていたためである。
 
 
 
[[大航海時代]]以降、特に近代以後には、南北アメリカ大陸やアフリカ、オセアニアにも話者が移住、使用地域を大きく広げた。この語族に属する主要な言語には[[英語]](母語話者数:約5億1000万人)、[[ヒンディー語]](約5億人)、[[スペイン語]](約4億2000万人)、[[ポルトガル語]](約2億1500万人)、[[ロシア語]](約1億8000万人)、[[ドイツ語]](約1億3000万人)、[[フランス語]](約1億3000万人)、[[イタリア語]](約6100万人)、[[ウルドゥー語]](約6100万人)、[[ペルシア語]](約4600万人)、[[ウクライナ語]](約4500万人)などがある。
 
 
 
これら主要な言語の中には、[[国際語]]ないし専門語として使用されている例がある。英語は国際語、フランス語は外交用語、ドイツ語は医学用語、イタリア語は音楽用語といった具合である。[[国際連合]]の6つの公用語の内、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語の4言語がこの語族に属する言語である(残りの公用語は非印欧語の[[中国語]]と[[アラビア語]])。
 
 
 
[[世界宗教|世界の主要な宗教]]においても、[[キリスト教]]・[[仏教]]・[[ヒンドゥー教]]はこの語族に属する言語を使用している。
 
 
 
インド・ヨーロッパ語族に属する言語は、以下の[[語派]]に分けられる。この項では現在[[死語 (言語学)|死語]]となった言語も別に併記する。
 
 
 
なお、以下では死語を記号「'''+'''」で示す。
 
 
 
== 語派 ==
 
アナトリア語派およびトカラ語派の二語群は全て死語だが、19世紀末までに印欧語族の比較言語学研究が完結しかけた後、20世紀初頭になって新たに発見され、その研究に新たな発見や疑問が追加された。たとえば両語群は[[ケントゥム語群]]でありながら、東側に位置するという特徴を有している。
 
 
 
=== アナトリア語派 ===
 
{{See also|アナトリア語派}}
 
ヒッタイト語派とも呼ばれる。古代西アジアで話されていた。インド・ヨーロッパ語族とは別の語族としたうえで、相互に関係があるとする説もある。発音や文字などにおいて、印欧語族に新たな発見を多数もたらした。
 
*[[ヒッタイト語]]'''+'''
 
*[[ルウィ語]]'''+'''
 
 
 
=== トカラ語派 ===
 
[[ファイル:Tocharian manuscript THT133.jpg|240px|thumb|[[クチャ語]]の文書([[ブラーフミー文字]])]]
 
{{See also|トカラ語派}}
 
トカー語、トハラ語とも呼ばれる。中央アジアの[[タリム盆地]]北縁地域で8世紀まで話された。
 
 
 
=== 古代バルカン諸語 ===
 
{{See also|古代バルカン諸語}}
 
 
 
*[[イリュリア語]]'''+'''
 
*[[リブルニア語]]'''+'''
 
*{{仮リンク|メッサピア語|en|Messapian language}}'''+'''
 
*{{仮リンク|ミジアン語|en|Mysian language}}'''+'''
 
*{{仮リンク|ピアニア語|en|Paeonian language}}'''+'''
 
*[[フリュギア語]]'''+'''
 
*[[トラキア語]]'''+'''
 
*[[ウェネティ語]]'''+'''
 
 
 
=== ヘレニック語派 ===
 
{{See also|[[ヘレニック語派|ヘレニック語(ギリシア語)派]]}}
 
ヘレン語派とも呼ばれる。単独で1語派として扱われる。
 
 
 
*{{仮リンク|ギリシア祖語|en|Proto-Greek}}
 
*[[ミケーネ・ギリシャ語|ミケーネ語]]
 
*[[古代ギリシア語]]
 
*[[コイネー]]
 
*{{仮リンク|中世ギリシア語|en|Medieval Greek}}
 
*[[現代ギリシア語]]{{enlink|Modern Greek}}([[ギリシア語]])
 
 
 
