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'''ヘリコバクター・ピロリ''' (''Helicobacter pylori''<ref>[http://dictionary.cambridge.org/dictionary/british/helicobacter-pylori?q=pylori helicobacter pylori] (Cambridge Dictionaries Online)</ref>) とは、[[ヒト]]などの[[胃]]に生息する[[螺旋|らせん]]型の[[グラム陰性菌|グラム陰性]][[微好気性生物|微好気性]][[真正細菌|細菌]]である。単に'''ピロリ菌'''(ピロリきん)と呼ばれることもある<ref>{{cite web |url = http://www.pylori-story.jp/pylori/pylori/ |title = ピロリ菌って何者? |author = 武田薬品工業 |accessdate = 2015-01-16 }}</ref>。'''ヘリコバクテル・ピロリ'''<ref>{{cite web |url = http://astamuse.com/ja/patent/published/keyword/10532821 |title = ヘリコバクテル に関する公開一覧 |author = actamnuse |accessdate = 2015-01-16 }}</ref>と表記されることもある。[[1983年]]に[[オーストラリア]]の[[ロビン・ウォレン]]と[[バリー・マーシャル]]により発見された<ref>{{cite journal |author = Marshall BJ |title = Unidentified curved bacillus on gastric epithelium in active chronic gastritis |journal = [[ランセット|Lancet]] |year = 1983 |volume = 1 |issue = 8336 |pages = 1273–1275 |pmid=6134060 }}</ref>。
 
'''ヘリコバクター・ピロリ''' (''Helicobacter pylori''<ref>[http://dictionary.cambridge.org/dictionary/british/helicobacter-pylori?q=pylori helicobacter pylori] (Cambridge Dictionaries Online)</ref>) とは、[[ヒト]]などの[[胃]]に生息する[[螺旋|らせん]]型の[[グラム陰性菌|グラム陰性]][[微好気性生物|微好気性]][[真正細菌|細菌]]である。単に'''ピロリ菌'''(ピロリきん)と呼ばれることもある<ref>{{cite web |url = http://www.pylori-story.jp/pylori/pylori/ |title = ピロリ菌って何者? |author = 武田薬品工業 |accessdate = 2015-01-16 }}</ref>。'''ヘリコバクテル・ピロリ'''<ref>{{cite web |url = http://astamuse.com/ja/patent/published/keyword/10532821 |title = ヘリコバクテル に関する公開一覧 |author = actamnuse |accessdate = 2015-01-16 }}</ref>と表記されることもある。[[1983年]]に[[オーストラリア]]の[[ロビン・ウォレン]]と[[バリー・マーシャル]]により発見された<ref>{{cite journal |author = Marshall BJ |title = Unidentified curved bacillus on gastric epithelium in active chronic gastritis |journal = [[ランセット|Lancet]] |year = 1983 |volume = 1 |issue = 8336 |pages = 1273–1275 |pmid=6134060 }}</ref>。
  
胃の内部は[[胃液]]に含まれる[[塩酸]]によって強[[酸性]]であるため、従来は細菌が生息できない環境だと考えられていた。しかし、ヘリコバクター・ピロリは[[ウレアーゼ]]と呼ばれる[[酵素]]を産生しており、この酵素で胃粘液中の[[尿素]]を[[アンモニア]]と[[二酸化炭素]]に分解し、生じたアンモニアで、局所的に胃酸を[[中和 (化学)|中和]]することによって胃へ定着([[感染]])している。この菌の発見により動物の胃に適応して生息する細菌が存在することが明らかにされた。
+
胃潰瘍や胃炎,十二指腸潰瘍の原因とされる螺旋形菌。ヘリコバクター・ピロリともいう。体長は約 3μm。感染後,発病にいたるまでの仕組みについてはまだ究明されていないが,近年は胃癌の原因菌にもなっているとの説や,癌の成長を促進する働きをもつという説も出ている。
 
 
ヘリコバクター・ピロリの感染は、[[胃炎#慢性胃炎|慢性胃炎]]、[[消化性潰瘍|胃潰瘍]]や[[十二指腸潰瘍]]のみならず、[[胃癌]]や [[MALTリンパ腫]]や[[びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫]]などの発生に繋がることが報告されているほか、[[特発性血小板減少性紫斑病]]<ref>寺田秀夫、「私の経験例からヘリコバクター ピロリ除菌療法が著効を示した重症特発性血小板減少性紫斑病の1例」 血液フロンティア 12, 114-118, 2001, {{naid|80012885657}}</ref>、小児の[[鉄欠乏性貧血]]、[[蕁麻疹|慢性蕁麻疹]]などの胃外性疾患の原因となることが明らかとなっている<ref name="PharmaTribune">{{Cite journal|和書 |author = 横井千寿 |coauthors = 小早川雅男、他 |year = 2009 |month = 11 |title = 臨床講座11:ヘリコバクター・ピロリ感染症 |journal = PharmaTribune |volume = 1 |issue = 11 |pages = 26-35 |publisher = メディカルトリビューン |issn = 1883-4043 }}</ref><ref>{{Cite web |date = 2008-07-02 |url = http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/077_i.htm |title = 特発性血小板減少性紫斑病(公費対象) |publisher = 難病医学研究財団難病情報センター |accessdate = 2009-11-22 }}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author = 藤岡利生 |year = 2007 |month = 2 |title = ヘリコバクター感染症の研究:現状と将来展望 |journal = e-CLINICIAN |volume = 54 |issue = 556 |url = http://www.e-clinician.net/vol54/no556/pdf/sp_556_01.pdf |format = PDF |pages = p.p.152-155 |accessdate = 2009-11-22 }}</ref><ref>佐藤竜吾、藤岡利生、村上和成、兒玉雅明、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/100/11/100_11_1295/_article/-char/ja/ 上部消化管疾患以外の領域におけるヘリコバクター・ピロリ除菌療法 ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の新たな展開] 日本消化器病学会雑誌 Vol.100 (2003) No.11 P.1295-1301, {{DOI|10.11405/nisshoshi1964.100.1295}}</ref>。細菌の中で[[悪性腫瘍|ヒト悪性腫瘍]]の原因となり得ることが明らかになっている[[病原体]]のひとつである<ref name="IARC 1994">{{cite journal |author = IARC |authorlink = 国際がん研究機関 |title = IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans |publisher = World Health Organization, International Agency for Research on Cancer |year = 1994 |volume = 61 |pages = 177 |url = http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol61/volume61.pdf }}</ref>。ピロリ菌検査で陰性でも[[胃炎]]など胃疾患が続く場合は、[[ヘリコバクター・ハイルマニイ]]の感染が疑われることがある<ref name="lifesciencedb">{{PDFlink|[http://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/C-87_final.pdf ヒト胃内感染ヘリコバクター属、ピロリとハイルマニのゲノム解析と病原性遺伝子の解明 - 東健、吉田優 神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野]}}</ref><ref>中村正彦 ほか、「ピロリ菌陰性でも要注意!?—広義のハイルマニイ菌」,  検査と技術 44巻 4号, 2016/4/1, {{DOI|10.11477/mf.1543206392}}</ref>。
 
 
 
== 歴史 ==
 
=== 略年表 ===
 
*[[1874年]] - [[ドイツ]]のG. BöttcherとM. Letulleがヒトの胃内らせん菌を発見。
 
*[[1892年]] - [[イタリア]]の[[トリノ大学]]のジュリオ・ビツォツェロが、[[イヌ]]の胃内にらせん菌を発見。
 
*[[1899年]] - [[ポーランド]]の[[ヤギェウォ大学]]のヴァレリー・ジョヴォルスキーがヒトの胃内に生息する[[細菌]]を発見し「Vibrio rugula」と命名。
 
*[[1919年]] - [[日本]]の[[北里研究所]]の[[小林六造]](後に[[慶應義塾大学]][[医学部]]教授)と[[葛西克哉]]が、胃酸の強い[[ネコ]]から採った菌を[[ウサギ]]に移植させた結果、[[胃潰瘍]]が起きたと発表した。また、除菌・殺菌で症状が改善することも確かめた。
 
*[[1954年]] - [[アメリカ]]の病理学者エディ・パルマーが、ヒトの胃の生検1100例の結果で胃内に細菌は認められなかったと報告。
 
*[[1983年]] - [[オーストラリア]]の[[西オーストラリア大学]]の[[ロビン・ウォレン]]と[[バリー・マーシャル]]による再発見と培養法の確立。
 
*[[1994年]] - [[国際がん研究機関]] (IARC) が胃がんの病原体であることを発表。
 
*1997年 - 全塩基配列決定。
 
*[[2005年]] - ウォレンとマーシャルが[[ノーベル生理学・医学賞]]を受賞。
 
 
 
