虚数単位
虚数単位(きょすうたんい、英: imaginary unit)とは、−1 の平方根(2乗して −1 になる数)である2つの数のうちの1つの数のことである(どちらかを特定することはできない)。そのような数を記号で [math]i[/math] または [math]\sqrt{-1}[/math] で表す。
- [math]i^2 =-1[/math]
任意の実数の2乗は0以上なので、虚数単位は実数でない。数の概念を複素数に拡張すると登場する数である。
虚数単位の記号 [math]i[/math] は imaginary の頭文字から採られている。ただし、[math]i[/math] を別の意味(電流など)の記号として使う場合は、虚数単位を [math]j[/math] などで表すことがある(どの文字を用いるかは自由である。その場合にはどの文字を用いるかを初めに必ず宣言する)。
積の交換法則が成り立たないことを許容すると、異なる3個以上の虚数単位からなる数の体系(非可換体)を考えることができる。3個の虚数単位の場合は [math]i,j,k[/math]、7つ以上の虚数単位の組には [math]i_1 ,i_2 ,\cdots[/math] といったように一つずつ添字を付けて表すことが多い。
定義
虚数単位 i とは、2次方程式 x2 + 1 = 0 の2つの解のうちの一方のことであり、
- [math]i^2 =-1[/math] あるいは [math]i=\sqrt{-1}[/math]
とも表すことができる。解の一方を i とすれば、(x + i)(x − i) = 0 より、解の他方は −i である。
「実数の全体と虚数単位 i を含み四則演算が自由にできる(体になる)」集合のうち最小のものを複素数体、その元(要素)を複素数といい、特に実数でない複素数を虚数という。
同様に、「複素数の全体と、複素数でない新たな虚数単位 j を含む最小の体」を四元数体といい、その元を四元数という。このとき、ij = k とおくと、k も虚数単位である。すなわち k2 = −1 を満たす。この i, j, k をそのまま虚数単位とすることもできるが、複素数体の場合に −i を i と置き直しても同じ構造であるのと同じように、四元数体 H においても、虚数単位を取り直すことができる。すなわち、R3 の正規直交基底を一組選び、
- [math]f\colon\mathbb{R}^3 \to \mathbb{H} \quad ((a,b,c)\mapsto ai+bj+ck)[/math]
によって写した像を新たに i, j, k とおいて虚数単位としてもよい。ただし、基底を左手系に取ると ij = −k となってしまうので、数学的な必然性はないが、慣習として右手系が選ばれる。
つまり虚数単位は、複素数・四元数の範囲を、実数部分と虚数部分に分けた時の、後者の方の基本単位である。八元数・十六元数はさらに多くの虚数単位を持つ。
行列表現
線型代数学(あるいは線型表現)の知識を用いると、虚数単位が行列で表される。実際、
- [math]J = \begin{pmatrix} 0 &-1 \\ 1 &0 \end{pmatrix}[/math]
と定義される行列 J は、J2 = −E(E は 2 次単位行列)という性質を持つ。これは、虚数単位 i の左からの積が引き起こす複素数体 C の一次変換を、表現空間 C を2次元実ベクトル空間 R2 と見て行列表現することによって得られる。
四元数についても同様に、四元数体 H における積を C2 に対して引き起こされる一次変換と見なすことにより
- [math] J_1 =i\sigma_3 = \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} ,\quad J_2 =i\sigma_2 = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} ,\quad J_3 =i\sigma_1 = \begin{pmatrix} 0 & i \\ i & 0 \end{pmatrix} [/math]
という三つの虚数単位の行列表現を考えることができる。また、C2 と見なすのでなく R4 と見なせば、4 次の正方行列として表現することもできる。詳しくは四元数の項を参照されたい。
行列の積は結合的であるので、八元数や十六元数では(結合法則を満たさないため)このような表示はできない。
虚数単位の演算
[math]n[/math] を整数、[math]e[/math] をネイピア数とする。
- 虚数単位の累乗
- [math]i^{\,n} = \begin{cases} 1, & \mbox{if }n\equiv0\pmod4\\ i, & \mbox{if }n\equiv1\pmod4\\ -1, & \mbox{if }n\equiv2\pmod4\\ -i, & \mbox{if }n\equiv3\pmod4 \end{cases} [/math]
- 虚数単位の虚数単位乗
- [math]i^{\,i} =e^{-\left( \frac{1}{\,2\,} +2n\right) \pi}[/math] [1]
- 1の虚数単位乗
- [math]1^i =e^{-2n\pi}[/math] [2]
- 虚数単位の自然対数
- [math]\log i=\left( \frac{1}{\,2\,} +2n\right) \pi i[/math] [3]
脚注
参考文献
- ポール・J・ナーイン 『虚数の話』 青土社、2008年