命数法
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命数法(めいすうほう)とは、数詞を用いて数を表す命数(めいすう)の方法であり、言語により異なる。例えば 10000 を、日本語では「一万」、英語では ten thousand(「十千」) と呼ぶ。命数法のうち、数字を用いて数を表す方法を記数法という。
命数には、一般に1から9までの数字を表す数詞と、十、百、千などの位を表す数詞とがある。後者を持たない言語も少なくない。位取りは十進法が圧倒的に多いが、二十進法や十二進法も散見される。
数学の発展に伴い、大数を表すのに複数の位の数詞を組み合わせる方法が様々な言語で生まれた。
現在では、漢字文化圏では4桁(万倍)ごと(ただしベトナムでは3桁ごとの組に区切る)、ヨーロッパでは3桁あるいは6桁(千倍あるいは百万倍)ごと、インドでは1000の百倍ごとの組に区切り、各組に位の数詞を付ける方法が取られている。例えば日本語では12345678を「一千二百三十四万五千六百七十八」と呼ぶ。書くときに、アラビア数字の十進位取り記数法を併用して「1234万5678」とすることも広く行われている。
漢数字
大数
万より大きい数詞の示す値には3種類あり、統一されていなかった。下数、中数、上数である[1]。
当初は万 (104) を区切りとして十万 (105)、百万 (106)、千万 (107) まで表していた。これとは別に、万から1桁ごとに億 (105)、兆 (106)、と名付けていた。これを下数(かすう)と呼ぶ。
漢代あたりから、上数(じょうすう)が記載され始めた。数詞が表す位の2乗が次の数詞となる。万万が億(108)であるのは今日と同じであるが、次は億億が兆 (1016)、兆兆が京 (1032) となる。実際に使われたことはないようであり、数学書では用いられていない。
その後、千万の次を億とし、十億 (109)、百億 (1010) と続けていく方法が考案された。これを中数(ちゅうすう)という。ただし、初期の数学書に示されている中数は万万 (108) 倍ごとに新たな名称をつける方式であった。すなわち、千億 (1011)、万億 (1012)、十万億 (1013) と続き、億の万万倍を兆 (1016)、兆の万万倍を京 (1024) とする。これを万万進という。後に、万倍ごと、すなわち万万を億、万億を兆 (1012) とする万進に移行した。
日本では、1627年(寛永4年)の『塵劫記』の初版において初めて大きな数が登場するが、極以下が下数、恒河沙より上を万万進の中数としていた。1631年(寛永8年)の版では極以下が万進に改められ、1634年(寛永11年)の版ではすべて万進に統一された。今日でも万進だけが使用されている。
中国では、近代まで万万進と万進が混用されたままであった。それに加えて、メートル法の接頭辞のメガ (106) に「兆」(下数における 106)の字をあてたため、さらに混乱が生じた。今日では、「億」は中数の 108、「兆」は下数の 106 の意味となっており、兆より億の方が大きくなっている。日本でいう兆 (1012) は「万億」といい、京以上については、例えば 1016 は「万万億」または「億億」のように呼んでいる。台湾には日本の命数法が導入されていたので、兆は 1012 であるが、京以上の命数はほとんど用いられていない。
ベトナムでは西洋式に3桁ずつ新しい名称が使われるが、106を「triệu」(兆)、109を「tỷ」(秭)と呼ぶ。これは下数にあたる。
「塵劫記」での命数は以下のようになっている [2]。 位の大きなものの名称については版によって相違がある。併記した記数は万進による。
一(いち) 100 |
十(じゅう) 101 |
百(ひゃく) 102 |
千(せん) 103 |
万(まん) 104 |
十万 105 |
百万 106 |
千万 107 |
億(おく) 108 |
十億 109 |
百億 1010 |
千億 1011 |
兆(ちょう) 1012 |
十兆 1013 |
百兆 1014 |
千兆 1015 |
京(けい、きょう) 1016 |
十京 1017 |
百京 1018 |
千京 1019 |
垓(がい) 1020 |
十垓 1021 |
百垓 1022 |
千垓 1023 |
𥝱(じょ)、秭(し) 1024 |
十𥝱 1025 |
百𥝱 1026 |
千𥝱 1027 |
穣(じょう) 1028 |
十穣 1029 |
百穣 1030 |
千穣 1031 |
溝(こう) 1032 |
十溝 1033 |
百溝 1034 |
千溝 1035 |
澗(かん) 1036 |
十澗 1037 |
百澗 1038 |
千澗 1039 |
正(せい) 1040 |
十正 1041 |
百正 1042 |
千正 1043 |
載(さい) 1044 |
十載 1045 |
百載 1046 |
千載 1047 |
極(ごく) 1048 |
十極 1049 |
百極 1050 |
千極 1051 |
恒河沙(ごうがしゃ) 1052 |
十恒河沙 1053 |
百恒河沙 1054 |
千恒河沙 1055 |
阿僧祇(あそうぎ) 1056 |
十阿僧祇 1057 |
百阿僧祇 1058 |
千阿僧祇 1059 |
那由他(なゆた) 1060 |
十那由他 1061 |
