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数学におけるリース空間(リースくうかん、: Riesz space)、線型束空間あるいは束線型空間 (lattice-ordered vector space)、またはベクトル束 (vector lattice)[* 1] とは、順序構造を成す順序線型空間のことである。リース空間の名はリース・フリジェシュの論文 {{#invoke:Footnotes | harvard_citation }} に因む。

リース空間の概念は測度論において重要で、ラドン-ニコディムの定理フロイデンタールのスペクトル定理の特別な場合であるといったように、測度論における主要な結果はリース空間における結果として一般化して定式化できる。

定義

実数体 R 上のベクトル空間 (X, +, •) 上に半順序関係 "≤" が定義されているとき、組 (X, +, •, ≤) がリース空間またはベクトル束であるとは、f, g, h などは X の任意の元として

  1. fg ならば f + hg + h が成り立つ。
  2. [0 ≤ aR かつ fg] ならば afag が成り立つ。
  3. (X, ≤) は順序集合として束を成す

なる公理を満たすときに言う。演算や順序が明らかで誤解の虞のない場合、通例の如く台集合と同じ記号を用いてベクトル束 X とか X はベクトル束であるなどという。また、2. の条件で R 上の順序も X 上の順序も同じ ≤ で記してあるが、どの空間上の順序関係であるかは文脈から明らかであろうから、区別のための添字などは省略してある。

最初のふたつの条件は (X, +, •, ≤) が順序線型空間となることを言うものである。2. の条件は

[0 ≤ aR かつ 0 ≤ f] ならば 0 ≤ af が成り立つ。

に取り替えてもよい。束演算 "∧", "∨" を通例の如く定める(束論参照)ならば、これらと線型演算 "+", "•" との間に特定の関係 (clamp-rule) が成立する。

ベクトル束 X の元 p (positive) あるいは非負 (non-negative) であるとは、0 ≤ p となることをいう。X の正の元全体 X+ はしばしば正錐 (positive cone) と呼ばれる。各元 f に対して、|f| := f ∨ (−f) を f絶対値 (modulus) と呼ぶ。また、f+ := 0 ∨ ff正の成分 (positive part) といい、f := 0 ∨ (−f) を f負の成分 (negative part) と呼ぶ。任意の f に対して、f+, f はともに正の元で、f = f+f, |f| = f+ + f を満たす。

例と反例

  • 実数全体の成す集合 R は通常の大小関係 "≤" に関してリース空間を成す。
  • 実数の n-組全体の成す集合 Rn は成分ごとの大小関係から定まる順序に関してリース空間を成す。
  • 実数列全体の成す集合 RN は成分ごとの大小関係から定まる順序に関してリース空間を成す。
  • 0 に収斂する実数列全体の成す集合 c0 は成分ごとの大小関係から定まる順序に関してベクトル束を成す。
  • 1 ≤ p < ∞ なる p に対する、p-乗総和可能実数列の全体の成す集合 lp は成分ごとの順序から定まる順序に関してベクトル束を成す。
  • 有界実数列全体の成す集合 l は成分ごとの大小関係から定まる順序に関してベクトル束を成す。
  • 集合 X 上のコンパクト台つき実数値連続函数の全体の成す集合 Cc(X; R) は、点ごとの大小関係で定まる半順序
    [math]f\le g \iff f(x)\le g(x) \text{ for }\forall x\in X[/math]
    に関してベクトル束を成す。
  • 区間 [a, b] 上の連続函数全体の成す集合 C[a, b] は点ごとの大小関係で定まる半順序に関してベクトル束を成す。
  • 区間 [a, b] 上の連続的微分可能函数全体の成す集合 C1[a, b] は順序線型空間を成すが、ベクトル束にはならない。

性質

  • ベクトル束は束群English版である。
  • ベクトル束 (X, +, •, ∧, ∨) における線型構造と束構造は以下の意味で両立する。f, g, hX の任意の元、a ≥ 0 を R の元として
    • [math](f+h)\lor(g+h)=(f\lor g) +h,[/math]
    • [math](f+h)\land(g+h)=(f\land g) +h,[/math]
    • [math](af)\lor (ag)=a(f\lor g),[/math]
    • [math](af)\land (ag)=a(f\land g),[/math]
    • [math](-f)\lor (-g)=-(f\land g),[/math]
    • [math](-f)\land (-g)=-(f\lor g).[/math]
  • X の元 f に対し、|f| := f ∨ (−f) と置けば
    [math]\begin{align} f\lor g&={1\over 2} (f+g+|f-g|),\\ f\land g&={1\over 2} (f+g-|f-g|) \end{align}[/math]
    を得る。特に
    [math](f\lor g)+(f\land g)=f+g,\quad (f\lor g)-(f\land g)=|f-g|[/math]
    が成り立つ。
  • リース空間は束として分配的である。
    • [math](f\lor g)\land h = (f\land h) \lor (g \land h),[/math]
    • [math](f\land g)\lor h = (f\lor h) \land (g \lor h).[/math]

  1. 微分幾何学等で扱われるベクトル束 (vector bundle) とは異なることに注意。

参考文献

テンプレート:Functional Analysis