通関士
日本において、通関士(つうかんし)とは、輸出入されている物品の輸出入者が通関手続(税関への手続)を通関業者に依頼をした際に通関手続きの代理代行並びに税関への申請をするのに必要な財務省管轄の国家資格、またはその資格を持ち税関から通関士の確認を受けて勤務している者を指す。 英名はRegistered Customs Specialistである。
通関士は貿易業界の税理士、行政書士のような役割がある。通常は通関士以外の者が、他人の依頼により貨物の輸出入申告手続きをすることはできない(旅客の個人用貨物等を除く)。
通関士は税理士や公認会計士のように独立開業ができない、または非常に困難な資格であり、通関士として勤務するには通関業者、もしくは通関部門を自社に持つメーカー等に勤務し税関による確認を受けることを要件とする。商社や銀行(L/C発行銀行)に勤務する際には、就職する上でのアピールポイントになるが通関士として勤務することはない。しかし、貿易業界での唯一の国家資格ということから、資格を取得だけして勤務している人は多々いる。
Contents
通関士制度
趣旨
通関業者の各営業所に通関の専門家として設置し通関書類の審査等を行わせ、通関業務の適正な運営を図り通関手続きの適正かつ迅速な実施を確保することである。
歴史
年(西暦) | 出来事 |
---|---|
1853年 | ペリー浦賀に来航 |
1858年 | アメリカ(6月)オランダ(7月)ロシア(7月)イギリス(7月)フランス(9月)と修好通商条約を締結
{安政5箇国条約(神奈川、長崎、新潟、兵庫の開港を約束して、「運上目録」を定める)} |
1859年 | 箱館(函館)、神奈川、長崎が開港、運上所 (税関の前身)設置 |
1866年 | 改税約書(原則として一律従価5分相当の関税率) |
1872年 | 11月28日全国の運上所 を「税関」という呼称に統一(現在の税関記念日) |
1886年 | 税関官制制定 |
1890年 | 税関法、税関規則施行 |
1892年 | 税関旗制定 |
1899年 | 関税定率法 関税法 噸税法施行 |
1901年 | 税関貨物取扱人法 施行 |
1910年 | 関税定率法全部改正(1911.7 施行) |
1946年 | 税関再開 日本国憲法公布 |
1951年 | 関税定率法税率改正 |
1954年 | 関税法全部改正(7 月施行) |
1955年 | 日本のGATT 加入正式発効 |
1957年 | とん税法及び特別とん税法施行 |
1960年 | 関税暫定措置法施行 |
1964年 | 関税協力理事会(CCC)に加盟 |
1966年 | 関税の申告納税制度 を実施(賦課課税方式、申告納税方式の併用) |
1967年 | 通関業法施行(通関士試験 の開始) |
1968年 | 事後調査制度導入 |
1970年 | 通関士 の登録開始 |
1971年 | 一般特恵関税制度を実施 |
1972年 | 沖縄地区税関設置 |
1978年 | 成田国際空港(新東京国際空港)開港 航空貨物通関情報処理システム(Air-NACCS)稼動
麻薬探知犬(アグレッシブドッグ)導入 |
1991年 | 海上貨物通関情報処理システム(Sea-NACCS)及び通関情報総合判定システム(CIS)稼動 |
1993年 | 麻薬探知犬(パッシブドッグ)導入 |
1994年 | 関西国際空港開港 |
1997年 | 他省庁システムとのワンストップ・サービス供用 |
2001年 | 大型X 線検査装置導入 簡易申告制度導入 |
2003年 | シングルウィンドウ(輸入港湾関連手続)供用開始 海上コンテナ安全対策(CSI)の試験的実施 |
2005年 | 事前旅客情報システム(APIS)導入 中部国際空港開港 |
2006年 | 特定輸出申告制度導入 |
2007年 | 特定保税承認制度導入 |
2008年 | シングルウィンドウ(府省共通ポータル)稼動 |
2010年 | Sea-NACCSとAir-NACCSの統合(輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)) |
通関士試験
受験資格
- 学歴、年齢、経歴、国籍等についての制限がなく、誰でも試験を受けることができる。
申し込み
例年7月1日に通関士試験の公告が官報で[1]行われ、税関ホームページにも通関士試験の公告が掲載される。8月上旬から8月中旬と申し込み可能期間が短いことに注意を要する。申込方法には直接足を運び税関で書類申請する、申し込み書類を郵送で請求し返送する、NACCSによるネット申請をするというものがある。
試験日時
以前は10月の中旬頃であったが、最近は10月の第一日曜日になっている。2013年の第47回通関士試験は10月6日に実施された。時間については以下に参照。
科目 | 時間 |