=== アルバニア語派 ===
 
{{See also|アルバニア語}}
 
ケントゥム語群。イリュリア語派とも呼ばれる。単独で1語派として扱われる。
 
 
 
=== ケルト語派 ===
 
{{See also|ケルト語派}}
 
ケントゥム語群。イタリック語派と類似点が多い。前1000年代には中部ヨーロッパに広く分布していたが、現在はブリターニュ地方、アイルランド島やブリテン島ウェールズ地方、スコットランド地方などのみである。近年、マン島語、コーンウォール語が復活している他、スコットランドゲール語もスコットランドの公文書で使用されるようになっている。
 
 
 
*[[ゲール語|ゲール諸語]] - ケルト祖語の[kw]をそのまま保っている諸語。このためQケルト語とも呼ばれる。
 
**[[アイルランド語]]
 
**[[マン島語]](マンクス語、マン島ゲール語とも)
 
**[[スコットランド・ゲール語]]など
 
*[[ブリソン諸語]] - [kw]が合体して[p]に変わった諸語。このためPケルト語とも呼ばれる。
 
**[[ブルトン語]]
 
**[[ウェールズ語]]
 
**[[コーンウォール語]](ケルノウ語とも)
 
*[[大陸ケルト語|大陸ケルト諸語]]
 
**[[ガリア語]]'''+'''
 
**[[ルシタニア語]]'''+'''
 
**{{仮リンク|古代リグリア語|en|Ligurian language (ancient)}}'''+'''
 
 
 
=== イタリック語派 ===
 
{{See also|イタリック語派}}
 
ケントゥム語群。原住地は[[イタリア半島]]中北部であったが、[[ローマ帝国]]の拡大とともにその[[公用語]]として勢力を拡大した。そこで特に[[ラテン語]]から生じた(現用)言語群を「[[ロマンス語|ロマンス諸語]]」という。
 
 
 
*[[オスク・ウンブリア語群]]'''+''' - ローマ帝国以前にイタリア半島中部に存在した。[[オスク語]]、[[ウンブリア語]]など
 
*[[ラテン・ファリスキ語群|ラテン・ファリスク語群]]'''+'''
 
**[[ファリスク語]]
 
**[[ラテン語]]
 
**[[ロマンス諸語]] - 俗ラテン語から派生した諸言語
 
***東ラテン諸語 - 名詞の複数形を作るとき、母音を変える諸語。[[イタリア語]]、[[コルシカ語]]、[[ルーマニア語]]、[[レト・ロマンス語群|レト・ロマン語]]([[ロマンシュ語]]、[[フリウリ語]]、[[ドロミテ語]])、[[ダルマチア語]]'''+'''など
 
***西ラテン諸語 - 名詞の複数形を作るとき、語尾に"-s"を付ける諸語。[[フランス語]]、[[サルデーニャ語]]、[[アオスタ語]]、[[ワロン語]]、[[クレオール]]、[[オック語]]、[[カタルーニャ語]]、[[アストゥリアス語]]、[[アラゴン語]]、[[スペイン語]](カスティーリャ語)、[[ポルトガル語]]、[[ガリシア語]]、[[リグリア語]]
 
 
 
=== ゲルマン語派 ===
 
{{See also|ゲルマン語派|ゲルマン祖語}}
 
ケントゥム語群。ヨーロッパ中北部が原郷。[[ゲルマン民族の大移動]]を経てロマンス諸語にも大きな影響を与えた。
 
 
 
*[[北ゲルマン語群]](ノルド諸語、北欧諸語) - [[古ノルド語]]'''+'''
 
**{{仮リンク|東スカンディナヴィア語群|fr|Langues scandinaves orientales}} - [[デンマーク語]]、[[ノルウェー語]]([[ブークモール]])、[[スウェーデン語]]([[スウェーデン系フィンランド人|フィン・スウェーデン語]])
 
**{{仮リンク|西スカンディナヴィア語群|fr|Langues scandinaves occidentales}} - [[ノルウェー語]]([[ニーノシュク]])、[[アイスランド語]]、[[フェロー語]]、[[ノルン語]]'''+'''
 
*[[西ゲルマン語群]]
 
