ベクレル
ベクレル becquerel | |
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記号 | Bq |
系 | 国際単位系 (SI) |
種類 | 組立単位 |
量 | 放射能の量 |
組立 | s-1 |
定義 | 放射性核種の壊変数が1秒間に1の割合である放射能 |
語源 | アンリ・ベクレル |
ベクレル(英語:becquerel、記号: Bq[1])とは、放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数(放射能)を表す単位である[2]。
たとえば、ある放射性物質について8秒間に原子が370個だけ崩壊するのであれば、その放射性物質の放射能は46.25ベクレル(Bq)[注釈 1]である。
Contents
概要
テンプレート:SI multiples |
ベクレルという名称は、ウランの放射能を発見しノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルに因む[3]。かつては壊変毎秒(かいへんまいびょう、dps; decays per second / disintegrations per second)と言った[注釈 2]が1975年の国際度量衡総会にて、この名称になった[4]。
ベクレルは、SI基本単位により s−1 で組み立てられる組立単位である[注釈 3]。
ベクレルは数値の桁が大きくなるため、
- kBq(キロベクレル, 103Bq)、
- MBq(メガベクレル, 106Bq)、
- GBq (ギガベクレル, 109Bq)、
- TBq(テラベクレル, 1012Bq)
などのSI接頭辞を使用することが多い[注釈 4]。mBq(ミリベクレル、10-3Bq)などの小さいほうのものもよく用いられる。
ほか、放射性物質1L(リットル)あたりのベクレルは [Bq/L]、放射性物質1kgのあたりのベクレルは [Bq/kg] で表される。
- 旧単位:キュリー(Ci)
かつては、1gのラジウムの放射能を表すキュリー(記号Ci)という単位が用いられていた[注釈 5]。
放射能の量[Bq] と 放射線の線量[Gy]、[Sv]
一般に電離作用をもたらす放射線[注釈 8]は人間にとって有害である。人体への放射線の影響を考えるときのもっとも重要な量は、放射線と人体との相互作用[注釈 9]によって人体が吸収したエネルギーの量、吸収線量(単位:グレイ[Gy])[注釈 10]である。
また、確率的影響の発生を制限することを目的とした放射線防護の領域においては、放射線の種類やエネルギー量の違いによる放射線の生物影響の違いを平準化し、さらに臓器の違いについて平準化し和をとった実効線量(単位:シーベルト[Sv])が用いられる。
ベクレルなどの放射能の単位は、放射性物質から放射線がどのぐらいでてくるのかという事を表す物理量であり、出てきた後の放射線が物質や人体とどのように相互作用するのかはベクレルだけからは一切わからない。
同ベクレルの放射能が存在しても、その人体への影響は線源の形状・遮蔽の評価、吸収線量や放射線の種類やそのエネルギーなどの条件によって異なる。
つまりは放射性物質が異なれば例え放射能が同量であっても、放出する放射線の種類やエネルギーは異なるということである。どのような状態で放射性物質が存在するのか、測定位置までの距離はどのぐらいあるか、測定者と線源との間にある物質の遮蔽によりどのぐらい放射線が遮られるかなどによっても影響が変わってくる。そのため、その他の情報を一切伏せてただ放射能が合計何ベクレルある、ということだけでは判断することができない。またシーベルトからベクレルに換算することもそういった条件がわからない限り難しい[注釈 11]。 もちろんベクレルからシーベルトへの換算が絶対に不可能というのではなく[注釈 12]、さまざまな条件がわからない限り単純計算では難しいというわけである。
ベクレル(放射能)の測定
実験的に放射能を測定する場合、対象の物質や性質がわかっているならば、放射能が時間変化で急激変化しない場合はカウント数と放射能の強さをあらかじめ測定しておいて、相対的な差で放射能を測定するなどの手法が用いられる。
