ブーケ (数学)

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数学における(円の)ブーケbouquet; 花束)はの集まり(無限個でもよい)を一点貼り合わせて得られる位相空間である。円のブーケのことをバラ (rose) ともいう。ブーケは自由群に近しい関係をもち、代数的位相幾何学において重要である。

円を束ねたブーケ (bouquet of circles) の一般化として、円 S1 の代わりに任意次元の球面 Sn を束ねて得られるブーケを球面のブーケ (bouquet of spheres) という。

定義

ファイル:Wedge of Two Circles.png
「8の字」の基本群ab で生成される自由群である。

円のブーケは複数の円周一点和(ウェッジ和)として得られる。つまり、円周 S1p-個の複写 S11, S12, ..., S1p とそれらのおのおのから選んだ一点 xiS1i からなる基点付き円周の集合 {(S1i, xi) | i = 1, 2, ..., p} が与えられたとき、これら p-個の円周の非交和(集合論的直和)を各基点 xi を全て一点に同一視して得られる商位相空間

[math]\underbrace{S^1\vee S^1 \vee \cdots \vee S^1}_{p} := (S^1_1 \sqcup S^1_2 \sqcup \cdots \sqcup S^1_p)/\{x_1\sim x_2 \sim \cdots \sim x_p\}[/math]

p- (petal)のブーケと呼ぶ(この右辺の同相類が基点の選び方に依らないことに注意)。胞体複体としてブーケはただ一つの頂点と各円に対応する辺をもつ。これは位相グラフの簡単な例を与える。

n-弁のブーケは一つの円周上の n-点を同一視することでも得られる。二弁のブーケは「8の字(figure eight) としても知られる。

自由群との関係

ファイル:Cayley graph of F2.svg
「8の字」の普遍被覆ab で生成される自由群のケイリーグラフによって視覚化したもの。

n-弁のブーケの基本群は各弁に対応する n-個の生成元をもつ自由群であり、ブーケの普遍被覆はこの自由群のケイリーグラフと同一視することのできる無限木である(これは任意の群の表示に対応する表示複体English版の特別の場合である)。

ブーケの中間被覆は、対応する自由群の部分群に対応する。ブーケの任意の被覆がグラフであることに着目すれば「自由群の任意の部分群は自由である」というニールセン-シュライヤーの定理の簡単な証明が得られる。

ブーケの普遍被覆は可縮であるから、ブーケは実質的に対応する自由群 F に対するアイレンベルク-マクレーン空間English版である。これは、n ≥ 2 に対するコホモロジーHn(F) が自明であることを意味している。

性質

  • 任意の連結グラフはブーケにホモトピー同値である。特に、極大木を折り畳んで得られるグラフの商位相空間としてブーケが得られる。
  • 円板 D2 から n-点を取り除いたもの(あるいは球面 S2 から (n + 1)-点を取り除いたもの)の変位レトラクトn-弁のブーケである。このブーケの各弁は取り除いた点のそれぞれを取り囲むものである。
  • トーラス T2 から一点を除いたものの変位レトラクトは「8の字」(ふたつの生成円の一点和)である。もっと一般に、種数 g の曲面から一点を除いたものの変位レトラクトは(基本多角形の境界としての) 2g 枚の弁をもつブーケとなる。
  • 無限個の円を束ねたブーケから無限個の生成元を持つ自由群が得られる。無限弁のブーケはハワイの耳飾に似ているが同相ではない。

球面のブーケ

n-次元球面 Snk-個の複写の一点和

[math]\bigvee_{i=1}^k S^n = \overbrace{S^n \vee S^n \vee \cdots \vee S^n}^{k}[/math]

k-弁の球面ブーケという。

ホモトピーにおけるよくある構成は n-次元球面 Sn の赤道に属する点をすべて同一視することである。こうして得られるものは、二つの球面の複写を(もともとの赤道であった)一点でつないで得られる

[math]S^n/{\sim} = S^n \vee S^n [/math]

である。写像 Ψ を赤道を一点に同一視する写像 Ψ: SnSnSn とすれば、基点 x0X 付き位相空間 (X, x0) の n-次元ホモトピー群 πn(X, x0) の二つの元 f, g の和を、f および g の Ψ との合成

[math]f+g = (f \vee g) \circ \Psi[/math]

として理解することができる。ここで、f および gf, g: SnX なる写像で、基点 s0Sn を基点 x0X に写すようなものとして考えるものとする。上で与えた二つの写像のウェッジ和は、台空間となるウェッジ和の中で同一視される基点において f(s0) = g(s0) = x0 となることから定義可能であるということに注意。

関連項目

参考文献