裁判

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裁判(さいばん、英:trial)とは、社会関係における利害の衝突や紛争を解決・調整するために、一定の権威を持つ第三者が下す拘束力のある判定をいう。

どの国家機関によるどのような行為が「裁判」と呼ばれるかは、必ずしも一様ではない[1]が、現代の三権分立が成立した法治国家においては、「裁判」と言うと一般的には(日常的には)、国家司法権を背景に、裁判所(訴訟法上の裁判所)が訴訟その他の事件に関して行うもの、を指していることが多い。だが、裁判と言っても国家機関が行うものとも限られておらず、国家間の紛争について当事国とは別の第三者的裁判所(国際裁判所)が国際法に基づいて法的拘束力のある判決を下し解決する手続である国際裁判というものもある。

日常用語としては、裁判所で行われる手続自体を「裁判」ということが多いが、法律用語としては、裁判所が、法定の形式に従い、当事者に対して示す判断(又はその判断を表示する手続上の行為)をいう。

概説

裁判というものは、理論的に概観すると2種類ある。そのひとつは、事件の紛争解決し当事者の権利を保護するために、ある「訴訟の目的」(訴訟物)についてなされる実体裁判であり、(その手続的な面については訴訟法の規定に従ってはいるが)この実体裁判というものの内容は実体法の適用によって定まっている。もうひとつは、訴訟手続上のことがらについてなされる裁判であって[2]、この種の裁判は訴訟法だけに依拠しており、実体法とは直接の関連はない[3]。 裁判にはこれら2種がありはするが、裁判制度の肝心な部分は前者の実体裁判である[3]

現代法学では、裁判というのは「事実認定」と「法律の適用」の2段階に分けて論じられている[3]

裁判の場で言う「事実」、判決の基本となる「事実」には、不要証事実と要証事実がある。不要証事実は、裁判所の認定権が排除されているのに対し、要証事実の認定(つまり、主張されていることが本当に起きたのか起きていないのかの真偽を判断すること)は、証拠に基づいて裁判所の自由な心証判断によってなされる[3]

事実認定が行われたら、次に、この「事実」に対して法律を適用することになる。この「法律の適用」は裁判所の専権である[3]

なお、判決の基本となる事実認定とは、単なる客観的事実の認定だけではなく、そこにはしばしば法的な価値判断が加わる。また、法律の適用には、抽象的な法律解釈が問題となってくる。このようにして、個々の裁判の過程は、事実認定と法律の解釈・適用が相互に影響しあって組み立てられており、その内容を構成しているのである[3]

裁判数

日本

日本弁護士連合会によれば、2006年の日本での年間の民事裁判行政裁判の数は合わせて、10万人あたり約116件であった[4]

ドイツ、フランス

2003年の日本弁護士連合会の報告書によればドイツにおける訴訟事件数は日本の5倍、フランスは7倍[5]

英国

2007年のイングランドとウェールズにおける民事裁判は、年間10万人あたり約3600件で日本の約31倍(なお裁判官総人口は10万人あたり2.22人であり、日本よりも少ない)[6]。裁判制度の利用が容易であること、また法が整備されていることを示している。

日本における裁判

形式的意義の裁判

日本の法令上の用語では、裁判とは、裁判所又は裁判官がその権限行使として法定の形式で行う判断を「裁判」とよび、これを形式的意義の裁判[7]という。民事訴訟事件・刑事訴訟事件に限らず、民事執行民事保全破産等の非訟事件においても、裁判所の判断は裁判という形式で表示される。

形式的意義の裁判は、裁判所の権限で行う判断を全て含むため、非訟事件における裁判のように実質上は行政処分に当たるようなものもある。

裁判の形式

裁判の形式には、「判決」「決定」「命令」の3種類がある。ある内容の裁判について、どの主体がどのような形式で行わなければならないかは、民事訴訟法刑事訴訟法などの各手続法で決められている。

判決は、民事訴訟事件や刑事訴訟事件において、裁判所が口頭弁論という厳重な手続保障を経た上で判断を示すものである。ここにいう裁判所とは、官署としての裁判所ではなく、裁判機関としての裁判所をいい、複数(地方裁判所では原則として3人)の裁判官で構成される合議制の場合はその合議体、1人の裁判官で行う単独制の場合はその裁判官である。

決定と命令は、訴訟手続上の付随的な事項について判断を示す場合や、民事執行、民事保全、破産等の厳重な事前の手続保障よりも迅速性が求められる手続において判断を示す場合に行われる[8]。そのうち「決定」は裁判所が行うもの、「命令」は裁判官(裁判長や受命裁判官、受託裁判官)が行うものである。判事補が単独ですることもできる(民事訴訟法123条)。

決定と命令は、判決と異なり、口頭弁論を経るかは裁量に委ねられており(民事訴訟法87条1項ただし書参照)、相当と認める方法で告知すれば足り(民事訴訟法119条参照)、書面による必要もない(民事訴訟規則67条1項7号参照)。上訴は、抗告再抗告準抗告といった簡易な方法によるが、必ずしも独立の上訴ができるとは限らない。刑事訴訟法上は、上訴を許さない決定や命令には、理由をつけないでもよいとされている(刑事訴訟法44条2項)。

なお、個々の裁判の法律上の名称は、その内容に基づいて定められていることがあり、裁判形式と一致しないことがある。例えば、差押命令転付命令仮処分命令などは、「命令」という名がついているが、形式としては「決定」である[9]