ただし、半減期が経過すれば、原子数は半分になる。放射能は原子数に比例するため半減期が経過すれば放射能も半減してしまう[注釈 13]。そのため、 半減期が極めて短い原子核・素粒子であれば、相当高感度・高性能の測定器が必要となる。逆に半減期が極めて長い場合や放射能が極めて低い場合もめったに放出しない放射線を確実に検出せねばならないため、これも高い技術力が要求される[注釈 14][注釈 15]
原子の個数、放射能の時間に伴う計算法
1グラムのラジウムの放射能の算定
ここでは具体例として、1グラムのラジウム226に何個のラジウム226原子核が含まれていて、それが何ベクレルの放射能を持っているのか大まかに実際に計算する。
崩壊定数 λ を持つ放射性同位体 N 個の放射能を A [Bq] とするとき、
- A = λ N
であることを用いる。
- 原子の個数 N1g の算定
純粋な(ほかの物質が混じっていないラジウム226のみからなる)物質 1g を構成する原子の個数 N1g を求める。
高校化学において、アボガドロ定数 NA = 6.02 × 1023 個の質量数 M の原子の重量 [g] は M [g] であるので、
- (1gあたりの原子の個数) = NA / M
である。ラジウム226であれば M = 226 であるので、
- N1g = NA / 226 ≒ 2.66 × 1021 [個]
となる。
- 放射能 A1g の算定
ラジウム226が N1g 個あるときの放射能を A1g [Bq]とする。 A1g = λ N1g が成り立ち N1g は既に求めているので崩壊定数 λ を求めて掛け合わせればよいことがわかる。一般に崩壊定数 λ である物質の半減期を tH とすれば、
- λ = log(2)/tH
が成り立つ。すなわち、半減期からその物質の崩壊定数を求めることができる。 ラジウム226の半減期は正確に1600年[6]であるので秒数で換算すれば、
- 1600(年)×365(日)×24(時間)×60(分)×60(秒) ≒ 5.05×1010 [s]
となり、
- λ = log(2) / tH ≒ 0.693 / 5.05×1010 ≒ 1.37×10-11 [s-1]
と λ が算出される。よって放射能 A1g [Bq] は、
- A1g = λ N1g ≒ 1.37×10-11 × 2.66×1021 ≒ 3.64×1010 [Bq]
と求めることができる。
現代におけるラジウム 1g の放射能の正確な値は 3.61×1010[Bq] といわれる[7]ので大体合っていることがわかる。
この場合のラジウム226は時間と共に崩壊によって減少していくので、計算するにあたっては経過時間を考慮する必要がある。また時刻t>0における放射能は、崩壊後の核種が放射性である場合、その核種と親核種との放射能の総和は放射能の分増えるのでλN[Bq]より大きくなる。
符号位置
記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
㏃ | U+33C3 |
- |
㏃ ㏃ |
ベクレル |
Unicodeには、ベクレルを表す上記の文字が収録されている。これはCJK互換用文字であり、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであるので、使用は推奨されない[8][9]。
脚注
注釈
- ↑ 370(個) ÷ 8(秒) = 46.25(個/秒) = 46.25 (Bq)
- ↑ 一分間あたりに放射性崩壊(壊変)する原子の個数は壊変毎分(decays per minute/ disintegrations per minute : dpm)と呼ばれる。1 ベクレル = 60 壊変毎分、1 壊変毎分 = (1/60) ベクレル = 約 0.0167 ベクレル となる。
- ↑ 時間の逆数の次元(T−1)を持つが、放射能の計量以外には使用できない。同じ T−1 の次元を持つ単位にはヘルツ(Hz)や毎秒(s−1)がある。
- ↑ 単位としてのベクレルをフルスペルで英字表記する場合は常に小文字で「becquerel」と書かねばならず、単位記号では「Bq」と頭文字だけを大文字にすると国際単位系のルールで規定されている。
- ↑ ただし、その当初のキュリー Ci の定義においても 1g のラジウムの放射能 [Bq] は変更する可能性のある旨が記載されていたと言われる。実際、現在におけるラジウム 1g の放射能の正確な値は3.61×1010[Bq] である。Raymond L.Murray 『原子核工学』 杉本 朝雄(訳)、丸善、1955年。 p.23