=== 「胃の中の細菌」を巡る論争 ===
 
1874年、ドイツの研究者がヒトの胃に存在しているらせん状の細菌を発見し顕微鏡で観察したのがヘリコバクターの最初の報告であると言われているが、詳細な記録は残っていない<ref name="Blaser_2005">{{cite journal |author = Blaser MJ |title = An Endangered Species in the Stomach |journal = [[Scientific American]] |year = 2005 |volume = 292 |issue = 2 |pages = 38–45 |url = http://www.sciam.com/article.cfm?articleID=00024948-2764-11E8-A28583414B7F0000&ref=sciam&chanID=sa006 |pmid=15715390 }}</ref>。残っている最初の正式な記録は、1892年に、イタリアの研究者ジュリオ・ビツォツェロ (Giulio Bizzozero) がイヌの胃内の酸性環境で生息する細菌について著したものである<ref>{{cite journal |last = Bizzozero |first = Giulio |year = 1893 |title = Über die schlauchförmigen Drüsen des Magendarmkanals und die Beziehungen ihres Epitheles zu dem Oberflächenepithel der Schleimhaut |journal = Archiv für mikroskopische Anatomie |volume = 42 |pages = 82–152 }}</ref>。その後、[[1899年]]、ポーランドの研究者ヴァレリ・ヤヴォルスキ (Walery Jaworski) がヒトの胃から[[グラム染色|グラム陰性]]桿菌とともにらせん菌を見いだし、彼はこの菌を''Vibrio rugula''と名付け、胃疾患との関連について、ポーランド語で書かれた著書の中で提唱した<ref>{{cite journal |author = Konturek JW |title = Discovery by Jaworski of Helicobacter pylori and its pathogenetic role in peptic ulcer, gastritis and gastric cancer |journal = J Physiol Pharmacol. |year = 2003 Dec |volume = 54 Suppl 3 |pages = 23–41 |url = http://www.jpp.krakow.pl/journal/archive/1203_s3/articles/03_article.html{{リンク切れ|date=2015年4月}} |pmid = 15075463 |archiveurl = https://web.archive.org/web/20060828101433/http://www.jpp.krakow.pl/journal/archive/1203_s3/articles/03_article.html |archivedate = 2006年8月28日 |deadurldate = 2017年9月 }}</ref>。
 
 
 
その後[[20世紀]]に入って、[[1906年]]にはKrienitzらが胃癌患者の胃粘膜にらせん菌がいること<ref name="Hirayama 2005">平山壽哉『微生物感染症学』(光山正雄編)pp.268-276、南山堂、2005年、ISBN 4-525-16101-9</ref>を、[[1920年代]]にはLuckらが胃粘膜に(ヘリコバクター・ピロリに由来する)[[ウレアーゼ]]の酵素活性があること<ref>{{cite journal |author = Luck JM |coauthors = Seth TN |title = The Physiology of Gastric Urease. |journal = Biochem. J. |year = 1925 |volume = 19 |issue = 3 |pages = 357-65 |pmid=16743512 }}</ref>を、[[1940年]]には、FreedbergとBarronが胃の切除標本の約3分の1にらせん菌が存在すること<ref>{{cite journal |author = Freedberg AS |coauthors = Barron LE |title = The presence of spirochetes in human gastric mucosa. |journal = Am. J. Dig. Dis. |volume = 7 |pages = 443-5 |year = 1940 }}</ref>を、相次いで報告し、「胃の中の細菌」の存在と胃疾患との関連に対する医学研究者らの関心が徐々に高まっていった。
 
 
 
しかし、この説に対して異を唱える研究者も多く存在した。[[19世紀]]当時、[[細菌学]]は[[ロベルト・コッホ]]らの活躍によって隆盛を極めていたが、当時行われていた[[培養]]法では、この「胃の中の細菌」を分離培養できず、生きた菌の存在を直接証明できなかったためである。また細菌学の黎明期には[[コレラ菌]]や[[サルモネラ|チフス菌]]など、多くの消化管感染症の原因菌が研究されたが、胃は胃酸による殺菌作用によって、これらの細菌感染に対する防御機構としての役割を果たすと考えられており、このこともしばしば反対派の論拠として挙げられた。胃で全ての菌が死滅するわけではないものの、そこは生命にとって劣悪な環境であり、細菌は生息できないと考えられていたのである。
 
 
 
そして[[1954年]]、アメリカの病理学者で消化器病学の大家であった、[[エディ・パルマー]] (Eddy D Palmer) が、1000を超える胃の生検標本について検討した結果、らせん菌が発見できなかったと報告し、Freedberg らの報告は誤りであると主張した<ref>{{cite journal |author = Palmer ED. |title = Investigation of the gastric mucosa spirochetes of the human. |journal = Gastroenterology |volume = 27 |issue = 2 |pages = 218-20 |year = 1954 |pmid=13183283 }}</ref>。この報告によって、それまで報告されてきたらせん菌は、何らかの雑菌[[コンタミネーション|混入]]によるものだったのではないかという考えが主流になり、一部の医学研究者を除いて、「胃の中の細菌」に対する研究者の関心は薄れていった。
 
 
 
=== ヘリコバクター・ピロリの発見 ===
 
[[1983年]]、[[オーストラリア]]の[[ロビン・ウォレン]]と[[バリー・マーシャル]]がヒトの胃からの、らせん状の菌を培養することに成功した。この発見には、Skirrowらが[[1977年]]に確立した[[カンピロバクター]]の微好気培養技術<ref>{{cite journal |author = Skirrow MB |title = Campylobacter enteritis: a "new" disease. |journal = Br Med J |year = 1977 |volume = 2 |issue = 6078 |pages = 9-11 |pmid=871765 }}</ref>が基盤となっている。カンピロバクターは感染性の下痢の原因となるらせん菌であり、微好気性(低濃度の酸素と、二酸化炭素を必要とする)かつ栄養要求性の厳しい細菌の一種であるため、特殊な培地と培養法が必要である。マーシャルらはその培養法を応用して、慢性活動性胃炎の患者の胃内、[[幽門]]付近かららせん菌を分離することに成功した。
 
 
 
この成功の影には一つの[[セレンディピティ]]があったと伝えられている<ref>{{cite journal |author = 千葉勉 |title = 今年のノーベル医学生理学賞は胃癌の原因菌''H. pylori''の発見者に! |journal = 実験医学 |year = 2005 |volume = 23 |issue = 19 |month = Dec |pages = 2926-7 }}</ref>。カンピロバクター培養法を導入したマーシャルらであったが、それでも目的の菌の培養には失敗が続いた。しかし[[1982年]]4月の[[イースター]]のとき、マーシャルの実験助手が休暇をとったため、マーシャルは通常は数日で終わらせる培養を、5日間そのまま放ったらかしで続けることにした。そして休暇が終わったとき、培地上に細菌の[[コロニー]]ができていることに気づき、これが本菌の発見に繋がった。後に判明したことだが、ヘリコバクター・ピロリは増殖速度が遅く、培養には長時間を必要とする細菌であった。
 
 
 
光学顕微鏡で観察した形態の類似性と微好気性であることが共通していたため、この菌はカンピロバクターの1種と考えられ、''Campylobacter pyloridis''(campylo-; 湾曲した、カーブした、bacter; 細菌、pylorus; 幽門)と命名された。ただし、この名称は[[ラテン語]]の文法上誤りであったため、[[1987年]]に''Campylobacter pylori''に改名された。その後、電子顕微鏡下での微小構造の違いや遺伝子の類似性から、[[1989年]]にカンピロバクターとは別のグループとして、新たにヘリコバクター属が設けられ、''Helicobacter pylori''(helico-; らせん状の)に名称変更された<ref>{{cite journal |title = Campylobacter pylori becomes Helicobacter pylori. |journal = [[ランセット|Lancet]] |volume = 2 |pages = 1019-20 |year = 1989 |pmid=2572746 }}</ref>。また、同様の方法でヒト以外にも[[フェレット]]、[[サル]]、[[ネコ]]、[[チーター]]などの動物の胃からも同様の菌が分離されてヘリコバクター属に分類された。
 
 
 
=== 病原性の証明 ===
 
発見された当時、慢性胃炎や胃潰瘍はもっぱら[[ストレス (生体)|ストレス]]だけが原因であるという説が主流であったが、マーシャルらは本菌がこれらの疾患の[[病原体]]であるという仮説を提唱した。これらの疾患の慢性化と胃がんの発生が関連することが当時すでに知られていたため、この仮説は本菌ががんの発生に関与する可能性を示唆するものとしても注目されたが、当初は疑いの目を持って迎えられた。
 
 
 
そこでマーシャルは培養したヘリコバクター・ピロリを自ら飲むという、[[自己実験|自飲実験]]を行った<ref>{{cite journal |author = Marshall BJ |coauthors = Armstrong JA, McGechie DB, Glancy RJ |title = Attempt to fulfil Koch's postulates for pyloric Campylobacter. |journal = Med J Aust. |year = 1985 |volume = 142 |issue = 8 |pages = 436-9 |pmid=3982345 }}</ref><ref>{{cite journal |author = Marshall BJ |title = Helicobacter pylori in peptic ulcer: have Koch's postulates been fulfilled? |journal = Ann Med. |year = 1995 |volume = 27 |issue = 5 |pages = 565-8 |pmid=8541033 }}</ref>。その結果、マーシャルは急性胃炎を発症し、[[コッホの原則]]の一つを満たすことが証明された。ただしマーシャルの胃炎はこの後、治療を行うことなく自然に治癒したため、急性胃炎以外の胃疾患との関連については証明されなかった。一方、彼とは別に、[[ニュージーランド]]の医学研究者、アーサー・モリスもまた同様の自飲実験を行った<ref>{{cite journal |author = Morris A |coauthors = Nicholson G |title = Ingestion of Campylobacter pyloridis causes gastritis and raised fasting gastric pH. |journal = Am J Gastroenterol. |year = 1987 |volume = 82 |issue = 3 |pages = 192-9 |pmid=3826027 }}</ref>。その結果、マーシャルと同様に急性胃炎を発症しただけでなく、モリスの場合は慢性胃炎への進行が認められた。これらの結果から、ヘリコバクター・ピロリが急性および慢性胃炎の原因になることが証明された。この後、疫学的な研究から、これらの疾患の慢性患者の多くから本菌が分離されることや、本菌の除菌治療が再発防止に有効であることも明らかになった。
 
