貨幣乗数

貨幣乗数（かへいじょうすう、英語: money multiplier）とは、マネタリーベース/ハイパワードマネー1単位に対し、何単位のマネーサプライを作り出すことができるかを示すものである。信用乗数（しんようじょうすう、英語: credit multiplier）ともいう。

数学的説明

マネーサプライ（数式では[math]M[/math] と表記）は公衆が保有する通貨（currency、数式では[math]C[/math] と表記）と預金（deposit、数式では[math]D[/math] と表記）に分解される。また、中央銀行がコントロールできるマネタリーベース（数式では[math]H[/math] と表記）は公衆が保有する通貨と銀行が中央銀行に預金する準備金（reserve、数式では[math]R[/math] と表記）に分解される。つまり、

[math]\begin{cases}M = C + D ...(1)\\ H = C + R ...(2) \end{cases}[/math]

となる。ここで(1)式を(2)式で割り、その式の分母・分子を[math]D[/math] で割ると、

[math]\begin{align} \frac{M}{H} & = \frac{C + D}{C + R}\\ & = \frac{\frac{C}{D} + 1}{\frac{C}{D}+\frac{R}{D}} ...(3)\\ \end{align}[/math]

となる。(3)式の分母・分子にある[math]\frac{C}{D}[/math]は現金・預金比率を表し、分母にある[math]\frac{R}{D}[/math]は準備・預金比率を表す。(3)式に[math]H[/math] を乗じると、

[math]\begin{align} M & = \frac{\frac{C}{D} + 1}{\frac{C}{D}+\frac{R}{D}}H \\ & = mH ...(4) \\ \end{align}[/math]

となり、(4)式の右辺にある[math]H[/math] の係数 [math]m[/math] が貨幣乗数であり、マネーサプライは貨幣乗数とマネタリーベースの積の形で表現される。

貨幣乗数の変化による影響

上記(4)式より現金・預金比率の上昇（低下）或いは準備・預金比率の上昇（低下）により、貨幣乗数は低下（上昇）し、マネーサプライを減少（増加）させることとなる。

関連項目

• 信用創造

参考文献

• Abel, Andrew B. and Ben S. Barnanke：Macroeconomics, 5th Edition(2005) Addison-Wesley Publishing Company Inc. （伊多波良雄・大野幸一・高橋秀悦・谷口洋志・徳永澄憲・成相修　訳『エーベル/バーナンキ マクロ経済学 下 マクロ経済政策編』、シーエーピー出版、2007年、ISBN 978-4-916092-73-1）