---|---|
通関業法 | 午前9時30分から午前10時20分まで |
関税法、関税定率法その他関税に関する法律及び外国為替及び外国貿易法(同法第6章に係る部分に限る。) | 午前11時00分から午後0時40分まで |
通関書類の作成要領その他通関手続の実務 | 午後1時50 分から午後3時20 分まで |
試験内容
- 通関業法
- 関税法
- 関税定率法及びその他関税に関する法律
- 外国為替及び外国貿易法(第6章)
- 通関書類の作成要領及びその他通関手続きの実務
- その他関税に関する法律は次の法律である。[2]
- 関税暫定措置法
- 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律
- コンテナーに関する通関条約及び国際道路運送手帳による担保の下で行なう貨物の国際運送に関する通関条約(TIR条約)の実施に伴う関税法等の特例に関する法律
- 物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)の実施に伴う関税法等の特例に関する法律
- 電子情報処理組織による輸出入等関連業務の処理等に関する法律
- その他関税に関する法律は次の法律である。[2]
受験、合否の手続き
試験は年1回(通関業法では年1回以上となっているが、年2回実施されたことはない)、10月上旬か中旬の日曜日(近年は当月第1日曜日に設定されることが多い)に全国13ヶ所[3](受験者の多いところでは大学を借りて行なうことが多い。また同一都市でも2箇所以上に分散することもある)で実施している。例えば、東京税関管轄の受験であれば、東京会場と新潟会場があり、前者は東京大学駒場キャンパスである。 合格者の発表は同年の11月下旬に官報で受験番号と名前が公告される[4]。またインターネット官報で合格発表日の8時30分過ぎに閲覧することができる。税関ホームページにて閲覧できるのは正午過ぎである。受験した税関の各官署にも合格者の受験番号が提示される。さらに合格者のみに受験した税関官署から合格証書が合格発表日に送付[5]されることになっている。
試験方式
2006年10月1日実施の第40回試験より回答形式が大幅に変更され、全問マークシート方式となった。 通関実務においては、携帯用電子計算機(携帯電話などの小型端末を除く)の持ち込みが指示されている。電卓の打音が気になる場合には耳栓の持ち込みも可能であるが、事前に試験監督官に申し出る必要がある。
試験学習
通関士試験対策においては、独学による場合とスクールや予備校に通う場合、通信講座を受講する場合がある。
合格率の推移
年度 | 回数 | 願書 提出者数 |
受験者数 | 受験率 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|---|---|
1967 | 1 | 4578 | 3913 | 85.5 | 795 | 20.3 |
1968 | 2 | 3548 | 2530 | 71.3 | 769 | 30.4 |
1969 | 3 | 3231 | 2229 | 69.0 | 462 | 20.7 |
1970 | 4 | 2946 | 1806 | 61.3 | 476 | 26.4 |
1971 | 5 | 2714 | 1755 | 64.7 | 354 | 20.2 |
1972 | 6 | 2517 | 1548 | 61.5 | 365 | 23.6 |
1973 | 7 | 2331 | 1482 | 63.6 | 303 | 20.4 |
1974 | 8 | 2621 | 1746 | 66.6 | 341 | 19.5 |
1975 | 9 | 3043 | 2138 | 70.3 | 428 | 20.0 |
1976 | 10 | 2810 | 1970 | 70.1 | 375 | 19.0 |
1977 | 11 | 3021 | 2115 | 70.0 | 365 | 17.3 |
1978 | 12 | 3419 | 2330 | 68.1 | 397 | 17.0 |
1979 | 13 | 3814 | 2587 | 67.8 | 442 | 17.1 |
1980 | 14 | 4140 | 2737 | 66.1 | 437 | 16.0 |
1981 | 15 | 4179 | 2739 | 65.5 | 533 | 19.5 |
1982 | 16 | 3884 | 2709 | 69.7 | 474 | 17.5 |
1983 | 17 | 3877 | 2610 | 67.3 | 412 | 15.8 |
1984 | 18 | 3437 | 2398 | 69.8 | 374 | 15.6 |