 
 
[[胃癌]]との関連については、ヒト以外の動物を用いた数多くの実験にも関わらず証明ができないままであったが、疫学調査の結果から明らかになっていった。そして[[1994年]]には[[国際がん研究機関]] (IARC) が発行している [[IARC発がん性リスク一覧]]に、グループ1(発がん性がある)の発がん物質として記載された<ref name="IARC 1994"/>。その後、日本から有用な成果が相次いで報告された。[[1996年]]に平山らは、ヘリコバクター・ピロリが[[スナネズミ]]の胃に感染し、ヒトと同様の慢性胃炎、消化性潰瘍を形成することを発見した<ref>{{cite journal |author = Hirayama F, Takagi S, Yokoyama Y, Iwao E, Ikeda Y. |title = Establishment of gastric Helicobacter pylori infection in Mongolian gerbils. |journal = J Gastroenterol |volume = Suppl 9 |pages = 24-8 |year = 1996 |pmid=8959513 }}</ref>。[[1998年]]には、渡辺らが長期間飼育したピロリ菌感染スナネズミに胃がんが発生したことを報告し、コッホの原則に基づく最初の証明とされた<ref>{{cite journal |author = Watanabe T |coauthors = Tada M, Nagai H, Sasaki S, Nakao M |title = Helicobacter pylori infection induces gastric cancer in mongolian gerbils. |journal = Gastroenterology |volume = 115 |issue = 3 |pages = 642-8 |year = 1998 |pmid=9721161 }}</ref>。この年にはさらに立松らによって、発がん物質投与とピロリ菌感染を組み合わせた、より効率の高い動物胃癌モデルが確立されている<ref>{{cite journal |author = Tatematsu M, Yamamoto M, Shimizu N, Yoshikawa A, Fukami H, Kaminishi M, Oohara T, Sugiyama A, Ikeno T. |title = Induction of glandular stomach cancers in Helicobacter pylori-sensitive Mongolian gerbils treated with N-methyl-N-nitrosourea and N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine in drinking water. |journal = Jpn J Cancer Res |volume = 89 |pages = 97-104 |year = 1998 |pmid=9548434 }}</ref>。 2001年にはピロリ感染者では胃癌が発症するものの、非感染者では全く発症しなかったと日本から報告された<ref>U{{cite journal |author=Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, Matsumura N, Yamaguchi S, Yamakido M, Taniyama K, Sasaki N, Schlemper RJ |title=Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer |journal=N. Engl. J. Med. |volume=345 |issue=11 |pages=784–9 |year=2001 |pmid=11556297 |doi=10.1056/NEJMoa001999 |url=}}</ref>。
 
 
 
一方、ヘリコバクター・ピロリの除菌が広く行われだした頃から、この治療を行った患者に食道炎や食道がんの発生が多いことが報告されており、本菌は胃に対して悪影響をおよぼす傍ら、食道に対してはむしろ疾患を防御している可能性が議論されている([[#食道|後述]])。
 
 
 
=== その後の展開 ===
 
医学的な重要性から、ヘリコバクター・ピロリの研究は精力的に進められ、[[1997年]]には[[ゲノム]]解読が完了した<ref>{{cite journal |author = Tomb JF, White O, Kerlavage AR et al. |title = The complete genome sequence of the gastric pathogen Helicobacter pylori. |journal = Nature |volume = 388 |pages = 539-47 |year = 1997 |pmid=9252185 }}</ref>。この結果から、胃内定着の機構や発がんのメカニズムについての研究がさらに進められている。
 
 
 
[[2005年]]には、ヘリコバクター・ピロリの発見の功績によって、ロビン・ウォレンとバリー・マーシャルに対して[[ノーベル生理学・医学賞]]が授与された<ref>[http://nobelprize.org/medicine/laureates/2005/index.html The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2005] awarded to Barry J. Marshall and J. Robin Warren "for their discovery of the bacterium Helicobacter pylori and its role in gastritis and peptic ulcer disease".</ref>。
 
 
 
== 細菌学的特徴 ==
 
=== 形態・培養 ===
 
[[ファイル:Helicobacter_pylori_diagram.png|thumb|right|200px|''H. pylori''の構造]]
 
[[グラム染色|グラム陰性]]で、直径約0.5&micro;m、長さ2.5-5&micro;m。2-3回ねじれた'''らせん菌'''の形状を持ち、顕微鏡下ではS字状、あるいはカモメ状と呼ばれる曲がりくねった形態として観察される<ref name="Bergey">{{cite book |author = George M. Garrity |coauthors =Julia A. Bell, Timothy Lilburn |editor = George M. Garrity |title = Bergey's manual of Systematic Bacteriology, 2nd edition, Volume Two, Part C |chaptor = Family II. Helicobacteraceae |pages = 1168-89 |year = 2005 |id = ISBN 0-387-24145-0 }}</ref><ref>藤本秀士『戸田新細菌学』(吉田眞一、柳雄介編)改訂33版 pp525-530、南山堂、2007年、ISBN 978-4-525-16013-5</ref>。長軸の両端(極)に、それぞれ4-8本の鞭毛(極鞭毛とよばれる)を持ち、この鞭毛の回転運動によって、溶液内や粘液中を遊泳して移動することが可能である。微好気性で栄養要求性も厳しいため、分離や[[培養]]が難しい部類の細菌であり、酸素濃度5%、二酸化炭素濃度5-10%の雰囲気で専用の[[培地]]を用いることで[[培養]]可能となる。
 
 
 
ヘリコバクター・ピロリは自然環境においては動物の胃内だけで増殖可能であり、それ以外の場所では、生きたらせん菌の形では長時間生残することはできない。しかし、患者の胃生検組織<ref>{{cite journal |author = Chan WY, Hui PK, Leung KM, Chow J, Kwok F, Ng CS |title = Coccoid forms of Helicobacter pylori in the human stomach. |year = 1994 |pmid=7524304 }}</ref>あるいは[[糞]]便中からcoccoid form 呼ばれる[[球菌]]様の形態に変化したものが分離されることがある。Coccoid formは一種の [[VNC_(微生物学)|VNC状態]]だと考えられており、この形態では増殖はできないものの、一部のcoccoid formが再びヒトの体内に入って蘇生する可能性が示唆されているため、この性状も本菌の感染に関与しているのではないかという説も提唱されている。
 
 
 
=== 胃内への定着 ===
 
ヘリコバクター・ピロリはヒトおよびサル、ネコ、ブタ、イヌの胃内に感染することが明らかになっている<ref name="Bergey"/>。また、さまざまな動物の胃にもそれぞれ、他のヘリコバクター属細菌が定着している。ヘリコバクター・ピロリは、中性と酸性領域の2つの至適[[水素イオン指数|pH]]を持つウレアーゼを産生し、この酵素が本菌の胃内への定着と病原性に大きく関与している([[#ウレアーゼ|下記に詳述]])。ヘリコバクター属は2007年の時点で30種<ref>{{cite web |title = DSMZ Bacterial Nomenclature Up-to-Date: Genus Helicobacter |publisher = DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH |url = http://www.dsmz.de/microorganisms/bacterial_nomenclature_info.php?bnu_no=3637 |accessdate = 2007-10-09 }}</ref>に分類されているが、ピロリに類似したウレアーゼを持つ''H. mustelae''や''H. felis''などは動物の胃内に定着可能であり、一方、ウレアーゼを持たないものや酸性条件下では働かないウレアーゼを産生するものは、胃内には定着せずに腸内に寄生している。
 
 
 
== 疫学 ==
 
=== 感染率 ===
 
従前は世界中ほとんど全ての人が保菌していたが、先進工業国では衛生管理の徹底によって、この菌を持たない人が増えてきている<ref>{{cite journal |author = Taylor DN, Blaser MJ. |title = The epidemiology of Helicobacter pylori infection. |journal = Epidemiol Rev. |volume = 13 |pages = 42-59 |year = 1991 |pmid=1765119 }}</ref>。[[2005年]]現在、世界人口の40-50%程度がヘリコバクター・ピロリの保菌者だと考えられている。日本は[[1992年]]の時点で20歳代の感染率は25%程度と低率であるが、40歳以上では7割を超えており発展途上国並に高い<ref>{{cite journal |author = Asaka M, Kimura T, Kudo M, Takeda H, Mitani S, Miyazaki T, Miki K, Graham DY. |title = Relationship of Helicobacter pylori to serum pepsinogens in an asymptomatic Japanese population. |journal = Gastroenterology. |volume = 102 |pages = 760-6 |year = 1992 |pmid=1537513 }}</ref>。日本のこの極端な二相性には、戦後急速に進んだ生活環境の改善が背景にあるものと考えられている。
 
