盆踊り
盆踊り(ぼんおどり)は、盆の時期に死者を供養するための行事、またその行事内で行なわれる踊り。
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概要
誰でも踊りに参加できるタイプと、主に見せるために限定された踊り手が踊るタイプとがある[1]。前者は、広場の中央にやぐらを立て、やぐらの周囲を回りながら音頭にあわせて踊る形式が一般的である。盆踊りの伴奏音楽としては多く音頭が奏でられる。近年は録音された音頭を電気的に再生して行なうことが主流になっている。
歴史的には村落社会において娯楽と村の結束を強める機能的役割を果たした。そのため、各地にご当地音頭も多く存在し、自治体や商工会などが作成したオリジナルの地域的音頭も増えている。明治以前は歌垣などの風習に結びついていた。お盆の時期に行なわれるが、宗教的意味合いは薄く、農村や庶民の娯楽として楽しまれてきた[2]。明治時代に一時衰退したが、復活が叫ばれるようになり[3]、大正末期から農村娯楽として奨励されはじめ、再び盛んになっていった[2]。もともと盆踊りがなかった土地でも新作して踊るところもあり[2]、町内会の祭り行事としてだけでなく、阿波踊りやエイサーなど、一地方の盆踊りから全国に広まったものもある[1]。
夏休みの間の大きなイベントの一つである。かつては夜通しで行なわれることも多かったが、近年は治安維持のため深夜まで行なわれることは少なくなっている。国内外の各地に盆踊りの会や教室がある。
起源
盆踊りはもともとは仏教行事であるとする説、歌垣の遺風とする説、原始信仰の儀式だったとする説など諸説あるが、文献に最初に登場するのは室町時代と言われる[2]。平安時代、空也上人によって始められた踊念仏が、民間習俗と習合して念仏踊りとなり[4]、盂蘭盆会の行事と結びつき、精霊を迎える、死者を供養するための行事として定着していった。死者の供養の意味合いを持っていた初期の盆踊りは、新盆を迎える家に人々が赴き、家の前で輪を作って踊り、家人は踊り手を御馳走でもてなした[4]。盆には死者が家に帰って来るという考え方から、頬被りをして人相を隠し、死者の生き返った姿に扮した人がその物語を演じたという[4]。
踊り念仏は、鎌倉時代には一遍上人が全国に広めたが、一遍や同行の尼僧らは念仏で救済される喜びに衣服もはだけ激しく踊り狂い、法悦境へと庶民を巻き込んで大ブームを引き起こした[5]。それ以降は、宗教性よりも芸能に重点が置かれる念仏踊りが生み出され、人々はさらに華やかな衣装や、振り付け、道具、音楽などを競うようになった[5]。室町時代の初めには、太鼓などをたたいて踊るようになったといわれている。現在も、初盆の供養を目的の盆踊りも地域によっては催されている。太鼓と「口説き」と呼ばれる唄に合わせて踊る。口説きは、地区の伝統でもある。初盆の家を各戸を回って踊る所もある。昔は旧暦の7月15日に行われていた。ゆえに、盆踊りはいつも満月であった。
鎌倉時代以降、経済力や自治力を得た民衆により新奇な趣向が次々に考案され、江戸時代初頭には絶頂を極めることになる。江戸では7月に始まり連日踊り明かしながら10月にまで続いた。次第に盆踊りは性の解放のエネルギーと結びついていく。日本では性は神聖なものとされ、神社の祭礼を始めとし、念仏講、御詠歌講など世俗的宗教行事の中心に非日常的な聖なる性があるべきと考えられるようになり、盆踊りは性の開放エネルギーを原動力に性的色彩を帯びるようになる。明治時代にはしばしば風紀を乱すとして警察の取締りの対象となった。盆踊りは未婚の男女の出会いの場にとどまらず、既婚者らの一時的な肉体関係をもつきっかけの場をも提供していた。ざこ寝という、男女が一堂に泊まり込み乱交を行う風習も起こり、盆踊りとも結びつき広まり、ざこ寝堂はほとんど全国の農村には存在した。これは昭和時代に至っても続いていた[5]。
代表的な楽曲(50音順)
民謡系(50音順)
- 郡上節(岐阜県)
- 江州音頭(滋賀県)
- 白浜音頭(千葉県)
- 相馬盆唄(福島県)
- 炭坑節(福岡県)
- デカンショ節(兵庫県)
- ドンパン節(秋田県)
- 花笠音頭(山形県)
- 北海盆唄(北海道)
- 八木節(群馬県・栃木県)