1985 | 19 | 3667 | 2622 | 71.5 | 343 | 13.1 |
1986 | 20 | 3755 | 2760 | 73.5 | 425 | 15.4 |
1987 | 21 | 3734 | 2701 | 72.3 | 506 | 18.7 |
1988 | 22 | 3962 | 2832 | 71.5 | 515 | 18.2 |
1989 | 23 | 4436 | 3060 | 69.0 | 634 | 20.7 |
1990 | 24 | 4875 | 3431 | 70.4 | 602 | 17.5 |
1991 | 25 | 5656 | 3813 | 67.4 | 765 | 20.1 |
1992 | 26 | 6767 | 4775 | 70.6 | 1157 | 24.2 |
1993 | 27 | 8517 | 5821 | 68.3 | 1285 | 22.1 |
1994 | 28 | 11067 | 7389 | 66.8 | 1639 | 22.2 |
1995 | 29 | 13033 | 9066 | 69.6 | 1396 | 15.4 |
1996 | 30 | 15077 | 10564 | 70.1 | 1720 | 16.3 |
1997 | 31 | 15780 | 11108 | 70.4 | 1661 | 15.0 |
1998 | 32 | 16275 | 11639 | 71.5 | 1394 | 12.0 |
1999 | 33 | 16258 | 11449 | 70.4 | 1703 | 14.9 |
2000 | 34 | 14981 | 10289 | 68.7 | 1446 | 14.1 |
2001 | 35 | 13886 | 9970 | 71.8 | 1050 | 10.5 |
2002 | 36 | 13467 | 9973 | 74.1 | 2848 | 28.6 |
2003 | 37 | 13556 | 10001 | 73.8 | 1211 | 12.1 |
2004 | 38 | 13691 | 10191 | 74.4 | 1920 | 18.8 |
2005 | 39 | 13268 | 9953 | 75.0 | 2466 | 24.8 |
2006 | 40 | 13141 | 10357 | 78.8 | 725 | 7.0 |
2007 | 41 | 13727 | 10695 | 77.9 | 820 | 7.7 |
2008 | 42 | 13267 | 10390 | 78.3 | 1847 | 17.8 |
2009 | 43 | 13159 | 10367 | 78.8 | 807 | 7.8 |
2010 | 44 | 12087 | 9490 | 78.5 | 929 | 9.8 |
2011 | 45 | 11760 | 9131 | 77.6 | 901 | 9.9 |
2012 | 46 | 11544 | 8972 | 77.7 | 769 | 8.6 |
2013 | 47 | 11340 | 8734 | 77.0 | 1021 | 11.7 |
2014 | 48 | 10138 | 7692 | 75.9 | 1013 | 13.2 |
2015 | 49 | 10018 | 7578 | 75.6 | 764 | 10.1 |
2016 | 50 | 9285 | 6997 | 75.4 | 688 | 9.8 |
2017 | 51 | 8627 | 6535 | 75.8 | 1392 | 21.3 |
全年度 | 全回数 | 413,911(計) | 301,687(計) | 72.9(平均) | 46,464(計) | 15.4(平均) |
通関士となる資格
通関士試験に合格した者は、どの税関の管轄区域内においても、通関士となる資格を有する。(通関業法第25条)
名称独占
通関士でない者(通関士試験に合格していない者)は、何人も、通関士という名称を使用してはならない。(通関業法第40条)
通関士の主な業務
通関業務に関わるもの
通関業務とは、通関業者が他人の依頼によってする以下の事務である。通関業者の独占業務とも言われている。
- 通関手続きの代理
- 通関書類の作成代行
- 関税計算書等の審査
- 不服申し立ての代理
- 主張・陳述の代行
書類審査、記名押印
通関業者は、通関士を営業所に設置する場合にはその営業所から税関官署に提出する通関書類のうち、所定のものについては、通関士に審査を行わせ、かつ、記名押印をさせなければならない。(通関業法第14条)
通関士の審査等を要する通関書類
- 輸出申告書(積みもどし申告書)
- 輸入(納税)申告書
- 船(機)用品積込承認申告書
- 蔵入、移入及び総保入承認申告書
- 保税展示場に入れる外国貨物に係る申告書