 
 
=== 感染経路 ===
 
本菌の感染経路は不明であるが、胃内に定着することから[[経口感染]]すると考えられており、口-口および糞-口感染が想定されている。保菌している親との小児期の濃密な接触(離乳食の口移し<ref>奥田真珠美 日本医事新報 2014;4729:53-54.</ref>など)、あるいは糞便に汚染された水・食品を介した感染経路が有力視されている<ref>{{cite journal |author = Brown LM. |title = Helicobacter pylori: epidemiology and routes of transmission. |journal = Epidemiol Rev |volume = 22 |pages = 283-97 |year = 2000 |pmid=11218379 }}</ref>。飼いネコや[[ハエ]]による媒介感染<ref>{{cite journal |author = Grübel P, Hoffman JS, Chong FK, Burstein NA, Mepani C, Cave DR. |title = Vector potential of houseflies (Musca domestica) for Helicobacter pylori. |journal = J Clin Microbiol |volume = 35 |pages = 1300-3 |year = 1997 |pmid=9163433 }}</ref><ref>{{cite journal |journal = JAMA |year = 1999 |volume = 282 |issue = 23 |pages = 2240-2245 |title = Fecal and oral shedding of Helicobacter pylori from healthy infected adults |author = Parsonnet J, Shmuely H, Haggerty T |pmid = 10605976 |doi = 10.1001/jama.282.23.2240 }}</ref>、上部消化管内視鏡を通じた医原性感染の可能性も考えられるが、どの程度強く関与しているかの統一見解は得られていない。
 
 
 
== 病原因子 ==
 
[[ファイル:H_pylori_virulence_factors_ja.png|thumb|right|300px|''H. pylori''の病原因子群。]]
 
[[ファイル:Helicobacter Pylori Urease.png|thumb|right|120px|ウレアーゼの立体構造模式図。]]
 
ヘリコバクター・ピロリには多くの病原因子が存在する<ref>平山壽哉『ウイルス・細菌と感染症がわかる』(吉開泰信編)pp114-118、羊土社、2004年、ISBN 4-89706-960-2</ref>。特に[[ウレアーゼ]]は本菌の胃内定着に必須であるとともに、[[走化性]]や粘膜傷害にも大きく関与する。これ以外にも、本菌に特異的な[[外毒素]](菌体外に分泌される[[毒素]])である'''細胞空胞化毒素''' (VacA; Vacuolating toxin A) や、[[ムチナーゼ]]や[[プロテアーゼ]]などの分泌酵素群が、粘膜および胃上皮細胞の傷害に直接関与すると考えられている。またグラム陰性菌の最外殻に存在する[[リポ多糖]]などによって起きる、好中球などの遊走によっても炎症が引き起こされる。また本菌は[[線毛]]に類似した'''IV型分泌装置'''と呼ばれる構造を有しており、これによって宿主細胞に直接注入される[[エフェクター分子]](CagAなど)は宿主細胞の[[インターロイキン-8|IL-8]]産生を誘導して炎症反応を惹起するほか、アクチン再構築や細胞増殖の亢進、[[アポトーシス]]の阻害など多様な反応を引き起こし、これが癌の発生に繋がるとも考えられている。このほか、[[鞭毛]]は本菌が感染部位となる胃粘膜に遊泳して到達するために、また外膜タンパク質の一種は本菌が上皮細胞に接着するために必要であることが知られている。
 
 
 
これらの病原因子はすべて本菌による感染や胃粘膜傷害に関与するが、このうち本菌に特異的なVacAやCagAについて研究が進んでいる。その結果、同じヘリコバクター・ピロリでも、VacAやCagAを持つ菌株と持たない菌株が存在することが明らかになった。これらを持つ菌株は毒性が強く、これらの強毒株こそが慢性胃炎や消化器潰瘍、胃がんの本当の病原体で、弱毒株の方はあまり害のない一種の常在菌なのでないか、という仮説も提唱されている。
 
 
 
=== ウレアーゼ ===
 
ヘリコバクター・ピロリの持つウレアーゼは細胞の表層部に局在しており、中性および酸性領域の2種類の至適pHを持つため、胃内部の酸性条件下でも尿素からのアンモニア産生が可能である。ウレアーゼによって作られたアンモニアは局所的に胃液を中和するため、その部分にヘリコバクター・ピロリが定着可能となって感染が成立する。アンモニアはまた、ヘリコバクター・ピロリに対して走化性因子としても作用し、胃内にいる他のヘリコバクター・ピロリが鞭毛により遊泳して感染部位に集合しやすくなる。さらに細菌感染に対して動員された白血球が産生する過酸化水素と、その過酸化水素からさらに生成する活性酸素や次亜塩素酸がアンモニアと反応すると、[[クロラミン#モノクロラミン|モノクロラミン]]などの組織障害性が強い[[フリーラジカル]]が生成されて、胃粘膜傷害がさらに進行する<ref>{{cite journal |author = Suzuki H, Mori M, Suzuki M, Sakurai K, Miura S, Ishii H. |title = Extensive DNA damage induced by monochloramine in gastric cells. |journal = Cancer Lett |volume = 115 |pages = 243-8 |year = 1997 |pmid=9149131 }}</ref><ref name="NAKAZAWA2001">{{cite journal|last1=NAKAZAWA|first1=Teruko|journal=Nippon Saikingaku Zasshi |title=ヘリコバクター・ピロリの持続感染機構の研究 -酵素化学, 分子遺伝学から病原微生物学へ- |volume=56|issue=4|year=2001|pages=557–572|issn=1882-4110|doi=10.3412/jsb.56.557}}</ref>。
 
 
 
=== CagA ===
 
ヘリコバクター・ピロリのゲノム中には、「cag pathogenicity island (cag PAI)」と呼ばれる領域があり、IV型分泌装置関連遺伝子など30種余りの遺伝子がこの領域に含まれている。{{lang-en|Cytoxin-associatedgene Aantigen (CagA)}}はこの領域に含まれる遺伝子の一つ、''cagA''遺伝子 (<u>c</u>ytotoxin-<u>a</u>ssociated <u>g</u>ene <u>A</u>) から産生されるタンパク質である。''cagA''遺伝子を持つピロリ菌株に感染した場合、持たない菌株の感染よりも消化性潰瘍や胃癌になるリスクが高い<ref>{{cite journal |author = Huang JQ, Zheng GF, Sumanac K, Irvine EJ, Hunt RH. |title = Meta-analysis of the relationship between cagA seropositivity and gastric cancer. |journal = Gastroenterology |volume = 125 |pages = 1636-44 |year = 2003 |pmid=4724815 }}</ref>。東アジア型の菌株の大半が''cagA''遺伝子を持つ一方で、西洋型菌のCagA保有率は50%程度であり、胃癌発生率の地域差と相関している。
 
 
 
胃の粘膜に取り付いたヘリコバクター・ピロリは、IV型分泌装置を通してCagA蛋白を細胞内に注入する<ref>{{cite journal |author = Odenbreit S, Püls J, Sedlmaier B, Gerland E, Fischer W, Haas R. |title = Translocation of Helicobacter pylori CagA into gastric epithelial cells by type IV secretion. |journal = Science |volume = 287 |pages = 1497-500 |year = 2000 |pmid=10688800 }}</ref>。注入されたCagAは宿主細胞内で[[リン酸化]]を受け、これまでに少なくとも[[細胞分裂]]と[[細胞接着]]に影響を及ぼすことが分かっている<ref>{{cite journal |author = Hatakeyama M. |title = Oncogenic mechanisms of the Helicobacter pylori CagA protein. |journal = Nat Rev Cancer |volume = 4 |pages = 688-94 |year = 2004 |pmid=15343275 }}</ref>。
 
 
 
== 病原性 ==
 
ヘリコバクター・ピロリは、ヒトの[[萎縮性胃炎]]、[[胃潰瘍]]、[[十二指腸潰瘍]]などの炎症性の疾患<ref name="Hirayama 2005"/><ref>{{cite journal |author = Blaser MJ. |title = Helicobacter pylori and the pathogenesis of gastroduodenal inflammation. |journal= J Infect Dis. |volume = 161 |pages = 626-33 |year = 1990 |pmid=2181029 }}</ref>、[[胃癌]]<ref name="HATAKEYAMA2008">{{cite journal|last1=HATAKEYAMA|first1=Masanori|title=Oncogenic mechanism of Helicobacter pylori|journal=Japanese Journal of Clinical Immunology|volume=31|issue=3|year=2008|pages=132–140|issn=0911-4300|doi=10.2177/jsci.31.132}}</ref>や[[MALTリンパ腫]](粘膜関連リンパ組織に生じるBリンパ腫。MALT:Mucosa-Associated-Lymphoid-Tissue)、[[びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫]]などの[[悪性腫瘍|がん]]の発症と密接に関連した病原細菌である<ref name="PharmaTribune"/>。[[国際がん研究機関]]が発表している [[IARC発がん性リスク一覧]]では、グループI(発がん性がある)に分類されている。ただし疾患が現れるのは、保菌者の約3割程度であり、残りの7割の人は持続感染しながらも症状が現れない健康保菌者([[無症候キャリア]])だと言われている。
 