歌謡曲・J-POP・ディスコソング系(50音順)
- お座敷小唄(和田弘とマヒナスターズ、松尾和子)
- 河内おとこ節(中村美律子)
- きよしのズンドコ節(氷川きよし)
- 銀座カンカン娘(高峰秀子)
- 恋するフォーチュンクッキー(AKB48)
- 恋をするなら(橋幸夫)
- 365日の紙飛行機(AKB48)
- 好きになった人(都はるみ)
- ダンシング・ヒーロー[6](荻野目洋子)
- チャンチキおけさ(三波春夫)
- ニッポン・ワッショイ(怒髪天)
- Bahama Mama(ボニーM)
- 道頓堀へいらっしゃい音頭(嘉門達夫)
- マツケンサンバ(松平健)
- 湾岸太陽族(荻野目洋子)
アニメソング系(50音順)
- アラレちゃん音頭(Dr.スランプ アラレちゃん)
- アンパンマン音頭(それいけ!アンパンマン)
- おどるポンポコリン(ちびまる子ちゃん)
- 踊れ・どれ・ドラ ドラえもん音頭(ドラえもん(テレビアニメ第2作第2期))
- オバQ音頭(オバケのQ太郎)
- グーチョキパー音頭(ヤットデタマン)
- しんちゃん音頭(クレヨンしんちゃん)
- ドラえもん音頭(ドラえもん(テレビアニメ第2作第1期))
- とんちんかんちん一休さん(一休さん)
- にんにん忍たま音頭(忍たま乱太郎)
- プリキュア音頭〜スマイルWink〜(プリキュアシリーズ)
- ポケモン音頭(ポケットモンスター)
- 祭り囃子でゲラゲラポー(妖怪ウォッチ)
衣装
伝統的には、やぐらの上の太鼓方、音頭取りならびに踊り子は浴衣を着用することが多いが、一般参加者はカジュアルな平服でも良い。踊り手が同じグループである場合、揃いの浴衣を着ることが多い。また、団扇を背中の帯に差し込んでおくこともある。男性は、鉢巻をし、腰に印籠をぶら下げて踊ることもある。
地方によっては、狐などの仮面をつけて踊る場合や、舞台化粧並の厚化粧をして華やかな衣装で踊る場合がある。
その他
- 俳句では「踊」だけで「盆踊り」を指し秋の季語である。夏に行われるにもかかわらず秋の季語であるのは、立秋を過ぎてから行われるためである。
- 最近では、2010年から名古屋で開催されている「スリラー盆踊り」が東京に伝わって催されるなど、新しいスタイルの盆踊りも注目されている。
無形民俗文化財
国の重要無形民俗文化財指定の盆踊り
- 西馬音内の盆踊(秋田県)
- 毛馬内の盆踊(秋田県)
- 新島の大踊(東京都)[7]
- 新野の盆踊(長野県)[8] - 神道の形式を持つ神送りの儀式があり、仏教と習合する以前の形態を留めている[9]。7つの曲があり、囃子はなく唄のみで踊る。3日間続き、最終日は夜通し行なわれる。
- 和合の念仏踊(長野県)[10]
- 有東木の盆踊(静岡県)[11]
- 徳山の盆踊(静岡県)[12]
- 綾渡の夜念仏と盆踊(愛知県)[13]
- 郡上踊(岐阜県)
- 十津川の大踊(奈良県)[14]
- 大宮踊(岡山県)[15]
- 白石踊(岡山県)[16]
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択される盆踊り
選択無形民俗文化財(記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財)として以下がある。
- 野母の盆踊(長崎県)
- 与島・櫃石の盆踊(香川県) - 初盆の死者の位牌を背負って踊る。
海外
中南米
南米のブラジルには、マツリ・ダンスというブラジル風に進化した盆踊りがある[17]。日系3世のグループ「グループ・サンセイ」が始めたもので、J-popなどの曲に合わせて、全員で同じ振り付けを盆踊りのように繰り返して踊る[18]。日本の盆踊りのように輪になって踊ることもあれば、観客がその場で一斉に踊る場合もある。1988年にロンドリーナ市の日系人のカラオケ教師が考案したものだが、2000年代に入ってから日本関連のイベントで踊られるようになり、ブラジル各地の日系コミュニティやアニメイベントなどを通じて広まった[18]。アルゼンチンでも1960年代、日系人が行っていた盆踊りが各地に残っており中でもラプラタで行われるものは最大級の規模になっている。
北米
