tert-ブチルヒドロキノン
tert-ブチルヒドロキノン(ターシャリー・ブチルヒドロキノン、TBHQ、tertiary butylhydroquinone)はフェノールタイプの芳香族化合物の一つ。ヒドロキノンの誘導体であり、tert-ブチル基が置換している。
利用
tert-ブチルヒドロキノンは極めて有効な抗酸化物質である[1]。食品では、不飽和植物油や多くの動物性油製品の防腐剤として使われている[2]。鉄分が含まれていても変色が起こらず、香料や製品の風味も変えない[1]。ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などその他の防腐剤とともに使うこともできる。食品添加物としてのE番号はE319である。冷凍魚と魚製品で許可されている添加の上限値は1000 mg/kgである。
工業的には安定剤として使われ、有機過酸化物の自家重合を抑制する。また、バイオディーゼルの腐食も防ぐ[3]。香水の固定剤としても使われ、蒸発速度を低下させ安定性を向上させている。この他、ワニス、ラッカー、天然樹脂にも添加されている。
安全性と法令
欧州食品安全機関 (EFSA) とアメリカ食品医薬品局 (FDA) の両方がこの物質を評価し、許可されている添加量であれば摂取しても安全であると断定しており、世界的に食品添加物としての利用が認められている[4]。ただし、日本では食品添加物としての利用が認められておらず、TBHQを含む食品の輸入・販売が禁止されている[5]。FDAは油脂または食品に含まれる油脂含有量の0.02%を上限としている[6]。
高投与量では、実験動物に対し胃腫瘍の前駆細胞の生成やDNAの損傷など健康への悪影響を引き起こしている[7]。多くの研究では、高用量の長期暴露により発ガン性[8]、特に胃腫瘍の可能性が示されている[9]。しかしながら、他の研究ではTBHQとその他フェノール系抗酸化物質にHCA-誘発性発ガンを抑制(代謝活性抑制による)する効果があることが示されている(TBHQはいくつかの内最も効果が無いものの一つ)[10]。欧州食品安全機関はTBHQは非発ガン性であると判断している[4]。TBHQの毒性に関する1986年の科学文献のレビューにより、人間による摂取量と、動物実験において副作用が発現する量との間には大きな差があることが判明している[11]。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 Fats and oils: formulating and processing for applications, Richard D. O'Brien, page 168
- ↑ Tert-BUTYLHYDROQUINONE (TBHQ), International Programme on Chemical Safety
- ↑ Almeida, E.S., et al (2011). Behaviour of the antioxidant tert-butylhydroquinone on the storage stability and corrosive character of biodiesel. FUEL 90 (11): 3480-3484.DOI: 10.1016/j.fuel.2011.06.056
- ↑ 4.0 4.1 Opinion of the Scientific Panel on food additives, flavourings, processing aids and materials in contact with food (AFC) on a request from the Commission related to tertiary-Butylhydroquinone (TBHQ), European Food Safety Authority, 12 July 2004
- ↑ 輸入食品からTBHQ(t-ブチルヒドロキノン)が検出 神奈川県衛生研究所
- ↑ 21 C.F.R. § 172.185
- ↑ Tert-Butylhydroquinone - safety summary from The International Programme on Chemical Safety
- ↑ Gharavi N, El-Kadi A (2005). “tert-Butylhydroquinone is a novel aryl hydrocarbon receptor ligand”. Drug Metab Dispos 33 (3): 365–72. doi:10.1124/dmd.104.002253. PMID 15608132.
- ↑ Hirose, Masao et al.; Yada, Hideaki; Hakoi, Kazuo; Takahashi, Satoru; Ito, Nobuyuki. “Modification of carcinogenesis by -tocopherol, t-butylhydro-quinone, propyl gallate and butylated hydroxytoluene in a rat multi-organ carcinogenesis model”. Carcinogenesis (Oxford University Press) 14 (1): 2359–2364. doi:10.1093/carcin/14.11.2359. PMID 8242867 . 2 February 2010閲覧..
- ↑ Hirose M, Takahashi S, Ogawa K, Futakuchi M, Shirai T, Shibutani M, Uneyama C, Toyoda K, Iwata H (1999). “Chemoprevention of heterocyclic amine-induced carcinogenesis by phenolic compounds in rats”. Cancer Lett 143 (2): 173–8. doi:10.1016/S0304-3835(99)00120-2. PMID 10503899.
- ↑ Vanesch, G (1986). “Toxicology of tert-butylhydroquinone (TBHQ)”. Food and Chemical Toxicology 24 (10–11): 1063–5. doi:10.1016/0278-6915(86)90289-9. PMID 3542758.