 
 
また反対に、人体におけるヘリコバクター・ピロリの存在メリットについての研究もなされており、小児ぜんそく、アレルギー性鼻炎、皮膚アレルギーなどの疾患リスクがヘリコバクター・ピロリの感染者の方が低いと言う報告もある<ref>{{cite journal |author = Martin J. Blaser & Stanley Falkow |title = What are the consequences of the disappearing human microbiota? |journal = Nature Reviews Microbiology |volume = 89 |pages = 887-894 |date=2009-12 |doi=10.1038/nrmicro2245 }}</ref>。
 
 
 
=== 胃、十二指腸 ===
 
[[ファイル:Pylorigastritis.jpg|thumb|right|180px|ヘリコバクター・ピロリが感染した胃粘膜上皮の組織像(Warthin-Starry染色)]]
 
ヘリコバクター・ピロリが、宿主であるヒトの胃に感染した場合、それが初感染のときには急性の胃炎や下痢を起こす。ほとんどの場合はそのまま菌が排除されることなく胃内に定着し、宿主の終生にわたって持続感染を起こす。持続感染したヒトでは[[萎縮性胃炎]]・[[胃潰瘍]]・[[十二指腸潰瘍]]のリスクが上昇する。
 
 
 
胃の表面では[[粘膜]][[上皮細胞]]を1 mm程度の厚さで粘液層が覆っており、これが胃液に含まれる[[胃酸]]や、[[ペプシン]]などのタンパク質分解酵素から上皮細胞を守る役割を担っている。胃内に侵入したヘリコバクター・ピロリは、[[鞭毛]]を使ってこの粘液層内部に泳いで移動し、菌体の表層にあるリポ多糖や外膜タンパク質などの分子の働きによって上皮細胞の表面に付着する。この粘液層の内部もまた酸性度の高い環境であるため、通常の細菌はそこに定着することはできないが、ヘリコバクター・ピロリの持つウレアーゼは粘液中の[[尿素]]を[[二酸化炭素]]と[[アンモニア]]に分解し、生じたアンモニアが粘液中の[[胃酸]]を中和することで酸による[[殺菌]]を免れる。殺菌を逃れた菌は粘液層で増殖する。また尿素から生じたアンモニアなどは尿素や[[ヘミン]]などの生体分子とともに、走化性因子として周囲の菌を呼び寄せ、粘液下層にヘリコバクター・ピロリの感染巣が形成される。この感染巣の部分で、ヘリコバクター・ピロリが作るさまざまな分解酵素の働きによって粘液層が破壊され、粘膜による保護を失った上皮細胞が傷害されて炎症が起きる。また菌が分泌する VacA などの毒素や IV型分泌装置で上皮細胞に注入するCagAなどのエフェクター分子による上皮細胞の直接的な傷害や、細菌の感染に対して動員された好中球などの白血球による組織傷害なども加わって、炎症を増悪させる。
 
 
 
またこれらの炎症性疾患が慢性化すると、胃癌や、[[MALTリンパ腫]]、[[びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫]]が発生するリスクも上昇する。炎症に続いて起こる組織修復が繰り返されることによって、細胞がん化のリスクが上昇することが、癌の発生原因の一つであると考えられている。また、ヘリコバクター・ピロリが産生するCagAなどの病原因子が、宿主細胞増殖を促進したり、[[アポトーシス]]を抑制することで、宿主細胞のがん化に関与している可能性も指摘されている<ref>丸山康弘、[http://doi.org/10.11441/shinshumedj.63.33 当院におけるヘリコバクターピロリの除菌治療] 信州医学雑誌 Vol.63 (2015) No.1 p.33-34, {{DOI|10.11441/shinshumedj.63.33}}</ref>。
 
 
 
ヘリコバクター・ピロリ菌の陽性者では、陰性者と比較して胃癌の発生のリスクは5倍となる。さらに、胃の萎縮の程度が進むと胃癌リスクも上昇し、ヘリコバクター・ピロリ菌感染陽性でかつ、萎縮性胃炎ありのグループでは、陰性で萎縮なしのグループと比較して胃癌の発生リスクは10倍となっている<ref>[http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/287.html ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がん罹患との関係:CagA およびペプシノーゲンとの組み合わせによるリスク]独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部:2012年7月6日閲覧</ref>。
 
 
 
ヘリコバクター・ピロリ感染症と[[ビタミンB12]]欠乏症の直接的な関連があり,除菌により血清ビタミンB12値が正常化することが知られている<ref>Kaptan K, et al. Arch Intern Med. 2000;160 (9):1349-53.</ref>。
 
 
 
[[ファイル:H_pylori_ulcer_diagram_ja.png|thumb|right|450px|'''ヘリコバクター・ピロリによる胃粘膜傷害'''
 
 
 
(1) 胃内に侵入した菌は[[鞭毛]]を使って胃の粘液層内部を移動し、上皮細胞の表面に付着する。(2) ウレアーゼが粘液中の尿素からアンモニアを生じ、[[胃酸]]を中和する。(3) 殺菌を逃れたピロリ菌が粘液層で増殖。また走化性因子が周囲のピロリ菌を呼び寄せる。(4) ピロリ菌が作るさまざまな分解酵素は粘液層を破壊し粘膜による保護を失った上皮細胞が炎症を起こす(図中央)。また菌が分泌する VacA などの毒素(右)、IV型分泌装置で上皮細胞に注入するエフェクター分子(左)が上皮細胞を傷害して、炎症を増悪させる。]]
 
 
 
=== 食道 ===
 
胃炎治療のために除菌治療を行った人の一部で逆流性食道炎の発生や、それに伴う食道がんのリスクが増加する可能性が報告されている<ref>{{cite journal |author = Labenz J, Blum AL, Bayerdörffer E, Meining A, Stolte M, Börsch G. |title = Curing Helicobacter pylori infection in patients with duodenal ulcer may provoke reflux esophagitis. |journal = Gastroenterology |volume = 112 |pages = 1442-7 |year = 1997 |pmid=9136820 }}</ref>。しかし、多施設二重盲検無作為コントロール試験による最近の調査ではリスク増加が否定されるなど<ref>{{cite journal |author = Schwizer W, Thumshirn M, Dent J, Guldenschuh I, Menne D, Cathomas G, Fried M. |title = Helicobacter pylori and symptomatic relapse of gastro-oesophageal reflux disease: a randomised controlled trial. |journal = [[ランセット|Lancet]] |volume = 357 |pages = 1738-42 |year = 2001 |pmid=11403809 }}</ref>、この現象についてはまだ一致した見解が得られていない。
 
 
 
胃内にヘリコバクター・ピロリを持たない人や除菌治療を行った人では、胃酸の分泌が過剰となって胃内の酸性度が増し、逆流した胃液が食道組織を傷害して、一過性の逆流性食道炎や[[バレット食道]]を生じることがある。バレット食道は[[食道]][[腺癌]]の前段階の病変として現れることも知られている。ただし、この逆流性食道炎は一過性のもので、生涯にわたって増悪するかどうかについては否定的な専門家が多い。また除菌時にみられるバレット食道の多くは病変が短いタイプのもの (SSBE; Short Segment Barrett Esophagus) であり、このタイプの発生と食道腺癌発生のリスクについても統一した見解は得られていない。
 
 
 
食道に対する知見から、ヘリコバクター・ピロリの持続感染は、胃がんとは逆に、食道がんのリスクを低下させているのではないかという考えも提唱された。本菌はもともと宿主と[[共生]]関係にある常在細菌の一種であり、胃酸分泌のコントロールによって食道の疾患予防に貢献していると考えている研究者も存在する<ref name="Blaser_2005"/>。人間の胃内のpH調整機構そのものが、本来常在細菌であったヘリコバクター・ピロリによる胃酸中和の存在を前提とした形で進化を遂げているのだと主張している。
 
 
 
== 検査 ==
 
ヘリコバクター・ピロリ感染の有無の診断には下記の検査法のいずれかを用いる(複数であればさらに精度が高くなる)。他の一般的な細菌感染症の場合と同様な、
 
# 病原体そのものの存在を検出する。
 
# その病原体の感染によって患者の血液中に産生された[[抗体]]の量を測定する。
 
# 本菌に独特な検査方法として、本菌が有するウレアーゼの酵素活性を測定する。
 
 
 
が利用されている。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、これらの診断法が採用されている。
 
 
 
=== 一般検査 ===
 
;尿素呼気テスト (urea breath test, UBT)
 
[[File:Urea breath test kit.jpg|thumb|尿素呼気テストキット。検査薬(ユービット錠)と呼気回収パック(検査前、検査後)]]
 
