陰陽
陰陽(いんよう・おんよう・おんみょう、拼音: yīnyáng、英: yin - yang[1])とは、中国の思想に端を発し、森羅万象、宇宙のありとあらゆる事物をさまざまな観点から陰(いん)と陽(よう)の二つのカテゴリに分類する思想。陰と陽とは互いに対立する属性を持った二つの気であり、万物の生成消滅と言った変化はこの二気によって起こるとされる[2][3][4][5][6][7] 。
このような陰陽に基づいた思想や学説を陰陽思想、陰陽論、陰陽説などと言い、五行思想とともに陰陽五行説を構成した。
概要
原初は混沌(カオス)の状態であると考え、この混沌の中から光に満ちた明るい澄んだ気、すなわち陽の気が上昇して天となり、重く濁った暗黒の気、すなわち陰の気が下降して地となった。この二気の働きによって万物の事象を理解し、また将来までも予測しようというのが陰陽思想である。
受動的な性質、能動的な性質に分類する。具体的には、闇・暗・柔・水・冬・夜・植物・女、光・明・剛・火・夏・昼・動物・男などに分けられる。これらは相反しつつも、一方がなければもう一方も存在し得ない。森羅万象、宇宙のありとあらゆる物は、相反する陰と陽の二気によって消長盛衰し、陰と陽の二気が調和して初めて自然の秩序が保たれる。
重要な事は陰陽二元論が、この世のものを、善一元化のために善と悪に分ける善悪二元論とは異なると言う事である。陽は善ではなく、陰は悪ではない。陽は陰が、陰は陽があってはじめて一つの要素となりえる。あくまで森羅万象を構成する要素に過ぎない。戦国時代末期に五行思想と一体で扱われるようになり、陰陽五行説となった。
特徴
- 陰陽互根
- 陰があれば陽があり、陽があれば陰があるように、互いが存在することで己が成り立つ考え方。
- 陰陽制約
- 提携律とも言い、陰陽が互いにバランスをとるよう作用する。陰虚すれば陽虚し、陽虚すれば陰虚する。陰実すれば陽実し、陽実すれば陰実する。
- 陰陽消長
- 拮抗律とも言い、リズム変化である。陰陽の量的な変化である。陰虚すれば陽実し、陽虚すれば陰実する。陰実すれば陽虚し、陽実すれば陰虚する。
- 陰陽転化
- 循環律とも言い、陰陽の質的な変化である。陰極まれば、無極を経て陽に転化し、陽極まれば、無極を経て陰に転化する。
- 陰陽可分
- 交錯律とも言い、陰陽それぞれの中に様々な段階の陰陽がある。陰中の陽、陰中の陰、陽中の陰、陽中の陽。
展開
陰と陽とはもともと天候と関係する言葉であり、陰は曇りや日陰、陽は日差しや日向の意味として『詩経』などの古書に表れる。『春秋左氏伝』昭公元年に天の六気として陰・陽・風・雨・晦・明とあり、ここで陰陽は寒暑の要因と考えられ、また昭公四年には陰・陽・風・雨が季節を特徴づける気候の要因として扱われている。さらに『管子』幼官では明確に春の燥気・夏の陽気・秋の湿気・冬の陰気として寒暑の原因とされるとともに四季(四時)の気候が変化する要因として扱われている。これがやがて四時の気を統轄する上位概念となり、さらには万物の生成消滅と言った変化全般を司る概念、万物の性質を二元に分類する概念へと昇華されたと考えられる。
易経における陰陽
『易経』の卦は6本の爻と呼ばれる棒によって構成されている記号であるが、爻には「─」と「- -」の2種類あり、易伝によりそれぞれの属性は陽・陰に当てられ、陽爻と陰爻を3つ重ねた八卦、八卦を2つ重ねた六十四卦は森羅万象を表象すると考えられた。これにもとづき漢代では卦の象徴や爻の陰陽にもとづいて解釈する易学がなされた。また繋辞上伝には「太極→両儀→四象→八卦」という生成論が唱えられているが、両儀は天地あるいは陰陽、四象は四時、八卦は万物と解されている。
宋易(宋代に興った易学)では図書先天の学と呼ばれる図像を用いた象数易が行われたが、これらの易図では陽は白、陰は黒で描かれた。南宋の朱熹は先天図にもとづき「太極→両儀→四象→八卦」の両儀を明確に陰陽と位置づけ、さらに四象を爻を2つ重ねたものとしてファイル:Taiyang.png太陽(老陽)・ファイル:Shaoyin.png少陰・ファイル:Shaoyang 4.png少陽・ファイル:Taiyin.png太陰(老陰)と名づけた。
なおUnicodeにおいて陰陽を表す記号には陰陽魚の太極図(☯)が当てられており、そのコードはU+262f、☯である。また陽爻(⚊)はU+268A、⚊、陰爻(⚋)はU+268B、⚋である。
天地人
三才の思想である。
陰陽性質表
陰 | 陽 | |
---|---|---|
基本的性質 | 遠心力 | 求心力 |
傾向 | 収縮 | 膨張 |
特性 | 融合、同化、集合、編成 | 分裂、分離、分散、拡散 |
動き | 不活発、緩慢 | 活発、敏速 |
振動 | 短波、高周波 | 長波、低周波 |
方向 | 下降、水平 | 上昇、垂直 |
位置 | 外部、周辺 | 内部、中心 |
重量 | 軽い | 重い |
光度 | 暗い(晦冥、月光) | 明るい(光明、日光) |
湿度 | 湿潤 | 乾燥 |
密度 | 緻密 | 希薄 |
