WordPerfect
WordPerfect は、プロプライエタリなワードプロセッサソフトウェア。1980年代末から1990年代初めにかけて、デファクトスタンダードの地位に登りつめたが、その後 Microsoft Word の台頭によって売り上げを減らしている。MS-DOS版と Microsoft Windows 版がよく知られているが、非常に様々のプラットフォームやオペレーティングシステム上に移植されており、Mac OS、Linux、Apple IIe版、Apple IIgs 版、各種UNIX版、VMS、System/370版、AmigaOS、Atari ST 版、OS/2、NeXTSTEP などで動作した。
現在も開発が続けられているのは、Windows 版のみで、Corel WordPerfect Office の一部として販売されている。
Contents
WordPerfect for DOS
WordPerfect を最初に開発したのは、Satellite Software International, Inc. をユタ州に創設した Bruce Bastian と Alan Ashton であった。同社は後に社名を WordPerfect Corporation に改称している。最初のバージョンはデータゼネラルのミニコンピュータ向けで、それを1982年に IBM PC に移植した WordPerfect 2.20 が登場した。バージョン番号はデータゼネラル版と連続している。
人気を得るようになったのは、1986年の WordPerfect 4.2 からであった。このバージョンでは、段落の自動番号付け機能や脚注の自動的な配分(多い場合に次のページに一部をまわす)といった機能を持っていた。WordPerfect 4.2 は当時最も人気のあった WordStar からトップの座を奪い取った。
1989年、最も成功した WordPerfect 5.1 for DOS がリリースされた。このバージョンではMacintosh風のプルダウンメニューを採用し、表計算ソフトのような作表機能も備えていた。WordPerfect 6.0 for DOS では、従来型のテキストモードとグラフィックスを使ったWYSIWYGモードを備え、ボールド体、アンダーライン、イタリック体といったテキスト効果が表示可能であった。
主な特徴
- ストリーミング・コード・アーキテクチャ - HTMLとCSSのようなフォーマットを採用。HTMLのように入れ子になったタグで文書の設定を保持する。
- スタイルとスタイルライブラリ - ストリーミング・コード・アーキテクチャに対応したスタイルシートに相当する部分。WP 5.0 から。
- Reveal Code - タグなどを表示する補助エディタ画面。この画面で表示される各種トークンをクリックすることで、スタイルエディタなどが起動でき、非常に細かい編集が可能。
- 高機能なマクロ言語。後に PerfectScript となる。
- 各種プリンタドライバを同梱し、プリンタドライバエディタ PTR でユーザーが独自のプリンタドライバを開発可能。なお、WordPerfect は独自の文字コードを内部で使用していた。
WordPerfect Library/Office
WordPerfect Corporation は、付随するスピンオフ製品として1986年に WordPerfect Library をリリースし、後に WordPerfect Office と改称した。これは、WordPerfect と共に使えるネットワークユーティティやスタンドアロンユーティリティの集まりであり、NetWare を使っているオフィスでの利用を想定していた。以下のようなユーティリティが含まれる。
- Shell - タスクスイッチャー。Windows 3.x にほぼ匹敵し、しかもWindowsよりも安定していた。
- Calculator - 電卓機能
- Notebook - フラットファイル型データベース
- DataPerfect - 関係データベース
なお、後にコーレルがWordPerfectを取得し、WordPerfect Office の名称をオフィススイートの名称として再利用している。
WordPerfect for Windows
WordPerfect の Windows 版の登場は遅かった。1991年には WordPerfect 5.1 for Windows がリリースされたが、DOSからインストールする必要がある上、安定性に重大な問題があった。1992年には、安定動作する 5.2 がリリースされたが、すでに Microsoft Word for Windows version 2 がリリースされてから1年が経過していた。WordPerfect のファンクションキーを中心としたインタフェースは Windows に馴染まず、各種キーの組み合わせも Windows 自身のキーボードショートカットと非互換を生じていた(例えば、Alt-F4 は「プログラム終了」だが、WordPerfect では 「ブロックテキスト」)。力を入れていたプリンタドライバも Windows では不要となってしまった。
Windows 版でも WordPerfect は独自の文字コードを内部的に使用していた。このため、中国語など Windows が対応した言語に対応できない事態が発生した。
