皿うどん
− 皿うどん(さらうどん)は、長崎県の郷土料理。名称からはうどんの一種と思われやすいが、一般的に細麺を使うものは中華料理の「炸麺(かた焼きそば)」に近く、太麺を使う物は「炒麺」や焼きうどんに近い。
Contents
概要
長崎市の中華料理店四海樓の陳平順が、「炒肉絲麺(チャニイシイメン、麺と細切り肉を炒めた焼きそば)」をベースに[1]、ちゃんぽんを出前用にアレンジして配送時にこぼれないよう汁を少なくしたもの[2]である。なお当時から長崎ではちゃんぽんの出前が盛んで、蓋をつけた専用の丼も作られるようになった。このような経緯から当初の麺や具材はちゃんぽんとほぼ同様であり、現在でも「ちゃんぽん・皿うどん」のように一緒に紹介されることも多い。見た目が皿に盛った焼きうどんのようだった事[3]などから「皿うどん」の名が付き、その後堅焼きそばが伝わって長崎で発展し、同じように皿うどんと呼ばれるようになったといわれている。
九州地方では全体的に人気が高く、2004年11月に九州の地方銀行系シンクタンク6社が共同で行なった郷土料理の調査では、「ちゃんぽん・皿うどん」は、知っているか、食べた経験があるか、食べたいかの3部門全てについて回答者の90%以上が肯定し、1位を獲得している[4]。
長崎県における皿うどん
細麺と太麺
長崎県では麺は、主に細麺と太麺の二種類がある。細麺は事前に油で揚げることが多く、通称パリパリ、バリバリ、バリ麺という。太麺は中華麺(ちゃんぽんの麺)を蒸すかゆでて下ごしらえする。店によっては専用の太麺・中くらいの太さの麺を用いたりする。一般に、細麺は揚げてあんかけにし、太麺は焼きそばの様に他の具材と一緒に炒めるか、鍋で焼いてから具を載せる。長崎市周辺では両方から選べる店が多いが、注文の際何も言わなければ細麺が出てくる店があることから、観光客や長崎以外の地域の人には細麺の方が一般的と思われ、太麺は地元以外ではあまり知られていない。
地元でも好みは太麺派と細麺派に分かれる。また、同じ長崎県内でも県南地域と県北地域では細麺と太麺の呼称に対する認識の違いがある。「皿うどん」としてオーダーした場合、長崎市周辺地域では細いパリパリ麺にて調理したものが出てくるが、佐世保市周辺地域では太いちゃんぽん麺を使用したものが出てくる。このように地元民でも皿うどんについては混乱する事が多く、注文する際は太麺もしくは細麺である事を確認した方が無難である。
食べ方
一人前から注文できるが、大人数分を一度に注文し、大皿から各自取り分けて頂くのが地元の食べ方。祝い事の時や、職場で残業時にこれを出前で取る、ということもある。
また、長崎ではウスターソースをかけて食べるのが一般的である。一般的な皿うどん、特に細麺は甘めの味付けになっている場合があり、ソースの酸味で味を引き締める効果があるとされる[5]。チョーコー醤油では皿うどん向きに「金蝶ソース」が製造され、地元で愛用されている。テーブルに酢の常備が無くてウスターソースが当たり前のように常備されていることが多いが、店によっては特製の酢を用意している場合もある。また、このソースは、出前などにおいて栄養ドリンクのような、遮光ガラスの瓶に入れて配達されるのが一般的である。
学校給食
長崎県では小学校の給食に皿うどんが出ることがある。このときの麺は細めんである。ただし、煮込まれているためパリパリ感はない。しかし近年はインスタントラーメン状に袋詰された細麺タイプのものが出る地域もある。椀に入れられた具入りの餡に麺を入れて混ぜて食べる。好みによって麺をバリバリに砕いたりなどもする。なお、ちゃんぽんも出る。
関東地方、関西地方などにおける皿うどん
