2ストロークオイル
2ストロークオイルとは2ストローク機関に用いられるエンジンオイルである。2サイクルオイルや2ストオイル、2stオイルと呼ばれる場合もある。この項目では便宜上燃料と2ストロークオイルを混合した混合燃料(こんごうねんりょう)についても併せて記述を行う。
概要
2ストロークガソリンエンジンでは、ピストンが下降する際にクランクケース内で混合気を一次圧縮して燃焼室に送り込む(掃気)。クランクケースの内部が吸入経路の一部となっているため、エンジンオイルを燃料に混合して潤滑される。この用途に特化した潤滑油が2ストロークオイルで、4ストロークエンジン用のオイルと異なり、燃焼室内で燃焼されて排出されることを前提として合成されている。
2ストロークオイルの原料は鉱物油やひまし油などの植物油、半化学合成油、化学合成油(エステル・ポリブデン)などであり、燃料との混和性改善の為に5-35%ほどの割合で灯油が添加される場合もある[1]。
古くはオートバイなどでも、燃料に予め2ストロークオイルを混合してから給油する混合給油方式が主流であった。しかし、クランクシャフトのベアリングの潤滑性を向上させ、エンジンブレーキの際の焼きつきを抑制するために[2]、燃料タンクとは別に設けられた2ストロークオイルタンクに給油する分離給油方式が自動車用エンジンやオートバイ用エンジンでは主流になった。分離給油方式では、オイルはオイルポンプによってキャブレターとクランクケースへ圧送される。今日、オイルメーカーやオートバイメーカーが販売する2ストロークオイルは分離給油でも混合給油でも使用できるものが多いが、カストロール・A747オイルのように混合給油専用とされているものも存在する。また、潤滑特性や排気煙の多寡などによってJASOやISOで規格化されている。
燃料との混合比は、エンジンの設計やオイルメーカーの指定により16:1から100:1まで様々であるが、指定されている混合比より極端にオイルが濃い場合は燃焼室内や点火プラグにカーボンスラッジが堆積したり、オイルが完全燃焼せずに煤となり、排気管に堆積したり排気口から飛散する量が増える。逆に極端にオイルが薄い場合は潤滑能力が足りず、ピストンの焼きつきやクランクベアリングの摩耗などのリスクが高くなる。2ストロークオイルの粘度は、銘柄や製造メーカーによっては公開されている場合があり、分離給油の場合は粘度が混合比に影響する場合がある。粘度が高いほど流動性が低く、供給量が減って混合比が薄くなる。
2ストロークオイルに求められる条件は次のようなものが挙げられる。
- 燃焼中の灰の形成が最小限で、完全燃焼することが望ましい。
- ガソリンへの良好な溶解性。
- 耐摩耗性、潤滑性、耐食性および熱的特性が良いこと。
- 流動性が良いこと。
- 船舶で使用する場合、 水の中に放出されたときに油分が急速に分解すること。
規格
日本では2ストロークオイルはJASO規格、JASO M356によってFAからFDまでの品質規定が定められており、主に排気煙の多寡などが規格の主要な構成要素となっている。主な規格を下記に列挙する。
- JASO M345 (ISO規格[3])
- FA (該当無し) - 2サイクルエンジンにとって最低限の性能を有する (規格廃止)
- FB (EGB) - FAに比べて特に潤滑性、清浄性に優れる
- FC (EGC) - FBに比べてさらに排気煙、排気系閉塞性に優れる(スモークレスタイプ)
- FD (EGD) - FC規格の清浄性をさらにアップして、より環境に配慮したオイル
上記4つは2サイクルエンジンオイルの基本的な性能について示したものである。
上記3つはいずれも環境保全に配慮した、生分解性2サイクルエンジンオイルを示すものである。
4ストローク用オイルとの違い
4ストロークエンジン用のオイルとの違いは、4ストロークではドライサンプやウエットサンプなどの方式で、高温になるエンジン内で長期間にわたって繰り返し使用されるため、高温環境下での抗酸化特性(酸中和性、酸化安定性)が良く変質しにくいこと[1]や、スラッジ分散性なども重要な性能となるが[1]、2ストロークエンジン用オイルは一回しか使われないため、これらの特性はほとんど考慮されない。また、2ストロークには高い耐摩耗性が必要となる動弁機構が無いため動弁系の摩耗防止性は求められない[1]。2ストロークオイルはエンジン内で燃焼して排出されるため、燃焼室や点火プラグの汚損を防ぐ性能が特に重視される[1]。2ストロークエンジンはシリンダー側面にポートがあるため4ストロークエンジンとは異なり、ピストンリングがシリンダー内で回転する構造になっておらず、ピストンリングの溝にスラッジが堆積してピストンリングが膠着しやすい[5]。そのため燃焼室でのスラッジの元となる灰分を含む添加剤は少なく抑えられている[5]。酸化や動弁系の摩耗を考慮せずに済むこととスラッジの要因となることからほとんどの4ストロークエンジンのオイルに添加されているZnDTP(酸化防止・磨耗防止などの機能を持つ多機能添加剤)は基本的に添加されていない[1]。
混合燃料
混合給油方式に給油するために、ガソリンやエタノールに2ストロークオイルを混ぜた燃料は混合燃料と呼ばれる。使用者が燃料と2ストロークオイルをそれぞれ購入し、混合してからエンジン機器の燃料タンクへ注ぐ場合のほか、ドイツなどのように、ガソリンスタンドに混合燃料の給油機が備えられているのが一般的な国や地域もある。
混合比は、燃料と2ストロークオイルの体積の比である。これを体積濃度のパーセントで示すには下記の計算式で計算される。
[math]P_l=\frac{V_o}{V_o+V_f}\cdot100[/math]
[math]V_o:[/math] 2ストロークオイルの体積
[math]V_f:[/math] 燃料の体積
[math]P_l:[/math] 混合燃料の体積濃度
混合燃料では、2ストロークオイルを混ぜたことによって粘度や気化性、混合比が元の燃料とは異なるため空燃比に若干の影響を与える。また、燃焼特性が元の燃料とは異なるため適切な空燃比も異なる。