**[[ドイツ語]]群
 
***低地ドイツ語 - [[オランダ語]]([[フラマン語]])、[[アフリカーンス語]]
 
***高地ドイツ語 - [[ルクセンブルク語]]
 
**[[アングロ・フリジア語]] - [[英語]](イングランド語)、[[スコットランド語]]、[[フリジア語]]
 
*[[東ゲルマン語群]]'''+''' - [[ゴート語]]、{{仮リンク|ヴァンダル語|en|Vandalic language}}、{{仮リンク|ブルグント語 (ゲルマン語派)|en|Burgundian language (Germanic)|label=ブルグント語}}など
 
 
 
===バルト・スラヴ語派===
 
{{see also|バルト・スラヴ語派}}
 
サテム語群。東ヨーロッパに分布する。バルト語派は全体的に保守的で古い構造が残っている。
 
 
 
*[[バルト語派]]
 
**[[東バルト語群]] - [[リトアニア語]]、[[ラトビア語]]
 
**[[西バルト語群]]'''+''' - [[プロシア語]]など。現在ではすべて死語となっている。
 
*[[スラブ語派]]
 
**[[東スラヴ語群]] - [[ロシア語]]、[[ベラルーシ語]]、[[ウクライナ語]]
 
**[[南スラヴ語群]] - [[古代教会スラヴ語]]'''+'''、[[スロヴェニア語]]、[[セルボ・クロアチア語]]([[セルビア語]]、[[クロアチア語]]、[[ボスニア語]]、[[モンテネグロ語]])、[[ブルガリア語]]、[[マケドニア語]]など
 
**[[西スラヴ語群]] - [[ポーランド語]]、[[チェコ語]]、[[スロヴァキア語]]、[[ポラーブ語]]'''+'''、[[カシューブ語]]、[[上ソルブ語]]、[[下ソルブ語]]など
 
 
 
=== インド・イラン語派 ===
 
{{See also|インド・イラン語派}}
 
サテム語群。西アジア~南アジアにかけて分布。インド語派とイラン語派は発見されているもっとも古い言語同士で意思疎通が可能なほど似通っており、まとめて扱われる。印欧語族の分類は一般に12語派程度で表現されるが、その場合ダルド語派とカーフィル語派を数えていない。
 
 
 
*[[インド語派]] - [[サンスクリット語]]、[[プラークリット語]]、[[パーリ語]]、[[ヒンディー語]]、[[ウルドゥー語]]、[[ベンガル語]]、[[ネパール語]]など
 
*[[イラン語派]] - [[アヴェスター語]]'''+'''、[[ペルシア語]]、[[パシュトー語]]、[[クルド語]]など
 
*[[ヌーリスターン語派]] - かつてはカーフィル語派<ref>「多神教信仰者([[ヴェーダの宗教]])の地」をカーフィルスタンと呼んだが、イスラーム受容に伴い差別的な意味となった。現在ではヌーリスターン語派と呼ぶ。</ref>と呼ばれた。ヒンドゥークシュ山脈山中に散在。ただし別の語派として扱う説もある。
 
 
 
=== アルメニア語派 ===
 
{{See also|アルメニア語}}
 
サテム語群。単独で1語派として扱われる。
 
*[[古典アルメニア語]]
 
*{{仮リンク|中世アルメニア語|en|Middle Armenian}}
 
*現代アルメニア語 - [[東アルメニア語]]、[[西アルメニア語]]
 
 
 
==ケントゥム語とサテム語==
 
{{See also|ケントゥム語とサテム語}}
 
印欧語族は[[ケントゥム語とサテム語]]に大別されてきた。しかし現在ではこの区分は系統を反映しているか疑問視されている。ケントゥム語には[[アナトリア語派]]、[[トカラ語派]]、[[ヘレニック語派]]、[[ゲルマン語派]]、[[ケルト語派]]、[[イタリック語派]]が属し、サテム語には[[インド・イラン語派]]、[[バルト・スラブ語派]]、[[アルメニア語派]]、[[アルバニア語派]]が属す。
 
 
 