北米のアメリカ合衆国のハワイ州、カリフォルニア州、ニューヨーク州、カナダのブリティッシュ・コロンビア州など日系人が多い地域で、夏にBon Dance(盆踊り)が行われる。
特にハワイ州で盛んで、主要5島(東からカウアイ島、オアフ島、モロカイ島、マウイ島、ハワイ島)でまんべんなく6月から8月の金曜日を含めた週末の夕方行われて、新聞・雑誌などでも毎年スケジュールが発表される。 [20] [21] 仏教ミッション(小規模のお寺)で行われる場合が多く、過去一年以内に亡くなった人々の家族の焼香などの仏事が先立つこともあるが、ほとんどは宗教色がない。神社(「夏祭り」)やショッピングセンターで行われることもある。踊りは1時間から2時間の間に20曲くらいが録音で演奏され、同じ曲が繰り返されることは少ない。地域差はあるが、ハワイ島西部では通常「炭坑節」で始まり、途中「河内おとこ節」ではバチが配られてそれを持って踊り、会の初めに寄付金を納めるときに配られる手ぬぐいを持って踊る「ゆかた音頭」もあり、アメリカ発の「Beautiful Sunday」などの歌が使われたり、ハワイ州では広島県・山口県・熊本県・沖縄県からの移住者が他県よりずば抜けて多いので [22] 歌に特徴がある沖縄の歌「安里屋ユンタ」や「遊び庭」(あしびなー)などで踊ったり、最近では子供向けの「ポケモン音頭」や若者向けにズンバを踊ったり、最後は「福島音頭」[23] で終わることが多い。また、太鼓隊がヤグラを囲んで景気を付けるのが通例であり、ハワイは人種間結婚が進んでいるので、見るからの日系人もハオレ(白人)も、ハワイ人も器用に踊るのが見られる。特に盛んな地域では事前に練習会も行われている。 [24]
脚注
- ↑ 1.0 1.1 盆踊りの場にあふれる若者の性の力京都市立芸術大学吉川周平、シンポジウム 「ダンスシーンから見た若者文化2」講演、2004
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 盆踊り大百科事典. 第24巻 第1冊、平凡社、1939年
- ↑ 盆踊復活論『高松新繁昌史』長尾折三 (藻城) 著 (宮脇開益堂, 1902)
- ↑ 4.0 4.1 4.2 仏教民俗としての念仏踊り坂本要、筑波学院大学紀要第3集、2008年
- ↑ 5.0 5.1 5.2 「盆踊り」は乱交セックス 性を解放、神聖な伝統行事(明治大学文学部准教授 平山満紀、 産経新聞2012年8月14日 )
- ↑ もとはアンジー・ゴールドの楽曲であり、ディスコソングとして使用されていた。
- ↑ 新島の大踊文化庁
- ↑ 新野の盆踊文化庁
- ↑ 未科学的-科学的なることと非科学的なることの分離の終わり保延光一、北海道大学大学院教育学研究紀要,2007
- ↑ 和合の念仏踊 - 国指定文化財等データベース(文化庁)
- ↑ 有東木の盆踊文化庁
- ↑ 徳山の盆踊文化庁
- ↑ 綾渡の夜念仏と盆踊文化庁
- ↑ 十津川の大踊 - 国指定文化財等データベース(文化庁)
- ↑ 大宮踊文化庁
- ↑ 白石踊文化庁
- ↑ Matsuri danceKalango Alado Vídeos, 2011/08/2
- ↑ 18.0 18.1 The Japantown in Brazil Chapter 10 (extras: part 2) Londrina – The Nikkei Cultural Movement & The Matsuri Dance Discover Nikkei, 10 Jan 2008
- ↑ Keei Beach: Kona's Best-Kept Secret
- ↑ Hawai'i Summer 2016 Bon Dance Schedule
- ↑ 2016 Obon season calendar in Hawaii
- ↑ ハワイ日系人の出身県別人口(1929)
- ↑ "Fukushima Ondo in Hawaii" (YouTube)
- ↑ 海を渡った盆踊り―――ハワイ:分布と特徴、盆踊りの母体と参加者、開催日程、ハワイ盆踊りの歴史など
関連項目
外部リンク
- 盆踊りの世界
- 「盆踊りと祭屋台と」折口信夫 青空文庫
- 「盆踊り」ラフカディオ・ハーン 1890年の鳥取県上市の盆踊りを描写