ディリクレの単数定理
数学において、ディリクレの単数定理(Dirichlet's unit theorem)は、ペーター・グスタフ・ディリクレ {{#invoke:Footnotes | harvard_citation }} による代数的整数論の基本的な結果である[1]。ディリクレの単数定理は、代数体 K の代数的整数がなす環 [math]\mathcal{O}_K[/math] の単数群 [math]\mathcal{O}_K^\times[/math] の階数を決定する。単数基準(もしくは、レギュレイター(regulator)ともいう)は、どれくらい単数の「密度」があるかを決める正の実数である。
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ディリクレの単数定理
ディリクレの単数定理は、単数群が有限生成であり、階数(乗法的に独立な元の最大数)が
- r = r1 + r2 − 1
に等しいことを言っている。ここに r1 は、代数体 K の実埋め込みの数で、r2 は虚埋め込みの共役ペアの数である。この r1 と r2 の特徴付けは、複素数体への K の埋め込みが次数 n = [K : Q] と同じだけあるという考え方を基礎としている。これらの埋め込みは、実数への埋め込みか、または、複素共役のペアとなる埋め込みのいずれかであるので、
- n = r1 + 2r2
となる。
K が Q 上のガロア拡大であれば、r1 と r2 のいずれかは 0 でなく、両方が同時に 0 ではないことに注意する。
r1 と r2 を決定する他の方法は、
- 体のテンソル積 K ⊗QR を体の積として書くと、これは、R の r1 個のコピーと r2 個の C のコピーの積である。
例として、K を二次体とすると、実二次体ではランクは 1 であり、虚二次体ではランクは 0 である。実二次体の理論は本質的には、ペル方程式の理論である。
ランクが 0 の Q と虚二次体を例外として除くと、全ての数体に対するランクは正になる。単数の「サイズ」は一般に単数基準と呼ばれる行列式により測られる。原理上は、単数の基底は実効的に計算することができるのであるが、その実際の計算は n が大きいときには非常に煩雑になる。
単数群の捩れは、K の 1 のすべての冪根の集合で、有限巡回群となる。少なくとも 1つの実埋め込みを持つ数体では、捩れは {1, −1} となるはずである。虚二次体のように、単数群の捩れが {1, −1} であるような実埋め込みを持たない数体もある。
総実体は単数の観点からは特別に重要である。L/K を次数が 1 より大きな有限次拡大として、L の単数群と K の単数群が同じランクとすると、K は総実で、L は総虚な二次拡大となる。逆もまた正しい。(例として、K が有理数体、L が虚二次体の場合、双方ともランク 0 である。)
ヘルムート・ハッセにより(後日、クロード・シュヴァレーにより)、単数定理は一般化され、整数環の局所化での単数群の階数を決定するS-単数(S-unit)の群の構造が記述された。また、ガロア加群構造 [math]\mathbf{Q} \oplus \mathcal{O}_{K,S} \otimes_\mathbf{Z} \mathbf{Q}[/math] が決定された[2]。
単数基準
u1, ..., ur を 1 のべき根をmoduloとした単数群の生成元の集合とする。u が代数的数であれば、u1, ..., ur+1 を R や C への埋め込みとして、Nj をそれぞれ実埋め込み虚埋め込みに対応して 1, 2 とすると、各要素が [math]N_j\log|u_i^j|[/math] である r × (r + 1) の行列は、どの行の和も 0 であるという性質をもつ(何故ならば、全ての単数はノルムが 1 であり、ノルムの log は、行の要素の和とであるからである)。このことは一つ列を除いて作られる部分行列の行列式の絶対値 R が除いた列にはよらないことを意味する。数値 R は代数体の単数基準(あるいは、レギュレイター(regulator))と呼ばれる(この値は ui の選択には依存しない)。この値は単数の「密度」を測りものであり、単数基準が小さいことは単数が豊富にあることを意味する。
単数基準は次のような幾何学的な解釈を持つ。単数 u を行列の要素 [math]N_j\log|u^j|[/math] へ写す写像は、Rr+1 の r 次元部分空間の中に像を持ち、要素の和が 0 となる全てのベクトルからなり、ディリクレの単数定理により像はこの空間の中の格子となる。この格子の基本領域の体積は、R√(r+1) である。
次数が 2 以上の代数体の単数基準は、現在は多くの場合に計算機代数のパッケージがあるが、普通、計算することが非常に難しい。普通は類数公式を使い類数 h に単数基準をかけた積 hR を計算することは簡単であり、代数体の類数の計算の主な困難は単数基準を計算することにある。
例
- 虚二次体の単数基準、あるいは有理整数体の単数基準は 1 である。(0×0 行列の行列式は 1 であるとして)
- 実二次体の単数基準は、基本単数の log である。例えば、Q(√5) の単数基準は log((√5 + 1)/2) である。このことは次のようにして分かる。基本単数は (√5 + 1)/2 であり、R への 2つの埋め込みの像は (√5 + 1)/2 と (−√5 + 1)/2 であるので、r × r + 1 の行列は、
