電位
電位 electric potential | |
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量記号 | V |
次元 | M L2 T−3 I−1 |
種類 | スカラー |
SI単位 | ボルト (V) |
電位(でんい、英: electric potential)は電気的なポテンシャルエネルギーに係る概念であり、 電磁気学とその応用分野である電気工学で用いられる。
点 P における電位と点 Q における電位の差は、P と Q の電位差と呼ばれる。 電気工学では電位差は電圧とも呼ばれる[1]。 電位の単位にはV (ボルト)が用いられる。
Contents
概要
電位は力学における位置エネルギーの位置に相当する概念である。その定義も位置エネルギーのそれとほぼ同様で、位置エネルギーの定義における力学的な力をクーロン力に置き換えれば電位の定義が得られる。 すなわち、点 P における電位は、P から定められた基点 P0 まで単位電荷を動かす際クーロン力に対してした仕事により定義される。 ここで単位電荷とは1クーロンの電荷を持つ点電荷の事である。
電位の「傾き」(数学的には grad)は電場に等しい。従って位置 P にある荷電粒子がうけるクーロン力は、その粒子の電荷 q に電位の「傾き」をかけた値に等しい。
以上のように電位から電場を求める事ができ、逆に電場から電位を求める事ができる事が知られているので、電磁気的な現象は電場と電位のどちらを使っても記述できる。 しかし電場やクーロン力はベクトル量であるので3つの実数を用いて表現されるのに対し、電位はスカラーであるため、1つの実数のみで表現できるので、電位を用いた方が計算が楽になる場合が多い。 これが電位という概念を考える理由の一つである。
電荷 [math]Q[/math] を持つ点電荷から [math]r[/math] だけ離れた地点の電位 V は [math]V = Q/r[/math] である。 電位は重ね合わせの原理を満たすので複数の点電荷がある場合の電位は、おのおの点電荷がつくる電位の総和になる。
なお電位の定義は P0 は P からに進む経路に依存しているものの、静磁場(=磁場が時間変化しない場合)であればどの経路を通っても電位の値は等しい事が証明できる。従って経路の事を気にせずに「P における電位」と言う事ができる。
しかしそうでない場合は電磁誘導が原因で一般には値が経路に依存してしまうので、電位の概念を定義する事ができない。 従って静磁場以外のケースでは電位の概念に電磁誘導による影響分を補正を加えた電磁ポテンシャル(のスカラー・ポテンシャル部分)を用いる必要がある。
また基点 P0 を取り替えると電位は定数だけ変化するが、電位の応用事例ではこの定数の変化が問題にならないケースが多い。 例えば電位差は(差を取るとき定数がキャンセルされるので)基点によらず同じ値になる。
数式による説明
定義
今(3次元ベクトル)空間上に電場があり、点[math]P = (x, y, z)[/math] における電場が、
- [math]\boldsymbol{E}_P = (E_x, E_y, E_z)[/math]
で表されているとする。
P0 を定められた基点とし、P を空間上の任意の点とし、さらに C を P0 から P への経路とし、線積分
- [math]- \int_C \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s} = - \int_C E_x\mathrm{d}x + E_y\mathrm{d}y + E_z \mathrm{d}z [/math]
を考える。静磁場であればこの線積分は P0 とP を結ぶ経路 C に依存しない(後述)ので、 この線積分の値を(P0 を基点とした場合の)P における電位と呼ぶ。 一方静磁場でない場合は、前述の線積分は経路 C に依存してしまう為、「Pにおける」電位という言い方をする事はできない。
以下 P における電位を VP と表記する。 静磁場の場合電位は経路 C に依存しないので、C を明記せず
- [math]V_P = - \int_{P_0}^P \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s}[/math]
とも表記する。
基点に関して
電位の定義は基点の選び方に依存するものの、基点を取り替えても積分定数が変わるだけであるので、 紛れがなければ基点を明記せず、単に「P における電位」と呼ぶ。
基点は無限遠点を選ぶ場合が多い。 この場合電位は、前述の定義で基点 P0 を無限遠に飛ばす事で求める事ができる。 十分遠方では電場が0であると仮定[2]した場合、電位の値が P0 の無限遠への飛ばし方に依存しない事を証明できるので、 電位を無限遠への飛ばし方によらず定義できる。
性質
大きさ q の電荷に電場 [math]\boldsymbol{E}[/math] が与えるクーロン力 [math]\boldsymbol{F}[/math] は
- [math]\boldsymbol{F} = q\boldsymbol{E}[/math]
に等しいので、 電位と仕事の定義より、電位は単位電荷を P から P0 へ C にそって動かした時に必要とされる仕事量に等しい。
静磁場の場合電位は電位は経路に依存しないので、電位 VP は P に実数 VP を 対応させる関数とみなせる[3]。 この関数の勾配は以下を満たす:
- [math]-\mathrm{grad}~ V_P = \boldsymbol{E}_P[/math]
なお、一般にベクトル場 [math]\boldsymbol{X}[/math] に対し、
- [math]-\mathrm{grad}~ f(P) = \boldsymbol{X}_P [/math]
を満たす関数 f を[math]\boldsymbol{X}[/math] の(スカラー)ポテンシャルという。 従って前述の式は電位が電場のポテンシャルである事を意味する。
