SH-60J (航空機)
三菱 SH-60J
SH-60Jとは、日本の海上自衛隊がシコルスキー・エアクラフト社製SH-60Bを基に開発した哨戒ヘリコプターである。
Contents
開発
海上自衛隊では、HSS-2Bの後継として、アメリカ海軍のSH-60Bを日本向けに改造開発したSH-60Jが導入された。防衛庁は1983年(昭和58年)から、アメリカ海軍の艦載ヘリ多目的運用構想 LAMPS III を参考にしつつ国内向けに開発を開始した[1]。搭載電子機器は貿易摩擦の影響でアメリカが輸出を拒んだため、一部をブラックボックスを含む試作機用グリーンエアクラフト2機を輸入し、それ以外をほとんど防衛庁技術研究本部が国産開発した。試作機XSH-60Jの1号機は1987年(昭和62年)8月31日に日本で初飛行した。
3号機からは三菱重工業による量産(機体とエンジンはライセンス生産)が開始され、1991年(平成3年)8月から各部隊に配備され、2005年(平成17年)までに103機が配備された。1機あたりの製造価格は約50億円で、機体寿命は約6,000飛行時間といわれる。1998年(平成10年)度から2001年(平成13年)度にかけて製造契約された32機(艦載型の補充用である8284号機を除く)は陸上基地配備用であり、艦載用の機体に次の装備品を追加装備している。
- 8271号機からの32機(艦載型の補充用である8284号機を除く):赤外線監視装置(FLIR)
- 8285号機からの19機:不審船対策としてミサイル警報装置(AAR-60)及びチャフ/フレア投射装置(AN/ALE-47(PJ))
- 8294号機からの10機:GPS航法装置(MAGR)
また、8271号機以降からソノブイ投射器及びソノブイ処理関連の装備品を取り降ろし、電子機器搭載ラックを左舷側に集中させてキャビン空間を広げた機体も数機存在する。そのうち8285号機以降の機体は航続距離増大のため、アメリカ海軍のSH-60Fと同様に左舷ウェポンパイロンに機外燃料タンクを1個搭載可能となっている。
- SH60J NP002.jpg
データリンク用装置
- SH60J NP003.jpg
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前方監視赤外線装置(FLIR)
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発煙筒投下器
- A NASQ-81(V) MAD.JPG
AN/ASQ-81 磁気探知装置(MAD)
任務
SH-60Jは、護衛艦に搭載され、空飛ぶCIC(戦闘指揮所)として各種戦術を実施する。
主任務
- 対潜水艦戦
- 水平線外索敵
副次任務
機関銃を搭載してのガンシップから捜索救難まで、多様な任務を持つ。
- 捜索救難 SAR:サーチアンドレスキュー
- 人員物資輸送 VERTREP:バートレップ(バーチカルリプレッシュメント)
- 空中消火
- 通信中継 COMREL:コムリレー(コミュニケーションリレー)
- 写真/ビデオ撮影と画像/映像転送
- 不審船対処
- 特別警備隊の強襲降下
- EODによる機雷除去
任務概要
乗員はパイロット2名と、レーダーやソナーを操作するセンサーマン(兼降下救助員)と呼ばれる航空士1名で運用される。
