竹林
竹林(たけばやし、ちくりん)は、 竹で構成された林である。竹藪(竹薮、竹籔、たけやぶ、たかやぶ)とも言う。古来、日本人の生活・文化に深くかかわってきた。
概要
竹は地下茎がよく横に這い、随所から地上に茎を伸ばすため、多くの場合、ほぼ単独種からなる群落を作る。これを一般に竹林と言う。竹は一般の樹木とはその姿も性質も異なる。その幹は丈夫ではあるが肥大成長をしないため、せいぜい両手に収まる程度の太さのものが一面に並ぶため、独自の景観を作る。林床には竹の葉だけが一面に広がるが、一般の樹木の葉のように黒っぽくならないため、竹林全体がほの明るい印象となることが多い。
日本において、現在ではごく普通に見られる竹林ではあるが、竹はほぼ全てが帰化植物と考えられ、一部種類には日本野生説もあるが、ほとんどは中国原産である。笹は日本産のものが多くあり、地方変異も数多い。モウソウチクを除く種の多くは、その地域でしか生育しないことが多いが、その理由は不明である。
特有の生物相
先述のように竹林は日本古来の植生ではないが、独特の生物相を持つことでも知られる。一部の腐生植物のラン科のもの(ヤツシロランなど)には、往々にして竹林に出現するものがある。キノコ類でも、キヌガサタケなどがよく竹林に出現するものとして知られている。
中国文化
日本の竹林
『古事記』や『万葉集』には竹に関する記述があり、古くから親しまれていたことが知られるが、当時の竹は多くはチシマザサ類を指すものであった。マダケのような現在親しまれている竹類については、一部に自生していたとの説もあるが、仮にそうであっても極めて珍しく、現在のような竹林はほとんどがそれ以降の中国からの持ち込み、栽培を元にしたものであると考えられている。
マダケ類は8世紀頃に持ち込まれ、当時はおそらく貴族の間だけで栽培され、多分に貴族の儀礼等と関係を持ち、また中国文化の受容の目的で栽培されていたとの説もある。たとえば『竹取物語』において求婚者がすべて貴族であるのも、このためと考えることもできる。一般に広く見られるようになったのは16世紀以降と考えられている。
竹林と日本文化
竹林は古くから日本人の生活・産業・芸術などに深い関わりを持ってきた。現在でも郊外などで、平地と里山を結ぶ緩衝地帯などに多くの竹林を見ることができる。アジア圏の多くの国々でも竹は貴重な天然資源として利用されているが、日本では庭園を構成する要素の一つとしても重宝されるなど、竹林の織り成す景観は日本の風土を象徴するもののひとつとなっており、特に京都の寺院や郊外の景観を形づくる要素の一つとして大きな比重を担ってきた。春には竹林に入り、筍を掘るのは日本の風物の一つである。また、日本画、水墨画のモチーフとしてもしばしば用いられ、多くの文人墨客が竹林の持つ独自の繊細なイメージから多くのインスピレーションを受けてきた。
また、視覚のみならず、風が竹林を通り抜ける際のざわめきは日本人の耳には心地よく響き、風情を感じさせるものとして俳句や和歌などに歌われ、多くの文学者、画家などの想像力を刺激してきた。旧環境庁の「残したい日本の音風景100選」(京の竹林)にも選ばれるなど日本人の感性を象徴するもののひとつともいえよう。
京都府八幡市の石清水八幡宮境内の竹林のマダケは、エジソンが1882年白熱電球のフィラメントとして利用したことで知られ、この竹林からは電球発明の翌年から10数年もの永い間、多くの竹がアメリカのエジソン工場に輸出され、炭素白熱電球の生産に利用された。境内にはエジソンの記念碑が建つ。記念碑は中央にエジソンのリレーフを、向かって右側には「The memory of Thomas Alva Edison 1947-1931」と、左側には「Genius is one percent inspiration and ninety nine percent perspiration 英知は1%の着想と99%の努力」と彫られている。
その他にもマダケはその真っ直ぐでしなやかな特性を生かして竹細工、建材、家具、釣竿などに最も多く利用されてきた。大分県のマダケは面積、生産量とも全国一のシェアを占めており[1]、別府市周辺の別府竹細工や日田市の竹箸など、大分県では豊富な竹材を利用した竹工芸が歴史的に盛んである。
防災
竹は旺盛な繁殖力を持つため、筍から2 - 3か月で成竹になってしまい、あっという間にその土地を覆い尽くす。「竹は切ることが植えること」ともいわれる由縁である。竹の地下茎は浅く、地表付近を横に這うように広がり、地下茎には「ヒゲ根」がびっしりと生えており、この「ヒゲ根」が地面をしっかりと保持するため、よく管理された竹林は優れた防災効果を上げてきた。古来、竹林を背にした家が多いのも日本人が経験的にそのことを知っていたからに他ならない。しかし、近年外国産の安い筍や竹材が輸入されるにともない、竹林の経済性が薄れたことや、地主の高齢化に伴い放置される竹林が増え、問題になっている。
ただ、この防災機能は主として地震などのことで、地表をしっかりと覆う根茎が地面を押さえるが、他方で洪水や地滑りに関してはあまり効果がない。これは根が深くは入り込まないためで、大雨の際には斜面の竹林はそれ全体が滑り落ちるような崩れ方をする例がある。
竹林に関する三面記事の事件
脚注
- ↑ ひらまつもりひこ分権文化論 第27話 竹の共通性-アジア各国の協力テーマに-(平松守彦、2008年4月25日閲覧)によれば、約42%(2001年現在)。
参考文献
- 『植物の世界』 岩槻邦男他監修、朝日新聞社〈朝日百科〉、1997年10月。ISBN 4-02-380010-4。