商社

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商社(しょうしゃ)とは、輸出入貿易ならびに国内における物資の販売を業務の中心にした、商業を営む業態の会社である。幅広い商品・サービスを取り扱う総合商社と特定の分野に特化した専門商社に区分される。広義の卸売業である。特に総合商社は日本特有の形態とされ、海外においても「Sogo shosha」と呼ばれる。「商社」という言葉は、幕末期の幕臣小栗忠順が英語の「company」から訳したともいわれている[1]

機能と業務内容

商社の主な機能として、大きく分けて流通金融情報の3つが挙げられる。それぞれの具体的な業務内容は下記の通り。大手の総合商社を除けば、これらの業務全てを行っているわけではない。また一部の機能やビジネスについては商社が直接手掛けるのでなく、グループ会社や出資・提携・取引先に委ねるケースも多く、規模や業界などに応じて様々な業務形態がある。

流通

貿易
輸出輸入三国間貿易など、国際的に物資を販売・流通させる。
販売
物資の国内卸売業務。一部の商社では小売業にも進出している。
物流保険
貿易・販売に伴う海上・航空・陸上物資輸送ならびに保険代理業務。専門の子会社を設立し、そちらで業務を行う場合が多い。
マーケティング・商品企画
商品の販売戦略を立て、宣伝を行ったり販売ルートを確保する。あるいは、一歩進めて市場のニーズをつかみ、メーカーに対して新商品や改良を提案する。場合によっては商社自身が事業主となり、メーカーに製造を委託して自社ブランドで販売することもある。

金融

歴史的には、イタリア半島にあった都市国家ヴェネツィアジェノヴァフィレンツェなどの商人・商社が次第に金融に特化したのが現在の金融業の始まりであり、商業銀行と商社は業態的につながりが深い。イギリスではマーチャント・バンクの伝統があり、これは交易商人たちが次第に金融に特化していったものである。日本の総合商社はマーチャントバンクに大変類似しているとも言われる[2]

貿易金融
貿易において、特に輸送が海上輸送(船便)となる場合には船積してから仕向先に貨物が到着するまで数週間~数ヶ月かかる。さらに、輸出者と輸入者は物理的に離れており、お互いに商品代金支払と商品引渡においてリスクを負っている。この状況を解決するため、貨物が海上にある間に荷為替手形信用状を利用して銀行を介して代金を決済し、なおかつ商品の所有権を円滑に移転する金融システムが国際的に発達し、現在でも利用されている。つまり、一部の特殊な取引(親会社-海外子会社間の取引で代金決済が通常の送金で済む場合等)を除いて貿易業務と貿易金融業務は本質的に一体のものであり、これを円滑に進めることも商社の重要な機能の一つである。
デリバティブ
貿易金融に関連して海外取引の決済用に外国為替の予約を行う。また国際商品を取り扱う実需家として先物取引などのデリバティブ取引を行う。
商社金融
国内卸売業務において、物資の流通と支払サイトの差異から発生する独特の金融業務。日本的商慣習の中では、この商社金融が商社の売上を伸ばす方法として多用されてきた経緯がある。
かつては商社金融における「取扱高」が売上として認識されたが、現代では商事金融業務における手数料割引料利息の純額部分が収益として認識されるようになったため、売上高を多く見せるための金融取引は無意味なものとなっている。
投資
子会社を設立することによって、従来本社で行っていた業務を移管したり新規事業に進出したりする場合と、既存の他事業者へ投資を行う場合がある。いずれも商社本体から見た場合には投資事業となる。投資と同時に人材の提供(多くは出向の形をとる)を行うことが多い。投資銀行などと異なるのは、商社が投資を行う場合には、同時に製品の販売契約を結ぶなどの形で貿易・販売業務につなげていくことが多い点にある。投資先は、特に総合商社においてはほとんどあらゆる産業にわたる。
ファイナンス
融資保証を行う。主として投資先の資金調達を助けるために行われる。あるいは、シンジケートを形成するなどの手法でプロジェクト・ファイナンスを行う。

情報

以前は、海外支店網とテレックスによる情報収集・伝達能力が商社の生命線といわれていた時代もあった。現在ではインターネットの進歩により、海外の情報自体は商社でなくても容易に入手できるようになってきている。このため、一般には公表されない情報の素早い入手や、情報を活用する処理能力が重視されるようになってきている。海外各国の有力政治家や実業家とのコネクションは各商社にとって重要な財産であり、また日本国にとっては「民間外交官」の役割も果たしている。情報通信技術については、メーカーや卸先との電子データ交換による受発注自動化やPOSシステム開発などを手がけるため、専門のIT子会社を持つ企業も多い。