:[[炭素13|{{sup|13}}C]]-尿素を含んだ検査薬を内服し、服用前後で呼気に含まれる {{sup|13}}C-二酸化炭素の量を比較する{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.9.1}}。本菌に感染していると、そのウレアーゼによって胃内で尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解されて、呼気中の二酸化炭素における {{sup|13}}Cの含有量が、非感染時より大きく増加するため、間接的な診断ができる。検査薬服用の20分後の {{sup|13}}C-二酸化炭素の上昇が2.4[[パーミル]]以上の場合に、本菌による感染があるものとするなどの基準値が設けられている。通常、除菌治療の効果判定の目的に施行されている場合が多い。
 
;血中・尿中抗H. pylori IgG抗体検査
 
:ヘリコバクター・ピロリが感染すると、本菌に対する[[抗体]]が患者の血液中に産生される。血液や尿を用いてこの抗体の量を測定し、ヘリコバクター・ピロリ抗体(血清Hp抗体)が高値であれば本菌に感染していることが認められ、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を検索するスクリーニング検査として現在最も一般的な方法。尿を検体とする場合は判定が迅速で20分程度で判定が可能である。しかし、除菌後の抗体価低下には時間が掛かるため除菌後すぐでは[[偽陽性]]が出やすい。
 
:閾値である10U/mLに近い陰性例(抗体価が3U/mL≦かつ<10U/mL)には、2割弱の[[偽陰性]]感染者が含まれることが明らかになってきており、日本ヘリコバクター学会が注意喚起を行っている。
 
 
 
;便中''H. pylori''抗原検査
 
:診断や研究用途に作られたヘリコバクター・ピロリに対する抗体を用いた[[抗原抗体反応]]による検査。この抗体が、生きた菌だけでなく死菌なども[[抗原]](''H. pylori''抗原)として認識し、特異的に反応することを利用し、糞便中''H. pylori''抗原の有無を判定する。非侵襲的に本菌の存在を判定できるという長所がある。
 
 
 
=== 内視鏡生検検査 ===
 
[[File:Rapid urease test.JPG|thumb|迅速ウレアーゼ試験キット]]
 
;迅速ウレアーゼ試験 (rapid urease test, RUT)
 
:尿素と[[水素イオン指数|pH]]指示薬が混入された検査試薬内に、内視鏡的に採取した胃粘膜生検組織を入れる。胃生検組織中にヘリコバクター・ピロリが存在する場合には、本菌が有するウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じる。これに伴う検査薬のpHの上昇の有無を、pH指示薬の色調変化で確認する。この検査によって本菌の存在が間接的に診断できる。
 
;組織鏡検法
 
:組織切片をHE(ヘマトキシリン-エオジン)染色あるいはギムザ染色により染色し、[[顕微鏡]]で観察する。直接観察することによりヘリコバクター・ピロリの存在を診断できる。また、培養不能でウレアーゼ活性ももたないcoccoid form(球状菌)の状態でも診断できるという長所がある。
 
;培養法
 
:胃生検切片からの菌の分離[[培養]]によって、ヘリコバクター・ピロリの存在を確認する。この検査法の長所は[[株|菌株]]を純培養し入手できる点であり、この菌株を薬剤感受性 (MIC) 測定や遺伝子診断など他の検査に利用することができる。欠点は、本菌は増殖速度が遅いために培養には3日から7日を要するため、この検査法をとると時間が掛かる点である。
 
 
 
=== リスク診断 ===
 
ABC 分類とは血清Hp抗体と血清ペプシノゲン法の併用によるリスク評価法で、2種類の検査結果を組合せにより4種類の分類が行われることから、'''ABCD分類'''あるいは '''ABC分類'''と呼ばれる<ref name=nisshoshi.110.225>中島滋美、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/110/2/110_225/_article/-char/ja/ 胃がん検診におけるペプシノゲン法,ABC分類,および胃X線検査の位置づけ] 日本消化器病学会雑誌 Vol.110 (2013) No.2 p.225-233, {{DOI|10.11405/nisshoshi.110.225}}</ref>。なお、[[検診]]ではないので ABC検診とは呼ばない。
 
{| class="wikitable" style="text-align:center"
 
|+ABCD分類<ref name=nisshoshi.110.225 />
 
! rowspan="2" colspan="2"| ||colspan="2"| 血清ペプシノゲン(PG)法
 
|-
 
! 陰性 (PG II ≦ 30ng/mL 未満)!! 陽性 (PG II > 30ng/mL 以上)
 
|-
 
! rowspan="2" | 血清Hp抗体 || 陰性
 
| A || B
 
|-
 
!  陽性
 
| C || D
 
|}
 
注記: C と D を同一に扱い C とすれば ABC 分類となる。
 
* A < B < C < D (高リスク)<ref>望月直美、小林正夫、西大路賢一 ほか、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsgcs/52/5/52_545/_article/-char/ja/ 【原著】人間ドックにおける胃がんリスク評価(ABC分類)の有用性と課題] 日本消化器がん検診学会雑誌 Vol.52 (2014) No.5 p.545-555, {{DOI|10.11404/jsgcs.52.545}}</ref>
 
 
 
== 治療 ==
 
[[日本]]において、[[1995年]]に日本消化器病学会治験検討委員会より除菌ガイドラインが発表され、[[2000年]]に日本ヘリコバクター学会より「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断と治療のガイドライン」が発表された{{Sfn|日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会|2000}}。
 
 
 
日本において、ヘリコバクター・ピロリの除菌療法の保険適用は、[[2000年]]11月に「[[胃潰瘍]]」と「[[十二指腸潰瘍]]」が対象となり<ref>[http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=146639&name=2r9852000002wkg5_2.pdf 「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」 の効能追加について] 厚労省</ref>、「[[2010年]]6月に胃MALTリンパ腫」、「[[特発性血小板減少性紫斑病]]」、「早期[[胃癌]][[ESD]]」に拡大された。2011年2月11日に参議院に提出された「胃がんと ヘリコバクターピロリとの関連を踏まえたがん対策に関する質問主意書」<ref name=s177056>{{PDFlink|[http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/syup/s177056.pdf 胃がんとヘリコバクターピロリとの関連を踏まえたがん対策に関する質問主意書]}} 衆議院</ref>に対して、政府は同2月18日の答弁書において国際がん研究機関(IARC:INTERNATIONAL AGENCY FOR RESEARCH ON CANCER)の見解を受け入れる形で胃がんの原因をピロリ菌と認め<ref>{{PDFlink|[http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/toup/t177056.pdf 参議院議員秋野公造君提出胃がんとヘリコバクターピロリとの関連を踏まえたがん対策に関する質問に対する答弁書]}}</ref>、その後、慢性胃炎の段階まで適応拡大の機運が高まる。[[2013年]]1月に厚生労働省の専門部会により、除菌によって[[胃炎]]が改善するとの研究結果が確認されたことを受け、翌月[[2013年]]2月には、胃潰瘍の前段階である「[[慢性胃炎]]」すなわち「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に適応を拡大した上で保険適用とされた<ref>{{PDFlink|[http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken12/dl/index-117.pdf 厚生労働省平成22年6月18日「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」(平成12年10月31日保険発第180号)]}}</ref><ref>[http://www.j-cast.com/2013/02/22166558.html 胃がんの「原因」ピロリ菌、胃炎での治療にも保険適用]</ref><ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0106N_S3A200C1CR8000/ 日本経済新聞 ピロリ除菌の保険拡大へ 厚労省、胃がん発症減も]</ref><ref> 胃がんは「ピロリ菌除菌」でなくせる 浅香 正博・秋野公造 (著)潮出版2013/10/5、潮新書2017/3/4</ref>。しかし、除菌療法が成功しても胃がんを発症する事例もある<ref name=gee.60.5>伊藤公訓、小刀崇弘、保田智之 ほか、[https://doi.org/10.11280/gee.60.5 ''Helicobacter pylori''除菌後の胃がん] 日本消化器内視鏡学会雑誌 60巻 (2018) 1号 p.5-13, {{doi|10.11280/gee.60.5}}</ref>。
 
 
 
=== 除菌療法の変遷 ===
 
ヘリコバクター・ピロリの除菌は、発見と同時に始まっており、分離培養に初めて成功したマーシャルは、ただちに除菌治療に有効な薬剤の検討を開始している<ref>{{cite journal |author = Marshall BJ, McGechie DB, Rogers PA, Glancy RJ. |title = Pyloric Campylobacter infection and gastroduodenal disease. |journal = Med J Aust |volume = 142 |pages = 439-44 |year = 1985 |pmid 3982346 }}</ref>。初期には[[ビスマス]]製剤による除菌が試みられたが、単剤では効果が低かったため、[[アモキシシリン]]や[[チニダゾール]]といった[[抗生物質]]を組み合わせた2剤併用<ref>{{cite journal |author = Marshall BJ, Armstrong JA, Francis GJ, Nokes NT, Wee SH. |title = Antibacterial action of bismuth in relation to Campylobacter pyloridis colonization and gastritis. |journal = Digestion |volume = 37 Suppl 2 |pages = 16-30 |year = 1987 |pmid=3622946 }}</ref><ref>{{Cite journal|和書|doi=10.11405/nisshoshi1964.94.8_569 |title= ヘリコバクター・ピロリの2段階除菌法 |journal=日本消化器病学会雑誌 |vol=94 |date=1997 |issue=8 |page=569}}</ref>、さらには[[メトロニダゾール]]を加えた抗生物質3剤による方法が開発された<ref>{{cite journal |author = Logan RP, Gummett PA, Misiewicz JJ, Karim QN, Walker MM, Baron JH. |title = One week eradication regimen for Helicobacter pylori. |journal = [[ランセット|Lancet]] |volume = 338 |pages = 1249-52 |year = 1991 |pmid=1682653 }}</ref>。この方法は古典的3剤併用療法と呼ばれ、改良を加えながら高い除菌率を得ることに成功したが、一方で[[副作用]]の問題が残された。
 