- [math]\left[1\times\log\left|{\sqrt{5} + 1 \over 2}\right|, \quad 1\times \log\left|{-\sqrt{5} + 1 \over 2}\right|\ \right][/math]
- である。
- α を x3 + x2 − 2x − 1 の根とすると、巡回三次体 Q(α) の単数基準は、およそ 0.5255 となる。べき根を modulo とした単数群の基底は、{ε1, ε2} である。ここに ε1 = α2 + α − 1 であり、ε2 = 2 − α2 である[3]。
高次単数基準
高次単数基準は、n > 1 に対して、古典的な単数基準が単数群でなした役割をもつ代数的K-群上の函数を構成することである。これは群 K1 である。そのような単数基準の理論は、発達してきていて、アルマン・ボレルや他の人たちが研究している。そのような単数基準は、例えばベイリンソン予想で活躍し、議論の中で整数でのあるL-函数の評価していくことが期待されている[4]。
スターク単数基準
スターク予想の定式化により、ハロルド・スタークは、現在はスターク単数基準(Stark regulator)と呼ばれているものを提唱した。彼は、古典的な単数基準の類似物として、任意のアルティン表現に対応する単数の log の行列式として、スターク単数基準を提唱した[5][6]。
p-進単数基準
K を数体とし、K の各々の固定された有理素点上の素点 P とし、UP で P での局所単数を表すとし、U1,P で UP の中での主単数の部分群を表すとする。さらに、
- [math] U_1 = \prod_{P|p} U_{1,P}[/math]
と置き、E1 で大域的単数 in E の対角埋め込みを通して U1 へ写す大域的単数 ε の集合を表すとする。
E1 は大域的単数の有限指数であるので、大域的単数群は階数 r1 + r2 − 1 のアーベル群である。p-進単数基準(p-adic regulator)は、この群の生成元の p-進対数により形成された行列の行列式である。レオポルドの予想は、この行列式は 0 ではないことを予想している[7][8]。
脚注
- ↑ Elstrodt 2007, §8.D.
- ↑ Neukirch, Schmidt & Wingberg 2000, Proposition VIII.8.6.11.
- ↑ Cohen 1993, Table B.4.
- ↑ Bloch, Spencer J. (2000). Higher regulators, algebraic K-theory, and zeta functions of elliptic curves, CRM Monograph Series. Providence, RI: American Mathematical Society. ISBN 0-8218-2114-8.
- ↑ Neukirch et al. (2008) p. 626–627
- ↑ Iwasawa, Kenkichi (1972). Lectures on p-adic L-functions, Annals of Mathematics Studies. Princeton, NJ: Princeton University Press and University of Tokyo Press, 36-42. ISBN 0-691-08112-3.
参考文献
- Cohen, Henri (1993). A Course in Computational Algebraic Number Theory, Graduate Texts in Mathematics. Berlin, New York: Springer-Verlag. ISBN 978-3-540-55640-4.
- Dirichlet, G. L. [1846] (1869). G. Lejeune Dirichlet's Werke, 641–644.
- Elstrodt, Jürgen (2007). “The Life and Work of Gustav Lejeune Dirichlet (1805–1859)” (PDF). Clay Mathematics Proceedings . 2010閲覧..
- Lang, Serge (1994). Algebraic number theory, 2nd, Graduate Texts in Mathematics, New York: Springer-Verlag. ISBN 0-387-94225-4.
- Neukirch, Jürgen (1999). Algebraic Number Theory, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften. Berlin: Springer-Verlag. ISBN 978-3-540-65399-8.
- (2000) Cohomology of Number Fields, Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften. ISBN 978-3-540-66671-4.