羽毛
羽毛(うもう)とは、
- 広義の用法。鳥類学用語としての羽毛。哺乳類の体毛、爬虫類の鱗に相当する、鳥の体表を覆う器官であり、また、飛翔において重要な役割を果たす。いわゆる「羽根」にほぼ等しい言葉。
- 狭義の用法。通俗的にはこの語はおもに、羽毛布団やダウンジャケットなどの“詰め物”としての用途に関連して用いられている。そのためこの場合には、広義の羽毛の中でもごく一部のやわらかいもの、いわゆる“羽根毛”(はねげ)とか“ダウン”(英語: down)と呼ばれるものをもっぱらイメージする傾向が強い。
Contents
語釈
上記「羽毛布団」や「赤い羽根」「緑の羽根」などの影響か、「羽毛」と「羽根」を区別し、「“鳥の体表に生えているもの”には2種類あって、ふわふわしたのが“羽毛”で、硬い軸のあるのが“羽根”である」とするような通俗的な“定義”もある程度は通用しているらしく、本項でも旧版ではそうした説明を載せていたが、このような言い方のままでは学術的な定義、一般的な用法との齟齬が著しく、大いに混乱を呼ぶおそれがある。学術的な定義に従うならその2種類はいずれも「羽毛」である、ということになるし、通俗的に見ても、両方を「羽根」と呼ぶことに何の問題もない。
そこで本項では混乱を避け、以下のように節を立てて順に説明することとする。
- 広義の羽毛、すなわち鳥類学でいうところの「羽毛」について
- 狭義の羽毛、すなわち詰め物としての「羽毛」、いわゆる羽根毛、ダウン(en)について
- 狭義の羽毛以外の羽根について
これらの関係をごくおおざっぱに整理するなら、上記 2, 3 を合一したものが上記 1 である、と述べておおむね正しいであろう。
鳥類学用語としての羽毛
概説
進化史
かたちとはたらき
- 飛翔
- ディスプレイ、メスへのアピール
- 保温や防水
- その他
詰め物としての羽毛
寝具や防寒具の中綿として使用されるふわふわした羽毛。羽根毛、ダウンなどとも呼ぶ。
構造と特徴
羽毛1つ1つはダウンボールと呼ばれ、真ん中の核から手のひらのように羽枝がたくさん広がった構造を持っている。羽枝を広げた羽毛同士が集まると多くの空気を保持することができ、それが保温層となって保温力を保つ。羽毛の羽枝は柔らかいが復元性に優れ、空気を含むための嵩(かさ)を稼ぎやすくなっている。雛鳥よりも成鳥から取れた羽毛の方が1つ1つのダウンボールが大きいため嵩が出て保温性が高い。
用途など
多くの空気を取り込むことができ保温性に優れていることから、衣料品(ダウンジャケット)、布団(羽毛布団)、寝袋(シュラフ)、枕として用いられる。これらの素材には高緯度地域で飼育された、カモ科の家禽(ガチョウやアヒル)の胸付近の綿毛が用いられていることが多い。ガチョウの胸毛はグースダウンと呼ばれ アヒルの胸毛はダックダウンと呼ばれている。
その他の羽根
鳥の羽毛のうちでも軸の通ったもの、羽条の整ったもの、見た目の美しいものは、それぞれに重宝され、さまざまな用途に使われてきた。
用途など
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風切り
空中に投げ出される物体に取り付けて、軌道を安定させるなどの効果を利用する。プラスチック以前の時代には、このような用途には鳥の羽根が最適の素材であった。
ペン
英語 pen がラテン語 penna 「羽根」に由来することからもわかるように、西洋圏では最も早くに広く普及した筆記具が羽根ペンであった。羽根の軸は中空になっていて適量のインクを保持できる。これを適時インクに浸しながら字を書いたものである。
装飾
宗教的・呪術的な意味づけや、後にはおもに審美的な理由から、装身具としても多用されてきた。民族衣装に羽根を使っている民族も多い。
意思表示
特定の色に染めた羽根を身につけることで思想や運動への賛意を表明するもの。またチャリティーや啓発キャンペーンのアイキャッチにも利用される。
- 赤:赤い羽根共同募金。社会福祉・途上国に役立てられる。
- 緑:緑の募金。緑化事業。
- 黄:腎臓移植運動。
- 青:青い羽根募金。水難救助ボランティアへの支援。(日本水難救済会)
- 水色:海難事故で親を亡くした遺児育英事業支援。(漁船海難遺児育英会)
フェザーミール
食肉処理により生じた食鳥の羽毛は、フェザーミールとして飼料や肥料に用いられる。
転義など
- 機械などで板状の部品が多数使用されているときに、そのひとつひとつを羽根と呼ぶことがある。「水車の羽根」「タービンの羽根」「ラジエーターの羽根」など。
- 天気図において風向や風力を表す記号を羽根と呼ぶ。
- 焼餃子を焼き上げる際に底面にできる薄皮を羽根と呼ぶ(羽根つき餃子)。
健康への影響
羽毛から発生する微粉塵を長期間吸い込んだ場合、羽毛に対するアレルギーが生じ過敏性肺炎や間質性肺炎を発症することがある[1][2]。しかし、自身が鳥関連過敏性の体質であることに気がつかないまま重症化し、「特発性間質性肺炎」や「特発性肺線維症」と診断されるが有効な治療が行えず慢性過敏性肺炎に重症化する例が報告されている[3][4]
脚注
- ↑ 過敏性肺炎 MSDマニュアル プロフェッショナル版
- ↑ 稲瀬直彦、過敏性肺炎の最近の動向 日本内科学会雑誌 105巻 (2016) 6号 p.991-996, doi:10.2169/naika.105.991
- ↑ その難治性肺炎、ダウンジャケットが原因かも 日経メディカルオンライン 記事:2016年10月21日
- ↑ 長坂行雄、「咳嗽の診療」 呼吸と循環 64巻 5号, p.479-484, 2016/5/15, doi:10.11477/mf.1404205957