コンビニエンスストアと総合商社は密接な提携関係を築いており、ローソンファミリーマートは総合商社の系列企業となった。

総合商社

総合商社は「ラーメンから航空機まで[3]」といわれるように取扱商品・サービスが極めて多い点で、日本独自の業態であるといわれている。ただし、商社冬の時代を経て、旧来のような単純な貿易・販売や商社金融業務のほとんどは現在では子会社・関係会社に移管されており、国内・海外企業への出資ならびに経営管理、経営層を含めた人材の派遣、ITの蓄積やシステム開発など、事業持株会社やある種の投資会社に近い機能が総合商社本社の業務内容となってきている。また、これらの機能を活かして、自ら新規事業を立ち上げることも多い。

現在、国内で一般的・慣習的に「総合商社」と呼ばれているのは下記の7社である。(売上高:2018年3月期連結。千万単位以下は切り捨て)

  1. 三菱商事 - 売上高 7兆5,673億円:「商事」[4]
  2. 伊藤忠商事 - 売上高 5兆5,100億円:「伊藤忠」
  3. 丸紅 - 売上高 7兆5,403億円:「丸紅」
  4. 三井物産 - 売上高 4兆8,921億円:「物産」
  5. 住友商事 - 売上高 4兆8,273億円:「住商」
  6. 豊田通商 - 売上高 6兆4,910億円:「豊通」[5]
  7. 双日 - 売上高 1兆8,164億円:「双日」[6]

総合商社の定義とその変遷

そもそも「総合商社」という名称は上記のように「専門商社」との対比で使われる用語であり、どこまでの商社を総合商社に含めるかという点に関しては多分に慣習的な部分が大きい。用語自体は1955年頃から使われるようになったものだが、戦前においても、三井物産1890年代には「総合商社」としての形態を整えており、三菱商事鈴木商店岩井商店大倉商事などがこれを追いかけた[7]

戦後、鉄鋼系専門商社と関西系の繊維専門商社が事業領域を拡大する一方、GHQによる財閥解体で解散させられていた三菱商事三井物産がそれぞれ大合同を果たし、さらに住友商事が新規参入した結果、1960年前後にはいわゆる10大総合商社体制がほぼ成立した[7]1970年代前半までは三菱商事三井物産住友商事伊藤忠商事丸紅(丸紅飯田)、日商岩井(日商)、トーメンニチメン兼松江商(兼松)、安宅産業の10社を「総合商社」「10大商社」と呼ぶことがほぼ一般的であった。その後、1977年安宅産業の破綻伊藤忠商事への吸収合併や日商岩井・トーメン・ニチメンの合併など統廃合が進められた。この間に、大手専門商社であった豊田通商は兼松江商を吸収することによって名実ともに総合商社化し、、さらにはトーメンも吸収した。

現在、総合商社とは、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商、双日の7社をいい、丸紅までを呼ぶ場合は、「五大商社」、双日までを呼ぶ場合は「七大商社」と呼んでいる。なお、商社の業界団体である日本貿易会の会長は七大商社の社長が持ち回りで就任し、2014年5月からは伊藤忠商事の小林栄三が会長をつとめている。

成立の経緯による分類

財閥系:三菱商事・三井物産・住友商事
商事・物産は戦前から存在し、財閥解体による分割を経て再統合されたが、住商は戦後になって設立されたもので比較的歴史が新しい(その後戦前に一度、旧長谷川・竹腰建築設計事務所を合併して参入していた建築設計部門が日建設計として独立(のれん分け)している)。
関西五綿:伊藤忠商事、丸紅、東洋棉花(のちにトーメン→豊田通商)、日本棉花(→ニチメン→双日)、江商(→兼松江商→兼松)
繊維商社から発展した上記5社を指す。繊維製品は戦前から日本の重要な輸出品であり、棉花などの原料の輸入も活発に行われていたので、これらの商社は充実した海外ネットワークと貿易に対応できる人材・ノウハウを保有していた。戦後、その特徴を活かして高度成長期に金属・機械・エネルギー・化学品などの取り扱いを伸ばし、また、その分野の専門商社を合併して総合商社化した。
かつての戦前の大商社であった大建産業を母体とした伊藤忠や丸紅の場合は特に商社などとの合併が顕著であり、前者は安宅を元主力行住友銀行、現在の三井住友銀行)の主導で救済合併。後者も高島屋飯田(大手百貨店高島屋の源流。合併後、呉服卸分野は現在の京都丸紅へ継承している)や東通(旧浅野物産。元浅野財閥系で、鉄鋼・セメント窯業系が中心の複合商社)を合併している。
その他:日商岩井(→双日、旧鈴木商店出身の日商と鉄鋼商社の岩井が合併)、安宅産業(鉄鋼商社系)