== 印欧語族の歴史 ==
 
=== 文法と簡略化 ===
 
分化が始まった時点での[[インド・ヨーロッパ祖語|印欧祖語]]は、多様な語形変化を持つ言語だったと想定されている。しかし時代が下り、言語の分化が大きくなると、各言語は概して複雑な語形変化を単純化させていった。
 
 
 
;数
 
:印欧祖語には文法的な[[数 (文法)|数]]には単数と複数の他、対になっているものを表す「双数」(両数、対数とも呼ばれる)があったと考えられているが、のちの時代にはほとんどの言語で消滅した。現在でも双数を使うのは[[スロベニア語]]、[[ソルブ語]]、[[スコットランド・ゲール語]]、[[ウェールズ語]]、[[ブルトン語]]などごくわずかに過ぎない。
 
;性
 
:印欧祖語にあったと考えられる男性、女性、中性という3つの文法的な[[性 (文法)|性]]の区別は、現代でも多くの言語に残るが、一部では変化している。例えば、[[ロマンス語派]]の大半や[[ヒンディー語]]では男性と女性のみになり、[[北ゲルマン語派]]の大半や[[オランダ語]]では男性と女性が合流した「通性」と中性の二つの性が残っている。英語、[[ペルシア語]]、[[アルメニア語]]ではほぼ消滅した。
 
;格
 
:印欧祖語は、名詞・形容詞等の文法的な[[格]]として[[主格]]、[[対格]]、[[属格]]、[[与格]]、[[具格]]、[[奪格]]、[[処格]]、[[呼格]]の8つを区別していたと考えられている。紀元前のインド・ヨーロッパ諸語にはこれらを残す言語がいくつかあったが、後世には特に名詞・形容詞については概ね、区別される格の種類を減らしている。スラヴ諸語では[[チェコ語]]や[[ポーランド語]]の7格、[[ロシア語]]の6格など豊富な格変化を残す言語があり、ルーマニア語は5格、ドイツ語、アイスランド語では4つの格が残っているが、ヒンディー語などは2つの格を持つのみである。その他の言語では名詞・形容詞の格変化を失った言語が多い。多くのロマンス諸語は名詞・形容詞の格の区別を失っている。英語の名詞は主格と所有格(属格が意味限定的に変化したもの)を残すのみである。名詞や形容詞の格を退化させた言語も代名詞に関しては格を区別するものが多いが、ペルシア語のように代名詞についても格変化をほぼ失った言語もある。
 
 
 
印欧祖語は、主語・目的語・動詞の語順が優勢な[[SOV型]]言語だったと考えられており、古い時代のインド・ヨーロッパ諸語、例えば[[ヒッタイト語]]、インド・イラン語派の古典諸言語、[[ラテン語]]ではその特徴が見られる。但し、後にSOV型以外の語順の言語も現れ、SOV型は印欧語に典型的な語順とまでは言えなくなっている。現代では言語により語順は様々だが、ヨーロッパでは主語・動詞・目的語の語順が優勢な[[SVO型]]言語が比較的多く、ドイツ語のように本質的にはSOV型でも一見SVO型のように見えるSOV-[[V2語順]]の言語もある。一方、[[中東]]や[[インド]]では現在でもSOV型言語が多い。
 
 
 
=== 分布と起源 ===
 
[[File:IE expansion.png|250px|thumb|right|[[クルガン仮説]]にもとづく印欧語族の拡散モデル]]
 
[[File:Indo-European Migrations. Source David Anthony (2007), The Horse, The Wheel and Language.jpg|250px|thumb|right|印欧語族の拡散と文化]]
 
[[File:Indo-European migrations.gif|250px|thumb|right|印欧語族の拡散]]
 
{{see also|印欧祖語|クルガン仮説}}
 
所属は遺伝的関係によって決定され、すべてのメンバーが[[インド・ヨーロッパ祖語|印欧祖語]]を共通の祖先に持つと推定される。インド・ヨーロッパ語族の下の語群・語派・分枝への所属を考えるときも遺伝は基準となるが、この場合にはインド・ヨーロッパ語族の他の語群から分化し共通の祖先を持つと考えられる言語内での'''共用イノベーション'''が定義の要素となる。たとえば、ゲルマン語派がインド・ヨーロッパ語族の分枝といえるのは、その構造と音韻論が、語派全体に適用できるルールの下で記述しうるためである。
 