ちゃんぽん、皿うどんを主なメニューにする飲食店が少なからず存在する。食堂などの飲食店でメニューに上げている場合もある。これらの店では通常細麺を揚げ、餡掛けにした「皿うどん」しか提供されていない。皿の淵に和からしが添えられ、食卓に酢が用意されている。また、ラー油や酢醤油、小口ネギ、紅ショウガ等々を添えて出す場合もある。
博多皿うどん
福岡県福岡市周辺で皿うどんと言えば、博多皿うどんを指しており、長崎の皿うどんとは別のものである。昭和50年代頃から福岡でも長崎皿うどんの知名度が上がり良く食されるようになった為、近年では混同を避ける為、区別して「長崎皿うどん」、「博多皿うどん」と呼ぶ事が多いが、福岡の中華料理店で単に皿うどんと注文すると博多皿うどんが出てくる事がある。
標準的な博多皿うどんはちゃんぽん程の太さがある中華麺を豚骨ベースの中華風の具材とともに炒めてあり、エビ・イカ・豚肉・鳴門カマボコ・キャベツ・ニンジン・タマネギ・キクラゲ・シイタケ等多彩で、味覚的にはちゃんぽんや博多ラーメンと近いものがあり、麺にスープの味がしみ込ませてある事が多い。博多皿うどんは昭和初期に現在も営業を続けている福岡市の中華料理店福新樓の料理人張兆順が開発したとされている。福新樓によれば、「正式名称は“福建炒麺”。日もちのしない生麺を煎めることで、麺は熟成し、味の深みが増し、海綿状になった麺にスープが染み込み、濃厚な味を作り出す」とされている。
調理法
長崎の皿うどんの調理法は下記。
太麺
- 麺を中華鍋で炒め、頃合いを見て麺を引き上げる。
- 中華鍋に食用油を敷き、肉、野菜、魚介類等の具材を炒める。
- 具材を炒めた中華鍋にちゃんぽんスープを少量注ぎ、先ほど炒めた麺を戻し入れ醤油で味を調える。
- 強火でかき混ぜて、麺と具材がなじんで水分が無くなったら皿に盛りつける[6]。
細麺
- 細麺は油で揚げておく。長崎では油で揚げた麺も単独で市販されている。
- 鍋を熱して食用油を敷き、カキ、イカ、エビなどの魚介類、豚肉、かまぼこ・竹輪などの具材を炒める。
- キャベツ、もやしなどの野菜を加え、豚骨、鶏がらなどでとったスープを加えて煮る。
- 水溶き片栗粉でとろみをつけて餡が完成。
- 皿の上に揚げた麺を置き、上に上記の餡をかける。
商品展開
インスタント食品
揚げ麺と粉末スープの素をセットにした商品が数社から販売されている。また、具入りの餡をレトルトパックに入れたものも長崎市内などで売られている。
惣菜
海外における類似の料理
油で揚げた麺類に具をかけた料理として、下記がある。
- 炸麺(ジャーミエン)
- 中国における餡掛けの堅焼きそば。練りからしを付けて食べることはない。
- サンハーミン(広東語:生蝦麺)、サンハーミー(マレー語:Sang Har Mee)
- マレーシアのクアラルンプールなどの広東料理店で供されている、揚げた細麺か中太麺に淡水産のオニテナガエビ(生蝦)、タマネギ、ニンジンなどの野菜を使った餡をかけた料理。
- 広東伊麺 Cantonese Yee Mee
- 太麺を揚げて保存性を持たせた「伊麺」(伊府麺、Yee Mee)は、香港や台湾では煮戻して汁そばにすることが多いのに対して、マレーシアやシンガポールでは、揚げ直して豚肉、野菜などの餡をかけて食べることが多く、食感は日本のかた焼きそばに似ている。
- チョプシー
- ネパールなど南アジアの中華系麺料理。チャプスイ(雑炊)の変種。揚げた太麺に鶏肉、水牛肉、タマネギ、ピーマン、ニンジン、キャベツなどの野菜を炒めた具入りの餡をかけたもの。
脚注
参考文献
- 長沢利明「ああ、長崎は今日も皿うどん」『食の学舎』、Vol.3(1)、P.76-77、2002年
- 陳優継『ちゃんぽんと長崎華僑』、長崎新聞社<長崎新聞新書>、2009年
外部リンク
- 長崎皿うどんの美味しい作り方 - 白雪食品
- 皿うどん太麺細麺論争