WordPerfect Corporation は1993年、ボーランドとの相互ライセンス契約を締結し、WordPerfect はオフィススイート Borland Office の一部となった。これには、他に Quattro Pro、Borland Paradox、WordPerfect Office が含まれていた。その後、この製品ラインは1994年6月にノベルに売却され、1996年1月にコーレルに売却された。ただし、ノベルは WordPerfect Office を売却せず、その技術を GroupWise に流用した。
その後も WordPerfect はトラブルに見舞われた。Windows 95のリリースから9カ月後の1996年5月、32ビット版の WordPerfect 7 がリリースされた。これは安定動作せず、マイクロソフトから "Designed for Windows 95" のロゴも取得できなかった。さらに、最初の WordPerfect 7 は Windows NT で動作しなかった。NT 対応の WordPerfect 7 は遅れ、1997年にリリースされたときには NT 4.0 がリリースされて6カ月が経過していた。
マイクロソフトは、Word をプリインストールするメーカーには Windows をディスカウントするという作戦でシェアを伸ばしていった。WordPerfect は主に司法関係と学術関係で生き延びている。例えば、2005年にもアメリカ合衆国司法省が WordPerfect を大量に購入した[1]。2004年11月、ノベルはマイクロソフトを反トラスト法違反で訴えた[2]。
WordPerfect for Macintosh
Macintosh 向けの WordPerfect は他のオペレーティングシステム向けとはバージョン番号等も異なっていた。最初の1.0版はDOS版などのユーザー向けであり、それほど成功しなかった。2.0版は完全な書き換えがなされ、Mac OS の UI ガイドラインにより準拠するよう改良された。3.0版はその方向性をさらに推し進めていった。1995年にリリースされた3.5版と若干の改良を施した3.5e版(1997年)を最後として、Macintosh版は開発されていない。2004年、コーレルは改めて WordPerfect for Macintosh を開発する予定がないことを明らかにした。
数年間、コーレルは3.5e版をウェブサイト上で公開し、無料でダウンロード可能にしていた。ただし、PowerPC版Mac上のクラシック環境で動作するソフトウェアであるため、インテル版Macでは SheepShaver などのエミュレータを必要とする。最新のWindows版を使いたい場合は、Boot Camp を使って Windows をインストールするか、Darwineなどで Windows API をエミュレーションする方法がある。
WordPerfect for Linux
1996年、カルデラがインターネットオフィスパッケージの一部としてLinux版WordPerfectをリリースした。草創期の商用Linux市場に足場を作ろうとしたコーレルも、独自のLinuxディストリビューション(Corel Linux)を開発した。
Linuxディストリビューション自体は好意的に受け止められたが、WordPerfectへの反応は様々であった。有名なアプリケーションがLinuxに移植されたことを単純に喜ぶ向きもあったが、オープンソースコミュニティの反応は冷ややかであったし、OpenOffice.orgのようなフリーなソフトウェアが主流の市場で、プロプライエタリなワードプロセッサがどれだけ支持されるかが疑問視された。また、WordPerfect 9.0 はネイティブなLinuxアプリケーションではなく、Windows版をWine上で動作させるもので、安定性が批判の的となった。
結局、WordPerfect はLinux市場では受け入れられず、コーレルの方針転換もあって、9.0(2000年)を最後として開発が終了し、Linuxディストリビューションも Xandros に売却された。2004年4月、コーレルは最後のLinuxネイティブ版だった 8.1 を若干改良して、Linux市場の調査を兼ねてリリースした。2005年以降、WordPerfect for Linux は販売されていない。
バージョン
年 | Data General | DOS | Apple II | Amiga | VAX/VMS | Macintosh | NeXT | Windows | Unix | Linux | Java |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1980年 | 1.0 | ||||||||||
1981年 | |||||||||||
1982年 | 2.0 | 2.2 | |||||||||
1983年 | 3.0 | ||||||||||
1984年 | 4.0 | ||||||||||
1985年 | 4.1 | 1.0 | |||||||||
1986年 | 4.2 | 1.1 / 2.0 | |||||||||
1987年 | 4.1 | 4.1 | |||||||||
1988年 | 4.2 | 5.0 | 4.2, Office* | 1.0 - 1.0.7 | 4.2 | ||||||
1989年 | ?* | 5.1 | 2.1e (final) | 5.0 | |||||||
1990年 | 2.0 | ||||||||||