 
 
インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語の起源は[[インド・ヨーロッパ祖語|印欧祖語]]であると考えられている。印欧祖語の分化と使用地域の拡散が始まったのは6,000年前とも8,000年前とも言われている。その[[祖地]]は5,000–6,000年前の[[黒海]]・[[カスピ海]]北方(現在の[[ウクライナ]])とする[[クルガン仮説]]と、8000–9500年前のアナトリア(現在の[[トルコ]])とする[[アナトリア仮説]]があるが、言語的資料が増えた紀元前後の時代には、既にヨーロッパからアジアまで広く分布していた。
 
 
 
この広大な分布に加えてその歴史をみると、前18世紀ごろから興隆した小アジアの[[ヒッタイト帝国]]の残した[[ヒッタイト語楔形文字]]([[楔形文字]]の一種)で書かれた[[ヒッタイト語]]([[アナトリア語派]])の[[粘土板]]文書、驚くほど正確な伝承を誇る[[ヴェーダ語]]([[インド語派]])による『[[リグ・ヴェーダ]]』、そして戦後解読された[[紀元前1400年]]‐[[紀元前1200年]]ごろのものと推定される[[線文字B]]で綴られた[[ミケーネ・ギリシャ語]]([[ギリシア語派]])の[[ミュケナイ文書]]など、[[紀元前1000年]]をはるかに遡る資料から始まって、現在の英独仏露語などの、およそ3,500年ほどの長い伝統を有する。これほど地理的・歴史的に豊かな、しかも変化に富む資料をもつ語族はない。この恵まれた条件のもとに初めて19世紀に言語の系統を決める方法論が確立され、語族という概念が成立した。
 
 
 
インド・ヨーロッパ諸語は理論的に再建することのできる、一つのインド・ヨーロッパ共通基語もしくは[[インド・ヨーロッパ祖語|印欧祖語]]と呼ばれる共通の祖先から分化したと考えられている。現在では互いに別個の言語であるが、歴史的にみれば互いに親族の関係にあり、それらは一族をなすと考えることができる。
 
 
 
これは言語学的な仮定である。一つの言語が先史時代にいくつもの語派に分化していったのか、その実際の過程を文献的に実証することはできない。資料的に見る限り、インド・ヨーロッパ語の各語派は歴史の始まりから、すでに歴史上に見られる位置にあって、それ以前の歴史への記憶はほとんど失われている。したがって共通基語から歴史の始まりに至る過程は、言語史的に推定するしか方法はない。
 
 
 
またギリシア北部から[[ブルガリア]]に属する古代の[[トラキア]]にも若干の資料があるが、固有名詞以外にはその言語の内容は明らかでない。また[[イタリア半島]]にも、かつては[[ラテン語]]に代表される[[イタリック語派]]の言語以外に、[[アドリア海]]沿いで別の言語が話されていた。なかでも南部の{{仮リンク|メッサピア語|en|Messapian language}}碑文は、地名などの固有名詞とともにイタリック語派とは認められず、かつてはここに[[イリュリア語派]]の名でよばれる一語派が想定されていた。しかし現在ではこの語派の独立性は積極的には認められない。
 
 
 
=== 系統樹と年代 ===
 
ニュージーランド・オークランド大学の[[ラッセル・グレー]]と[[クェンティン・アトキンスン ]](Russell D. Gray, Quentin D. Atkinson)<ref name="G&A"/>の[[言語年代学]]的研究によれば、インド・ヨーロッパ祖語は約8700 (7800–9800) 年前に[[ヒッタイト語]]につながる言語と、その他の諸語派につながる言語に分かれたという結果が出て、[[アナトリア仮説]]が支持された。
 
 
 
グレーとアトキンスンは、この語族の87言語の基本単語2,449語について、相互間に共通語源を持つものがどれほどあるかを調べ、言語間の近縁関係を数値化し、言語の系統樹を作成した。この系統樹によれば、まずヒッタイトの言語が登場、その後、7,000年前までにギリシャ語を含むグループ、アルメニア語を含むグループが分かれ、5,000年前までに英語、ドイツ語、フランス語などにつながるグループができたという。
 