百那由他 1062 |
千那由他 1063 |
不可思議(ふかしぎ) 1064 |
十不可思議 1065 |
百不可思議 1066 |
千不可思議 1067 |
無量大数(むりょうたいすう) 1068 |
「塵劫記」のいくつかの写本では1恒河沙=1億極、1阿僧祇 = 1億恒河沙というように恒河沙から8桁刻み(万万進)となる。この説に従うと1恒河沙 = 1056、1阿僧祇 = 1064、1那由他 = 1072、1不可思議 = 1080、1無量大数 = 1088となる。
なお、無量大数を「無量」と「大数」に分けて説明しているものもあるが、これは『塵劫記』で無量と大数の間に傷ができて間隔があき、別の数のように見える版があったためである。無量大数で一つの数とするのが普通である。
小数
小数については、一桁(0.1倍)ごとに新たな名前をつける下数が行われているが、これも、位の小さなものの名称については時代や地域、また書物によって相違がある。例えば朱世傑『算学啓蒙』では沙以下は万万進としているほか、「虚・空・清・浄」を4つの別の名とするなどの違いがある。以下は一例である。
呼称 | 数 |
---|---|
一(いち) | 100 |
分(ぶ) | 10−1 |
厘(釐)(りん) | 10−2 |
毛(毫)(もう) | 10−3 |
糸(絲)(し) | 10−4 |
忽(こつ) | 10−5 |
微(び) | 10−6 |
繊(せん) | 10−7 |
沙(しゃ) | 10−8 |
塵(じん) | 10−9 |
埃(あい) | 10−10 |
渺(びょう) | 10−11 |
漠(ばく) | 10−12 |
模糊(もこ) | 10−13 |
逡巡(しゅんじゅん) | 10−14 |
須臾(しゅゆ) | 10−15 |
瞬息(しゅんそく) | 10−16 |
弾指(だんし) | 10−17 |
刹那(せつな) | 10−18 |
六徳(りっとく) | 10−19 |
虚空(こくう) | 10−20 |
清浄(しょうじょう) | 10−21 |
阿頼耶(あらや) | 10−22 |
阿摩羅(あまら) | 10−23 |
涅槃寂静(ねはんじゃくじょう) | 10−24 |
このうち、「塵劫記」では埃より大きいもののみが紹介されている [3]。 実用で用いられるのは毛あるいは糸くらいまでであり、それ以下については名前がついているだけで実際にはほとんど用いられない。なお、「六徳(りっとく)」は「徳」の6倍という意味ではなく、「六徳」で一つの単位である。
実際に桁を連ねるときは、「二寸三分四厘」のように1の位の後に「基準単位(ここでは「寸」)」をつける。現代的な表現が「2.34寸」のように最後に「基準単位」を付けるのとは異なる。
割と共に用いる場合の誤解
基準単位として「割」を使う場合は「二割三分四厘」のようになることから、「分が 1/100、厘が 1/1000 だ」と勘違いをされることがある。しかし、これは「2.34割」の意味であって、「分は割の 1/10、厘は割の 1/100」であり、上記の「二寸三分四厘 = 2.34寸」と同様の表現である。
上記の勘違いを生ずる原因は、割を用いる場合に割そのものが 1/10 を意味するために、「分が全体の 1/100、厘が全体の 1/1000 である」と誤解するからである。分、厘、毛などの数詞は、「基準単位」(例えば、寸、割、匁など)の小数を意味することを理解しておく必要がある。詳細は、分 (数)#1⁄100との誤解を参照のこと。
仏典の数詞
華厳経の巻第四十五、阿僧祇品第三十には、上記の命数法とは異なる命数が記述されている。105 を洛叉(らくしゃ)、百洛叉 (= 107) を倶胝(くてい)とし、倶胝以上を上数として123の命数が列挙されている。最大の命数である不可説不可説転は
- [math]10^{7 \times 2^{122}} = 10^{37218383881977644441306597687849648128}[/math]
という巨大な数となる。もっとも、これらは実用のものではなく、計算もできないほど大きな数を示して悟りの功徳の大きさを表したものである。
なお、この命数法には曖昧さがある。「一不可説不可説転」はひとつの命数と見なせば [math]10^{7 \times 2^{122}}[/math] であるが、「不可説」「不可説転」という命数が別にあるため、「一不可説/不可説転」として
- [math]10^{7 \times 2^{119}} \times 10^{7 \times 2^{120}} = 10^{7 \times 3 \times 2^{119}}[/math]
という数としても解釈できる。
名称 | n | 数 [math]10^{7 \times 2^{n}}[/math] |
---|---|---|
倶胝 | 0 | 107 |
阿庾多 | 1 | 1014 |
那由他 | 2 | 1028 |
頻波羅 | 3 | 1056 |
矜羯羅 | 4 | 10112 |
阿伽羅 | 5 | 10224 |
最勝 | 6 | 10448 |
摩婆羅 | 7 | 10896 |
阿婆羅 | 8 | 101792 |
多婆羅 | 9 | 103584 |
界分 | 10 | 107168 |
普摩 | 11 | 1014336 |
禰摩 | 12 | 1028672 |