1991年 | 1.0.1 | 5.1 | |||||||||
1992年 | 2.1 | 5.2 | 5.1 | ||||||||
1993年 | 6.0 | 3.0 | 6.0 | ||||||||
1994年 | 5.1+ | 3.1 | 5.2+, 6.1 | 6.0 | |||||||
1995年 | 6.1 | 3.5 | |||||||||
1996年 | 7.0 (32-bit) | 6.0 | |||||||||
1997年 | 6.2 | 3.5e | 8.0, 7.0 (16-bit) | WordPerfect for Java | |||||||
1998年 | 7.0 | ||||||||||
1999年 | 9.0 * | 8.1 | |||||||||
2000年 | 9.0 | ||||||||||
2001年 | 10.0 * | ||||||||||
2003年 | 11.0 * | ||||||||||
2004年 | 12.0 * | ||||||||||
2006年 | X3 * (13.0) | ||||||||||
2008年 | X4 * (14.0) | ||||||||||
2010年 | X5 * (15.0) | ||||||||||
2012年 | X6 * (16.0) |
(* - WordPerfect Office の一部)
- VAX/VMS版には 5.3[3]と7.1[4]もあるが、リリース時期不明。
- SunOSまたはSolaris版として 6.0 があったが、リリース時期不明。
- IBM System/370 版として 4.2 が1988年にリリースされた。
- OS/2 版として 5.0 が1989年にリリースされた。
- DEC Rainbow 100 版が1983年11月にリリースされている。
上記以外のバージョンとして、Apricot、Atari ST、DEC Rainbow、Tandy 2000、TI Professional、Victor 9000、Zenith Z-100 向けがあった。また、30種類以上のUNIX向けも存在した(AT&T、NCR、SCO Xenix、Microsoft Unix、DEC Ultrix、Pyramid Tech Unix、Tru64、AIX、Motorola 8000、HP9000、SUN 3 など)。
最新版(X3以降)
2006年1月17日、コーレルは WordPerfect X3 を発表した。コーレルはOASISのオリジナルメンバーでもあり、OpenDocumentの仕様策定にも深く関わっている。しかし、OpenDocumentや Office Open XML のサポートはされず、ベータ版のリリースにとどまっていた[5]。
2008年4月、コーレルはオフィススイート WordPerfect Office X4 をリリースした。これに含まれる新しい WordPerfect では、PDF、OpenDocument、Office Open XMLがサポートされている。
2010年3月、コーレルはオフィススイート WordPerfect Office X5 をリリースした。これに含まれる新しい WordPerfect では、PDF、OpenDocument、Office Open XML に対するサポートの強化のほか、Microsoft Windows 7への対応などがなされた。
2012年4月、コーレルはオフィススイート WordPerfect Office X6 をリリースした。これに含まれる新しい WordPerfect では、マルチ・ドキュメント/モニタ機能や新しいマクロ機能、Windows 8プレビュー版のサポート、eBookパブリッシャーが含まれる。[6]
脚注
- ↑ U.S. Department of Justice Chooses WordPerfect Office 12 (Corel.com)
- ↑ Novell Files WordPerfect Antitrust Lawsuit against Microsoft (Novell.com)
- ↑ Corel WordPerfect 5.3 for OpenVMS
- ↑ Corel WordPerfect 7.1 for OpenVMS
- ↑ Corel (2007年), OOXML/ODF beta for WordPerfect® Office now available! . 2007閲覧.
- ↑ Welcome to WordPerfect Office X6
関連項目
外部リンク
- Corel home page
- コーレルのオフィス統合ソフトに関するページ
- WordPerfect Universe - ユーザーコミュニティサイト
- WordPerfect for DOS Updated - WordPerfect for DOS 5.1 および 6.x 向けの新しいプリンタドライバや各種アップデートなどが公開されている。
- WordPerfect Mac
- WordPerfect vs. Word - Microsoft Wordとのバージョン毎、機能毎の比較サイト
- "Almost Perfect", W.E. Pete Peterson の著書。WordPerfect Corporation と同社の製品についての歴史
- "How Did WordPerfect Go Wrong?" - InfoWorld 誌の記事