その他、家事審判手続においては、家庭裁判所がする裁判は「審判」という形式でなされる。ただし、家事事件手続法(かつては家事審判法)に規定された、裁判所の行為としての「審判」には、裁判としての性質を有しないもの(例えば、限定承認の申述の受理等)も含まれている[10]

裁判の分類

刑事訴訟において、事件の実体そのものの判断、すなわち有罪または無罪の判決を、実体的裁判といい、管轄違いや公訴棄却、免訴等のように、実体を判断しないで手続きを打ち切る裁判を形式的裁判という[11]

裁判の内容では、「確認的裁判」「形成的裁判」「命令的裁判」に分類することができる。確認的裁判は、現存を確認するものであり、民事の確認判決や、刑事の無罪判決などがこれに当たる[12]。形成的裁判は、既存の権利関係を変更したり、新たな法律状態を作り出す裁判であり、民事の離婚判決や刑事の有罪判決などがこれに当たる[12]。命令的判決は、一定の行為を命じるものであり、民事における給付判決がこれに当たる[12]

実質的意義の裁判

「社会紛争を解決する拘束力ある第三者の判断」という実質的な定義と、司法機関と行政機関(あるいは立法機関)の権限区分とは必ずしも一致しないため、この実質的な裁判の定義に該当する判断を裁判所以外が行うこともある。

日本国憲法は、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」(憲法76条2項)と規定するが、これは逆に終審でなければ行政機関も「裁判」を行うことができることを意味する。このような、行政機関が準司法的手続に基づいて行う「裁判」を、行政審判という。

また、日本国憲法は、国会の両議院が行う「議員資格争訟の裁判」と、国会議員で構成される裁判官弾劾裁判所が行う「弾劾裁判」のように、立法府が裁判を行う場合も存在する。

なお、裁判官弾劾裁判にて、過去に7度の訴追例があり、5人が罷免されている。

裁判の歴史

日本

古代

その当時は、地震日食月食などの気象現象が起こった時、人々は、『罪を犯した人に対する神の怒り』として恐れられ、その原因を作った、とされる人物を探し出し、盟神探湯(くがたち…熱湯に入っている石を素手で取り、皮膚の火傷具合で有罪か無罪を判断する道具)などを使用して罪人を暴いていた、とされている。『神が犯罪を見つけ、神が裁く』この時代は『神』の存在が絶対であった。このような方法は一部の地域では室町時代まで行われていた。

江戸時代

日本の江戸時代にも裁判制度があった。訴訟はおおむね吟味筋(刑事訴訟)と公事出入筋(民事訴訟)にわかれており、天領内・内であればその役所、またがる場合は評定所寺社奉行町奉行勘定奉行)がとりしきった。

出入筋としては、村同士の境界の争い(村境争議)、入会(いりあい)権などの用益物権に関する争い(入会争議)、農業用水をめぐる争い(用水争議)、鷹場の負担に関する争い(鷹場争議)、交通負担に関する争い(助郷(すけごう)争議)など多彩な訴えがあった。とくに、村の境界は河川を基本としており、洪水などによる川欠け(流形がかわる)をきっかけに訴えが頻繁に起こされてきた[13]。訴状は目安、調書は口書(くちがき)、判決は裁許(さいきょ)と呼ばれ、判決にあたっては原告と被告とに裁許状が交付された。上訴制度は無かった。また地方から出てきた人を宿泊させる『公事宿』もあった。また、民事訴訟などの手続きを当事者の代わりに行う『公事師』もいた。

関連項目

脚注

  1. 兼子(1959)1頁
  2. たとえば「証人の証言拒絶に対する当否の裁判」(ある証人がこの裁判において証言を拒絶することが妥当か妥当でないか、を判断すること)など
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 『日本大百科全書』小学館。「裁判」【裁判の種類】内田武吉加藤哲夫 執筆担当。
  4. 日本弁護士連合会『2008年版弁護士白書』45頁、2009年。日本弁護士連合会(2014年10月18日アーカイブ)
  5. 日本弁護士連合会『「弁護士報酬敗訴者負担の取扱い」に関する日本弁護士連合会の意見』、2003年。首相官邸(2013年1月29日アーカイブ)。日本の人口当たりの民事一審訴訟件数は「訴訟社会として知られるアメリカとは比べるべくもなく、ドイツの5分の1、フランスの7分の1にすぎない」。
  6. J. Mark Ramseyer & Eric B. Rasmusen, Comparative Litigation Rates, 2010年。5頁、9頁。
  7. 兼子(1959)4頁。なおここでいう「形式的意義の裁判」と、「実体的裁判」の対比である「形式的裁判」とは異なる。
  8. 裁判所職員総合研修所(2010)259頁
  9. 裁判所職員総合研修所(2010)258頁
  10. 梶村・徳田(2007)409頁以下
  11. 裁判所職員総合研修所(2011)458頁
  12. 12.0 12.1 12.2 兼子(1959)220頁
  13. 君津市立久留里城址資料館 平成24年企画展「争いと仲直りの江戸時代」より。河川の流形が変わって自村の耕作地が川の対岸となってしまった場合は、立毛(たちげ)と呼ばれる生育中の農作物の存在が認められれば、飛び地として自村の土地として認定される。

参考文献

de:Gerichtsverhandlung en:Trial he:משפט (דין) it:Processo (diritto) tr:Duruşma ko:재판