ポテンシャルは(もし存在すれば)定数を除いて一意である事を簡単に示せる。 従って電場のポテンシャルは、前述したものかそれに定数を加えたもののみである。
静磁場では電位の定義が経路に依存しない事の証明
最後に、静磁場であれば電位の定義が P0 と P を結ぶ経路 C に依存しない事を示す(ポアンカレの補題も参照)。 すなわち、C1、C2 を P0 と P を結ぶ任意の2つの経路としたとき、
- [math] \int_{C_1} \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s} = \int_{C_2} \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s}.[/math]
となる事を示す。
この為にいくつか記号を定義する。 C1 − C2を以下のような閉曲線とする: C1 にそって P0 から P に行き、 その後 C2 を逆向きにたどって P0 に帰る。 さらに S を C1 − C2 を境界として持つ任意の曲面とし [4]、 磁束密度を [math]\boldsymbol{B}[/math]、時刻を t で表す。このとき、
- [math] \int_{C_1} \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s} - \int_{C_2} \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s} = \int_{C_1 -C_2} \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{s} \underset{(1)}{=} \int_{S} \mathrm{rot}~ \boldsymbol{E} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{S} \underset{(2)}{=} - \int_{S} \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \cdot \mathrm{d}\boldsymbol{S} \underset{(3)}{=} 0 [/math]
となるので、左辺第二項を移項する事で欲しい式が示せる。 ここで(1)と(2)はそれぞれストークスの定理とマクスウェル方程式から従い、(3)は静磁場である事から従う。
静磁場とは限らない場合への拡張
静磁場とは限らない場合マクスウェル方程式の一式
- [math] \mathrm{rot}~ \boldsymbol{E} = - \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}[/math]
の右辺は0になるとは限らない。 電位の経路依存性の証明には右辺が0になる事を用いていたので、 静磁場とは限らないケースでは電位の経路非依存性がいえない。
しかし電位の概念を適切に補正する事で経路に依存しないポテンシャル概念 φ(P) を得る事ができる。 この φ(P) は電磁場のスカラー・ポテンシャル と呼ばれ、磁場に対するポテンシャル概念であるベクトル・ポテンシャル と合わせて電磁ポテンシャルと呼ばれる[5]。
スカラー・ポテンシャルは静磁場とは限らない場合における電位の代替概念である。 静磁場の場合スカラー・ポテンシャルは前述の電位の定義と一致する。 また電磁ポテンシャルは相対論と相性がよく、ローレンツ変換に対する不変性を示す事ができる。
電気工学において
先で電位の基準は無限遠点にとるとしたが、電気工学では普通このようにせず、回路上の1点を0 Vと定めるのが一般的である。特に、送電・配電など比較的高電圧の分野では、地面(アース)の電位を基準に定めている。また、電気工学における電圧はスカラー量として扱え、計算の中では殆どの場合そのようにする。(ただし、交流回路においては電圧を複素数として扱うことが多く、複素数を図示するときにベクトルのように描くことはある。また、この複素数を実数値の2次元ベクトルとみて、交流の電力の式を複素電圧と複素電流の内積として表すことも極稀にある。)
電気工学で回路を解析するときは、オームの法則による近似が力を発揮する。抵抗値が R の回路の両側の端子の電位がそれぞれ [math]V_\mathrm{a}[/math]、[math]V_\mathrm{b}[/math]であり、[math]R[/math]にかかる電圧が [math]V = V_\mathrm{a} - V_\mathrm{b}[/math]であるとき、回路を流れる電流 [math]I[/math]は、
- [math]I = \frac{V_\mathrm{a} - V_\mathrm{b}}{R} = \frac{V}{R}[/math]
で与えられる。
電子回路では、ある端子のインピーダンスというと、その端子の電位を端子に流れ込む電流で割った値のことを表す。電圧ではなく電位を用いて、このような言い方ができるのは、電子回路では回路中の入力・出力などを全て電位(アースとの電位差)で与えているためである。
脚注
- ↑ 静磁場である事を仮定している。一般の場合に関しては電圧を参照。
- ↑ 物理実験において今観測している電場が宇宙のはるか彼方に影響したりその逆が起こったりする事は考え辛いのでこの仮定は妥当である。
- ↑ 静磁場でない場合はこうした関数を定義できないので、以下の議論でgradを考える事がそもそもできない。
- ↑ なお上の議論ではC1 -C2 を境界として持つ曲面S が必ず存在する事を暗に仮定しているが、 空間が一般の多様体である場合はこのようなS が存在するとは限らない。 従ってこの議論は空間が3次元ベクトル空間である事を本質的に用いている。
- ↑ 「スカラー・ポテンシャル」という言葉はスカラーの形で表されるポテンシャル一般を指す場合もあるので注意が必要である。ベクトル・ポテンシャルも同様。