 
 
初期のビスマス製剤を軸にした除菌療法は、抗生物質の種類を増やし、効果の上昇を狙ったものだった。[[抗生物質]]の活性は一般的にpH中性環境で最も高いため、[[プロトンポンプ阻害薬]] (PPI) などの酸分泌抑制薬を併用し、胃内環境を中性に近づける試みが行われた<ref>{{cite journal
 
|author = Unge P, Gad A, Gnarpe H, Olsson J. |title = Does omeprazole improve antimicrobial therapy directed towards gastric Campylobacter pylori in patients with antral gastritis? A pilot study. |journal = Scand J Gastroenterol Suppl |volume = 167 |pages = 49-54 |year = 1989 |pmid=2617169 }}</ref>。この方法は一過性の胃酸過多による副作用を抑えられるという利点もあり、その後[[クラリスロマイシン]]の併用を加え、90%超という除菌率を達成した<ref>{{cite journal |author = Jaup BH, Norrby A. |title = Low dose, short-term triple therapy for cure of Helicobacter pylori infection and healing of peptic ulcers. |journal = Am J Gastroenterol |volume = 90 |pages = 943-5 |year = 1995 |pmid=7771426 }}</ref>。これが新3剤併用療法であり、1週間という短期間の服用で高い効果を得られることから、現在の除菌療法のスタンダードとなっている。
 
 
 
=== 日本における除菌療法の実態 ===
 
現在、日本で認可されている保険診療の対象となっている除菌療法は、[[カリウム]][[イオン]]競合型アシッドブロッカー(P-CAB)または[[プロトンポンプ阻害薬]] (PPI) と[[抗生物質]]2剤([[アモキシシリン]] (AMPC) + [[クラリスロマイシン]] (CAM))を組み合わせた「(P-CAB or PPI) + AMPC + CAM」の3剤併用療法で、3剤を7日間服用する。当初はプロトンポンプ阻害薬として[[ランソプラゾール]]のみが指定されていたが、[[オメプラゾール]]と[[ラベプラゾール]]、[[ボノプラザン]]も順次保険診療の対象となった。この方法による除菌の成功率は80%程度とされてきたが、近年クラリスロマイシン耐性菌株が増え<ref>[http://gut.bmjjournals.com/cgi/content/full/53/9/1374 H pylori antibiotic resistance: prevalence, importance, and advances in testing]</ref>、除菌率が70%程度まで低下してきているとの報告もある。ボノプラザン併用療法では、胃内pHをより高く維持できるため、一次除菌 92.6%, 二次除菌 98.0%と既存PPIに比べ高率に除菌できた<ref>{{Cite web |date=2016-03 |url=http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065139.pdf |title=タケキャブ錠10mg/タケキャブ錠20mg 添付文書 |format=PDF |accessdate=2016-07-02}}</ref>。クラリスロマイシン耐性菌株に対しては、ヨーグルトを併用し除菌の成功率が向上したとの報告がある<ref>[http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/200911/512955.html ピロリ除菌にヨーグルト] 日経メディカルオンライン記事:2009年11月3日 閲覧: 2009年11月5日</ref>。クラリスロマイシンは呼吸器感染症の治療に用いられることから、小児の耐性菌保有も見られる<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110004717189/ ヘリコバクター・ピロリの小児への感染とクラリスロマイシン耐性化] 新潟医学会雑誌 118(11) pp.643-644 20041110</ref>。
 
前述の一次除菌療法にて除菌が失敗した場合、クラリスロマイシンを[[メトロニダゾール]] (MNZ) に変更し「(P-CAB or PPI) + AMPC + MNZ」の3剤併用療法による二次除菌療法まで保険適応となっている。
 
 
 
また、二次除菌療法でも除菌が失敗した場合、三次除菌療法がいくつか提唱されており、「(P-CAB or PPI) + AMPC + MNZ」の倍量投与・倍期間投与等や、また[[シタフロキサシン]] (STFX)、[[レボフロキサシン]] (LVFX) 等を組み合わせた「(P-CAB or PPI) + AMPC + STFX」「(P-CAB or PPI) + AMPC + LVFX」の3剤併用療法等が行われたりするが、これらは[[保険診療]]の適応にはならない。
 
 
 
==== 除菌療法の禁忌と副作用 ====
 
[[ペニシリン]]抗生物質に対する過敏症や薬物[[相互作用]]に留意する必要がある。クラリスロマイシンに対しては片頭痛薬のエルゴタミン含有製剤、痛風薬のコルヒチンなどは併用禁忌である<ref name="medic530058"/>。二次除菌療法に用いるメトロニダゾールは、[[アルコール]]との相互作用によって腹痛や嘔吐を起こす<ref name="medic530058">[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t199/201304/530058.html 広がるピロリ除菌療法の注意点は?] 日経メディカルオンライン 記事:2013年4月25日 閲覧:2013年4月26日</ref>。
 
 
 
除菌療法により生じる主な副作用(有害事象)は、
 
* 下痢、軟便
 
* 希に、味覚障害や[[薬疹]]<ref>市川竜太郎、伊藤絵里子、寺尾浩 ほか、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/118/8/118_1527/_article/-char/ja/ 【原著】ヘリコバクター・ピロリ除菌療法による多形紅斑型薬疹の5例] 日本皮膚科学会雑誌 Vol.118 (2008) No.8 p.1527-1532, {{DOI|10.14924/dermatol.118.1527}}</ref><ref>篠田京香、近藤靖児、[http://doi.org/10.14924/dermatol.113.1819 【原著】ヘリコバクター・ピロリ除菌後早期に発症した紅斑丘疹型皮疹の6例] 日本皮膚科学会雑誌 Vol.113 (2003) No.12 p.1819-1825, {{doi|10.14924/dermatol.113.1819}}</ref>
 
 
 
== 研究事例 ==
 
=== N-アセチルL-システイン ===
 
臨床試験にてアミノ酸である[[N-アセチルL-システイン]](別称:[[アセチルシステイン]]、またはNAC)の摂取により、ピロリ菌が不活性化されることが判明した。結果的に胃がんにも効果的という事が証明された。サプリメントとして使用されているため長年脚光を浴びなかったが、NACは基本的なアミノ酸であり、不足時に摂取すると、全臓器、人体機能、免疫システムの全体的な向上が確認されている。NACの摂取によって、近年の臨床試験により、症状が大幅に改善または完治する病気は非常に多岐に渡ることが判明してきたため、現在も様々な臨床試験が行われている。現在行われている試験についても、{{要出典範囲|シンプルかつ明快、基本的な作用メカニズムから、非常に良い結果が期待されている|date=2017年6月}}。また、過大な処方をしない限り、重度の副作用はほぼないのも特徴である。マウスのテストでは、人体換算で20000mg/日を投与するとアレルギー症状を発生した例があるが、通常はその1/7程度が最大の処方量であり、問題はないと考えられる。通常量で発生する一番頻度の高い副作用は、空腹時に摂取した際に発生する多少の腹部の不快感である<ref>{{cite journal |author=Dean O, Giorlando F, Berk M |title=N-acetylcysteine in psychiatry: current therapeutic evidence and potential mechanisms of action |journal=J Psychiatry Neurosci |volume=36 |issue=2 |pages=78–86 |year=2011 |pmid=21118657 |pmc=3044191 |doi=10.1503/jpn.100057 |url=}}</ref>。
 
 
 
=== 食品による菌の抑制 ===
 
近年、食品によるピロリ菌の抑制効果が確認されている。発芽3日目の[[ブロッコリー]]の新芽([[スプラウト]])を2か月間継続して食べた感染者において、[[胃]]の中に住むピロリ菌が減少したとの報告がされている。メカニズムはブロッコリー内に含まれているNアセチルLシステインの結合物質によりNアセチルLシステインと同じくピロリ菌の不活性化を行うと考えられている。<ref>{{cite journal |author = Galan MV, Kishan AA, Silverman AL |title = Oral broccoli sprouts for the treatment of ''Helicobacter pylori'' infection: a preliminary report |journal = Dig Dis Sci. |month = August |year = 2004 |volume = 49 |issue = 7–8 |pages = 1088–90 |pmid=15387326 }}</ref>。ブロッコリーの新芽に含まれる[[スルフォラファン]]も有効成分の一つと考えられている<ref>{{cite journal |title = Sulforaphane inhibits extracellular, intracellular, and antibiotic-resistant strains of Helicobacter pylori and prevents benzo[a]pyrene-induced stomach tumors. |author = Fahey JW, Haristoy X, Dolan PM, Kensler TW, Scholtus I, Stephenson KK, Talalay P, Lozniewski A |year = 2002 |month = May |pmid=12032331 }}</ref>。また、[[ウメ|梅]]に含まれる[[シリンガレシノール]]という[[リグナン]]の一種もピロリ菌の増殖抑制や胃粘膜への感染防御に有効であることが発見された。
 
