自動体外式除細動器
自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき、英語: Automated External Defibrillator, AED)とは、心停止(必ずしも心静止ではない)の際に機器が自動的に心電図の解析を行い、心室細動を検出した際は除細動を行う医療機器。除細動器の一つだが、動作が自動化されているので、施術者が一般市民でも使用できるよう設計されている。
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概要
心室細動していた心臓は、AEDによる電気ショックで静止状態になるので、使用後は速やかに胸骨圧迫(および、可能ならば人工呼吸)によって、拍動の回復を促す必要がある。通常であれば拍動は自発的に再開する。主に不特定多数の人が出入りする空港や飛行機内、ホテルなどの公共施設に広く設置され、消火器などと同様に、万一の事態が発生した際には、その場に居合わせた人が自由に使えるようになっている。
日本では、救急車が現場到着するまで平均で約8分を要するが、心室細動の場合は、一刻も早く電気的除細動を施行することが必要とされている[1]。救急車の到着以前にAEDを使用した場合には、救急隊員や医師が駆けつけてからAEDを使用するよりも、救命率が数倍も高いことが明らかになっている[2][3]。
日本で現在承認されている製品は、医薬品医療機器等法上の「類別・機械器具12、一般的名称・半自動除細動器あるいは非医療従事者向け自動除細動器」に該当する。成人用設定で150J(ジュール)、小児用設定で50Jの固定電流が流れる。
一部の国では、全自動化された製品が発売されているが、日本ではこの方式は承認・流通ともされていない。
使用方法
収納スタンドは、蓋を開けるとサイレンやブザー鳴動・赤ランプの点滅で緊急事態発生を周囲に告げる他、使用された事を示す信号が、当該施設の防災センターに送られるようになっているものもある(これにより防災センターは、警備員を現場に向かわせ対応する)。
電源を入れると、電極パッドを胸に貼り付けるように音声案内が流れる。パッドを素肌に直接貼り付けることができていれば、ブラジャーは外す必要はなく、もし余裕があれば、パッドを貼った後に、上から上着やタオルなどを掛ければよい(電気ショックの時間を遅らせないことが重要)[4]。電極パッドを胸に貼り付けると自動的に心電図の解析が始まり、電気ショックを与えるべきかの判断が行われる。電気ショックが必要と判断された場合には、放電のボタンを押すようにアナウンスが流れる。
機械の指示に従って施術者がスイッチを押すと、電気ショックによる除細動が行われる。AEDの使用方法については、日本光電工業などの製造メーカーホームページなどを参照のこと。
日本での普及
かつて日本では、医師しか使用が認められていなかった。2003年に救急救命士に使用(医師の指示なく)が認められ、2004年7月からは一般市民も使えるようになり、空港や学校、球場、駅などの公共施設に設置されることが多くなった。
2005年に開催された愛知万博では、会場内にAEDを多数配置している。また2006年から2008年頃にかけて公共交通機関でのAED設置が進んだ。2006年7月、都営地下鉄全101駅へのAED設置完了を皮切りとして、2006年にはJR東日本新幹線全駅、JR東海も、東海道新幹線全駅と在来線主要駅に設置された[5]。
AEDが登場し始めた当初は1セットあたり100万円以上だったが、2007年には30万円程度になっている。心停止に陥る可能性の高い疾患を持つ家族を抱える家庭では、自家所有している例もある。レンタルだと1機当たり月額5000円程度。また現在では子供用のAEDパッドが認可され、1歳以上の子供なら使用できるAEDが増えている。
使用時の法的責任の有無
対象の身体に対する「急迫の危害」を回避するための「救命処置」であるAEDの利用により、救命対象を死亡や怪我、障害を与えた場合でも、悪意がなければ使用者は患者本人や遺族から責任を問われない。さらに、AEDの使用により症状悪化が起きることは滅多に無いため、日本救急医学会は「此方の問いかけに反応がなく、呼吸がない場合に使用」する機器だと述べた上で、対象の意識や呼吸の状態が少しでも普通では無いと感じた場合にも試しに使用してみることを推奨している[6][7]。日本救急医学会の指導医によるとAEDを使用しないと死亡に至る死戦期呼吸と普通の呼吸の差を見分けることが一般人には難しいことや、そもそも心室細動時の呼吸状態である死戦期呼吸の認知度が低いことも、即座のAED利用をしない要因の一つと指摘している[8]。
女性への使用に関するデマ
2017年12月、「女性に対してAEDを使用するとセクハラで訴えられる」という趣旨のデマがツイート、拡散された[9][10]。この件について、発信源の男性は「人命・女性の尊厳を軽んじ、緊急時の救助活動を躊躇させる」として、「女性に対する侮辱、脅迫する行為を行い、全ての方に多大なるご迷惑をおかけした」とブログ上で謝罪した[11][9][10]。このようなAEDにまつわる「女性は助けない方が良い」という類のデマは、内容の細部は異なりつつもインターネット上で定期的に取りざたされる定番のデマとなっており[10]、2014年にも発生している。ある弁護士は、着衣を脱がす行為は強制わいせつ等に、衣類をハサミで切断することは器物損壊罪にあたるが、除細動の迅速な実施のためにやむをえず行った行為は、該当者の死を避けるための緊急行為として処罰の対象とはならないとし、性的意図がなければ罪には問われないはずであるとしている[9]。
使用目的の誤解
AEDとは「異常な拍動を繰り返し、ポンプとしての役割を果たしていない状態(心室細動)」の心臓を、電気ショックによって一時静止させることにより正常な拍動の再開を促すものであり、「静止した心臓を電気ショックで再起動させる」ものではない。