護衛艦の戦闘システムの一部であるため、CIC(戦闘指揮所)とSH-60Jはデータリンクを通じて任務を遂行する。データリンクによって、SH-60Jのレーダー画像、ソノブイ信号などを護衛艦に伝送して、SH-60Jのレーダー画像を護衛艦でも直接見ることができる。すなわち、SH-60Jは、護衛艦から発進した時点で空飛ぶレーダーサイトとなり、護衛艦周辺の艦艇や航空機、近接する敵ミサイルを探知する。また、レーダー画像の調整は護衛艦からも行なえる。護衛艦の哨戒長は、SH-60Jに捜索パターンなどの作戦行動を指示して、自艦の索敵能力を飛躍的に向上させることができる。対艦索敵任務を受け持つSH-60Jは、強力な索敵手段であることから「エアボーンパンサー(大空を翔る豹)」と呼ばれる。ESM逆探知装置も有力な索敵手段であり、敵性電波を傍受したならば、瞬時に目標を判別し発信位置を特定することができる。SH-60Jの副操縦士は、P-3Cの戦術航空士と同様の任務も担当する。操縦の補佐以外にも効率的な任務遂行のため、CICと連携してリコメンド(提言、進言)を機長またはCICに与える責任をもつ。
SH-60Jは1機種で広域哨戒用のソノブイと、位置極限のためのディッピングソナーを運用する。航法機器も充実しているため、暗夜での超低空オペレーションが実施可能である。護衛艦に搭載され、データリンクを通じて艦側戦闘システムの一部に組み込まれている、との意を込めてHS(ヘリコプターシステム)と呼称されている。
艦載ヘリとして運用するためRAST(着艦拘束装置)が備えられ、降着装置も強化された。また、HF無線機、増槽タンク、FLIR(赤外線暗視装置)、74式機関銃、旧型GPS、自機防御システム(チャフ、フレア)も追加装備されている。捜索救難用器材ついては、サーチライトとホイストライトや救難用ウインチがあり、吊り下げ輸送用のカーゴフックも装備している。
着艦方式
動揺があるうえに狭い護衛艦の飛行甲板へ着艦するため、3種類の着艦方式がある。護衛艦内では着艦をデッキランディング(通称ディーラン)と呼称する。
- フリーデッキランディング
- 着艦拘束装置を使用せず、着艦後はタイダウンチェーンで艦に係止する方法。格納庫からの搬出入は、機体を人力で押すことによって行う。
- 本着艦方式の名称である「フリーデッキランディング」は海上自衛隊独自の呼称であり、アメリカ海軍においては「クリアデッキランディング」と呼称する。
- アンテザードランディング
- 着艦拘束装置を使用する。航空機下部の突起部(メインプローブ)を着艦拘束装置で挟み込み、機体を係止する。もっとも使用頻度の高い着艦方法。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
- 本着艦方式の名称である「アンテザードランディング」は海上自衛隊独自の呼称であり、アメリカ海軍においては「テザードランディング」と呼称する。
- テザードランディング
- 着艦拘束装置を使用する。ホールダウンランディングともいう。航空機下部に護衛艦からのRA(リカバリーアシスト)ケーブルを取り付け、護衛艦側のウインチによって強制的に機体を引き降ろすことにより着艦させる。悪天候時の着艦方法である。着艦後は、着艦拘束装置で航空機下部の突起部(メインプローブ)を挟み込み、機体を係止する。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
- 本着艦方式の名称である「テザードランディング」は海上自衛隊独自の呼称であり、アメリカ海軍においては「リカバリーアシストランディング」と呼称する。
現況と今後の推移
2018年3月末時点での海上自衛隊の保有数は22機[2]。
多くの実任務にその威力を発揮し、能登半島沖不審船事件、漢級原子力潜水艦領海侵犯事件、台風・地震・水害・山火事による災害派遣のほか、離島洋上における救難、患者輸送など、多様な任務に従事している。そのため、海上自衛隊では「哨戒機/回転翼機(哨戒ヘリコプター)」と分類している。
2002年(平成14年)から代替機となる発展型のSH-60Kの調達が進行中である。ただし厳しさを増す財政を受けて、耐用飛行時間に達したSH-60Jの機数に合わせてSH-60Kの調達を続けられないため、2011年(平成23年)度予算からSH-60Jの機体寿命延命措置が開始されている[3]。平成23年度から27年度予算までに計10機の機齢延伸予算が計上されている。5年程度延伸する計画を予定している。