 
 
このほか、[[緑茶]]<ref>{{cite pmid|19157800}}</ref><ref>{{cite pmid|18956590}}</ref>、緑茶[[カテキン]]<ref>{{cite journal |author = Matsubara S, Shibata H, Ishikawa F, Yokokura T, Takahashi M, Sugimura T, Wakabayashi K. |title = Suppression of Helicobacter pylori-induced gastritis by green tea extract in Mongolian gerbils. |month = October |year = 2003 |pmiD=14550260 }}</ref>や[[ココア]]、[[コーヒー]]<ref>{{cite journal |author = Okabe Y |coauthors = Yamamoto Y, Yasuda K, Hochito K, Kawano K, Ishii N |title = The antibacterial effects of coffee on Escherichia coli and Helicobacter pylori |journal~J. Clin. Biochem. Nutr. |volume = 34 |issue = 3 |pages = 85-87 |year = 2003 |url = http://sciencelinks.jp/j-east/article/200422/000020042204A0709534.php |id = ISSN 0912-0009 }}</ref>、[[わさび]]<ref>木苗直秀 ほか、{{PDFlink|[http://www.ric-shizuoka.or.jp/area/result/17/4-10.pdf わさび抽出物の Helicobacter pylori 感染スナネズミに対する胃粘膜障害予防効果とストレス負荷が及ぼす影響 研究内容]}}</ref>、[[ショウガ]]<ref>[http://astamuse.com/ja/granted/JP/No/4982337 ヘリコバクター・ピロリに関連する疾患を治療する際の、生姜の根茎から抽出された有効産物の使用]</ref>、[[ニンニク]]<ref>http://f16.aaa.livedoor.jp/~maruzen/public_html/ninniku.htm</ref><ref>[https://archive.is/20120715064837/findarticles.com/p/articles/mi_m0FKA/is_n7_v59/ai_19587537/ Garlic fights H. pylori to reduce the risk of stomach cancer]</ref>、[[キムチ]]<ref>{{cite journal |author = Youl Lee and Hae Choon Chang |title = Isolation and Characterization of Kimchi Lactic Acid Bacteria Showing Anti-Helicobacter pylori Activity |journal = Korean Journal of Microbiology and Biotechnology |pages = 106–114 |year = 2008 |url = http://kmbase.medric.or.kr/Main.aspx?d=KMBASE&m=VIEW&i=1234420080360020106 |volume = 2 }}</ref>、[[ヨーグルト]]<ref>{{cite journal |author = Adolfsson O, Meydani SN, Russell RM. |title = Yogurt and gut function. |journal=Am J Clin Nutr |volume = 80 |pages = 245-56 |year = 2004 |pmid=15277142 }}</ref>、[[キャベツ]]、[[カリフラワー]]、[[ブロッコリー]]などの[[アブラナ科]]の[[野菜]]に含まれる[[イソチオシアネート]]類<ref>[http://home.cie.m.u-tokyo.ac.jp:8080/Plone/Public%20Health%20Informatics/309360c558315b66/4e00822c306e65b95411305130934e88963260c55831/30a430bd30c130aa30b730a230cd30fc30c8 一般の方向けがん予防情報  イソチオシアネート]</ref>などでも抑制が報告されている。さらに、ニュージーランド特産の[[蜂蜜]]であるマヌカハニーも、ピロリ菌駆除力を持つことが報告されている<ref>{{cite journal |author = McGovern DP, Abbas SZ, Vivian G, Dalton HR. |title = Manuka honey against Helicobacter pylori. |journal = J R Soc Med |volume = 92 |pages = 439 |year = 1999 |pmid=10656024 }}</ref><ref>[http://www.watsonandson.net.nz/waikato.htm ワイカト大学生物化学研究所ハニー・リサーチ・センターの報告書(翻訳)]</ref>。
 
 
 
ただし、これら多くの食品による抑制効果は限られた調査対象や動物実験を基にしたものがほとんどである。また、特定の食品だけを過剰に摂取することは(たとえピロリ菌に対しては効果があったとしても)、全身の健康にとって良くないことは容易に想像できる。ヘリコバクター・ピロリ関連疾患の現実的かつ実践的な予防対策として、広範囲な疫学調査に基づき広く受け入れられているのは[[野菜]]と[[果物]]の摂取、および減塩である<ref>{{cite journal |author = Correa P, Piazuelo MB, Camargo MC. |title = The future of gastric cancer prevention. |journal = Gastric Cancer |volume = 7 |pages = 9-16 |year = 2004 |pmid=15052434 }}</ref><ref>{{cite journal |author = Tsugane S, Sasazuki S. |title = Diet and the risk of gastric cancer: review of epidemiological evidence. |journal = Gastric Cancer |volume = 10 |pages = 75-83 |year = 2007 |pmid=17577615 }}</ref>。
 
 
 
== 人類学への応用 ==
 
ピロリ菌の系統から[[現生人類]]拡散史に迫る研究も存在する。以下にピロリ菌の亜系とその分布<ref>Yoshan Moodley et al(2009); The Peopling of the Pacific from a Bacterial Perspective;Science 23 January 2009: Vol. 323 no. 5913 pp. 527-530 DOI: 10.1126/science.1166083 より部分改変。(崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)P36 より)</ref>を示す。(''段落下げ''が分布の系統)
 
*hpAfrica2 アフリカ型2 ''アフリカ''
 
*hpAfrica1-hpSahul-hpAsia2 アフリカ・サフル・アジア型
 
**hpAfrica アフリカ型1 ''アフリカ''
 
**hpSahul サフル型
 
***hpSahul ニューギニア型 ''ニューギニア''
 
***hpSahul オーストラリア型 ''オーストラリア''
 
**hpAsia2-hspEAsia 中央アジア・東アジア型
 
***hpAsia2 中央アジア型 ''中央アジア''
 
***hspAmerica-hspEasia アメリカ・東アジア型
 
****hspAmerica アメリカ型
 
*****hspAmerica 北アメリカ型 ''北アメリカ ''
 
*****hspAmerica 南アメリカ型 ''南アメリカ''
 
****hspEAsia-hspMaori 東アジア・台湾型
 
*****hspEAsia 東アジア型 ''東アジア、日本列島、東南アジア''
 
*****hspMaori 台湾・太平洋型
 
******hspMaori 台湾型 ''台湾''
 
******hspMaori 太平洋型 ''オセアニア''
 
この系統樹により、[[崎谷満]]は、[[東アジア]]のヒト集団が[[イラン]]付近から[[アルタイ山脈]]付近を経由した北ルートで到達したことが明確に示されたとしている<ref>崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)</ref>。
 
  
 
==出典==
 
==出典==
 
{{脚注ヘルプ}}
 
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{{Reflist|3}}
 
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== 参考文献 ==
 
* {{Cite report|publiser=[[英国国立医療技術評価機構]] |title=CG184: Gastro-oesophageal reflux disease and dyspepsia in adults: investigation and management |url=https://www.nice.org.uk/guidance/cg184/ |date=2014 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2014}} }}
 
* {{cite journal |author = 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 |title = Helicobacter pylori 感染の診断と治療のガイドライン |journal = Jpn J Helicobacter Res |volume = (suppl) 2 |pages = 2-12 |year = 2000 |ref=harv}}
 
 
 
== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
 
* [[ヘリコバクター・ハイルマニ]]
 
* [[ヘリコバクター・ハイルマニ]]
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*[http://www.jshr.jp/ 日本ヘリコバクター学会]
 
*[http://www.jshr.jp/ 日本ヘリコバクター学会]
  
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2018/9/20/ (木) 14:07時点における版


ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori[1]) とは、ヒトなどのに生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌である。単にピロリ菌(ピロリきん)と呼ばれることもある[2]ヘリコバクテル・ピロリ[3]と表記されることもある。1983年オーストラリアロビン・ウォレンバリー・マーシャルにより発見された[4]

胃潰瘍や胃炎,十二指腸潰瘍の原因とされる螺旋形菌。ヘリコバクター・ピロリともいう。体長は約 3μm。感染後,発病にいたるまでの仕組みについてはまだ究明されていないが,近年は胃癌の原因菌にもなっているとの説や,癌の成長を促進する働きをもつという説も出ている。

出典

  1. helicobacter pylori (Cambridge Dictionaries Online)
  2. 武田薬品工業. “ピロリ菌って何者?”. . 2015閲覧.
  3. actamnuse. “ヘリコバクテル に関する公開一覧”. . 2015閲覧.
  4. Marshall BJ (1983). “Unidentified curved bacillus on gastric epithelium in active chronic gastritis”. Lancet 1 (8336): 1273–1275. PMID 6134060. 

関連項目

外部リンク




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