外形 | 小さい | 大きい |
形状 | 収縮性 | 膨張性 |
感触 | 柔軟 | 堅硬 |
素粒子 | 電子 | 陽子 |
元素 | 窒素、酸素、燐、カルシウム等 | 水素、炭素、ナトリウム、砒素等 |
環境 | 波動 ー 土 ー | ー 水 ー 空気 |
気候風土 | 寒帯気候、湿潤気候 | 熱帯気候、乾燥帯気候 |
生物特性 | 植物的 | 動物的 |
性別 | 女性 | 男性 |
呼吸 | 吸気 | 呼気 |
器官構造 | 実質器官、凝縮性 | 中空器官、膨張性 |
神経 | 末梢神経、副交感神経 | 中枢神経、交感神経 |
補瀉 | 補 | 瀉 |
態度、感性 | 沈滞、消極的、防御的 | 活発、積極的、攻撃的 |
命 | 死 | 生 |
仕事 | 心理的、精神的 | 物理的、社会的 |
文化 | 精神的 | 物質的 |
次元 | 空間 | 時間 |
内外 | 外側 | 内側 |
武術 | 柔 | 剛 |
戦闘 | 防御 | 攻撃 |
向き | 下、後、左 | 上、前、右 |
夫婦 | 妻 | 夫 |
親 | 母 | 父 |
表裏 | 裏 | 表 |
天体 | 太陰(月) | 太陽(日) |
天気 | 雨 | 晴 |
昼夜 | 夜 | 昼 |
天地 | 地 | 天 |
温度 | 冷 | 熱 |
数 | 偶数 | 奇数 |
商売 | 損害 | 利益 |
状況 | 静 | 動 |
人間 | 精神(心) | 肉体(体) |
数学 | -(負) | +(正) |
春秋 | 秋 | 春 |
夏冬 | 冬 | 夏 |
東西 | 西 | 東 |
南北 | 北 | 南 |
背腹 | 腹 | 背 |
感情的 | 抑制 | 興奮 |
内臓 | 五臓(六臓) | 五腑(六腑) |
人体組織 | 皮膚、骨 | 筋肉、内蔵 |
部分 | 下部 | 上部 |
高さ | 低い | 高い |
音の高さ、声調 | 低 | 高 |
光闇 | 闇 | 光 |
山 | 北 | 南 |
川 | 南 | 北 |
収穫 | 凶荒 | 豊穣 |
八綱弁証
表裏、寒熱、虚実を統合したもの。病理の性質に基づいて全ての疾病を陰陽の二方面に鑑別してみることができる。
陰証
陰証とは、生体反応が沈滞、減弱している病情。裏証、寒証、虚証がある。主な症状として顔面蒼白、気分が沈うつして活気がない、言葉が少ない、手足を縮める、悪寒や冷えを訴える、舌質は淡胖が多い、脈は遅弱細微がある。
陽証
陽証とは、生体反応が発揚、増強している病情。表証、熱証、実証がある。主な症状として顔面紅潮、活気がある、言葉が多い、手足を伸ばす、炎症、充血、発熱、舌質は紅が多い、脈は浮数滑洪実がある。
様々な「陰陽」の語の使用例
- 日本の中国地方の別称である「山陰山陽地方」を略して、「陰陽」と呼称する。陰陽連絡線、陰陽選抜大会、陰陽ダービーなどの用例がある。
- 中国語では西洋の言語における女性名詞・男性名詞をそれぞれ「陰性名詞」「陽性名詞」と呼ぶ。
- 女性・男性もそれぞれ「陰」「陽」とされるが、性器などではっきりと男女を区別できない状態は半陰陽と呼ばれる。
脚注
- ↑ 『新英和中辞典』研究社
- ↑ Deng Yu, Zhu Shuanli, Xu Peng et al邓宇,朱栓立,徐彭,New Translator with Characteristic of Wu xing Yin Yang五行阴阳的特征与新英译,Chinese Journal of Integrative Medicine中国中西医结合杂志,2000, 20 (12)
- ↑ Deng Yu邓宇,等; Fresh Translator of Zang Xiang Fractal five System藏象分形五系统的新英译,Chinese Journal of Integrative Medicine中国中西医结合杂志; 1999
- ↑ Deng Yu邓宇等,Nature with Math Physics Yin Yang数理阴阳与实质, Journal of Mathematical Medicine数理医药学杂志, 1999年。
- ↑ Deng Yu et al邓宇等, 阴阳的科学本质及数理化建构,Chinese Journal of basic medicine in traditional chinese medicine <<中国中医基础医学杂志>>1998,2:59-61.
- ↑ Deng Yu邓宇等,TCM Fractal Sets中医分形集,Journal of Mathematical Medicine<<数理医药学杂志>> ,1999,12(3),264-265
- ↑ Deng Yu, Zhu Shuanli, Xu Peng et al邓宇,朱栓立,徐彭等,Essence and New Translator of Channels经络英文新释译与实质,Chinese Journal of Integrative Medicine中国中西医结合杂志,2000,20(8):615