また、AED使用によって一時静止させられた心臓は、本来であれば自動的に拍動を再開するが、酸欠等の状態にあると拍動が再開しにくいため、AED使用後は、速やかに(人工呼吸と)胸骨圧迫(一般に心臓マッサージといわれるもの)を行い、拍動の再開を促す必要がある。
AED機器が心室細動ではないと診断した場合は、除細動は行われず、胸骨圧迫を行うようアナウンスが流れる。
講習
- 公的団体
- 日本では、各地の消防本部や日本赤十字社の都道府県支部が、心臓マッサージやAEDの使用方法などの救命講習会を開催している。病院や保健所で独自に行っているところもある。
- 民間団体
- アメリカ心臓協会 (AHA: American Heart Association) 公認講習を開催する日本蘇生協議会所属のNPO法人愛宕救急医療研究会、NPO大阪ライフサポート協会、日本ACLS協会や、メディックファーストエイド社、国際救急救命協会、日本救急蘇生普及協会(財団法人日本救急医療財団指定事業者)が一般市民向けにトレーニングを提供している。また、プロ野球球団に入団したばかりの新人選手に対して救命講習会を行った例がある。[12]
主な設置場所
交通機関
- 空港、旅客機内(旅客機は、1990年代から諸外国の航空会社がいち早く機内に搭載を開始し、日本航空も、2001年10月に国際線機内に搭載を始めている[13])
- 鉄道駅構内(大都市周辺や地方主要都市のJR駅、大手私鉄、地下鉄)、新幹線、特急列車内
- フェリーターミナル、フェリー内
- バス(主に観光バス)
医療機関
公共施設
商業施設、娯楽施設
その他
- 大規模な工場内、自衛隊駐屯地、救急車内 など
メンテナンスと寿命
電極のパッドやバッテリーには使用期限があるため、定期的な点検と交換が必要となる[14]。バッテリーはリチウム電池などが用いられ、充電された状態で販売されている。購入者側で再充電や再使用することは無く、使い捨てである。バッテリーの使用期限は未使用の状態で通常3-5年である。またAED本体についても保証期間は5年程度で、耐用年数は7年程度とされる。このため、AEDを設置した施設については、未使用であっても5-7年毎に機器の再購入が必要となり、1台あたり30-40万円の費用負担が発生する。
日本で販売されている商品
出典:日本心臓財団[15]
- ハートスタート(フィリップス、フクダ電子、レールダル)
- カルジオライフ(日本光電)
- ライフパック(フィジオコントロール)
- CU-SP1(株式会社CU)
- ZOLL AED Plus(旭化成ゾールメディカル[16])
- パワーハートG3(オムロンヘルスケア)
- カーディアックレスキュー(日本ライフライン)
出典
- ↑ カーラーの救命曲線によれば、心停止3分で死亡率はおよそ50%、と言われている。
- ↑ 非医療従事者による自動体外式除細動器 (AED) を用いた除細動と心肺蘇生 - 大阪府三島救急医療センター(シカゴのオヘア空港やラスベガスのカジノに設置されたAEDが市民によって使用され、高い救命率を示した話。)
- ↑ Outcomes of Rapid Defibrillation by Security Officers after Cardiac Arrest in Casinos(上記カジノの話の原文) - NEJM. (2000) 343:1206-1209.
- ↑ よくあるご質問 (PDF) 減らせ突然死 AEDプロジェクト
- ↑ お客様、沿線の皆様、関係業務機関との連携 - JR東海 安全報告書 2008
- ↑ http://aed.jaam.jp/faq.html
- ↑ https://www.j-cast.com/healthcare/2016/07/25273300.html?p=all
- ↑ [1]
- ↑ 9.0 9.1 9.2 “嘘だった「AED使った男性をセクハラで...」 投稿主「問題提起のつもりだった」”. J-CAST (2017年12月22日). . 2017閲覧.
- ↑ 10.0 10.1 10.2 島袋コウ (2017年12月31日). “広がった「AEDセクハラデマ」と、その裏で築かれる偏見”. 琉球新報Style. 琉球新報社. . 2018閲覧.
- ↑ 「【謝罪】AEDに関するツイートについて」モクセイ属のヒイラギさん2017年12月22日
- ↑ 西武 新人選手に心臓マッサージとAED講習会スポニチ、2013年1月19日
- ↑ 航空機内での心肺蘇生の実施により心的外傷を負った1例総合病院国保旭中央病院神経精神科 大塚祐司、宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 3, 71-82, 2007
- ↑ AEDの部品 使用期限切れに御注意を京都市消防局、2009年11月20日
- ↑ AEDはどこで購入できますか? 2017年3月1日
- ↑ 救命救急医療機器事業の日本法人営業開始について旭化成、2012年10月24日
参考図書
外部リンク
- AEDの製品外観一覧(厚生労働省)
- 救命処置の流れ(心肺蘇生法とAEDの使用)(総務省消防庁)
- 非医療従事者による自動体外式除細動器 (AED) の使用のあり方検討会報告書(厚生労働省)
- 日本心臓財団・AEDを知っていますか
- 日本AED財団
- AEDよくあるご質問 減らせ突然死 AED プロジェクト (PDF)
- AEDの使い方のポイント 自習用テキスト(2005年版ガイドライン準拠) 名古屋大学医学部付属病院 (PDF)
- 日本救急医療財団全国AEDマップ - 突然に心停止となった方に対してAEDが使われる機会を増やし、救命率を向上させることを目的に、設置者の協力のもと、AED設置情報を提供
関連項目
- 除細動
- 植え込み型除細動器 (ICD)
- 国際蘇生連絡協議会 (ILCOR)
- 日本蘇生協議会 (JRC)
- 減らせ突然死プロジェクト