阿婆鈐 | 13 | 1057344 |
弥伽婆 | 14 | 10114688 |
毘攞伽 | 15 | 10229376 |
毘伽婆 | 16 | 10458752 |
僧羯邏摩 | 17 | 10917504 |
毘薩羅 | 18 | 101835008 |
毘贍婆 | 19 | 103670016 |
毘盛伽 | 20 | 107340032 |
毘素陀 | 21 | 1014680064 |
毘婆訶 | 22 | 1029360128 |
毘薄底 | 23 | 1058720256 |
毘佉擔 | 24 | 10117440512 |
称量 | 25 | 10234881024 |
一持 | 26 | 10469762048 |
異路 | 27 | 10939524096 |
顛倒 | 28 | 101879048192 |
三末耶 | 29 | 103758096384 |
毘睹羅 | 30 | 107516192768 |
奚婆羅 | 31 | 1015032385536 |
伺察 | 32 | 1030064771072 |
周広 | 33 | 1060129542144 |
高出 | 34 | 10120259084288 |
最妙 | 35 | 10240518168576 |
泥羅婆 | 36 | 10481036337152 |
訶理婆 | 37 | 10962072674304 |
一動 | 38 | 101924145348608 |
訶理蒲 | 39 | 103848290697216 |
訶理三 | 40 | 107696581394432 |
奚魯伽 | 41 | 1015393162788864 |
達攞歩陀 | 42 | 1030786325577728 |
訶魯那 | 43 | 1061572651155456 |
摩魯陀 | 44 | 10123145302310912 |
懺慕陀 | 45 | 10246290604621824 |
瑿攞陀 | 46 | 10492581209243648 |
摩魯摩 | 47 | 10985162418487296 |
調伏 | 48 | 101970324836974592 |
離憍慢 | 49 | 103940649673949184 |
不動 | 50 | 107881299347898368 |
極量 | 51 | 1015762598695796736 |
阿麼怛羅 | 52 | 1031525197391593472 |
勃麼怛羅 | 53 | 1063050394783186944 |
伽麼怛羅 | 54 | 10126100789566373888 |
那麼怛羅 | 55 | 10252201579132747776 |
奚麼怛羅 | 56 | 10504403158265495552 |
鞞麼怛羅 | 57 | 101008806316530991104 |
鉢羅麼怛羅 | 58 | 102017612633061982208 |
尸婆麼怛羅 | 59 | 104035225266123964416 |
翳羅 | 60 | 108070450532247928832 |
薜羅 | 61 | 1016140901064495857664 |
諦羅 | 62 | 1032281802128991715328 |
偈羅 | 63 | 1064563604257983430656 |
窣歩羅 | 64 | 10129127208515966861312 |
泥羅 | 65 | 10258254417031933722624 |
計羅 | 66 | 10516508834063867445248 |
細羅 | 67 | 101033017668127734890496 |
睥羅 | 68 | 102066035336255469780992 |
謎羅 | 69 | 104132070672510939561984 |
娑攞荼 | 70 | 108264141345021879123968 |
謎魯陀 | 71 | 1016528282690043758247936 |
契魯陀 | 72 | 1033056565380087516495872 |
摩睹羅 | 73 | 1066113130760175032991744 |
娑母羅 | 74 | 10132226261520350065983488 |
阿野娑 | 75 | 10264452523040700131966976 |
伽麼羅 | 76 | 10528905046081400263933952 |
摩伽婆 | 77 | 101057810092162800527867904 |
阿怛羅 | 78 | 102115620184325601055735808 |
醯魯耶 | 79 | 104231240368651202111471616 |
薜魯婆 | 80 | 108462480737302404222943232 |
羯羅波 | 81 | 1016924961474604808445886464 |
訶婆婆 | 82 | 1033849922949209616891772928 |
毘婆羅 | 83 | 1067699845898419233783545856 |
那婆羅 | 84 | 10135399691796838467567091712 |