性能・主要諸元
- 乗員:3名
- 最大乗組員数:8名
- 全長:19.8m
- 胴体幅:4.4m
- 全高:5.4m
- 主回転翼直径:16.4m
- 発動機:T700-IHI-401C ターボシャフト(1,660 SHP(連続)、1,800 SHP(離昇))×2
- 燃料 JP-5
- 超過禁止速度:275km/h=M0.22
- 実用上昇限度:5,790m
- 航続距離:580km(最大)
- 自重:6,200kg
- 最大離陸重量:9,700kg
武装
主要装備品
- 戦術情報処理表示装置
- 通信器材
- 航法器材
- 哨戒用器材
- 救難用器材
- その他
配備基地
- 館山航空基地:第21航空群-第21航空隊-第212飛行隊
- 大村航空基地:第22航空群-第22航空隊-第223飛行隊
- 小松島航空基地:第22航空群-第24航空隊-第241飛行隊
- 大湊航空基地:第21航空群-第25航空隊-第251飛行隊
- 鹿屋航空基地:教育航空集団-第211教育航空隊
- 厚木航空基地:第51航空隊 - 第513飛行隊
航空事故
海上を超低空で飛行するため、「SH-60Jの整備員は塩害との戦い」といわれる。飛行終了後は必ず機体洗浄とエンジン洗浄が実施され、さらに入念な点検整備が施される。 また、夜間飛行も多いため、搭乗員は各種装備の更新と練度の向上に努めている。
年月日 | 所 属 | 機番号 | 事故内容 |
---|---|---|---|
1992.5.8 | 第51航空隊 | 8201 | 試験飛行中、厚木航空基地に着陸の際にエンジン不調により地上約5mから落下、横転した。機体は大破、乗員5名が重軽傷を負った。 |
1993.7.6 | 8209 | 東京湾口を飛行中、エンジン不調により洲崎灯台の北北東約3浬の海上に不時着水した。機体は水没。 | |
1995.7.4 | 第121航空隊 | 8241 | 北海道襟裳岬北東4浬の海上でソナーケーブルが不時に巻き出し、接水横転し水没。当時、護衛艦「しらゆき」搭載。機長1名殉職。原因は操縦士の空間識失調。 |
1996.6.18 | 第124航空隊 | 8215 | 米海軍バーバーズ・ポイント基地(ハワイ真珠湾)に着陸後、地上滑走中にメイン・ローターが破断し、大破炎上。 |
1996.11.22 | 第123航空隊 | 8213 | 離着陸訓練中、エンジン不調により大村航空基地付近のにんじん畑に不時着、小破。 |
2004.5.21 | 大村航空隊 | 8237 | 災害派遣により夜間飛行にて壱岐空港に向かう途中、山腹の樹木と接触し、伊万里市付近の農地に不時着、中破。 |
2009.12.8 | 第22航空隊 | 8297 | 副操縦士養成訓練中、長崎県西彼杵半島西方沖約27kmの海上に操縦ミスにより墜落。副操縦士と航空士の2名殉職[5]。 |
2012.2.8 | 第25航空隊 | 8264 | 大湊航空基地で操縦士の空間識失調により横転。航空士1名軽傷[6]。 |
2012.4.15 | 8279 | 青森県・陸奥湾において練習艦隊見送りのための訓練展示中、護衛艦「まつゆき」に近接、同艦の格納庫左側に接触し、着水、水没。機長1名殉職[7]。 | |
2017.8.26 | 8282 | 午後10時50分頃、護衛艦「せとぎり」での夜間発着艦訓練中に同機の方位指示器に大きな誤差が出ていることが分かり、復旧操作を行うため艦から離れて復旧操作として姿勢方位基準装置の電源を切ったところ、自動操縦装置による姿勢の安定を維持する機能が低下し墜落した[8]。翌27日までに現場付近の海域から機体の一部とフライトレコーダーが発見された。乗員4人のうち男性乗員1人は事故発生後約35分後に救助されたが、機長を含む残り3人は行方不明となった[9][10][11][12]。同年10月中旬に水深2,600メートルの海底で上下逆さまとなった機体が発見され[13]、10月27日に機体を揚収し内部を確認した結果、2名の行方不明者を発見したが、残る1名の発見には至らず捜索を終了した[14][15]。 |