 
 
Gray & Atkinson 2003<ref name="G&A">{{cite|
 
|last = Gray
 
|first = R.D.
 
|last2 = Atkinson
 
|first2 = Q.D.
 
|title = Language-tree divergence times support the Anatolian theory of Indo-European origin
 
|journal = Nature
 
|year = 2003
 
|volume = 426
 
|page = 435–9
 
}}</ref>による、[[系統樹]]と、[[祖語]]の[[言語年代学|年代]]を以下に示す。年代の単位は[[BP (年代測定)|BP]](年前)。( ) 内は[[ブートストラップ値]](グループの確実さ)で、不確実な分岐も図示されていることに注意。とくにいくつかのブートストラップ値は50未満という低い数字となっており、系統分岐の仕方そのものが正しくない可能性を示している。また、死語のほとんど(トカラ語派とヒッタイト語以外)と一部の現存言語グループ(ダルド語派、カーフィル語派)が解析対象となっていない。また、この方法では2つ以上の言語の融合(例:プロト・[[スラヴ語]]ないしプロト・バルト=スラヴ語の、インド・イラン語派の諸言語の影響による[[サテム語]]化)は正しく解析されない。そのため、ブートストラップ値次第では語派の祖語の年代は図の年代よりさらに古くも新しくもなりうる。
 
 
 
{{Clade
 
  |label1=インド・ヨーロッパ語族 8,700
 
  |{{Clade
 
    |label1=(100)7,900
 
    |{{Clade
 
      |label1=(96)7,300
 
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            |label1=        (67)6,100
 
            |{{Clade
 
              |[[ケルト語派]](100)2,900
 
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              |{{Clade
 
                |[[イタリック語派]](100)1,700
 
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              }}
 
            }}
 
            |label2=[[バルト・スラヴ語派]](100)3,400
 
            |{{Clade
 
              |[[バルト語派]](100)
 
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              }}
 
            }}
 
          |label2=(36)
 
          |{{Clade
 
            |label1=[[インド・イラン語派]](100)4,600
 
            |{{Clade
 
              |[[インド語派]](100)2,900
 
              |[[イラン語派]](100)2,500
 
            }}
 
            |[[アルバニア語]](100)600
 
          }}
 
        }}
 
        |label2=(40)
 
        |{{Clade
 
          |[[ギリシャ語]](100)800
 
          |[[アルメニア語]](100)
 
        }}
 
      }}
 
      |[[トカラ語派]](100)1,700
 
    }}
 
    |[[ヒッタイト語]]
 
  }}
 
}}
 
 
 
ヒッタイト語(おそらくはそれを含むアナトリア語派)が最初に分岐したことがわかる。また、[[サテム諸語]](バルト・スラヴ語派、インド・イラン語派、アルバニア語、アルメニア語)は一まとまりの言語系統ではない。
 
 
 
=== 分子人類学的視点 ===
 
インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語話者の拡散はY染色体[[ハプログループR1b (Y染色体)]]および[[ハプログループR1a (Y染色体)|ハプログループR1a]]<ref>T. Zerjal et al, The use of Y-chromosomal DNA variation to investigate population history: recent male spread in Asia and Europe, in S.S. Papiha, R. Deka and R. Chakraborty (eds.), ''Genomic Diversity: applications in human population genetics'' (1999), pp. 91–101.</ref> <ref>L. Quintana-Murci et al., Y-Chromosome lineages trace diffusion of people and languages in Southwestern Asia, ''[[American Journal of Human Genetics]]'' vol. 68 (2001), pp.537–542.</ref> に対応する。R1bはヨーロッパ西部に高頻度であり、R1a系統はインド北部から中央アジアや東ヨーロッパに高頻度に分布している。R1bは[[ケントゥム語]]、R1aは[[サテム語]]の担い手である<ref>eupedia.com/genetics</ref>。印欧祖語が話された[[ヤムナ文化]]の人骨からは[[ハプログループR1b (Y染色体)]]が91.5%の高頻度で検出されているが、R1aは検出されていない<ref>[http://www.eupedia.com/europe/ancient_european_dna.shtml#Bronze_Age Eupedia]</ref>。そのため、元来の印欧語族話者はR1bであり、ある時点でR1a集団が印欧語に[[言語交替]]を起したものと考えられ、その際にR1a集団の基層言語の特徴が[[サテム語]]の特徴として受け継がれたものと思われる。
 