摩攞羅 | 85 | 10270799383593676935134183424 |
娑婆羅 | 86 | 10541598767187353870268366848 |
迷攞普 | 87 | 101083197534374707740536733696 |
者麼羅 | 88 | 102166395068749415481073467392 |
駄麼羅 | 89 | 104332790137498830962146934784 |
鉢攞麼陀 | 90 | 108665580274997661924293869568 |
毘伽摩 | 91 | 1017331160549995323848587739136 |
烏波跋多 | 92 | 1034662321099990647697175478272 |
演説 | 93 | 1069324642199981295394350956544 |
無尽 | 94 | 10138649284399962590788701913088 |
出生 | 95 | 10277298568799925181577403826176 |
無我 | 96 | 10554597137599850363154807652352 |
阿畔多 | 97 | 101109194275199700726309615304704 |
青蓮華 | 98 | 102218388550399401452619230609408 |
鉢頭摩 | 99 | 104436777100798802905238461218816 |
僧祇 | 100 | 108873554201597605810476922437632 |
趣 | 101 | 1017747108403195211620953844875264 |
至 | 102 | 1035494216806390423241907689750528 |
阿僧祇 | 103 | 1070988433612780846483815379501056 |
阿僧祇転 | 104 | 10141976867225561692967630759002112 |
無量 | 105 | 10283953734451123385935261518004224 |
無量転 | 106 | 10567907468902246771870523036008448 |
無辺 | 107 | 101135814937804493543741046072016896 |
無辺転 | 108 | 102271629875608987087482092144033792 |
無等 | 109 | 104543259751217974174964184288067584 |
無等転 | 110 | 109086519502435948349928368576135168 |
不可数 | 111 | 1018173039004871896699856737152270336 |
不可数転 | 112 | 1036346078009743793399713474304540672 |
不可称 | 113 | 1072692156019487586799426948609081344 |
不可称転 | 114 | 10145384312038975173598853897218162688 |
不可思 | 115 | 10290768624077950347197707794436325376 |
不可思転 | 116 | 10581537248155900694395415588872650752 |
不可量 | 117 | 101163074496311801388790831177745301504 |
不可量転 | 118 | 102326148992623602777581662355490603008 |
不可説 | 119 | 104652297985247205555163324710981206016 |
不可説転 | 120 | 109304595970494411110326649421962412032 |
不可説不可説 | 121 | 1018609191940988822220653298843924824064 |
不可説不可説転 | 122 | 1037218383881977644441306597687849648128 |
西洋
- 西洋の命数法を参照
インド
- インドの命数法を参照
参考文献
- ↑ wikisource:zh:五經算術:按黃帝為法、數有十等。 及其用也、乃有三焉。十等者、謂億、兆、京、垓、秭、壤、溝、澗、正、載也。三等者、謂上、中、下也。其下數者、十十變之。若言十萬曰億、十億曰兆、十兆曰京也。中數者、萬萬變之。若言萬萬曰億、萬萬億曰兆、萬萬兆曰京也。上數者、數窮則變。若言萬萬曰億、億億曰兆、兆兆曰京也。若以下數言之、則十億曰兆;若以中數言之、則萬萬億曰兆;若以上數言之、則億億曰兆。
- ↑ “新編塵劫記第3巻”. p. 4. doi:10.11501/3508170. . 2018閲覧. 第一:大数の名の事
- ↑ “新編塵劫記第3巻”. p. 4. doi:10.11501/3508170. . 2018閲覧. 第二:小数の名の事
関連項目
外部リンク
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