- ↑ ガンマ線自体指数関数的減衰であるからどちらにせよゼロにはできない
- ↑ 特に人体の影響を計算する時も人体の大半が水であると計算することからもわかるように、ガンマ線は人体も貫通する。
- ↑ 放射性物質はその定義から放射能をもつため放射性崩壊をする。放射性崩壊をした原子核は放射線(ガンマ線、ベータ線、アルファ線など)を放出する。
- ↑ このような表現であるのは、放射線が物体に対してエネルギーを与える現象は一つではないからである。右図参照。
- ↑ 物質の種類に関係なく放射線の照射によって単位質量あたりに吸収されるエネルギー量 [J/kg] を吸収線量(absorbed dose)と呼び、単位として[J/kg]の代わりにグレイ(Gray)(単位記号:[Gy] ) が用いられる。
- ↑ 冒頭でキュリーとベクレルを換算しているが、これがなぜできるのかといえば、放射性物質が何回崩壊したかという同じ量だから簡単に換算できるわけである。例えば長さ同士であればセンチとインチなどの単位が違っても換算できるが、長さと重さなどのそもそも単位そのものが違うならば換算が不可能だということである。放射能単位であるベクレルから人体影響を評価するシーベルトへの換算は長さと重さほど全く違う量ではないものの、様々な条件が重要となってくるためそれがわからないなら簡単に換算は不可能である。例えば同一のロープの長さと重さということであれば相互に換算ができるだろうが、種類の違うものの長さと重さとなるとその違いがわからないと換算ができないことからもわかるだろう。
- ↑ たとえば、内部被曝の算定などではベクレルから線量を換算することもある。
- ↑ 例えば1万ベクレルの(出入りのない)放射性物質があり、半減期が経過すれば5000ベクレルに減衰するというわけである。1ベクレルの場合半減期が経過すれば0.5ベクレルと減衰していく。指数関数的減衰のためゼロにはならないが、原子数は有限であり原子数が少なくなればポアソン過程で表現されるうえ、最終的にはゼロまたは化学分析や放射線測定が困難なレベルにまで減衰する。太陽系創世時の半減期の短い(とはいえ短いというのは、地球の年齢46億年に対してだが)、核種の放射能はこのような運命を辿ったとされている。
- ↑ 例えば、高木仁三郎は大学教員時代、超微量の放射能測定器を開発していたが、核実験フォールアウトによる遮蔽材として使われる鉄の汚染が問題となっていた。
- ↑ これら測定技術は素粒子物理学や超ウラン元素の実験的研究、宇宙線の観測等でとくに重要となる。粒子検出器も参照せよ。
出典
- ↑ 1992年(平成4年)11月30日通商産業省令第80号「計量単位規則」
- ↑ 1992年(平成4年)11月18日政令第357号「計量単位令」。SI組立単位の1つである。放射能と放射線の単位
- ↑ 滋賀県放射線技師会 放射線雑学
- ↑ 産業技術総合研究所 飲用水の自然環境と放射能汚染
- ↑ 5.0 5.1 Atomica「放射能と放射線の単位」
- ↑ 『理科年表』 国立天文台、2012年、平成25年版。 p.476
- ↑ Raymond L.Murray 『原子核工学』 杉本 朝雄(訳)、丸善、1955年。 p.23
- ↑ “CJK Compatibility” (2015年). . 2016閲覧.
- ↑ “The Unicode Standard, Version 8.0.0”. Mountain View, CA: The Unicode Consortium (2015年). . 2016閲覧.
参考文献
- 草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦 『放射線健康科学』 杏林書院、1995年。
- D.J.マルコム-ローズ 『化学・生化学のための放射化学入門』 瀧 幸、松浦 辰男、泉水 義大(訳)、学会出版センター、1981年。
- 『新版 ラジオアイソトープ 講義と実習』 日本アイソトープ協会(編)、丸善、1966年。
- 線量(第二回), TRACER, (2012)
関連項目
- SI接頭辞 - キロ・メガやミリ・マイクロなどの単位の前につけて倍数を表す記号。3ケタずつ変化する。日本語では4ケタずつ位取りが変化するので換算時に注意。