登場作品
映画
- 『LIMIT OF LOVE 海猿』
- アナウンスで、負傷した潜水士のつり上げを開始したと報告する。
- 『ゴジラ×メカゴジラ』
- 特生自衛隊分析中隊本部からの要請を受けて出動し、太平洋上を東京湾へと向かうゴジラを目視で確認する。
- 『平成ガメラ三部作』
アニメ・漫画
- 『WXIII 機動警察パトレイバー』
- 廃棄物13号の新海地区のスタジアムへの誘導に従事する、むらさめ型護衛艦「むらさめ」および架空の護衛艦「つるぎ」に随伴している。
- 『ジパング』
- 第二次世界大戦時にタイムスリップした架空のイージス護衛艦「みらい」の艦載機として登場。人員の輸送、船舶や潜水艦への警戒に活躍する。
- 『大怪獣激闘 ガメラ対バルゴン COMIC VERSION』
- はつゆき型護衛艦「はつゆき」の艦載機が登場。海上を漂流していた所を「はつゆき」に救助された主人公を、調布飛行場まで送り届ける。
- 『地球防衛企業ダイ・ガード』
- 第2話に国連安全保障軍に参加した機体が登場。ディッピングソナーを用いて対ヘテロダイン哨戒を行っていたが、海中から出現したヘテロダインによって2機が撃墜された。
- 『武装錬金』
- 漫画版第77話に登場。携行兵装が武装錬金『ジェノサイド・サーカス』であるため、錬金戦団が運用する機体であることがわかる。
小説
- 『MM9』
- 第1話に厚木基地の第51航空隊所属機が登場。気象庁特異生物対策部のROV「S-1」の母機となっている。主人公らをはるな型護衛艦「すずか」へと輸送した。
- 『Twelve Y. O.』
- あさぎり型護衛艦「あさぎり」の艦載機として登場。主人公らが強奪し、辺野古弾薬庫上空にてアメリカ軍のAH-64 アパッチと交戦する。
- 『生存者ゼロ』
- しらね型護衛艦「くらま」の艦載機として登場。主人公たちを北海道根室半島沖の北太平洋に浮かぶ石油採掘基地まで輸送する。
- 『超空自衛隊』
- 第二次世界大戦時にタイムスリップした、たかなみ型護衛艦「さざなみ」の艦載機として登場。日本海軍と連携し、対潜警戒を行う。
注釈
- ↑ 技術研究本部50年史 技術開発官(航空機担当)
- ↑ 平成30年度防衛白書 資料9 主要航空機の保有数・性能諸元
- ↑ 平成23年度概算要求の概要 防衛省
- ↑ 97式短魚雷は運用していない。平成13年度政策評価書(事前の事業評価)哨戒ヘリコプター(SH-60K)7機の整備 防衛省
- ↑ 海上自衛隊哨戒ヘリコプター(SH-60J)の不時着水
- ↑ SH-60J 8264号機の横転事故について
- ↑ SH-60J 8279号機の墜落事故について
- ↑ 朝雲新聞(2017年9月14日)SH60Jヘリの墜落事故原因 機器復旧時に人為的ミス
- ↑ 夜間訓練の海自ヘリ墜落か 青森沖、3人不明
- ↑ ローターのブレード一部破片が新たに見つかる
- ↑ 海自ヘリ墜落 現場海域に複数破片 3人の捜索続く
- ↑ 海自ヘリ4人搭乗、墜落か 津軽海峡で訓練中、1人救助
- ↑ “海底2600m、墜落海自ヘリ発見…遺体も確認”. 読売新聞. (2017年10月24日). オリジナルの2017年10月24日時点によるアーカイブ。 . 2017閲覧.
- ↑ 航空事故(護衛艦「せとぎり」搭載SH-60J)について(第10報) (PDF)
- ↑ 航空事故(護衛艦「せとぎり」搭載SH-60J)について(第11報) (PDF)