- 保税工場、総合保税地域において外国貨物を保税作業に使用すること、あるいは、総合保税地域で外国貨物の展示等を行う場合の承認申請書
- 不服申立書(再調査の請求書、審査請求書)
- 関税に係る修正申告書及び更正請求書
通関士の義務
- 名義貸しの禁止
- 通関士は、その名義を他人に通関業務のため使用させてはならない。(通関業法第33条)
- 秘密を守る義務
- 通関業者(法人である場合には、その役員)及び通関士その他の通関業務の従業者は、正当な理由がなくて、通関業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。これらの者がこれらの者でなくなつた後も、同様とする。(通関業法第19条)
- 信用失墜行為の禁止
- 通関業者(法人である場合には、その役員)及び通関士は、通関業者又は通関士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。(通関業法第20条)
通関士の設置
通関士の設置とはその通関業者に於いて専任となる通関士を社内に置くという事であり、通関業者に於いて直接雇用する事とは限らない。以前は通関士設置に関する税関による許可基準として、設置する通関士は自社と直接雇用関係にある正社員でなければならないとする不文律があったようだが、現在は契約社員、出向者、派遣労働者等直接の雇用関係に無い人間でも専任の通関士として職務を行える者ならばそれでも構わない、ということになっている。[6]
通関業法の規定により、通関業を営もうとする者が一般的な通関業者としての許可を得る為には、通常は通関士を設置することが条件となる。同法により、他人の依頼を受けてその通関業務を行う場合は、設置した通関士に通関書類の審査をさせることが規定されているためである。
通関士の設置は必ずしも必須というわけではない。通関業者の許可の条件として営業地域と取扱貨物を一部の地域・貨物に限定されている場合は、通関士は設置しなくても良い。その条件下でも通関業者が通関士を設置したい場合は、通関士の設置は可能である。ただしその場合でも、税関長による通関士の確認は必要となる。
税関長による通関士の確認
通関業者が通関士試験の合格者を自社に於ける通関士とするためには、税関長による“確認”が必要である。通関業者は通関士を登録するための確認申請を税関官署に対して行う。通関士の確認を受けるための要件は通関業法に定められている。その主なものは以下の通り。
- 通関士試験の合格者であること[7]
- 成年被後見人又は被保佐人に該当しないこと[8]
- 破産者で復権を得ていない者でないこと[8]
- 禁錮以上の刑を受けその執行を終え又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過していない者でないこと[9]
等
通関士の資格の喪失
次の事由により通関士の資格は喪失する。つまり、通関士として通関業務に従事する資格を失うことである。
- 確認を受けた通関業者の通関業務に従事しないこととなったとき
- 通関業法6条1号から7号(欠格事由)に該当したとき
- 通関士試験の合格の決定が取り消されたとき
- 偽り、その他不正の手段により確認を受けたことが判明したとき
外国の類似資格
日本の通関士に近い位置付けの資格として韓国には「関税士」、中国には「報関員」、カナダには「Certified Customs Specialist」という資格が存在する。
日本の通関士試験は一度合格すれば受験における不正行為により合格が取り消しにならない限り合格の効力が失効することがないが[10]、中国の報関員資格は更新制をとっている(資格取得後、一定期間以上職務に従事していない場合は失効するなど)。
脚注
- ↑ 通関業施行規則第4条
- ↑ 通関業施行規則第2条第2項
- ↑ 通関業施行規則第3条で、「通関士試験は、東京都、新潟県、神奈川県、宮城県、兵庫県、広島県、大阪府、愛知県、静岡県、福岡県、熊本県、北海道、沖縄県及び財務大臣が指定するその他の場所において行う。」となっている。なお財務大臣が指定するその他の場所で行われた実例はない。
- ↑ 通関業施行規則第8条
- ↑ 配達日指定郵便で発表日に配達される。
- ↑ 通関業法基本通達4-2(7)に「通関士となるべき者その他の通関業務の従業者」が派遣労働者である場合について規定している。
- ↑ 合格証書の写しを提出して証明
- ↑ 8.0 8.1 東京法務局の登記官 が交付する証明書、及び市区町村長の証明書を提出することで証明
- ↑ これらに該当しないことについては宣誓書を提出する。通関業法施行規則第1条に定める通関業許可申請に準じる扱い
- ↑ 欠格事由該当してもその該当している通関士になれないだけで試験の合格の効力は失われない。
関連項目