 
 
==出典==
 
{{reflist}}
 
 
 
== 関連項目 ==
 
*[[インド・ヨーロッパ祖語]](印欧祖語)
 
*[[印欧語源辞典]]
 
*[[サテム語派]]
 
*[[ケントゥム語派]]
 
*[[インド・ヨーロッパ語族の音韻法則]]
 
*[[グリムの法則]]
 
*[[アーリアン学説]]
 
*[[スキタイ]]
 
*[[先印欧語]]
 
*[[コーカソイド]]
 
*[[ハプログループR1a (Y染色体)]]
 
*[[ハプログループR1b (Y染色体)]]
 
*[[エスペラント]] - [[人工言語|人造語]]であるため、正確には印欧語族ではないが、単語の大半と文法構造を印欧語族、特にラテン語やフランス語などロマンス語派から借用しており、この点は特筆される。他に印欧語族をベースにした人造語には、[[ヴォラピュク]]などが存在する。
 
*[[卍]]
 
  
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印欧語族。歴史時代の初めから東はインドから西はヨーロッパ大陸にわたって広く分布した,多くの言語を含む一大語族。現代語では,英語,フランス語,スペイン語,ドイツ語,ロシア語などの有力な言語がこれに属する。インド=イラン,アルメニア,ギリシア,アルバニア,イタリック,ケルト,ゲルマン,バルト,スラブの各語派に下位区分され,これらはいずれも現代まで生残った言語を含んでいる。ほかに,20世紀に入って文献が発見された[[ヒッタイト語]]と[[トカラ語]]があり,それぞれ独立の語派をなすが,いずれも死語である。 19世紀以降,厳密な比較文法による研究が続けられ,複雑な屈折や派生の体系をもつ[[祖語]]の形がかなりよく再構されている。前 3000年頃に,この祖語が行われていたものと推定されている。なお,ドイツの学者は好んでインド=ゲルマン語族の名を用い,一部の学者によってインド=ヒッタイト語族の名も用いられることがある。古くは,アーリア語族の名も用いられた。
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2018/10/11/ (木) 17:45時点における最新版

インド・ヨーロッパ語族
話される地域: 15世紀頃は欧州南アジア中央アジア西南アジア。現在はさらに広範に広がる
原郷: ロシアクルガン仮説
アナトリア(アナトリア仮説)
言語系統: ウラル語族と共にインド・ウラル語族を形成するという説、セム語との同系説があるが、証明されていない。
下位言語:
ISO 639-2639-5: ine

インド・ヨーロッパ語族の分布

インド・ヨーロッパ語族(インド・ヨーロッパごぞく)

印欧語族。歴史時代の初めから東はインドから西はヨーロッパ大陸にわたって広く分布した,多くの言語を含む一大語族。現代語では,英語,フランス語,スペイン語,ドイツ語,ロシア語などの有力な言語がこれに属する。インド=イラン,アルメニア,ギリシア,アルバニア,イタリック,ケルト,ゲルマン,バルト,スラブの各語派に下位区分され,これらはいずれも現代まで生残った言語を含んでいる。ほかに,20世紀に入って文献が発見されたヒッタイト語トカラ語があり,それぞれ独立の語派をなすが,いずれも死語である。 19世紀以降,厳密な比較文法による研究が続けられ,複雑な屈折や派生の体系をもつ祖語の形がかなりよく再構されている。前 3000年頃に,この祖語が行われていたものと推定されている。なお,ドイツの学者は好んでインド=ゲルマン語族の名を用い,一部の学者によってインド=ヒッタイト語族の名も用いられることがある。古くは,アーリア語族の名も用いられた。





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