E・H・カー
エドワード・ハレット・カー(Edward Hallett Carr、1892年6月28日 - 1982年11月3日)は、イギリスの歴史家、政治学者、外交官。
略歴・人物
ケンブリッジ大学を卒業後、1916年から1936年までイギリス外務省に勤務。退職後、ウェールズ大学アベリストウィス校(現在、英国立アベリストウィス大学)の国際関係論(国際政治学部)の学部長に就任。
第二次世界大戦中はイギリス情報省(Ministry of Information)の職員および『タイムス』紙の記者として活動。戦後は、その親ソ的な立場が災いし、一時的に英国の学界とは距離を置く。ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジの研究員として学究生活に入った後は、もっぱらロシア革命史の研究(全14巻)をライフワークとする。
1939年に刊行した『危機の二十年』は、法律的・道義的アプローチが支配的であった国際関係論においてパワーの重要性を強調する現実主義(リアリズム)の立場を説いた本として知られる。しかし同時に、反リアリズム的主張もまた同書に存在しており、本書の多様な側面を指摘する研究者もいる[1]。 一方で、同書の影響力は、国際関係論における「カー=『危機の二十年』」と言う図式を生み出した。その結果、カーが戦間期から、大戦中、50年代にかけて執筆した国際関係論に関する書籍・論文・新聞記事・レビュー・Timesにおける記事には、あまり関心が持たれてこなかった[2]。
なお、『歴史とは何か』で彼が述べた「歴史とは現在と過去との絶え間ない対話である("An unending dialogue between the present and the past.")」というフレーズは、日本の戦後歴史学界でもよく知られ、引用頻度が高い。
著書
- Dostoevsky (1821-1881): A New Biography, (G. Allen & Unwin, 1931).
- 中橋一夫・松村達雄訳『ドストエフスキー』(社会思想研究会出版部, 1952年 /改訳版 筑摩叢書, 1968年、復刊1985年)
- The Romantic Exiles: A Nineteenthcentury Portrait Gallery, (Beacon Press, 1933).
- Karl Marx: A Study in Fanaticism, (Dent, 1934)
- Michael Bakunin, (Macmillan, 1937).
- International Relations since the Peace Treaties, (Macmillan, 1937).
- The Twenty Years' Crisis, 1919-1939: An Introduction to the Study of International Relations, (Macmillan, 1939, 2nd ed., 1946).
- Britain: A Study of Foreign Policy from the Versailles Treaty to the Outbreak of War, (Longmans, 1939).
- Conditions of Peace, (Macmillan, 1942).
- Nationalism and After, (Macmillan, 1945).
- The Soviet Impact on the Western World, (Macmillan, 1946).
- 喜多村浩訳『西歐を衝くソ連』(社会思想研究会出版部, 1951年)
- International Relations between the Two World Wars: 1919-1939, (Macmillan, 1947).
- Studies in Revolution, (Macmillan, 1950).
- 音田正巳訳『革命の研究』(社会思想研究会出版部, 1952年)
- A History of Soviet Russia: The Bolshevik Revolution, 1917-1923, 3 vols., (Macmillan, 1950).
- German-Soviet Relations between the Two World Wars: 1919-1939, (The Johns Hopkins Press, 1951).
- The New Society, (Macmillan, 1951).
- 清水幾太郎訳『新しい社会』(岩波書店[岩波新書], 1953年/改版1963年、復刊1996年ほか)
- A History of Soviet Russia: The Interregnum, 1923-1924, (Macmillan, 1954).
- A History of Soviet Russia: Socialism in One Country, 1924-1926, 3 vols., 4 pt., (Macmillan, 1958).
- 南塚信吾訳『一国社会主義――ソヴェト・ロシア史 1924-1926』(全2巻:みすず書房, 1974年/新装版, 1999年)
- What is History?, (Macmillan, 1961).
- 清水幾太郎訳『歴史とは何か』(岩波書店[岩波新書], 1962年、改版2014年)
- A History of Soviet Russia: Foundations of a Planned Economy: 1926-1929, 3 vols., 3 pt., (Macmillan, 1969).
- 1917: Before and After, (Macmillan, 1969).
- 南塚信吾訳『ロシア革命の考察』(みすず書房, 1969年、新装版1990年/同〈始まりの本〉, 2013年)
- The Russian Revolution: from Lenin to Stalin(1917-1929), (Macmillan, 1979).
- From Napoleon to Stalin and Other Essays, (Macmillan, 1980).
- The Twilight of Comintern 1930-1935, (Macmillan, 1982).
- 内田健二訳『コミンテルンの黄昏――1930-1935年』(岩波書店, 1986年)
- The Comintern and the Spanish Civil War, (Macmillan, 1984).
伝記
- ジョナサン・ハスラム 『誠実という悪徳――E・H・カー 1892-1982』(角田史幸、川口良、中島理暁訳、現代思潮新社、2007年)