かつての総合商社

兼松
1990年代半ばの債務免除後に事業の選択と集中を実施。IT・食料など主要4分野に特化した。総合商社に分類されることもある。
安宅産業
1977年に破綻し、伊藤忠商事に吸収合併された(安宅産業破綻)。
鈴木商店
戦前には三菱商事・三井物産以上の売上高を誇ったが、1927年昭和金融恐慌のあおりを受けて破綻。貿易部と傘下の日本商業会社が独立して日商となり、これが後に岩井産業と合併して日商岩井となった。日商岩井はさらにニチメンと合併し、現在の双日につながる。

専門商社

専門商社とは、特定の分野、業種において商社活動、機能を果たす企業を指す。企業の数は非常に多い。海外では資源メジャー穀物メジャーなど大手から中小まで無数に存在しており、国際的には専門商社の形態が一般的である。

総合商社やその分野の大手メーカーの子会社・関係会社であることが多く、総合商社とは違って旧来通りの物流・金融が現在でも業務の中心となっている。しかし、単純な輸出入・販売だけではなく、商品企画・マーケティングや流通ITなどの機能で付加価値を追求するようになっている。独立系の専門商社などでは総合商社と同様の投資業務に乗り出しているところもある。

取扱商品についてはあくまでも基本となる部分で、会社によっては新規分野への進出を図っているところもある。業務内容としては貿易を中心とするものと国内卸を中心とするもの、その両方を取り扱うものに分類できる。以下に日本国内の主な専門商社を示す。

地方商社

鉄鋼

非鉄金属

機械

エレクトロニクス

繊維

紙・パルプ

日用品

医薬・化粧品等も取り扱う場合は後述を参照。

化学製品

住友商事ケミカル(住友商事系)

医薬品・医療関連商品

食品

燃料・エネルギー

情報・通信

建築・住宅資材

  • SMB建材(住友商事・三井物産・丸紅系)※旧住商建材に三井物産建材商社部門を企業分割により統合した三井住商建材が、丸紅建材を吸収合併
  • 双日建材(双日系)
  • 伊藤忠建材(伊藤忠系)
  • JKホールディングス(独立系建材商社の持株会社、三井物産色)
  • ウッドワン(旧住建産業、広島発祥の大手建材商社)
  • 三菱商事建材(三菱商事系)
  • キムラ(北海道地盤の建設・住宅資材商社、不動産関連等も兼営)
  • ナイス(すてきナイスグループ)

その他用品

地域商社

地域おこしを目的に、名産品の販路開拓や、道の駅運営など観光事業を幅広く手掛ける法人が「地域商社」と呼ばれるようになっている。栃木県で2008年に設立されたファーマーズ・フォレスト社が先駆けとされる[10][11]。政府は地域商社100社以上の設立支援を目標に掲げている[12]

脚注

  1. 広辞苑第六版 「商社」1379頁。
  2. 「マーチャント・バンク」山本利久(新潟産業大学経済学部紀要 弟29号)[1]
  3. ちなみに、このキャッチフレーズは三菱商事のキャッチフレーズで、ラーメンとは日清食品チキンラーメンの事。なおかつて航空機の部分はミサイルだった(クレームが付いて変更/それどころか武器の扱いを規則で禁止している会社も多い)。
  4. 中国現地法人の菱商(上海)貿易有限公司など、稀に「菱商」も使用されるが、一般的に「菱商」は三菱電機の商社部門である菱電商事を指す場合が多い。
  5. 2006年4月1日トーメンを吸収合併。
  6. 2004年4月1日にニチメン日商岩井が合併して誕生。
  7. 7.0 7.1 田中隆之『総合商社の研究』東洋経済新報社、2012年、261-263頁。
  8. 事業の変遷”. 会社案内. 丸文株式会社. . 2013閲覧.
  9. 現主力として「ビッグエコー」チェーンを中心に直営・FC展開を行っているためと考えられる。
  10. 躍動する「地域商社」日本経済新聞ニュースサイト(2017年7月24日)2018年4月21日閲覧
  11. 朝日新聞』朝刊2016年10月28日【ひと】地方創生で注目される「地域商社」の先駆者・松本謙さん(49)
  12. 地域商社事業首相官邸まち・ひと・しごと創生本部(2018年4月21日閲覧)

関連書籍

  • 『現代総合商社論 ― 三菱商事・ビジネスの創造と革新』 三菱商事株式会社編集、堀口健治・笹倉和幸監修、早稲田大学出版部、2011年 ISBN 9784657110022

外部リンク